【表 モデレーションタイムで提示したルーブリック】
モデレーションタイムにおいて,議論の中心になった のは, 「ルーブリックでは,2つの意訳を比較する中で,
その意図となった文化的背景を捉えることが挙げられ ているが,子供たちはどの部分でその力を発揮するの か」ということであった(資料2)。
【資料2 モデレーションの様子】
それによって,本時場面で子供たちが創造性を発揮す る姿として,「訳語のおもしろさから日本語の特徴や文 化的背景を見いだす姿」と設定し,その発揮を促す活動 として,それぞれが見つけた意訳のおもしろい理由をつ ないで訳語の価値を見いだす活動を設定するという点 で改善した。それに伴い,アンカー作品に資料3のよう な振り返りの記述を付け加えた。
【資料3 モデレーションタイム後にアンカー作品に追加した記述】
3 授業の実際
本時の導入段階では,グループごとに追究している意 訳のおもしろさを Google スプレッドシート上で共有し ながら,本時における問いを明らかにした(資料4)。
【資料4 本時追究する問いについての話合い】
これらの問いを基に,ジグソー形式でそれぞれのグ ループの考えを持ち寄り,追究をしていった。
ステージ4 ステージ3 ステージ2 訳者の表現意図を
捉 え, 自 分 や友 達 が 選 ん だ 言 葉 の お も し ろ さ を , 物 語 の 場 面 展 開 と の つ な が り を 根 拠 に し て , 文 化 的 背 景 に応 じた訳 語 が 選ばれているというこ とを表現することがで きている。
訳者の表現意図を 捉 え, 自 分 や友 達 が 選 ん だ 1 つ 1 つ の 言 葉のおもしろさを, 文 化 的 背 景 を根 拠 にし て表現することができ ている。
自分や友達の選ん だ言葉のおもしろさに つ い て , 理 由 を 付 け て表現することができ ている。
「意訳では,日本の子供たちに伝わるような言葉が 使われている」ということを実感する場面が必要なのでは。
【2つの意訳をつないで分かったこと】
谷川さんの意訳は,「ミサイル」や「水中ブルドーサー」
のように,そのまま訳しても伝わりにくい言葉を,わたしたち
(日本の子供たち)にも分かりやすいように,意味を付け加えて 使われているということが分かった。
【資料5 それぞれのグループの考えを持ち寄る様子】
資料5のように,子供たちはそれぞれのグループで 考えた意訳のよさについて,別の言葉を追究している 友達と説明し合う活動を行った。子供たちからは,言 葉の選び方を根拠に意訳のよさについて発言している 様子が見られた。子供たちは,直訳では分かりづらい と感じていた言葉が意訳によって分かりやすくなって いるということや直訳でも伝わるが,意訳によってさ らに鮮明に想像することができるということを実感す ることができた様子であった。さらにC3の発言から,
読み手が物語を鮮明に想像するために,文化的背景に 沿った言葉が選ばれているということに気付いた様子 が見られた。展開後段では,全体交流において,グル ープ交流での意訳の追究を通して,気付いたことやさ らに生まれてきた問いについて話し合った。
【資料6 複数の場面の意訳をつないで,場面展開におけるよさを見いだす様子】
ここでは,資料6のように「ミサイルみたいにつっ こんできた」という言葉と「スイミーは考えた。いろ いろ考えた。うんと考えた。」という言葉をつないで,
「『ミサイル』という言葉を使われることで,『次は,
絶対に成功させたい』という気持ちがよく分かる」な どの発言があった。このように,子供たちから,それ ぞれのグループが選んだ複数の意訳の解釈をつないで いくことによって,登場人物の気持ちの変化が鮮明に イメージできるよさがあると気付く姿が見られた。
4 授業整理会で明らかになったこと
授業整理会で,まず議論の中心となったのは,資料5 におけるC3の発言についてである。授業者はこれを, 目指していた姿として提示した。その発言の価値につい て参観者から「訳語のよさを見つけることを通して,母 国語の特徴がそれぞれの文化的背景によるということ まで捉えられている姿が見られたことはよかった」とい った発言があった。一方で,授業者はC3の姿を,単元 ルーブリックではステージ3として紹介したが,参観者 は,この子供の姿は,ステージ4ではないかと評価した。 その理由として,創造性の評価規準について,「『美し さやおもしろさをさらに際立たせるような表現の工夫』 と『物語の展開に関わる表現の工夫』のどちらにも価値 があると捉えるならば,前者の場合も後者と同等の評価 である必要がある」という発言があった。この単元で, 子供たちが発揮する創造性は,意訳のよさをその言葉の 美しさや親しみやすさから考えることのできる力であ る。このことから,これまでステージ3として考えてい た「文化的背景を根拠に意訳のよさを捉えている姿」は, ステージ4にすべきではないかということが議論とし て挙がり,その結果,創造性を正確に見取るためのルー ブリックの変更,更新が必要であるということが明らか になった。また,資料6のように物語の展開と意訳のよ さとをつなげる発言がどの子にも見られるようにする ためには,物語の基本的な構造である「起承転結」を捉 えた上で,学習を行う必要があると考える。そうするこ とで,意訳のよさが物語の展開を鮮明にイメージするこ とに効果的であることを捉えることができると考える。
5 カリキュラムの変更,更新
今回の授業実践を通して,教科ルーブリックの創造性 や単元の配列の設定を資料7のように変更,更新すべき であると考える。
【資料7 本実践を通したカリキュラム改善の具体】 その理由は以下の通りである。
○ ストーリー展開における訳語の効果や文化的背景か ら見た日本語の特徴を自覚的に捉え,それらを基に, 考えをつくりだすことができるという創造性を発揮する ことができるようにするため
○ 自分の言葉をつくりだすため物語の構造における視 点からも,意訳の言葉を分析することで,より多角的 によさを捉えることができると考えられるため
C1:私たちは,なぜ「メドゥーサ」という名前を「クラゲ」にしたの か と い う こ と に つ い て 話 し 合 っ た の で す が , ○ ○ 君 が chromebook で調べたら,とてもこわい生物だったから,谷川さ んは,子供たちがこわくないように「クラゲ」にしたのだと思 います。
C2:「メドゥーサ」は私たちが聞いても何の生物か分からないけれ ど,「クラゲ」は分かりやすいからね。
C3:私たちのグループは,「カラス貝」と「ムール貝」の違いについ て考えました。Google 翻訳の「ムール貝」だと,私たち日本人 の子供は,スイミーがどのくらい黒いのかイメージをもちづら いから,「カラス貝」にしたのだと思います。でも,外国の子供 たちにとっては「ムール貝」の方が分かるのかもしれません。
⽬標や内容 創造性の発揮される場⾯と それらを⾒取るための 評価規準
変更・更新
単元の配列 本校の年間指導計画におい ては,6⽉単元として設定
10⽉単元に変更
物語の基本的な構造である「起承転結」 を捉えた上で学習することにより,⾔葉と 構造のつながりを捉えやすくなるため変更 個→グループ→全体という活動構成
順序で考えをつくり,話し合 う活動構成
活動構成は変更しない 追究したいことによってグループを編成 する活動構成は,⾔葉を根拠に⾃分の考え をつくりだす上で有効であるため変更なし
変更なし 変更・更新
評価規準と内容の変更 創造性のステージ4の姿を「⽂化的背景 や⽂章構造を基に意訳のよさを捉える姿」 と設定することで,さらに多⾓的に⼦供た ちの創造性を捉えることができるため変更
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社会科
先生 ご指導よろしくお願いいたします。 平成 27 年 10 月 14 日(水)
言
言葉 葉科 科実 実践 践事 事例 例 第 第3 3学 学年 年 フ フォ ォー ーカ カス ス学 学習 習「 「バ バイ イリ リン ンガ ガル ル絵 絵本 本の の世 世界 界」 」 指
指導 導者 者 中 中河 河原 原 絵 絵 里 里
1 目標
◎ 直訳との違いを考えることを通して,自分が感じた 意訳のよさを,叙述を根拠に言葉にしたり,新たな考 えをつくりだしたりすることができる。 (創造性)
○ 友達と解釈の共通点や相違点について,互いの紹介 したい言葉を明らかにしながら,自分の考えを意欲的 に伝え合うことができる。 (協働性)
〇 意訳に使われた言葉の美しさやおもしろさについ て考えの変容や広がりを捉えようとする。(省察性)
2 モデレーションにおける気付き
本単元は, 「これまで学習してきた『スイミー』や『お 手紙』などの『バイリンガル(外国の)絵本』が世界中か ら愛されている理由とは何だろう」という子供たちの問 いを基に,直訳と意訳を比較する中で,表現のおもしろ さや美しさを感じたり,それぞれの国によってものの見 方や考え方に違いがあることに気付いたりすることを ねらいとするフォーカス学習である。
モデレーションタイムでは,本単元の終末段階に期待 する感想をアンカー作品として提示した(資料1)。
【資料1 授業者が作成したアンカー作品とその価値】
このアンカー作品と共に,言葉科における創造性を具 体化し,設定した単元ルーブリックは以下の通りである
(表)。
【表 モデレーションタイムで提示したルーブリック】
モデレーションタイムにおいて,議論の中心になった のは, 「ルーブリックでは,2つの意訳を比較する中で,
その意図となった文化的背景を捉えることが挙げられ ているが,子供たちはどの部分でその力を発揮するの か」ということであった(資料2)。
【資料2 モデレーションの様子】
それによって,本時場面で子供たちが創造性を発揮す る姿として,「訳語のおもしろさから日本語の特徴や文 化的背景を見いだす姿」と設定し,その発揮を促す活動 として,それぞれが見つけた意訳のおもしろい理由をつ ないで訳語の価値を見いだす活動を設定するという点 で改善した。それに伴い,アンカー作品に資料3のよう な振り返りの記述を付け加えた。
【資料3 モデレーションタイム後にアンカー作品に追加した記述】
3 授業の実際
本時の導入段階では,グループごとに追究している意 訳のおもしろさを Google スプレッドシート上で共有し ながら,本時における問いを明らかにした(資料4)。
【資料4 本時追究する問いについての話合い】
これらの問いを基に,ジグソー形式でそれぞれのグ ループの考えを持ち寄り,追究をしていった。
ステージ4 ステージ3 ステージ2 訳者の表現意図を
捉 え, 自 分 や友 達 が 選 ん だ 言 葉 の お も し ろ さ を , 物 語 の 場 面 展 開 と の つ な が り を 根 拠 に し て , 文 化 的 背 景 に応 じた訳 語 が 選ばれているというこ とを表現することがで きている。
訳者の表現意図を 捉 え, 自 分 や友 達 が 選 ん だ 1 つ 1 つ の 言 葉のおもしろさを, 文 化 的 背 景 を根 拠 にし て表現することができ ている。
自分や友達の選ん だ言葉のおもしろさに つ い て , 理 由 を 付 け て表現することができ ている。
「意訳では,日本の子供たちに伝わるような言葉が 使われている」ということを実感する場面が必要なのでは。
【2つの意訳をつないで分かったこと】
谷川さんの意訳は,「ミサイル」や「水中ブルドーサー」
のように,そのまま訳しても伝わりにくい言葉を,わたしたち
(日本の子供たち)にも分かりやすいように,意味を付け加えて 使われているということが分かった。
【資料5 それぞれのグループの考えを持ち寄る様子】
資料5のように,子供たちはそれぞれのグループで 考えた意訳のよさについて,別の言葉を追究している 友達と説明し合う活動を行った。子供たちからは,言 葉の選び方を根拠に意訳のよさについて発言している 様子が見られた。子供たちは,直訳では分かりづらい と感じていた言葉が意訳によって分かりやすくなって いるということや直訳でも伝わるが,意訳によってさ らに鮮明に想像することができるということを実感す ることができた様子であった。さらにC3の発言から,
読み手が物語を鮮明に想像するために,文化的背景に 沿った言葉が選ばれているということに気付いた様子 が見られた。展開後段では,全体交流において,グル ープ交流での意訳の追究を通して,気付いたことやさ らに生まれてきた問いについて話し合った。
【資料6 複数の場面の意訳をつないで,場面展開におけるよさを見いだす様子】
ここでは,資料6のように「ミサイルみたいにつっ こんできた」という言葉と「スイミーは考えた。いろ いろ考えた。うんと考えた。」という言葉をつないで,
「『ミサイル』という言葉を使われることで,『次は,
絶対に成功させたい』という気持ちがよく分かる」な どの発言があった。このように,子供たちから,それ ぞれのグループが選んだ複数の意訳の解釈をつないで いくことによって,登場人物の気持ちの変化が鮮明に イメージできるよさがあると気付く姿が見られた。
4 授業整理会で明らかになったこと
授業整理会で,まず議論の中心となったのは,資料5 におけるC3の発言についてである。授業者はこれを,
目指していた姿として提示した。その発言の価値につい て参観者から「訳語のよさを見つけることを通して,母 国語の特徴がそれぞれの文化的背景によるということ まで捉えられている姿が見られたことはよかった」とい った発言があった。一方で,授業者はC3の姿を,単元 ルーブリックではステージ3として紹介したが,参観者 は,この子供の姿は,ステージ4ではないかと評価した。
その理由として,創造性の評価規準について,「『美し さやおもしろさをさらに際立たせるような表現の工夫』
と『物語の展開に関わる表現の工夫』のどちらにも価値 があると捉えるならば,前者の場合も後者と同等の評価 である必要がある」という発言があった。この単元で,
子供たちが発揮する創造性は,意訳のよさをその言葉の 美しさや親しみやすさから考えることのできる力であ る。このことから,これまでステージ3として考えてい た「文化的背景を根拠に意訳のよさを捉えている姿」は,
ステージ4にすべきではないかということが議論とし て挙がり,その結果,創造性を正確に見取るためのルー ブリックの変更,更新が必要であるということが明らか になった。また,資料6のように物語の展開と意訳のよ さとをつなげる発言がどの子にも見られるようにする ためには,物語の基本的な構造である「起承転結」を捉 えた上で,学習を行う必要があると考える。そうするこ とで,意訳のよさが物語の展開を鮮明にイメージするこ とに効果的であることを捉えることができると考える。
5 カリキュラムの変更,更新
今回の授業実践を通して,教科ルーブリックの創造性 や単元の配列の設定を資料7のように変更,更新すべき であると考える。
【資料7 本実践を通したカリキュラム改善の具体】
その理由は以下の通りである。
○ ストーリー展開における訳語の効果や文化的背景か ら見た日本語の特徴を自覚的に捉え,それらを基に,
考えをつくりだすことができるという創造性を発揮する ことができるようにするため
○ 自分の言葉をつくりだすため物語の構造における視 点からも,意訳の言葉を分析することで,より多角的 によさを捉えることができると考えられるため
C1:私たちは,なぜ「メドゥーサ」という名前を「クラゲ」にしたの か と い う こ と に つ い て 話 し 合 っ た の で す が , ○ ○ 君 が chromebook で調べたら,とてもこわい生物だったから,谷川さ んは,子供たちがこわくないように「クラゲ」にしたのだと思 います。
C2:「メドゥーサ」は私たちが聞いても何の生物か分からないけれ ど,「クラゲ」は分かりやすいからね。
C3:私たちのグループは,「カラス貝」と「ムール貝」の違いについ て考えました。Google 翻訳の「ムール貝」だと,私たち日本人 の子供は,スイミーがどのくらい黒いのかイメージをもちづら いから,「カラス貝」にしたのだと思います。でも,外国の子供 たちにとっては「ムール貝」の方が分かるのかもしれません。
⽬標や内容 創造性の発揮される場⾯と それらを⾒取るための 評価規準
変更・更新
単元の配列 本校の年間指導計画におい ては,6⽉単元として設定
10⽉単元に変更
物語の基本的な構造である「起承転結」
を捉えた上で学習することにより,⾔葉と 構造のつながりを捉えやすくなるため変更 個→グループ→全体という活動構成
順序で考えをつくり,話し合 う活動構成
活動構成は変更しない 追究したいことによってグループを編成 する活動構成は,⾔葉を根拠に⾃分の考え をつくりだす上で有効であるため変更なし
変更なし 変更・更新
評価規準と内容の変更 創造性のステージ4の姿を「⽂化的背景 や⽂章構造を基に意訳のよさを捉える姿」
と設定することで,さらに多⾓的に⼦供た ちの創造性を捉えることができるため変更
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