2009年2月11日
マクロ経済学初級 II 学期末試験解答の指針・採点方針
出題:大平 哲 解答の指針と採点方針です。実際の答案は多種多様なので、すべての答案を網羅する採点基準を ここに掲載することは不可能です。大雑把な目安として参考にしてください。この指針・採点方針 に対する疑問があればメールをください。回答はウェブサイト上にのせます。
I. 産業連関表
農業、工業、サービス業の3部門からなる経済で、農業への財政支出のみがおこなわれていると する。
農業 工業 サービス業 消費 投資 財政支出 農業 50 30 30 200 40 20 370 工業 20 20 10 100 30 0 180 サービス業 10 10 10 100 30 0 160
(a)
290
(b)120
(c)110
370 180 160
(1) 図中の(a)(b)(c)はいくつになるか。図中に書き込みなさい。(10点)。
さまざまな答案がありました。ちょっとした誤解に基づいたものもあり、部分点をつける可 能性も検討しましたが、最終的には、この問題についてはすべて正確な数字が記入されてい るときのみ10点をつけ、それ以外は一律0点にしました。ちょっとした誤解に基づいて数字 が合っていないケースについては(2)以降で部分点をつけることにしました。ただし、間違 い方があまりにも論外なケースでは(2)(3)(4)を採点していません。
(2) 生産国民所得の定義を示した上で、その値がいくつになるか示せ(6点)。
¶ ³
生 産 国 民 所 得 は 各 産 業 の 付 加 価 値 合 計 と し て 定 義 さ れ る 。す な わ ち (a)+(b)+(c)=290+120+110=520である。
µ ´
付加価値合計と書いてあって2点、計算方法が合っていて2点、計算結果があっていて2点。
ただし、計算方法がなく結果だけあっても0点。
(1)がまちがいであって、たまたま計算結果があっていても0点 (3) 生産国民所得と支出国民所得が等しくなることを確認せよ(6点)。
¶ ³
支出国民所得は消費、投資、財政支出の合計である。それぞれの産業の消費、投資、財 政支出の合計は
農業 200+40+20=260
工業 100+30+0=130
サービス業 100+30+0=130
なので、支出国民所得は260+130+130=520となる。これは(2)で求めた生産国民所得 の値に等しい。
µ ´
支出国民所得の定義に2点、計算方法に2点、結果に2点
(4) 農業への補助金が20から30になると国民所得はいくつになるか。また、財政支出乗数はい くつであるか(8点)。
¶ ³
産業連関表はY =C+I+Gというマクロの恒等関係を分解したものに過ぎず、消費 関数など乗数効果を発生する仕組みを含んでいない。そこで、財政支出が増加した額 30-20=10と同じ額だけ国民所得が増加し520+10=530となるだけである。また、この ことは、財政支出乗数が1であることを意味する。
µ ´
説明があって4点。さらに国民所得が10増加することが書いてあって2点、乗数が1であ ることが書いてあって2点。説明なしの回答は0点。全体的なバランスの悪いものは-3点。
II. 貨幣
(1) 投機的動機に基づく貨幣需要について説明せよ。(10点)
(2) 公開市場操作とは何か(8点)。
(3) 授業で 貨幣需要L=
rXz
2r という貨幣需要関数を導いた。この貨幣需要関数を用いて、貨 幣供給Mが増加したとき、LM曲線が右にシフトすることを確認せよ(22点)。
注意:取引額X は国民所得Y におきかえて解答すること。
• (1)貨幣と債券との資産選択を考えていることを明記する。その上で、現金をもつことで、そ うでなければ失った利子が機会費用になることを書いていて8点。どこか中途半端で4点。
非常により文章には+2点をつけ、10点満点とする。
• 利子率の減少関数と書くだけでも0点。
• 投資の説明をしている回答が多かったが、すべて0点。
¶ ³
(2)公開市場で中央銀行が債券・手形などの売り買いを通じてマネーサプライを調節すること。
µ ´
• 内容に応じて部分点 6点、4点、2点
• 金融政策手段の一つというような書き方では当然0点 (3)以下の計算を説明付きでおこなっていて22点。
¶ ³
L=
rY z
2r から次の計算ができる。
L = M
rY z
2r = M Y z
2r = M2
r = z
2M2Y
この式はY −r平面でLM曲線が原点を通る直線になることを表している。また、その直線 の傾きが2Mz2 であることも意味している。ここで、Mが大きくなると、直線の傾きは小さく なる。つまり、Mが大きくなるとLM曲線は右にシフトする。
• L=MとおいてLM曲線を導く方針を書いていて10点。
• 実際の答案のほとんどすべては、L=Mとなる点から出発し、Lの形状からMが増加すると Yが増加、ないしrが減少する必要があると説明する答案でした。授業での説明を再現する ものですね。あたえられている貨幣需要関数の形状について確認した上で授業での説明を再 現したものには15点をつけました。Lの形状についての言及がなければ、再現が完璧だとし ても5点しかつけていません。
• 上に書いた模範答案の計算をしている答案もいくつかありましたが、多くは日本語での説明 が不足するものでした。計算結果だけよくても高得点はつけていません。22点満点がついた 答案は2件だけでした。
III. 物価指数
経済にはリンゴとみかんしか存在しない次のケースを考える。
2000年(基準時) 2009年(比較時) 価格(円) 取引数量(個) 価格(円) 取引数量(個)
りんご 100 20 200 10
みかん 20 10 50 5
2009年の物価指数を計算するとき、パーシェ指数とラスパイレス指数とでどちらが大きくなる か(20点)
¶ ³
パーシェ指数は比較時の取引数量、ラスパイレス指数は基準時の取引数量を加重にして比較 時、基準時の平均価格を求め、その比をとる。比較時、基準時では取引数量は異なるが、りん ごの取引量がみかんの取引量の2倍である点は基準時、比較時ともに同じなので指数は同じ になる。どちらが大きいというわけではない。
この問題は計算問題としてではなく、記述問題として出題している。計算して結果を出すので もかまわないが、計算をせずに回答するのが模範解答と想定している。
µ ´
実際に採点をした結果、計算方法が正しく、両者が一致することを示していたら20点をつけるこ とにした。また、結果に誤りがあっても、パーシェ、ラスパイレスともに価格の加重平均を元に 作ったものであることを書いていたら、内容に応じて最高15点まで点数をつけた。なお、模範答 案通りの回答をしたものは2件しかなかった。
IV. IS-LM モデル、 AD-AS モデル
次のモデルについて(1)(2)(3)に解答すること。
Y = C+I+G (1)
C = 0.8Y (2)
I = 100−I1r I1>0 (3)
L = M
P (4)
L = 1000 + 10Y −5r (5)
M = 500 (6)
P = 1 (7)
(1) 財政支出乗数を求めよ(20点)。
¶ ³ まずIS曲線を求める。
Y = 0.8Y + 100−I1r+G 0.2Y +I1r= 100 +G 次にLM曲線を求める。
1000 + 10Y −5r= 500 10Y −5r=−500 この2つは次のように整理できる。
"
0.2 I1
10 −5
# "
Y r
#
=
"
100 +G
−500
#
この連立方程式を全微分することで次を得る。
"
0.2 I1 10 −5
# "
dY dr
#
=
"
1 0
# dG
この式を解いて、次の比較静学の結果を得る。
dY dG =
¯¯
¯¯
¯ 1 I1
0 −5
¯¯
¯¯
¯ ¯
¯¯
¯¯
0.2 I1
10 −5
¯¯
¯¯
¯
= −25
−1−10I1
= 5
1 + 10I1
言うまでもなく、同じ数値を表すものであれば正解。たとえば、 1
0.2 + 2I1 は同じ数値 ですね。
µ ´
– 乗数の値が正解であれば途中を見ずに20点、
– 乗数が5点と書いてあれば途中を見ずに0点
– その他については単純な計算ミスと認定したものは15点、計算ミスでしかないけれど も大きなミスの場合は10点
– 計算方針が明解に書いてあれば5点(ほとんどそのような答案はなかったです)
(2) (1)の結果を元に投資関数の形状とクラウディングアウトとの関係について論ぜよ(8点)。ま た、45度線分析に比べてIS-LM分析では財政支出乗数が小さくなることも確認せよ(7点)。
¶ ³
dY
dG = 5 1 + 10I1
であるので、投資関数が利子率に敏感に反応するほど、すなわちI1が大きくなるほど 乗数が小さくなる。このことは投資が利子率に敏感に反応するほどクラウディングアウ トが大きいことを意味する。
また、このことは、I1= 0のときがもっとも乗数が大きく、I1が大きくなればなるほど 乗数が小さくなることであり、45度線モデルからモデルが異なるほど(投資が利子率に 敏感に反応するほど)財政乗数が小さくなることを意味している。
µ ´
– クラウディングアウトについて何らか正しいことが書いてあれば、内容に応じて最高5 点をつけた。
– それ以外については(1)が不正解であれば(2)は解けないはずだが、(1)は0点でも(2) では部分点をつけたものもいくつかあった。(1)の回答の途中で誤りがあっただけで(2) の回答は正解を書けた場合などである。
(3) G= 0、I1= 1とする。さらに(7)を削除しP= 1ではなく、P がさまざまな値をとるもの として、AD曲線を導け(20点)。
¶ ³
IS曲線は(1)と同様であり、LM曲線は
1000 + 10Y −5r=500 P となる。この2つを連立すると
Y = 5(100 +G) + 1000I1
1 + 10I1 + 500I1
1 + 10I1
1 P が求まる。
µ ´
– IS ,LMそれぞれを連立させる方法が、きちんと説明付きで書いてあって10点(どれだ
け正しい式が書いてあっても、説明抜きであれば0点)
– 計算結果が正しければ10点。