総合研究所・都市減災研究センター(UDM)研究報告書(平成24年度)
建築・都市のライフライン設備の耐震性向上と長寿命化 小課題 2.2-3
* 工学院大学工学部機械工学科 ,** 工学院大学工学部機械システム工学科 -600
-400 -200 0 200 400 600
0 10 20 30 40
Time (s)
Acceleration (gal)
スロッシングとタンク強度の検討
小久保邦雄* 後藤芳樹* 小林光男*
*
1.緒 言
貯水タンクの地震時の信頼性はきわめて重要な課題 である。高層ビルのスプリンクラーなどの貯水タンク では火災発生時の初期消火に必須である。また災害後 の飲み水の確保などにも必要である。
貯水タンクにはその大きさや形状も種々のものが用 いられ、大型の直方体や円筒形状のものなどがある。
背の高いものでは転倒モーメントにより基礎の破壊が 見られる。直方体のタンクでは側面の平板部が内圧の 変動により曲げ変形を受けて接続部で漏水するものも 見られる。また天板の破壊によりタンク形状を保つこ とができなくなり全体が破壊するモードもある。円筒 タンクでは平板よりも剛性が高いが圧縮応力側に種々 の座屈変形が生じこの部分から漏水することもある。
本研究ではこれらの種々の破壊モードに対して内部 流体の運動や内圧の影響を明らかにすることを目的と して振動台による加振実験と数値解析によりタンクの 破壊に及ぼす流体の運動や内圧の影響を明らかにする。
2.振動台によるスロッシング挙動の測定と座屈実験 容器内流体のスロッシング挙動の測定には図 1 に 示す幅300~800mm、高さ1000mmで奥行き300mm の二次元タンクを用いて、側板と前面はアクリル板で、
内部の水位を400~600mmにして振動台で加振試験を 行う。スイープ試験により流体運動の固有周期を求め、
それを考慮して兵庫県南部沖地震東西波の時間軸を決 め、加速度の大きさは 10%~17.5%を入力する。図 2 には振動台による加振実験で用いた兵庫県南部沖地震 波を示している。振動台が 1 次元振動台のため,兵庫 県南部沖地震波のEW方向の加速度を使用した.流体 の水位の変動、側面や天板の圧力とひずみを測定する。
水面の揺動は水に微量の白色水性塗料を加えレーザ変 位計荷より測定する。側板のひずみは圧力計によりう まく圧力が測定できないとき応力から圧力を換算する ために測定した。図 1 に測定器の取り付け位置をあわ せて示す。
天井の圧力の測定点は図 1 に示すように水面から
50mm、タンクの左端から100mmとする。
図1実験タンクと測定位置
図2 入力加速度(兵庫県南部沖地震波(EW方向))
側面での圧力の測定は静水圧の状態をゼロとしてス ロッシングによる圧力変動を測定したもので、測定位 置はタンクそこから100~400mmで測定した。
振動台による円筒タンクの動的座屈実験で使用した タンクは直径600mm、高さ650mmで厚さ0.19mmの ポルリエステルシートを上下のフランジに巻き付けて 作成した。内部に液体を有するタンクの座屈実験では 座屈後の水漏れ対策が必要であるため、ここでは小型 の容器を手作りで製作した。また座屈現象は座屈開始 時の変形が目視では観察しにくいため、壁面の裏表の ひずみ測定により曲げ変形の発生により座屈判定をお こなう.実験を行う前に数値解析のデータを参考に、
座屈波形が発生する箇所とモードを推定し、その近傍 の壁面の曲げひずみの測定から座屈発生を判断する。
また座屈するときの円筒容器の膜応力を測定し,座屈 発生限界を明らかにする。
3 有限波高スロッシング解析と実験の比較
解析は ANSYS の線形の構造・流体連成解析機能と
有限要素法構造解析ANSYSと流体解析STAR-CD(非 定常,自由表面解析)を2台のパソコンで連成させるソ
フトMpCCIを用いて行う。解析との比較のため実験で
用いたタンクは直方体で、寸法は幅860mm,高さ740mm, 奥行き140mmであり、流体内部に隔壁を入れた実験(図 3)も行い、両者を比較した。振動台の入力加速度は兵 庫県南部沖地震波の実際の加速度の10~17.5%である。
測定方法は図1に示した方法である。
図4と5に解析と実験による液面変位の時刻歴応答の 比較を示す。図4に示す通りANSYSの線形解析法では
加速度 10%程度で微小の液面変位では実験結果と解析
結果はよく一致している。しかし、この方法ではそれ以 上の大振幅スロッシングになると液面の揺動変位は計 算 と 実 験 で 一 致 し な く な る 。 そ こ で 流 体 ソ ル バ
STAR-CD と連成インターフェイス MpCCI を用いて
ANSYS の構造解析を連成させる解析を行った。 連成
システムでは、それぞれの専用ソルバを用いて構造と 流体の解を転送し、ある時刻の構造の変形を境界条件 として流体の解析を進め、この解をもとに次のステッ プの構造の解析をすすめる、いわゆる弱連成の解析を 進めていく。このような解析を行うと図5に示す通り加
速度17.5%時の大きな液面変位状態でも解析と実験結果
がよく一致するようになった。これによりタンクへの負 荷を適切に評価する解析方法が得られた。
空気 横 D 横 D
0.25D
高さh
横幅:D= 860mm 圧力センサ
隔壁 空気 横 D 横 D
空気 横 D 横 D
0.25D
高さh高さh
横幅:D= 860mm 圧力センサ
隔壁
. 図3 タンク( 隔壁あり)
つぎにモデルタンクには東西方向に高さ 100mm 厚 さ3mmの塩化ビニル製隔壁を設置し、入力加速度は地 震波の10~17.5%とし、水位は300mmである。
実験でも同条件の隔壁を設置したタンクを用いて、
底面から10cm間隔で圧力センサを貼付した。隔壁のあ る場合にも圧力センサの測定からタンク側面にスロッ シングが与える圧力変動が連成解析による値と精度良 く一致していることを確認した。
STAR-CD ANSYS
実験 STAR-CD ANSYS
実験 STAR-CD ANSYS
実験
-30 -20 -10 0 10 20 30
0 2 4 6 8 10
[sec]
液面変位[mm]
図4 液面の時刻歴応答(水位100mm加速度10%)
-200 -100 0 100 200
0 2 4 6 8 10
[sec]
液面変位[mm]
図5液面の時刻歴応答(水位300mm加速度17.5%)
図 6 に隔壁なしの場合についてタンク側面に生じ る最大圧力の実験と解析の比較を示す。実験と解析の 比較は加速度が小さいところでのみ行うことができる が、よく一致している。解析を行い加速度の大きいと ころについても圧力を求めると比例的に変化しない部 分が生じるが、この部分では図7に示すように内部流 体の動きはかなり複雑になり、タンク底面から離れる 部分も生じ、側面に加わる圧力も大きくなり、タンク の設計では注意が必要である。
0 2 4 6 8
5.0% 10.0% 15.0% 20.0% 25.0% 30.0% 35.0% 40.0% 45.0% 50.0% 55.0%
入力加速度[Gal]
最大圧力[KPa]
10cm解析 10cm実験 20cm解析 20cm実験 30cm解析 30cm実験
図6 側板の圧力の実験と解析の比較( 隔壁なし)
(a) 2.77[s] (b) 3.08[s]
図7 内部流体の動き( 入力加速度50%)
図8 タンク側面の圧力変動の測定 (幅600mm 水位600mm 加速度10%)
タンクの側面の水位 600mm 加速度 10%のときの圧 力変動の測定例を図 8 に示す。一方、天井に発生する 最大圧力は加速度が17.5%のときに1.95kPa発生した。
側面の水圧力変動の最大値を加速度が 17.5%のときに 換算すると0.93kPaであるから天井に発生する圧力の 方が大きくなることがわかり、タンクの設計では天井 のパネルの方に注意が必要である。
図9 天井に発生する圧力
(幅600mm 水位600mm 加速度17.5%)
これらの実測と解析により貯水タンクの側壁や天井 に加わる圧力が評価できた。これらのデータはタンク の設計で考慮しなければいけないは実働荷重である。
また、解析手法についても大きな液面変位を生じるス
ロッシングを評価することができるようになった。ま た、タンク側壁の圧力の時刻歴応答が実験と解析でよ く一致し、大振幅のスロッシングについても構造流体 連成評価が可能になった。これらにより、タンク壁面 に生じる流体から圧力も評価でき強度評価に有用なデ ータを得ることができるようになった。
. 4 円筒タンク動的座屈
座屈実験用に製作したポリエステル性の薄肉タンク 壁面の水位450㎜のときには加速度34%の加振時のひ ずみ測定結果を図10に示す。この図から四角枠で囲っ た時刻のタンク表裏のひずみ変化より2つのひずみの 変化分の符号が逆になっていることから大きな曲げ変 形が生じていることがわかる。このようにひずみの時 刻歴応答の変動を見ることにより、座屈変形が発生し ていることがわかる。
-600 -500 -400 -300 -200 -100 0 100 200 300 400
6 7 8 9 10
Time (s) Strain (×10-6)
東側 内 東側 外
図10 壁面のひずみ測定結果(6~10秒の拡大図)
-400 -350 -300 -250 -200 -150 -100 -50 0
1 2
3 4
5
Strain (×10-6)
10% 20% 30%
34% 40%
図11 円周方向ひずみ(水位450㎜)
図10よりタンクの軸方向ひずみの測定から座屈変形 が発生したと判断できることを見た。周方向ひずみも 座屈モードの発生を確認するために円周方向の5箇所 に座屈変形の波長を想定してひずみを測定した。タン クの周方向に貼り付けたひずみの測定結果を図11に示 す。この図から振動台の入力加速度の小さいときには タンク壁面表の周方向のひずみの値には変動が見られ ないが、入力加速度が大きくなるにつれてタンク壁面 に座屈波長で変形が生じ、壁面が波打つ現象が起きて いることが確認できる。
内部流体
内部流体 (空気の巻き込)
座屈膜ひずみ
圧力kPa
0 0.2 0.4 0.6
-0.2 -0.4 -0.6
20 40 60
0
0.53[kPa]
つぎに、図 12 の水位 600 ㎜のときの実験では水位 450㎜のときと同様に入力加速度34%で座屈膜ひずみ に近づくと曲げひずみが大きくなっていることが観察 できる。しかし水位600㎜の時は450㎜のときと異な り外側と内側のひずみの値が逆になっていることがわ かる。ひずみの値の詳細を確認するために図12のひず みの時刻5~9秒の時刻歴応答を見てみると四角枠で囲 った時刻で表裏のひずみの変動分の符号が逆になって いることが確認できる。すなわち水位 600 ㎜でも加速
度34%で座屈現象が発生し曲げひずみが大きくなって
いることが確認できた。
-400 -300 -200 -100 0 100 200 300 400 500
5 6 7 8 9
Time (s) Strain (×10-6)
東側 内 東側 外
図12 時刻歴応答拡大図 (5~9秒) (水位600mm 加速度34%)
ひずみの測定結果からタンク壁面の座屈変形の波打 ち形状が観察できたが、実験後の大きく座屈した後の 変形は図13のようになり、いわゆるダイヤモンド座屈 と呼ばれる凹凸の大きな変形が生じていた。これらの ダイヤモンド座屈の凹凸の測定では,ひずみゲージの 測定位置を凹凸発生場所に対応させることは難しく、
裏表の一方だけからは測定が難しいことを意味する。
図13 ダイヤモンド座屈
実験ではダイヤモンド座屈となり、象脚座屈はえら れなかった。このため解析により内部の流体圧を考慮 して下端固定、上端に横荷重を加える座屈解析を行っ た。内部の流体を次第に増加させると水位上昇に伴い せん断座屈モードが発生する場所が上に移動して、座 屈荷重の増加も見られた。水圧によるタンク壁面の引 張り応力により剛性が増加する効果が得られるためで ある。水位が0mm~540mm までは、せん断座屈が発
生していたが550mmを超えると、図14に示すように せん断座屈が発生する前に下端のダイヤモンド座屈に 変化し、静水圧を考えると、水位 600mm でダイヤモ ンド座屈が生じることがわかる。背の高いタンクを想 定して、内部圧力をスカラー倍して徐々に増加させる と圧力がほぼ2倍のとき図15に示す象脚座屈が発生し た。これより約 2 倍の高さを持つ円筒タンクでは横加 重が加わると内圧のため象脚座屈モードが発生するこ とがわかり、薄肉のタンクでも地震時に象脚座屈が発 生する一つの原因として内圧の効果が考えられること がわかった。
図14 せん断座屈とダイヤモンド座屈変形 (内部に流体を有する場合の横荷重座屈)
図15 象脚座屈の変形図
(内部の流体による内圧が大きい場合)
5 まとめ
実測と解析により貯水タンクの側壁や天井に加 わる圧力が評価できた。また、解析手法について もタンク側壁の圧力や水位の時刻歴応答が実験と 解析でよく一致し、大振幅のスロッシングについ ても構造流体連成評価が可能になった。これらに より、タンク壁面に生じる流体から圧力も評価で き強度評価に有用なデータを得ることができるよ うになった。
地震時の貯水タンクに見られる象脚座屈につい ても背が高く内部の水圧により内圧が大きくなる と、解析でもせん断座屈の位置の上昇とダイヤモ ンド座屈のみならず、象脚座屈が発生することが わかった。象脚座屈発生には、容器内部の圧力の 作用が大きく関係していることが確認できた。
座 屈 膜 ひ ず み
ダイヤモンド座屈に よる凹凸
円筒タンク底板 (塩化ビニル)