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大腸菌の遺伝子研究いまむかし* 永田俊夫

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大腸菌の遺伝子研究いまむかし*

永田俊夫**

1. はじめに は分かり切ったことで、いまさら何も 私は専門が遺伝学で生物学畑の人間 言 う必要はないかもしれません。しか ですが、 1970年にアメリカから帰国し し私が大学に入った頃はそ うではな て京都大学ウイルス研究所に奉職し大 かったと思います。

学院の関係教官にな ったとき、理学研 私は昭和28年入学ですが、 当時の遺 究科化学専攻の協力講座だったために、 伝学は、 一方では伝統的ないわゆる 化学専攻の大学院生諸君を受け入れ、 「メンデル=モルガンの遺伝学」という それで私も化学教室の方へ大学院の講 ものがありました。 しかしそれに対し 義に行かせていただいたりしました。 て、それに真っ向から対立する「ミ その後2 3年で、同じ理学研究科で新 チューリン=ルイセンコ遺伝学」とい 設の生物物理学専攻が整備され、こち うものが、物凄い勢いで一世を風靡し らが私どもの専門分野の分子生物学 ・ ていたのです。それで我々 学生仲間の 分子遺伝学を包含するので移籍いたし 間では、それこそ文字通りケンケンガ

ました。 クガクの議論を、毎日のように繰り広

そのようなわけで、「京都化学者クラ げるという有様でした 。

ブ」月例会の卓話として、私がずっと ところが、じつはこの昭和28年とい 手がけてきた大腸菌の遺伝子研究に関 うのは西暦1953年でして、イギリスの する話題を提供させていただくことと CambridgeのCavendish研究所にいた なり、ご縁の深さにいささかの感慨を James D .  Watson  (1928 )と Francis H. 

禁じ得ません。 C. Crick  (1916 )がD N Aの二重ラセ ン構造を発見した年だったのです。そ 2.  Mendel からWatson&  Crickへ の翌年、私、大学2回生の頃と思います さて大腸菌の遺伝子研究ですが、で が、このことを当時出ていた『自然』と は「一体なぜ大腸菌なんだ?」とまず いう雑誌で読みました。

疑問を抱かれるのではないでしょうか。 そこで私は、伝統的な遺伝学研究の しかしそれにお答えする前に、「なぜ遺 結果から生まれてきたこの D N A 構造 伝子なんだ?」ということについてお の発見のことを友人達にも話をして吹 話するのが順序かと思います。もちろ 聴しましたし、それで、「やっぱりルイ ん遺伝子の意義や重要性など、今日で センコよりも、メンデルやモルガンの

*第120回京都化学者クラブ例会 [2000年6月3日]講演

**京都大学ウィルス研究所 606‑8264 京都市左京区北白川小倉町50‑105

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遺伝学の方が正しいのだ」などと言っ て議論をしていたわけです。

けれども当時の日本では、学生が

つまり、 1865年、 Mende] によって初 めて遺伝子の概念が生まれました。そ してそれから半世紀ほどして、 1910年

D N Aの研究や勉強ができるような大学 代の頃に、 Morganとその学生達の研究

の研究室というものは、まだほとんど によって、遺伝子というものが単なる ないという状態でした。それでそれな 概念的な存在というだけでなく、実際 らいっそのこと、アメリカヘでも行く に細胞の核の中の染色体に存在する実 のが早道だろうというわけで、私は大 体的なものだということが明らかにさ 学院修士課程の 1年目が終わったとこ れたのです。

ろで休学し、 N e w YorkColumbia大学 へ留学しました。

ここで指導を受けたのがProfessor Francis]. Ryan (1917"" 1964) です。こ の先生から、私は初めて大腸菌の遺伝 子研究について、本当に手取り足取り の、じつに懇切丁寧な手ほどきを受け ました。大変惜しいことに、 1964 年、

まだ47オの若さで心臓麻痺のため急逝 されました。

Ryanの研究室はSchermerhorn Hall いう建物にありました。迂闊にも私は 行くまで知らなかったのですが、この 建物には有名なThomas Hunt Morgan  (1866"'‑'1945) の「ハエの部屋The Fly  R o o m」が 1910年代の当時のままに残

されており、学生の動物学実習室とし て使われていました。 Morganは、ショ

Mendelは実験材料としてエンドウマ

メを用いましたが、その後トウモロコ シやコムギなどの栽培植物が盛んに研 究されました。動物ではマウスやラッ

トなどが昔も今も重要ですが、 Morgan

が始めたDrosophilaの利点は世代時間

の短さ (l 2 週間)、扱える個体数の圧 倒的な大きさ、染色体解析の容易さな どで抜群でした。

さらに 1940年代には、アカパンカ ビ、サルモネラ菌、大腸苗、種々のバ クテリオファージと新しい研究対象が 続々と登場しました。これらの世代時 間はますます短くなり、実験個体数も 飛躍的に増大し、加えて生化学的解析 に最適の材料として画期的な成果を生 み出すこととなりました。

ヨーロッパで勃発した第二次大戦で ウジョウバエDrosophila という小さな アメリカヘ亡命した M a x Delbruck と ハエを遺伝学研究の実験材料として開 Salvador Luriaが、 1940年、 California

発した元祖です。ですから、彼の研究 科大学でファージ・グループを結成し 室が「ハエの部屋」と呼ばれていたの

です。先にも申しましたように、伝統 的な遺伝学のことを「メンデル=モル ガン遺伝学」と言ったりしますが、遺 伝学はGregor Mendel  (1822‑‑‑‑‑ 1884) に

始まり、 Morganに至って確立されたと

いえるわけです。

Transactions of T h e  Research Institute of 

eanochemistry Vol.13. No.2.tober.. 2lMMI  (77) 

ました。このメンバーの中から Alfred D.  HersheyJim WatsonMatthew Meselson、Frank Stahlなど、後に分子生 物学の生みの親たちとなる面々が輩出

したのです。

1941 年、 George Beadle とEdward

Tatumがアカパンカビの生化学遺伝学

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の研究成果として、「 1遺伝子l酵素説 れた (1957年)とか、以上はほんの代表 one gene‑one enzyme hypothesis」を発表 例でその他枚挙にいとまがありません。

しました。 1944年には、 Oswald A  very  ところがこれらの研究の流れと平行 らが肺炎双球菌の解析結果から毒性の するかのように、もう一つの大きな流 原因因子はD N A にあることをつきと れが起こりました。すなわち大腸茜の めました。同年、量子力 学の理論物理 遺伝解析です。 これを可能にしたのが 学者Erwin Schrodingerが生物学に興味

を示し、 What is Life?" を出版して、遺 伝現象も物理法則に従うはずだと説き ました。1950年、 Erwin Chargaffは、多 数の生物のD N A組成分析の結果から、

[アデニン+グアニン]と

I

チミン+シ トシン]との等量性が普遍的であるこ とを指摘しました。1952年、フ ァージ T 2と放射性同位元素を用いた実験で、

HersheyMartha Chaseは遺伝子の本体

がD N Aであることを決定的に証明し

ました。

これらの研究の集積から、 1953年、

ついにWatson Crickの発見がもたら され、分子生物学・分子遺伝学の幕開 けとなったのです。

3. 分子生物学と大腸菌

ファージの研究には、その宿主菌が 不可欠です。それには当初から、サル

1947年、Josua Lederberg とTatum によ る大腸菌の雌雄の性別の発見です。

大腸菌などは、いわゆる原核生物な ので、より高等な真核生物がもつよう な性別はありません。しかし特殊なプ ラスミドという環状二重らせんD N A が茜細胞中に寄生的な存在を保持する ことによ り、これが雄菌となります。

保持しない雌菌と接合しますと、雄菌 のプラスミドおよび宿主の雄菌染色体 が雌菌へ移入されます。そして遺伝的 組換えを起こす現象を利用して、エ ン ドウマメやショウジョウバエで有効 だったのと原理的に全く同等の遺伝解 析が可能とな りました。

こうして1960年代頃には大腸菌の染 色体ゲノムD N Aのサイズ(約470万塩 基対)、遺伝子連関地図、複製による自 己増殖、遺伝子組換えや損傷の修復、

遺伝暗号及び遺伝子の転写と翻訳によ モネラ菌や大腸菌が特によく用いられ る遺伝形質の発現とそれらの調節など ました。その過程で、フ ァージの構造

や性質の解明とともに 、宿主菌の解析 も同時進行しました。例えばフ ァージ の感染に抵抗性の突然変異菌の研究 (1943 年、 Luria とDelbruck) とか、

Watson Crickが予想したD N Aの半保 存的複製がMeselson とStahl の大腸菌 実験で証明されたこと (1957年)とか、

初めて D N A ポリメラーゼが Arthur

Kornberg らによって大腸菌から精製さ

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のあらましが分かってきました。やが て、その原理的な構造と機能やメカニ ズムは、ただ大腸菌に限らず、地球上 の全生物に共通して普遍的であること が徐々に解明されてきました。

4. D N A複製のメカニズム

このように大腸菌はつねに分子生物 学研究の歴史において先頭をき って貢 献してきました。その全貌をここで概

海 洋 化 学 研 究 第1 3巻第2号 平 成1 21 0

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説するのはとても無理なので、複製に 年、今は故人となられましたが当時名 関する l例だけについて述べてみま 古屋大学におられた岡崎令治博士とそ

しょう。 のグループの人たちが、放射性前駆体

大腸菌の染色体ゲノムD N A は極め のパルス標識実験に成功し、不連続複 て細長い巨大高分子です。これが複製 製による短い子孫鎖の一時的な存在を して自己増殖するとき、必ずその起点 証 明 し ま し た 。 現 在 こ の 短 い 鎖 は から終点へ向かって規則正しく進行し、

周期性をもって細胞増殖のサイクルと 同調していることが1963年頃に、私や

John Cairnsやその他の人々によって示

されました。

二重らせんD N Aの各単鎖は互いに

okazaki fragment と呼ばれていて、ヒト を含めて普遍的に存在することが分 かっています。同じ頃、 D N A リガーゼ が発見され、実際にこれらを連結する メカニズムも解明されました。

相補的で、しかもそれぞれが逆の方向 5. 終わりに

性 (5'→3')をもっています。半保存的 現在では大腸菌ゲノム D N Aの全塩 複製は、これらの単鎖が開いて鋳型と 基配列も解明されましたし、これはも なりそれぞれに相補的な子孫単鎖が重 うヒト・ゲノムにも及んでいることは 合的に合成されて自己増殖を達成しま 周知のとおりです。ここに至る歴史の す。この重合を触媒するのがD N Aポリ 中で、大腸薗が果たしてきた役割の片 メラーゼです。ところがこの酵素は重 鱗でもお伝えできたとすれば幸甚です。

合の方向が必ず5'3' に限られている この機会を与えていただいたことに深 のです。大腸菌だけでなく、調べられ 甚の謝意を表します。

たあらゆる生物のポリメラーゼがそう

なのです。 参考文献

複製方向に対して3'5'である単鎖 永田俊夫 ('65) 染色体におけるD N Aの が鋳型となる場合の子孫鎖は、 5'3' 複製(日本生物物理学会編「生物 方向に重合が進むので問題ありませ 物理学講座

I

」pp.53"'97) 吉岡書 ん。ところがその逆の 5'3' となって 店

いる鋳型に対しては、子孫鎖は複製方 永 田 俊 夫 ('89) 原核生物の遺伝子系 向に対して 3' 5' となり、 一見不都合

です。

この難題をどう解決するか。 1960年 代、私を含め何人かの人々は、複製方 向と逆行する短い子孫鎖が不連続的に

(日本分子生物学会編「シリーズ 分子生物学の進歩 l」pp.75"‑'98) 丸善株式会社

永 田 俊 夫 {'93) 原核生物ゲノムの自己 増殖制御(学術月報 Vol.46, No.6,  順送りに合成され、それらが最終的に pp.528'"'‑'534) 日本学術振典会 連結されればよいではないかと勝手な

想像をたくましくしておりました。と 良 隆 ('00) 生命科学のコンセプ ころがこの想像は的中しました。 1968 ト・分子生物学 化学同人

Transactions of Th• R•s•arch lnslitut• of 

<><•anochemistry Vol.13. No.2. 0<10r..UMMI  (79) 

Referensi

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