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唐突だが、あなたは福袋を購入したことがあるだろうか

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2009年度 上智大学経済学部経営学科 網倉ゼミナール 卒業論文

福袋からみる、妄想ネットワーク

A0642140 山末恵里

提出 2010年1月15日

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はじめに

私は、AB型である。

のっけからなんなんだというところだが、聞いてほしい。

私は血液型占いなど信用しない(正確にいえば、良いことしか信用しない)のだが、自分の性格 をよくAB型という言葉を使って表現する。

それは、単純に言うと二面性があるということだ。ある部分で非常に几帳面になるときもあれば、

それが嘘だったかのように大雑把になるときもあるというように。

私自身はそれら全て含めて自分だと受け入れているつもりだが、仮に几帳面な面をA型、大雑把 な面をB型(決して学術的根拠は無い)と名付けるとすると、A型の自分はB型の自分を理解し ておらず、逆もまた然りだとも感じている。

唐突だが、あなたは福袋を購入したことがあるだろうか。

福袋とは、毎年お正月に初売りで販売されている、アレである。

購入したことがある方はこう思うだろう。

「あります!やっぱり福袋を見るとお正月という気がします。」と。

そして一度も購入したことがない方はこう思うだろう。

「何が楽しくて、冬の寒い中、しかも元旦から、中身もわからないもののためにあれほどまでに 並ばなければならないのか。」と。

A型の私は、前者に非常に共感する。しかし一方で、B型の私は後者にとても共感するのだ。

そして、両者はお互いが理解できないでいる。

この論文は、B型の私がA型の私をなんとか理解しようと試みたものである。

私のこの試みに、最後までお付き合いいただければ幸いである。

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福袋からみる、妄想ネットワーク 目次

はじめに 1 福袋とは

1-1 福袋の定義 1-2 福袋の販売状況

2 人々はなぜ、福袋を買ってしまうのか

2-1 仮説:夢とロマンの福袋

2-2 夢とロマンを感じるとはどういうことか:ボードリヤールでの考察 2-3 顧客がつくる魅力

2-4 ブランドがつくる魅力 2-5 つまり、妄想を買っている

3 妄想ネットワーク

3-1 妄想ネットワークとは 3-2 誰かと妄想する人々 3-3 一人で妄想する人々

4 今後の課題 あとがき

参考文献

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1 福袋の魅力

1-1 福袋とは

大辞林(第二版、三省堂)によれば、「余興や正月の初売りなどで、いろいろな品物を入れて封 をし、各人に選びとらせる袋」とある。

早速辞書から引用しておいて勝手だがこれではなかなかわかりにくいので、本論文に限り有効な 定義を作ろうと思う。とはいえ、ただ福袋の特徴を述べるだけではあるが。

まず、大きな特徴は年に一度、年初めの初売りで、販売されるものであるということだ。ここで は詳しくは書かないが、この販売時期を限定していることによって福袋の魅力は非常に上がると 思う。そして中身はといえば、その店で普段販売しているものが入れられている。洋服の店では 洋服が、食品の店では食品がという具合だ。中身の価値は概して、福袋の価格よりも高い。「~

円相当の商品が入っています」といったような謳い文句でお得感をアピールし、消費者の購買意 欲を煽っている。

ただし、消費者は購入するまでその中身を知ることはできない。実は近頃には中身のわかる福袋 というものも販売されているのだが、それは今回調査対象から外させていただきたいと思う。理 由は言うまでもないが、それは欲しいものをピンポイントで購入することと同じであり、例え価 格の面でお得感があったとしても、セールで購入すること同然とも捉えられるからだ。

従って、今回扱う福袋の定義は「年に一度初売りで販売される、中身はわからないがお得感のあ る袋」とする。

1-2 福袋の歴史と現状

近頃毎年のように、年始のニュースで取り上げられる現象がある。それは、デパートなどの初売 りで福袋を購入しようと並ぶ長蛇の列である。2010年1月、今回も例外なく以下のような記 事が出た。

「主要百貨店で2日、初売りが行われた。東京都内のデパートは、恒例の福袋や冬物商品の値下 げセールなどを目当てに訪れた大勢の買い物客でにぎわい、新年のスタートを切った。 衣料品、

身の回り品など計5万個の福袋をそろえた日本橋三越本店(東京都中央区)では、開店前から約 8千人の買い物客が行列をつくり、予定より15分早い午前9時45分に開店。ダウンコートや セーターなどを詰め合わせた1万500円の福袋に人気が集まり、用意した1200個の大半が 午前中に売れた。関西から上京中の主婦(50)は「普段は節約しているので、品質の良い商品 が入った割安な福袋はありがたい」と店内を見て回った。高島屋東京店(東京都中央区)では夜 明け前から並ぶ買い物客もおり、開店と同時に食品売り場の福袋などを買い求めた。2日からは 冬物値下げセールが始まり、ネクタイや革製品などがよく売れた。」(2010年1月2日、共同 通信より)

この行列は都内だけのものではない。ニュースになっているものだけでも、全国各地でその現象

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は見られるようだ。

そもそも福袋は、いつ頃から販売されているものなのだろうか。福袋といえば、この記事にもあ るように老舗百貨店などが販売しているイメージが強い。また歴史もあるということから、参考 までにいつ頃から百貨店が福袋の販売を始めたのか調べてみた。すると、大丸百貨店が布の端切 れを入れたものを江戸時代から販売していたという記録があるらしいということがわかった。そ れほど昔から、(毎年かは分からないが)福袋というものは人々に飽きられず、今日まで続いて いるのだ。これは非常に素晴らしく、同時にとても不思議なことだ。なぜそれほどまでに、福袋 は人々に受け入れられ続けるのだろう。

やっと、と言おうか。本論文の主軸となる、疑問である。

「人々はなぜ、福袋を買ってしまうのか。」

2 人々はなぜ、福袋を買ってしまうのか

2-1 仮説:夢とロマンの福袋

人は、夢を持つことのできる生き物だ、と思う。朝日新聞が購読者に対して行った「一攫千金を 夢見ますか?」という調査によると、回答者数6007人(回答者の内訳は、70代15%、6 0,50代が各24%であった)のうち、「はい」と答えた人が75%、「いいえ」が25%であ った。さらに「はい」と答えた人に対して、「夢に向けて具体的に何かしていますか」と質問を したところ、半数以上の3254人が「宝くじを購入した」、1108人が「景品が当たるクイ ズに応募した」と答えたという結果がでた。一方で、実際に「一攫千金に近い体験があるか」と いう質問には、わずか6%しか「ある」という回答がなかった。要するに、そのようなことはめ ったに起こらないのだ。宝くじを購入したり、クイズに応募した方々も、それは十分すぎるほど わかっているはずだ。ではなぜ夢が叶う可能性が低いものにわざわざお金を払ってしまうのか。

宝くじをつい買ってしまう人の言い訳として、「夢を買っている」という話がある。つまり、「当 たるかもしれない」と本気で思っているというよりは、その思う気持ちを味わいたい、楽しみた いというところに、対価を支払っているのだ。

こういった話がもし本当にあるならば、福袋を購入する心理にも同様のことが言えるのではない だろうか。福袋における一攫千金とは、ここでは洋服の福袋と仮定させていただくが、「入って いたすべてのものが、自分の好みと合致しており、サイズも合っていて、実際に着て使うことが できる」ということである。私の実体験から言わせていただくが、そのようなことはほぼ、ない。

ほぼ、というのはもしかしたら私が運の悪い人間なのかもしれないという一抹の不安である。と にもかくにも、そのような福袋は、出会えないことが普通だと考えて然りなのだ。

以上のことから、「人々はなぜ、福袋を買ってしまうのか」には、この仮説を提示したい。

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「福袋に対して夢とロマンを感じ、そのことに大きな価値を感じているから。」

2-2 夢とロマンを感じるとはどういうことか:ボードリヤールでの考察

夢とロマン、なんとなくはわかる気がするが、どちらも実体のない、目には見えないものである。

目に見えないものを買うとはどういうことなのか。考えてみると、これは実は普段の消費行動の 中にも見られる現象であるようだ。

ボードリヤール(1970)によると、彼の消費概念は、以下の三つに集約される。

1)消費はもはやモノの機能的な使用や所有ではない

2)消費はもはや個人や集団の単なる権威づけの機能ではない

3)消費はコミュニケーションと交換のシステムとして、絶えず発せられ受け取られ再生される 記号のコードとして、つまり言語活動として定義される。

更に彼はこうも述べている。図式化して説明しよう。

自然界におけるモノ=物質

経済社会におけるモノ=物質+機能

消費社会におけるモノ=物質+機能+暗示的意味(→記号)

モノが誕生した時、それは純粋に存在が発生することである。しかしそれが経済社会に出た時、

モノは人にとって何らかの役割を発揮することになる。これが、そのモノが持っている機能であ る。ここまでで、私たちは購入において意思決定ができるのではないかと思いがちだ。私も、「○

○が欲しい」と思ったうえで買い物をした経験があったので、モノが求めている機能を果たして いるということが、消費社会におけるモノにとって最も重要なことだと考えていた。しかし、ボ ードリヤールはもう一要素あると述べている。それが、「暗示的意味」だ。「モノは、かわりのき かないその客観的機能の領域外やその明示的意味の領域外では、つまりモノが記号価値を受け取 る暗示的意味の領域においては、多かれ少なかれ無制限に取り換え可能なのである。こうして洗 濯機は道具として用いられるとともに、幸福や威信等の要素としての役割を演じている。後者こ そは消費の固有な領域である。」ということだが、要するに私たちは、洗濯機に洗濯をしてくれ る機能が付いているから買うのではなく、幸せな状態を表現してくれることに重きをおいて購入 しているのである。

そしてボードリヤールは機能以外の価値の違いを、記号の違いと同じだと表現し、そのような意 味で現代の消費は、単純にモノの使用価値を得るにとどまらず、記号消費という性格の強いもの になっているとした。記号を選ぶことで、人々は自分を表現している。その記号が持つ特性を、

自分と他者を区別するための道具としてモノを操作しているのだ。

それではこれを、福袋にあてはめるとどうなるだろうか。先述した式に、福袋を代入してみよう。

ここでも、福袋は洋服が入ったものと仮定させていただく。

消費社会における福袋=物質(布でできた洋服数着)+機能(身につけられる)+暗示的意味(購 入する際には中身がわからない、購入するためには行列に並ばなくてはならない、初売りで売ら れている、など)

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こうしてみると、暗示的意味に該当した要素が消費者にとっての福袋の「記号」であるのだから、

上記で括弧の中に書いたような点は、福袋購入要因の大きな要素だと考えられる。よって、ボー ドリヤールの考え方に沿えば、福袋を買ってしまう人々にとっての夢とロマン、すなわち福袋の 魅力とは「中身がわからないこと」「行列に並ばなくてはならないこと」「初売りで売られている こと」なのである。私の周りにあまり福袋を購入した経験の持ち主がいなかったため、インター ネット上で購入者の意見を読んだ限りでは、これらは購入理由として実際言われている。よって 仮説は正しいといえる。当然と言えば当然だが、これらに関してもう少し分析していきたいと思 う。

2-3 顧客がつくる魅力

では次に、福袋の販売方法に関して、顧客に対しどのように購買意欲をかきたてるのかというこ とを考えてみたいと思う。結論から言うと、ただ買い物をするために行列に並ぶのと福袋を買う という目標を持って行列に並ぶことの違いは、遊園地で乗り物の順番を待つこととディズニーラ ンドでそれをすることの違いと同様なのではないか。以下、これをPine and Gillmore(200 5)の言葉を借りて説明したい。

人は、ただ商品を販売するだけでなく、そのやり方に工夫を凝らすことでその価値を増大させる ことができる。その工夫が経験を演出するということだ。経験とは「顧客を魅了し、サービスを 思い出に残る出来事に変える」ことであり、人々が経験を買うときは思い出に残るイベントを楽 しむ時間に対価を支払っている。この経験は、商品の提供側がステージングして、初めて生まれ るものであり、これを最初に行ったのがディズニーランドなのである。チケットが他の遊園地に 比べて割高であるにも関わらずなぜ人々がディズニーランドに行くのかというと、アトラクショ ン自体を楽しむだけでなく、そこに行くことで現実とは異なる別世界を味わうことができ、それ に価値を感じているからであるのだ。そしてディズニーランド側は、その世界観をステージング するために、アトラクションごとにそれぞれアニメ作品をテーマに掲げ、装飾やスタッフの衣装 やサービス、場内で音楽を流したり普段は身につけないようなキャラクターをデザインしたヘア アクセサリーを販売するなど、非常に徹底している。顧客へのサービスよりも、こちらの方に力 を注いでいると言ってもいいくらいだ。こうして出来上がった世界に、人々は対価を支払うのだ。

では、実際に経験を演出するためにはどうしたらいいのだろうか。以下の二つを挙げたい。

1)製品をレアものにすること

2)製品イベントをステージングすること

レアものにするというのは、商品の生産量や販売場所を限定することで、それを手に入れたあと も「限定品を買った、または持っている」という気持ち、すなわち経験をもたらすことができる。

ディズニーランドでいえば、そこでしか購入できないキャラクターグッズであったり、そこで撮 ったキャラクターとの写真などがこれに当てはまる。もうひとつのステージングに関してはディ ズニーランドの場合は前述の通りである。ではこれを、福袋で考えるとどうなるだろうか。まず、

レアものにするというのは、販売数を限定している点、初売りの期間でのみ販売している点で該

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当している。数が限られているからこそ、人々は朝早くから並ぶのだ。そして、「私は朝早くか ら並んで、限定数の福袋を手に入れた」という達成感また満足感を経験として与えている。それ から二つ目に関しては、何よりもまず元旦の初売りというこのうえない特別感がある。名前にも 福という文字がついていて、非常におめでたい印象を与えることができる。それから、買い方、

売り場も非常に演出されていると考えられる。ただ、ディズニーランドと大きく異なる点は、そ の演出には顧客自身が深く、それもむしろお店側以上に関わっているということだ。先ほども述 べたように、限定数しか販売されないため、人々は行列をつくる。よくある話だが、行列は行列 を呼ぶ。このときから福袋を手に入れられるか、顧客同士の争いは始まっているのだ。そしてお 店が開店すると、顧客は一斉にそれぞれ目的の福袋に向かって突進していく。言っておくが、こ れは本当に危険な行為であるので正しいこととは言えないのだが、毎年ニュース映像で流れてい るのは事実である。そうしてお店にたどり着き、ワゴンに入れられた福袋をどれにしようかと願 かけをして選ぶ余裕もなく、とにかくどれでもいいから手につかむ。そうしないと、他の人にと られてしまい、せっかく並んだ時間が水の泡になってしまうのだ。ここで得られる経験とは、「朝 早くから行列に並び、たくさんの人との競争に勝ち、限定の福袋を手に入れた」ことである。そ して、行列に並ぶこと、福袋の奪い合いという競争をつくりだすのは顧客自身なのだ。つまり、

福袋に魅力を感じ、購入しようと奮闘する人々は、自ら福袋の魅力をつくることに協力している のである。

しかも経験はそれが成功していた場合に、本来の商品価値を増大させ、価格の面ではそれを上乗 せさせることができる。福袋は中に入っている商品の合計価格が福袋自体の価格よりも高いとい うことがウリなわけだが、実は人々は、自らがつくりだす手に入れるための競争に対しても対価 を支払っているということになり、それも含んでいるという意味での福袋の価格に納得をして購 入しているということになるのだ。

2-4 ブランドがつくる魅力

次に、「中身がわからない」ことの魅力について考えたいと思う。私自身福袋を購入するときに は、これが一番の魅力に感じられるのだ。福袋にしかない特典と言えば、これであろう。さっそ くだが、人気のある福袋とは、中身が洋服であれ何であれ、いわゆるブランド物である。そもそ も、福袋は各ブランドごとにつくられているので当然と言えば当然だ。ちなみに、ブランドとい うのはメーカー名だけでなく、三越や伊勢丹など有名小売店の名前も含まれる。なぜブランドご とにつくられるのかというと、消費者が「具体的な中身はわからないが、知っているブランドの ものが入っている」という安心感を求めているということなのではないだろうか。つまり、ただ 正体不明なものでは駄目なのだ。ブランドものであるというだけで安心感が得られるのはなぜな のか。これに関して、石井(1999)によれば、ブランドには三つの効果があり、それは 1)識別効果と知名・理解効果

2)メッセージ効果(ターゲット・ニーズ拡大効果とブランドの意味世界への入場料効果)

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3)ディドロ効果

とある。福袋の中身に安心感を与えるのは1)と2)であると私は考える。効果名が表す通り、

ただ中身がわからないだけでは人々は買わない。しかし、もし知っているブランドのものである というと、そのブランドの意味世界を知っているのであるから、想像することができる。しかも その想像は、普段から利用しているブランドであればより具体的なものになる。つまり消費者は 中身に関し「ある程度想像がつく」のであり、それが福袋最大の魅力となっているのではないだ ろうか。

2-5 つまり、妄想を買っている

ここで、今までの考察を整理してみよう。人々は、福袋の中身つまり商品だけに魅力を感じてい るのではない。それ以外にも、三つの要因をこれまで挙げてきた。

1)初売り限定で販売されること(個数も制限されている)

2)購入のためには競争があること(ただし、消費者自身でつくりあげている状況であるが)

3)ブランドものであることで、中身がある程度想像できること

これらを改めて考えてみると、一つの共通点があるように感じられてくる。「限定品を買うこと ができた自分、頑張って行列に並んだ自分はすごい!」と自己満足に浸ることと、買いに行って 行列に並んでいるときから、家に帰って袋を開ける瞬間まで「中身は何が入っているのだろう?

あれが入っていたら嬉しいのに」とあれこれ思考をめぐらすのは、どちらも妄想なのではないだ ろうか。つまり人々は、妄想させてくれることに対価を支払っているのである。別にお金を払わ ずとも、妄想なんていくらでもできそうなものだが、妄想が好きな人々にとっては、お金を支払 ってでもする価値のあることらしい。どうやら、仮説に対しての考察は、このように結論づけら れるようだ。

「人は、福袋を買うことで、同時に妄想体験を購入している。」

3 妄想ネットワーク

3-1 妄想ネットワークとは

前章で、「人々は妄想体験を買っている」と結論づけたわけだが、実際人々はどのように妄想し ているのだろうか。一人でするのか、それとも誰かとするのか。この妄想による人々のつながり を妄想ネットワークと名付け、その形を探っていきたいと思う。

大きな軸として、本論文では「誰と妄想するのか」という点に注目していきたい。よって、まず は誰かと妄想している人々に焦点を当てたいと思う。

3-2 誰かと妄想する人々

「福袋、買えるといいな」「何が入っているのだろう?」「こんなのが入っていた!」これらを実 際に口にする人、言える相手がいる人は、誰に話しているのだろうか。行列に並んでいる人々を

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見れば、家族、友人、恋人と、大方予想はつくのだが(一緒に並んでいたりするので)、例えば 家族にしか話さない人もいれば、友人としか話さない人もいるかと思う。その違いについて、考 察していきたい。

そもそも、なぜ人々は商品を話題にし、会話をするのだろうか。ローゼン(2002)によると、

・人は話すことによって結びついており、そうすることで自分がいかに洗練され、賢いかを知ら せている

・アドバイスをしあうことで、リスク・コスト・不確実性を減らしている

とある。これらは、福袋に限らず買い物にも言えることである。しかし福袋の場合で考えるなら ば、前者は入っていた中身が本当に使えるものなのか、使ってもおかしくないかという確認をと る作業をするうえでの会話にあたり、後者は購入する前、どのブランドの福袋をどこで買えば当 たり(中身が良い、または使えるものが多い)なのかという情報を得るための会話に該当する。

ただ、こういった会話をする相手に求められる条件を考えた際に、こちらもまたローゼンがあげ たいくつかのネットワークの原理がある。

・人は自分と似ている人々と結びつく

・お互いに似ている人々はクラスターをつくる

・私たちは身の回りの人たちと話す

・弱い結び付きは驚くほど強い

・インターネットは弱い結び付きを育てる

この原理によると、福袋に関する会話は似たような嗜好を持つ人、かつ近しい人とするというこ とだ。とはいえこれに関しても、福袋の話題に限った事ではない。要するに、家族や恋人、友人 とそれについて話すのは近しい人であり、自分の嗜好を理解してくれている存在であるからなの だ。そして周りにはいずとも、電話やメールをすればそれに応えてくれたり、これから出てくる がmixiのようなインターネットによる結び付きも、妄想を共有する相手として大きな存在感を 持つ。

では、このように妄想を共有できる人がいる場合、つまり妄想しやすい環境にある場合、人々は 普段から妄想をしているのだろうか。福袋と同じように妄想をウリにしているモノを利用する回 数は、妄想しない人(福袋を購入しない人)に比べて多いのだろうかということを検証してみた い。検証方法としては、mixiのサイトにおいて、人々が参加しているコミュニティを調査する。

コミュニティというのは、ある嗜好が似通っている人(特定のブランドが好きな人など)が集ま ってつくったものである。参加者は、そのコミュニティメンバーとトピックをたてて会話をする、

つまり妄想することができる。福袋のコミュニティであれば、「○○の福袋を購入した」「中身は こういうものだった」など様々な報告をメンバーがしあう。今回は、「福袋が好き!」というコ ミュニティ(参加者3180人)内において「福袋を購入した」と発言している人が、参加して いる他のコミュニティを調査し、それが妄想をウリにしているモノに関連のあることであれば、

普段も妄想をしている、と位置付けることにする。そして検証の結果、以下のようになった。

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コミュニティの種類 コミュニティに参加していた人数 タレント 82人

ブランド(洋服など) 77人

恋 52人

雑誌 37人

漫画 33人

ディズニー 24人

アニメ 21人

ゲーム 18人

映画 18人

占い 15人

ドラマ 10人

乙女ゲーム 1人 調査対象者数:150人

私の考えでは、雑誌やディズニーのコミュニティに入っている人が多いのではないかという予 想だった。雑誌とはそれから得られる情報によって、自分の生活をどう変えていくか妄想する 手助けとなる道具だからだ。そしてディズニーランドは、前章で書いたとおり経験という価値 を生み出したところだからだ。しかし実際には、その二つに参加している人数はそれほど多く はなく、好きなタレントやブランドのコミュニティに参加している確率の方が高い。それはな ぜなのか考えてみると、まずブランドに関しては、前述のように福袋を買うためにはその中身 が想像できなければ魅力がなくなってしまう。つまりあらかじめ好きなブランドがあるのはご く自然なことであると言える。それからタレントに関しては、映画やドラマにも言えることだ が、憧れの対象として、異性であればそのタレントと妄想の中で恋愛をし、同性であればその 人に近づきたいと妄想し、ダイエットやおしゃれに励む糧にするのだ。

今回のこの結果において、最も注目すべきなのは恋と乙女ゲームである。恋のコミュニティとは、

種類は様々あるのだが、「年をとっても手をつないでいたい」や「理想の彼女になりたい!」と いうように、非常に夢見がちなものが目に付いた。これは、理想の恋愛を人々が妄想している 証拠であり、コミュニティはそれを実際に行う場所として活用されているのだ。そして逆に対 称的な数字として目立ったのが乙女ゲームのコミュニティである。乙女ゲームとは、携帯などで できる恋愛ゲームであり、プレイヤーは主人公の立場にたって言動を選択し、物語を進めていく。

まさしく理想の恋愛を「今すぐに」体験できるものなのであるが、こちらはたった一人であった。

もちろん、乙女ゲームを実際に行っていてもコミュニティには入っていない人がいるのかもし れないが、それにしても少ない。これは乙女ゲームを使って行う妄想は、他人と共有したくない ということなのだろうか。ここで気になる事実がある。乙女ゲームのコミュニティメンバーが、

他に参加しているコミュニティを調べてみると、ディズニー関連のコミュニティに参加してい 10

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るメンバーが少なくなかった。一種類の乙女ゲームコミュニティ(しかも乙女ゲームのコミュ ニティはメンバー数が少ない。)しか調査できていないので予想としか言えないのだが、もし かすると妄想には「他人と共有してこそ楽しいもの」と「個人だけの楽しみにしたいもの」の 二種類が存在し、その代表が福袋や恋に関する話題と、乙女ゲームや雑誌に関する話題なので はないか。そして更にその二つには重なる部分があり、そこにディズニーの話題が存在するのだ。

福袋や恋の話題がなぜ他人と共有するのに適当かというと、商品への評価の仕方、理想の恋の 仕方について自分の価値観はセンスが良いことを確認し周りに知らせたいと考えており、且つ もしもまわりとずれている場合はアドバイスが欲しいと考えているのだ。ただここで一つ気に なることがある。福袋のコミュニティにおいても私自身福袋を購入して家族に結果報告をする ときも、中身がこれだった、という報告ばかりなのである。むしろそれしかコミュニティでは されていないし、私もしていない。何が入っているか、これが入っていたらいいのにという会 話はされていないのだ。この買う前の妄想は、乙女ゲームの妄想と同じ相手を必要としない妄 想なのか。相手を必要としない妄想は、もしかすると福袋によって味わえる妄想の中ではあま り人々に重視されていないところなのかもしれない。もしくは、そもそも買う前の妄想はあまり されていないのかもしれない。いずれにせよ、福袋を購入する人々の多くは妄想を誰かしらと 共有するタイプであるようだ。

3-3 一人で妄想する人々

それでは、乙女ゲームタイプの妄想をする人は、福袋を買わないのだろうか。乙女ゲームの例か ら言えば、その人々は妄想を誰かと共有したいとはあまり考えていない。そこで続いては妄想 を共有する相手がいない、もしくはいらない人に関して考えてみたい。決して暗い人扱いしたい わけではなく、例えば同じような嗜好を持つ人が周りにおらず、一人暮らしで、恋人はいたと しても妄想にはつきあってくれなさそうな場合、妄想体質の人は福袋を買いたい、または買っ ている場合、どうしているのだろうかということなのである。正直、これを検証するのはかな り難しいと感じられた。なぜなら、一人で妄想をしているのならば、そのことを誰に言うこと もないからだ。周りにそういう人がいたとしても、きっと気づかないだろう。それではどうす ればいいのだろうか。私は、そういう人がもし日記を書いていたならば、それには妄想してい ることを書くのではないかと考えた。そこで検証方法として、個人のブログに福袋についての 記事があるかを調査し、その記事についているコメントを確認し、コメント数が0であるか、

もしくはインターネット上で初めて知り合ったような人からのコメントしかなければ、その人 は一人で妄想をしているということにさせていただく。検証対象はYahoo!ブログにて福袋と いうキーワードを入れて検索し該当した100件のブログにした。このブログは、友達リスト のようなものがあり、そこに登録されている人にはブログの更新が知らされるようになってい るが、登録していない人でも記事が読め、コメントできるようになっている。ただし、そのよ うな他人も読める設定にしていない人もいるはずだが、そういった人は私も読めないので、検 証対象からは除外している。

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そして検証の結果、福袋に関するブログは以下のように分類できることがわかった。

1)友達リストに向けて福袋の戦利品を公開し(画像付き)盛り上がっている。

コメントをしている友人も福袋を買っているらしい。

2)1)同様戦利品を公開しているが、友人だけでなくリストに含まれていない人からのコメン トが書き込まれており、中にはその記事を読んで「来年買ってみよう」と言う人もいた。

3)福袋の感想が書かれている(画像なし)。たまに友人からのコメントがあるが、ほとんどが コメント0件であった。

ほとんどが1)と3)で占められており、2)は非常に少数派であった。更に2)のなかでも、

他人と思われる人が「来年買ってみよう」とコメントを残していた例は、わずか二件であった。

この結果から考えられることは、まず1)に当てはまるブログの作者は、mixiのコミュニテ ィに参加して結果を報告することと同じような感覚なのであろう。友人たちがコメントを残し やすいように中身をひとつずつ撮って画像を載せている人が目立った。2)の場合はその記事の 内容が単純に中身の紹介だけではなく、それに対して感想が詳しく書かれているように感じられ、

だからこそ他人でもコメントがしやすくなっているのだろうと思われた。それから3)のブロ グだが、私はこの記事の作者たちこそ乙女ゲームタイプの妄想をする人たちなのではないかと 考える。なぜか。まず、記事にはしているが画像が掲載されていない。つまり、中身を見せて いない。いくら妄想とはいえ、文字だけではそれを共有することは難しい。この作者たちは、

共感を得やすい文章ではなく、ただその日起こったことを書いているだけなのだ。

しかも3)のブログ記事のもうひとつの特徴は、福袋の中身しか書いていないということである。

1)や2)の場合、手に入れるために何分並んだということや、中身に対する感想に行を割いて いるのだが、3)に関してはそうした文章は極端に少ない。ただ、これが入っていたという報告 のみなのだ。これではコメントのしようがない。

では、3)の作者たちはなぜブログを書くのか。買い物したことを記録に残したいだけなのか。

いや、もしかすると、誰かに気づいてほしいのかもしれない。妄想を共有できる人が現れるこ とを、心待ちにしているのかもしれない。それにしては少々記事が淡白ではあるが、そこは大目 に見ることにして、コメントを残してみると、新たな妄想ネットワークが広がるかもしれない。

4 今後の課題

妄想の仕方が二種類あるのではないか、というのは想定外の結果であった。名付けるならば、

福袋型と乙女ゲーム型とでも言おうか。正直なところ、私の周りにはどちらも実際に利用して いる人がいないのでアンケートをとってその行動を調査するのは難しいのだが、この二つの違 いに関してもっと詳しくわかれば、おもしろいのではないかと思った。近頃乙女ゲームは流行 しているらしいのだが、これは乙女ゲーム型の妄想の方を人々が求めているからなのだろう か。また、ディズニーを好むということと、二種類の妄想との関連性も気になるところだ。私 は福袋型と乙女ゲーム型のちょうど中間、グレーゾーンにあたるのではと推測するが、こちら の検証ももう少し詳しくできればと思う。

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あとがき

結局、福袋の何が一番楽しいかといえば、開ける瞬間だ。

いや、手に入れたときかもしれない。

いやいや、やっぱり戦利品報告を友達や家族にしているときかも。

最近では中身のわかる福袋も販売されているようだが、そんなものはナンセンスだ、と思う。

やはり、中身がわからないのがいい。そこに、夢が詰まっているのだから。

その夢とは、友達や家族、恋人、はたまたネット上の人に至るまでの、様々な人との妄想の共 有だ。

つまるところ、人は妄想が大好きなのだ。福袋は、そんな人の性格を上手く捉えた商品である。

妄想にお金を払っているのかと落ち込む必要などない。

これからも福袋を買って、どんどん妄想ネットワークを広げていこう。

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14 参考文献

Albert-Laszio Barabasi 新ネットワーク思考~世界のしくみを読み解く~

NHK出版 2002

B.Joseph PineⅡ, James H.Gillmore 経験経済 脱コモディティ化のマーケティング戦略

ダイヤモンド社 2005

Emanuel Rosen クチコミはこうしてつくられる おもしろさが伝染するバズ・マーケティン

グ 日本経済新聞出版社 2002

Jean Baudrillard 消費社会の神話と構造 紀伊国屋書店 1995

石井淳蔵 ブランド 価値の創造 岩波新書 1999

【HP】

mixi http://mixi.jp/

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2日(月) 3日(火) 4日(水) 5日(木) 6日(金) ごはん いちごパン ごはん 麻婆菜麺まーぼーさいめん 豚肉 ぶたにく とじゃが芋いもの揚あげ煮に クリームシチュー メンチカツ 春巻はるまき がんも煮に イカのバター焼やき ウインナーとキャベツのソテー シュウマイ 家庭カテイ 学習日ガクシュウビ チンゲン菜さいのおかかあえ

3日(月) 4日(火) 5日(水) 6日(木) 7日(金) ごはん キャロットパン ごはん ごはん すき焼やき風煮ふ う に コーンシチュー チキン南蛮なんばん 豚肉ぶたにくの生姜焼し ょ う が やき 始業式シギョウシキ 千切せ ん ぎり野菜炒や さ い い ため 花野菜は な や さ いとツナのソテー 白菜はくさいのオイスター炒いため ボイルキャベツ

参考: 「ふんばろう東日本支援プロジェクト@福教大」のブログ http://fumbarofue.jugem.jp 必要物資の 情報を収集 ボランティアの 取りまとめ役 必要物資の 情報を収集 ボランティアの 取りまとめ役 必要物資の 情報を収集 ボランティアの 取りまとめ役 10 Joyama News vol.21 11 特集 福教大発

猫を主人公とする物語 —踊るように恋— 「大丈夫ですよ! お金の話は別として。行くしかないでしょ!」 お辞儀した。 俺はあまりに嬉しくて電話で大声で感謝の言葉を叫んで膝に頭をつけて りあえず偉いおっさんには行くってことで返事出しとくわ」 「さすが武志だな。よっしゃ、詳しい話は練習の時にでもするか。と 「武志くん……? どうしたのそんなに良い事あったの?」

特養やデイサービスセンターの生活相談 員を経て、現在は本部事務局にて勤務して おり、社会福祉士として地域で認知症の人 と家族の支援にも携わっております。この ような「声なき声」に耳を傾ける姿勢は、弘 前学院大学での学びに基づくものであり、 是非、地域の福祉を支える仲間が、この弘 前学院大学から一人でも多く増えることを 願っています。 社会福祉法人七峰会本部事務局

社会福祉士国家試験受験資格を得るため に実習は必修です。主な実習先は、高齢者、 障害者、児童などの社会福祉関連施設や、 社会福祉協議会、地域包括支援センター、 病院等の相談援助部門です。各施設・機関 において、「利用者や家族の相談に応じ、 生活するうえで抱えている問題を解決する ためにサービスの提供の手続き、関連職種 との調整、利用者や家族に助言」など、社

「もりの くまさん」を,えんそうに あわせて まねっこしながら うたってみましょう。 まねっこして うたえた すこし むずかしかった 4. きょうかしょ 54ページ「フルーツ ケーキ」を,えんそうに あわせて うたって みましょう。 フルーツの なまえの ところは,がっきの リズムを てで うちながら うたって みましょう。 えんそうを