喜多方市街地における地下水流動および地下水温分布の解析
金子翔平・柴崎直明(福島大学・共生システム理工学類)
要 旨
会津盆地北部に位置する福島県喜多方市において,地下水位および地下水温の連続観測を行った.地 下水位は冬季に低下する傾向が見られ,低下する期間が年々長くなっている.消雪用井戸の比抵抗値を 用いて水文地質断面図を作成した.深井戸4地点において温度プロファイルを測定し,また冬季には消 雪用井戸の水温を測定した.透水係数が低いと,プロファイルの温度増加率および消雪用井戸の水温が 高くなる傾向が見られた.3次元シミュレーションモデルFEFLOWを用いて,冬水田んぼによる冷温 水の酒養および無散水還元井の注入について検討を行った.その結果,前者の影響はほとんど見られな かったが,後者については地下水の流動方向に沿って影響を与えることが分かった.喜多方市街地では,
将来的に地下の温度が低下することが予想される.
1.はじめに
会津盆地北部に位置する福島県喜多方市は,地 下水の豊富な地域であり,生活用および工業用と
して地下水が使われている(図1).冬季には,
消雪用井戸を稼働し地下水を汲み上げる.そのた め,冬季の地下水位が低下傾向にあり,民家の井 戸の枯渇や水量低下が一部で発生している.地下 水位低下を防ぐために,福島県喜多方建設事務所 は,汲み上げた地下水を再び地下に戻す無散水消 雪井戸を導入し始めた,また,柴崎研究室および 地元・関係機関では「冬水田んぼ」と呼ばれる地 下水人工酒養実験を行っている.しかし,無散水 還元井や冬水田んぼから冷温水を注入・酒養させ たときに,地下水流動および地下水温にどのよう な影響を与えるかは明らかになっていない.その ため,本研究は喜多方市街地における地下水温分 布の実態を明らかにし,注入・酒養させた冷温水 が地下水流動および地下水温にどのような影響 を与えるかを明らかにすることを目的とした.
II.研究手法
水圧式自記水位計を用いて,地下水位および地 下水温の連続観測を行った.鉛直的な地下水温の 分布の把握のために深度1m毎に水温の測定を
行った.平面的な水温の分布を把握するために消 雪用井戸の水温の測定を行った.水文地質構造を 把握するために,消雪用井戸の掘削資料の比抵抗 値およびボーリング柱状図を用いて水文地質断 面図を作成した.熱輸送解析および密度流の考慮
ができるFEFLOW 6.2(Diersch,2013)を用いて
3次元シミュレーションモデルを作成し,冷温水 を注入・酒養させたときに地下水流動および地下 水温にどのような影響を与えるか検討を行った.
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図1調査位置図とモデル化範囲
III.結果および考察
1.地形および水文地質状況
会津盆地北部の地形は北から南へ傾いている.
盆地に埋積している地層の層厚は250m以上に 達する.また,喜多方市街地付近は扇状地が複合
している地域である.
図2のように,深度15m,80 m付近に比較的 連続性の良い粘土層が分布している.これらの粘 土層をもとに,上位より不圧帯水層,第1被圧帯 水層,第2被圧帯水層に区分した.第1被圧帯水 層においては,粘土層は地表面とほぼ平行に傾い ているが,第2被圧帯水層では,粘土層が地表面 よりも大きく傾いている.また,喜多方市街地の 西側は東側よりも粘土層の割合が低い.
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一コ基盤 図2市街地の北東一南西水文地質断面図
2.地下水位
地下水位の連続観測は、浅井戸7地点,深井戸 3地点で行っている.浅井戸,深井戸ともに,冬 季に地下水位が低下傾向にあり,水位低下期間が 長くなっている.御清水公園(深度15m)では
一4mよりも水位が低下している期間に着目する
と,2008年では41日であるのに対し,2012年,
2013年ではそれぞれ58日,62日となっている(図
3).
ふれあい通りの消雪用井戸が稼働すると,ふれ あい通り観測孔の地下水位は約100m以上低下 する.また,この消雪用井戸が稼働しなくても,
周囲の消雪用井戸の揚水の影響を受けて水位は 約30m低下する.消雪用井戸による水位低下の
影響は喜多方市街地から約1km西に離れた第5 水源(深度100m)にも及んでいる(図4).御清 水公園と御清水深層観測孔(深度150m)の水位 を比較すると,前者よりも後者の方が地下水位は 約6m低い.これは,不圧帯水層と第2被圧帯水 層に水位差があることを示している.
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図3御清水公園の地下水位変動
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2009 20fO 2011 2012 2013
図4第5水源の地下水位および 地下水温の変動 3.地下水温
1)温度プロファイル
御清水深層観測孔(図5),第5水源(図6),
第6水源,西四ッ谷消雪用井戸の4地点で深度毎 に温度を測定した.第5水源の恒温層に到達する 深度は約20m,第6水源では約14 m,御清水深 層観測孔では約15mである.
第5・第6水源では恒温層に到達しても水温が ほぼ一定であるが,御清水深層観測孔および西四
ッ谷消雪用井戸では深度とともに水温が上昇し ている.前者では深度60〜70mにかけて,後者 では深度106〜120mにかけて0.1℃/m以上の割
合で上昇している.それ以深の水温は,前者は
0.038℃/m,後者は0.048℃/mの割合で上昇する.
なお,前者はストレーナの設置深度で温度があま り増加していないが,これはストレーナ付近で地 下水が流動しているためであると考えられる.
Domenico and Palsiauskas(1973)は,動水勾配がな
く地下水の流れがない場合,等温線の分布は水 平になり,これに対して,地下水の流れがある 場合,等温線の分布が歪むことを示している.
御清水深層観測孔,西四ッ谷消雪用井戸では,
0.1℃/mの割合で水温が上昇した深度を境にし て上下で地下水の流動系が異なる可能性が考え
られる.
柱状図 ストレ『ナ比抵抗CΩ・m) 地下水温〔℃)
位置
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図5御清水公園の温度プロファイル
柱状図 ストレーナ比抵抗(Ω・m) 地下水温(℃}
位置 50100 5Gσ A3 14 15
0
掘削資料に記載されている水温とを比較したと ころ,水温が低下している消雪用井戸が多く見ら れた(図8).この理由として,消雪用井戸が稼 働することによって強制補給酒養が発生し,浅層 部の比較的冷たい地下水が深部に引き込まれた
ことが考えられる.
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UTM−E(m)【WGS84, Zone−54Nl
図72013年1〜2月に測定した
消雪用井戸の水温
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図6第5水源の温度プロファイル
2)消雪用井戸の水温
2013年1〜2月の消雪用井戸が稼働している時 期に,その地下水温の測定を行った(図7).そ の結果,稲村地区では水温が高く,市街地西部で は水温が低い傾向が認められた.この測定結果と
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UTM−E{m)[WGS84, Zone・54]
図8現地で測定した水温と掘削資料に記載
されている水温の差
3)地下水温と透水係数の関係
図9に,第1・第2被圧帯水層の透水係数と温 度プロファイル,消雪用井戸の水温を示す.透水 係数は消雪用井戸の揚水試験データ,および消雪 用井戸掘削資料から求めた.揚水試験については
Cooper and Jacob(1946)の直線解析法で解析した.
掘削資料からは揚水量と水位降下量からLogan
(1964)の方法を用いて透水量係数を求めた.その 後,透水量係数をストレーナ長で除して透水係数
を求めた.消雪用井戸の深度は200mのものが多 く,ストレーナは多層に設置されている.そのた め,求めた透水係数は第1・第2被圧帯水層の両 方を反映したものとなっている.
透水係数の大きい地域では,恒温層の温度増加 率が低く,消雪用井戸の水温も比較的低い.一方,
透水係数の低い地域では地下水温は深度ととも に上昇し,消雪用井戸の水温は比較的高い.これ は透水係数が小さいと地下水流速が小さいため,
深部からの熱伝導の影響を受けて水温が上昇す るためと考えられる.
地下水混{℃) 地下水温〔℃}
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UTM・E(m)[WGS84, Zone・54N]
地下水混〔 C) 地下ホ温(=C)
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図9第1・第2被圧帯水層の平均的な透水係 数と温度プロファイル,消雪用井戸水温
4.地下水シミュレーションモデル 1)広域モデル
3次元地下水流動および熱輸送シミュレーショ ン解析は,FEFLOW 6.2を用いて行った.計算は
(1)自然状態の地下水位および地下水温を推定 するための定常計算,(2)1991年(農業用水お
よび水道水源が地下水から日中ダム水に切り替 えられた年)から2013年までの月別非定常計算
(23年間)を行った.モデルのフレームワーク を図10に示す.会津盆地北部をモデル範囲とし た.メッシュの平面分割を行うに当たり,消雪用 井戸および観測孔がある地点では,メッシュを細 かくした.また,河川がある場所では,節点が河 川になるべく沿うように設定した.高さ方向にっ いては,地面から基盤上面から300m下までをモ デル化範囲とした.なお,本研究では,七折坂層 よりも下位の地層を基盤と見なした.モデル化し た領域は断面方向に45層に分割し,総格子数は 545,625個である.モデルの層厚は,盆地埋積物 の分布するところでは,第1〜4層は5m,第5
〜22層は10m,第23〜45層までは20mとした.
基盤に達した場合は,基盤に達したスライスの節 点から最下部スライスの節点まで層厚が均等に なるように分割した.なお,七折坂層の下限標高 は,建設省(1975)の「表層地質喜多方」に掲載 されている図,収集した掘削資料,および国土地 理院基盤地図情報(国土地理院,2014)に掲載さ れている地形標高データを利用して推定した(図
11).
1 排水
1・
〆・固定水位境界
N 亀噂
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一般水位境界 鱈
図10モデルのフレームワークおよび
流動に関する境界条件
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UTM−E(m}【WGS84, Zone−54Nl
図11七折坂層下限標高分布図
を用いた.また,透水係数に関しては,砂や礫に ついては揚水試験から得られた値を用い,基盤に ついては熱塩加納の揚湯試験(日本地下水開発,
2010)で得られた値を用いた.熱伝導率と比熱は Anderson(2005)に記載されている代表的な値を
用いた.喜多方市街地の透水係数の断面分布を図
12と図13に示す.
なお,今回のシミュレーションは完全飽和帯と 見なして計算しているため,不飽和帯を再現する ために第1層の比貯留量として有効間隙率を層 厚5mで割った値を入力した.
(a)流動に関する境界条件
押切川,濁川,田付川,大塩川,姥堂川,日橋 川に固定水位境界を設定した.また,会津盆地北 部の南縁および東縁の地下には,地層の連続性を 考慮して一般水位境界を設定した.また,日橋川 付近や稲村地区および熱塩加納地区の地表面に は排水境界に相当する境界条件を設定した.その 他の側面は非流動境界とした.
(b)温度に関する境界条件
モデルの上面および下面の節点全てに固定温 度境界を設定した.モデルの上面には,定常計算 では気象庁アメダスで観測している喜多方市の 気温の30年平年値11.2℃,非定常計算では1991
年から2013年までの月別平均気温を設定した.
また,モデルの下面には,各節点に以下の値を入
力した.
(ある節点の固定温度境界の値)
=11.2+0.038×(節点毎のモデル層厚)
11.2℃は喜多方市の気温の30年平均値から,
0.038℃/mは,御清水公園における深層部の温度 勾配から設定したものである.モデル下面の温度 は定常計算,非定常計算とも同じ値を用いた.
(c)入力パラメータ
モデルに入力したパラメータを表1と表2に示 す.有効間隙率と間隙率は,Domenico and
Schwartz(1990)に記載されている代表的な数値
表1モデルに入力した層相別パラメータ
地層の種類 有効間隙率 間隙率 横方向の透水係数
(m/da)
表土 0」5 0.2 0.5
粘土 0.03 0.45 0.0001
シルト 0.08 0.4 0.01 細砂 0.23 0.36 1.49 中砂 0.25 0β5 t49 粗砂 0.27 0.31 1.49
0.22 0.25 1.49
基盤 0.05 0.2 0.000623
表2モデルに入力した地層別パラメータ
四,、 三,、
1層目:有効間隙率/5 比貯留量(m−b
2層目以降:tOOE−04 1.00E−04
熱伝導率(W/m/K) 1.5 t8 0.6
比熱(J//K) 0.96 0.96 42
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畿
W 謬謬馨
→E
1・i斐ヨ
図12喜多方市街地東西断面の透水係数分布
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切 ・ 凶
拗、
停愉 薩 屡 陽 髭 獲 諺
→S
図13喜多方市街地南北断面の透水係数分布
(d)揚水量
揚水量は消雪用井戸と家庭用井戸の揚水量を 入力した.消雪用揚水量は,福島県喜多方建設事 務所から提供していただいた消雪用井戸の調査 データから推定した.この資料では,年間使用電 力量をポンプ出力で除して稼働時間を算出し,そ れにポンプ能力を掛けることで年間使用水量を 井戸別に算出している.また,.月別の使用電力量 も記載されているので,この値を使用して月別揚 水量が求められる.この消雪用揚水量データは
2008年度から2012年度の5年分しかないため,
データの無い1991年から2007年までは,2008 年度に基づき推定した(図14).
家庭用井戸の揚水量は柴崎ほか(2014)が喜多 方市街地の揚水量を推定している.図15に示す 月別家庭用井戸揚水量をそのまま使用した.本研 究では,モデルの節点の座標が土地利用細分メッ シュデータ(国土交通省,2006)の市街地に該当 する地点で揚水が行われていると仮定した.
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図14消雪用井戸の月別揚水量
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
図15家庭用井戸の月別揚水量
柴崎ほか(2014)より引用
(e)洒養量
モデルに入力した酒養量は,タンクモデルによ り推定した.本研究では,冬水田んぼNo.2と御 清水公園の2地点でタンクモデルを作成した.タ
ンクモデルに入力した可能蒸発散量は,1991年
から2006年の期間はThomthwaite法を用い,2007 年から2013年の期間はPenman−Monteith法を用
いて推定した.
本研究においては,酒養量の与え方を,土地利 用細分メッシュデータ(国土交通省,2006)を用 いて田んぼの有無で区分した.田んぼに該当する セルには冬水田んぼNo.2の酒養量(図16)を,
田んぼ以外のセルについては御清水公園の酒養 量(図17)を入力した.透水係数の低い表層部 のモデルセルでは,モデルの検証時に計算水位が 実際に近くなるように酒養量を少なくした.
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図16田んぼの月別洒養量
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1990年 1995年 2000年 2005年 2010年 2015年
図17田んぼ以外の月別洒養量
(f)定常計算結果
自然状態の地下水位および地下水温を再現す るために,定常計算を行った.定常計算で与えた 初期水位は地形標高とし,初期温度は一律に上面 の固定温度境界で設定した11.2℃を入力した.
定常計算の結果,モデルの再現性を向上させる
ために透水係数を一律に10倍としたところ,地 下水位の上昇が抑えられて地表面に近くなり,稲 村地区の湧水や地下水面分布が再現された.
(g)非定常計算結果
定常計算で得られた水位と水温を初期値とし,
A別非定常計算を行った.冬水田んぼは稲村地区 に,無散水還元井はふれあい通り北部に設定した.
冬水田んぼでは,冬季(12〜2.月)に単位面積 当たり10mm/日の水が浸透すると仮定した.無 散水還元井では,深度100〜200mの区間で1℃
の水が200m3/日注入されると仮定した.
図18と19には,御清水公園と冬水田んぼNo.1 における計算水位と実測水位の比較を示す.モデ ルにおいても御清水公園と御清水深層観測孔と の水位差を再現することができたが,定常計算に よる御清水公園の初期値が高いため,実測値と計 算値がずれてしまった。冬水田んぼNo.1につい ては,地下水位の変動幅を再現することができた.
第5水源の深度方向の水温について計算値と 実測値の比較を図20に示す.計算では恒温層に 到達する深度が実測値よりも深くなってしまっ た.定常計算時に水位が高くなるのを防ぐために 透水係数を高くしたことが原因であると考えら れる.このモデルで冬水田んぼと無散水還元井の 冷温水の影響を予測したところ,無散水還元井に よる冷温水は,再現された南北方向の地下水流動 に沿って影響を及ぼしているが(図21),冬水田 んぼの影響はほとんど見られなかった.
215
2232
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0 2000 4000 6000 8000 て0000
シミュレーション計算期間(日〉
図19冬水田んぼNo.1における計算水位と
実測水位の比較
地温(°C)
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計算結果 2013 2
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201316 201318 2013 10
実測値
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−一一一一 2013/722
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シミュレーション計算期間(日)
図18御清水公園および深層観測孔の
計算水位と実測水位の比較
図20第5水源の計算水温と実測水温の比較
図21深度100mにおける計算温度分布 (無散水注入を開始して5年後)
2)簡易モデルによる冬水田んぼの影響 広域モデルでは,冬水田んぼの影響が見られな かったが,その原因として第1層の層厚を5mと
したため温度の変化を捉えることができなかっ た可能性がある.そこで,1km×1㎞の範囲につ いて層厚lmのモデル層が30層ある簡易モデル を作成した.帯水層パラメータは,表3に示す値 を一律に与え,10年間の月別非定常計算を行い
冬水田んぼの影響を検討した.図22にモデル化 範囲と冬水田んぼの設定位置を示す.最初に月別 非定常計算の初期値を求めるために,定常計算を 行った.固定水位境界は,北縁と南縁の側面に設 定し,水位はそれぞれ200mと195 mにした.動 水勾配は北から南に5/1,000である.固定温度境 界はモデルの上面に11.2℃,モデルの下面に 12.1℃を設定した.定常計算の結果を図23に示
す.
非定常計算では,冬水田んぼとかんがい期の浸 透の違いを見るために,冬季(12〜2月)および かんがい期(5〜8A)に単位面積あたり10mm/
日の水が地下に浸透するように固定流量境界を 設定した.モデル上面の固定温度境界は,気象庁 喜多方観測所の2004年1月〜2013年12月まで
の月別平均気温を設定した.
最終計算結果である10年後の温度分布は1年 後の温度分布とほとんど変わらない結果となっ た(図24,25).この理由としては,地下への単 位面積当たりの浸透量が小さいためであると考 えられる.この結果から冬水田んぼによる冷たい 水の酒養は,10mm/dayの浸透量では地下の温度 場にほとんど影響を与えないことが分かった.
く一N
9鵠1 密騨
冬水田んぼ 設定位置
⑲
圏
騨
S−→
単位:標高水位(m)
諺 1 』,
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§ 峯 … − l l Il二1
表3モデルに入力したパラメータ
0 100(m)
ll2 鱈4ke 116
蒐18
lll ll 1 単位:温度(°C)
図23定常計算による水位と温度分布(断面)
冬水田んぼ
S→
←N 設定位置
⇔ 単位;標高水位(m)
1 1・1:
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0
}
パラメータ 入力した値 パラメータ 入力した値
横方向の透水係数
(m/da) 5 縦方向の透水係数
(m/da)
0.25
有効間隙率 0.22 固体の熱伝導率(W/m/K) 1.5
間隙率 0.25 固体の比熱(J/g/K) 0.96
り ↓固定水位境界=200m
響欝讐}鷺1欝1
・i蘇
冬氷田んぼ 設定位置
bきまとゴざひctvをポゴポごt:Jc t・ほeu
l °L峯゜°(m)6↑固定水位境界=195m
図22モデル化範囲と冬水田んぼ設定位置
1
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一一一 le\!
pmt2−一一一一一一一一一
〇L」IO(m) 単位:温度(°C)
図24計算開始1年後(12月)の 水位と温度分布(断面)
・一 N
雛竃ぼ s−一・
←ら 単位:標高水位(m)
ll塑〒ll
霧霧霧霧霧羅羅霧塾〜_一一 一 〜一 屡璽翼 ;。一 ,,−
−
et\ノー一一一一一一 隙 ,2 il三〇UO(m) 単位:温度(°C) 層
図25計算開始10年後(12月)の 水位と温度分布(断面)
3)簡易モデルによる無散水還元井の影響 1㎞×1㎞をモデノレ範囲として,層厚10mで 20層の簡易モデルを作成し,10年間の月別非定 常計算を行った(図26).帯水層パラメータは表 3と同じである.まず,月別非定常計算の初期値
を求めるために,定常計算を行った.固定水位境 界は,北側の側面に200m,南側の側面に195 m
で設定した.動水勾配は北から南に5/1,000であ
る.固定温度境界は定常計算モデルの上面に
11,2℃,モデルの下面に17.2℃を設定した.定常 計算の結果を図27に示す.
非定常計算の境界条件は,定常計算で設定した 条件に加え,モデルの中心付近に無散水還元井を 設定した.井戸のスクリーンは深度50〜150mに 設定し,冬季(12〜2月)に1℃の水が200m3/
日注入する条件とした.
無散水還元井の影響は,モデルの浸透流速が
2.5cm/dayである場合,冷温水の影響は,井戸付 近から地下水流動方向に沿って拡がり,10年間
で下流側に約300mの範囲まで及ぶ(図28,29).
N ↓固定水位境界=200m
蟻欝欝禦 犠繊轡元井
灘i灘蕪灘1慕
i O塗OO(m) 6 ↑固定水位境界=195 m
図26モデル化範囲と還元井設定位置
←N 無散水還元井 S 設定位置 単位;標高水位(m)
i↓田 陰
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図27定常計算の水位と温度分布(断面)
一一N 無散水還元井 S→
讐 窯
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0 100(m) 単位:温度(°C)
図28計算開始10年後(12月)の 水位と温度分布(断面)
駈う][dt [rr]
図29計算開始10年後(12月)の 水位と温度分布(深度100mの平面)
Iv結論
喜多方市街地の西側は東側よりも粘土層の割 合が低い.不圧帯水層と第2被圧帯水層に水位差 が見られ,前者よりも後者の方が地下水位は低い.
消雪用井戸の地下水温は,強制補給酒養により 水温が低下していると推測される.
喜多方市街地の温度構…造は,透水係数の大きい 地域では,恒温層の温度増加率が低く,消雪用井 戸の水温も比較的低い.一方,透水係数の小さい 地域では地下水温は深度とともに上昇し,消雪用 井戸の水温は比較的高い.
冬水田んぼによる冷温水の影響は,単位面積あ たり10mm/日ではほとんど影響を与えない.無 散水還元井よる冷温水は井戸の周囲と地下水の 流動方向に向かって影響を及ぼす.喜多方市街地 では,将来的に地下の温度が低下することが予想
される.
謝辞
本研究を進めるにあたり,水質分析については、
福島大学大学院共生システム理工学研究科特任 助教の藪崎志穂先生にご指導いただいた.資料収 集については,福島県喜多方建設事務所の脇坂昌 義様,渡辺真司様,喜多方市役所の川原田重正様,
遠藤実様,遠藤久憲様,株式会社三本杉ジオテッ クの鈴木正臣様,人間発達文化学類の中村洋介准 教授にお世話になった.シミュレーション解析や 温度測定にっいては,産業技術総合研究所の内田 洋平様,吉岡真弓様,福島大学大学院共生システ ム理工学研究科博士前期課程1年の五十嵐雄大 さんに指導していただいた.喜多方市の現地の状 況等については株式会社興和の坂東和郎様から
ご教授いただいた.現地調査では,NPO法人ま ちづくり喜多方の蛭川靖弘様,猪俣明裕様,水位 計を設置させていただいている遠藤光衛様,村岡 泉様からご協力を得た.
本研究を支えていただきました皆様に厚く感 謝申し上げます.
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