• Tidak ada hasil yang ditemukan

放射性セシウムの化学的考察 - 福島大学

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2024

Membagikan "放射性セシウムの化学的考察 - 福島大学"

Copied!
14
0
0

Teks penuh

(1)

福島大学地域創造

第28巻 第1号 3〜16ページ 2016年9月

Journal of Center for Regional Affairs, Fukushima University 28 (1):3-16, Sep 2016

1.は じ め に

 2011年3月11日㈮の「東日本大震災」の結果,東京 電力福島第一原子力発電所(第一原発)にて,11日か ら15日にかけて,1〜4号機の全てに爆発が起こった とされる[1]。2011年3月15日㈫の夜に雨か雪が降っ た。その地域に放射性物質が多く堆積したと考えられ た。筆頭著者は,当日23:00過ぎに,大学から自宅に 向かった。しかし,国道の一部は地震で不通になって おり,さらに,雪が積もり,大渋滞となった。Uター ンして,零時過ぎに山越えで帰った。「あの雪には放 射性物質が大量に含まれており,それが,後の悲劇を もたらした」と思う。

 福島大学は第一原発から直線距離で約54㎞の位置に ある。2011年3月19日㈯に理工学類の教員会議があっ た。数名の教官は事故後,避難して欠席であった。確 かに,事故4日後には,まだヨウ素が大量に飛散して おり,危険であった。会議は何事も無いように進み,

終了に向かった。当時,他県・都の大学から福島県内 に放射線を測定に来て,夜には帰るという人々があっ た。一方,福島大学では,何かをしようという気運を 感じられなかった。そこで,「福島大学は,日頃から

地域貢献とか地域に根ざした大学を目指すと言ってき た。他の大学が近くに放射線を測定に来ているのに,

我々が独自の測定データを持たないと,地域住民に申 し開きができないではないか!」と発言した(実際に は,もっと色々と申し上げた)。結果として,一人の 教官が賛同しただけで,会議は静かに終わった。「何故,

気力がないのか」と失望した。しかし,その夜,唯一 の賛同教官を中心に,15名による「放射線計測チーム」

が結成された。直ちに,サーベイメータ数台が集めら れた。当時,放射能や放射性物質についての知識は,

お互いに不充分であった。メンバーは,2名一組でタ クシー(燃料は液化石油ガス(LPG))に分乗して各 地に入った。筆頭著者たちは,放射線量が高いと予想 される地域に向かった。途中で,岡山県警のパトカー が駐車してあり,警察官2名がいて,両手を伸ばして,

「通行止め」と言われた。しかし,警察官は大学の腕 章を見て,「それならば,どうぞ」と通してくれた。

メンバーは各地で,地上1mの高さで,γ線エネルギー を測定した。その結果,マップが作成された(図1)

[2]。今思えば,かなり無謀であった。マップの最高 値60μSv/h(マイクロシーベルト/時間)は筆頭著者 が測定した。測定は短時間に行った。このレベルの値 は,通常のサーベイメータでは測れないので,大型の

放射性セシウムの化学的考察

風評被害を考える

福島大学共生システム理工学類  

金 澤   等  稲 田   文  中 村 和 由  Chemical consideration of radioactive cesium -

what do you mean by “harmful rumor” ?

KANAZAWA Hitoshi, INADA Aya and NAKAMURA Kazuyoshi

(2)

測定器を取り出した。さらに道路の先まで行こうとし たが,道路に大木が倒れており,通行不可で引き返し た。クルマの中の測定器は,「ピーピー」と警告音を 鳴らし続けた。その日は曇りであった。少し日焼けを した。当時,普通の放射線マップは航空機からの測定 値を元に計算で求められたので,地形の違いとの詳細 な関係はわからなかった。このときのγ線(実効線量:

シーベルト単位)は,主にヨウ素(I131),セシウム

(Cs134,Cs137),テルル(Te132)からの総量である。

β線(電子)は多くの元素から出るが,透過性が小さ いので,正確な測定が困難と言われる。福島大学には,

世界の地質調査を専門とする教官がおり,GPSの情報 処理やマップ作りが得意で,素早くマップが作られた 事に感心した。当時は,おそらく,福島大学周辺の土 には数十万〜数百万ベクレル/㎏の放射性ヨウ素と放 射性セシウムが存在していたと思われる。まだ,福島 大学には,ベクレル値を測定できる装置はなかった。

同志で相談の上,特別予算を考慮して,ゲルマニウム 半導体検出器が発注された。装置は,2011年6月に設 備された。その後,放射線計測チームが当時採取した 土壌の放射性核種を分析した結果が報告された[3]。

 2011年5月25日に開催された第60回高分子学会年次 大会(大阪国際会議場)で,「緊急・特別プログラム!!

<原発被災に取り組む日本の最先端高分子科学技術>」 と題したプログラムが行われた。筆頭著者は,福島大 学所属の学会員であるので,講演者の一人に選ばれた。

そこで,「放射性セシウムを含む土壌に水を加えて激 しく混ぜても,セシウムは水に溶け出さない」という 実験を発表した。他の数件の講演には,放射性セシウ ムを実際に扱った例はなかった。多くの方々には「感 動しました」と言われた。他の話は,「事故と大量の 放射性物質の漏出の現状」,「空気中や土中の放射性物 質の分離除去に必要な高分子材」,「有機系吸着剤を用 いての汚染水の放射性物質の除去」,「水に関する風評 被害」であった。筆頭著者の講演内容が2011年5月25 日の日本経済新聞(夕刊)に,大阪担当記者によって 紹介された。

 その数ヶ月後,地域の学会の会議中,ある大学の教 授に「素人が放射能の研究をするべきではない。私達 の大学では専門家しか行っていない」と大声で指摘さ れた。驚いたが,「わかりました。もうやりません。」

と言ったら,それが良いと言われた。しかし,福島 大学には,原子力工学も放射線科学の専門家もいな い。地元の市民は大混乱しており,幼少の子供をかか えて疎開する家族が後を絶たない,自分の家の庭にも 放射線があり,家族もいる。小規模大学の悲哀を感じ た。私は,本学の数少ない化学者の集結を望んだが,

難しい事であった。その後,3年経過しても,当地に 専門家は来なかった。後に,日本原子力研究開発機構

(JAEA)の方々でさえ,学びながら,放射線濃度の 測定や除染の研究をしており,「何かよい方法はあり ませんか?」とアイデアを募集する程であった。即ち,

「放射性物質の飛散が起これば,その処理の専門家は いない事」がわかった。また,当時の原発の現場にお られた社員約2,000名の中で,化学者の数は数名であ る事を知らされた。

 その間に,繊維学会から,放射線と繊維の関係や福 島の実情の記述を依頼された[4,5]。

 5年経ち,放射線量は壊変の数式に従って,低下し ている。野菜や果物の放射性セシウムは不検出(ND)

となっている。しかし,農家の方々は苦労されている。

「風評被害だ,福島の農産物は安心だ!」と言われる。

しかし,「感情論のみでなく,何故,農作物が安全と 言えるのか,という事を科学的に説明できる事が重要 ではないか」と考えた。そこで,筆者らと研究室ス タッフが行った実験,県の報告データ,学会の報告な どを駆使して,放射性セシウム(放射性Cs)について,

化学的な考察をした。

図1 福島県北部エリアの空間放射線量測定結果

2011年3月25日〜31日)(文献2を再編)

(3)

 なお,筆頭著者は別稿[4,5]において放射線と 繊維との関係,福島の実情について報告した。本稿に おいて,内容の重複する箇所があるが,考察上,必要 であり,ご容赦頂きたい。

2.実   験

2.1 試   薬

 水酸化ナトリウム,塩酸,塩化アンモニウム,エチ レンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA),次亜塩 素酸ナトリウム,水酸化バリウム,塩化カルシウム,

塩化セシウム,フッ化水素,有機陽イオン試薬(トリ エチルアミン,セチルトリメチルアンモニウムブロマ イド(CTAB))を用いた。プルシアンブルー(PB:

紺青(顔料))は,フェロシアン化鉄と塩化第一鉄から,

常法に従って合成した。各試薬は和光純薬製。

 ゼオライトは,モルデナイト型ゼオライト(ゼオフィ ル,新東北化学工業社製)(吸着材1‑1とする),モレキュ ラーシーブ4A‑1/16(和光純薬社製)(吸着材1‑2)の 市販品を用いた。

 柿渋(吸着材2‑1)は,アルタン社提供の乾燥製品 を用いた。なお,ゼオライトのように吸着能が認めら れている材料,その他,吸着性能を試す必要のある材 料を全て吸着材と表記した。

2.2 機器・測定法

 放射線量(シーベルト値)は,サーベイメータ(日 立アロカ社ガンマSurvey Meter TCS171B)(図2) で測定した。放射性Cs濃度(ベクレル値)は,ゲル マニウム半導体検出器(ゲルマニウム検出器A(キャ ンベラ社))を用いて,主として2時間測定した。非 放射性Csイオンを用いた実験では,Cs濃度はイオン クロマトグラフィー(TOSO‑IC2001)で測定した。

その他,一般的な方法に従って行った。

2.3 土壌,枯葉,フキ,各種雑草,コケの採取

⑴ 土壌 福島大学共生システム理工学類研究実験棟 と共生システム理工学類棟の間の中庭の土壌の表層を 採取した(土壌1‑1,2011年4月20日15:30‑16:00採 取,放射性Cs含量推定34.9万Bq/㎏(2011年7月20日 の測定値33.7万Bq/㎏からの計算による見積り)。

⑵ 枯葉 福島大学体育館と共生システム理工学類棟 の間の側溝に集まった枯葉(ケヤキを主とする)を採 取した(枯葉1‑1,2011年5月11日16:00‑16:10採取)。

⑶ フキ

1)フキ1 福島大学L講義棟と人間発達文化学類棟 の間の雑草地帯の講義棟沿い(地点1)で花茎部のみ を採取した(フキ1‑1,2012年4月2日15:00‑15:10 採取;フキ1‑2,2014年4月2日16:00‑16:10採取)。

2)フキ2 総合情報処理センターとうつくしまふく しま未来支援センター棟の間の道路の崖(地点2)か らフキ花茎と地下茎を採取した(2015年2月26日15:

00‑15:10採取)。フキ花茎をフキ2‑A,フキ地下茎を フキ2‑Bとする。

⑷ その他 各種雑草・コケは,大学会館と体育館の 間の緑地から採取した。

2.4 土壌からの溶出実験(サーベイメータ測定)

 2011年4月20日に行った。土壌1‑1(約50g)を三 角フラスコにとり,水または試薬(水酸化ナトリウム,

塩酸,塩化アンモニウム,EDTA,次亜塩素酸ナトリ ウム,水酸化バリウム,塩化カルシウム,フッ化水素,

CTAB)の水溶液(濃度10%(w/w))500mlを加えて 混ぜ,よく振った。次に,メスシリンダーに懸濁液をとり,

1昼夜,静置した。サーベイメータによって,抽出前 後のγ線量の変化(シーベルト値:Sv)を測定した。

2.5 土壌からの抽出の定量的な実験

 2011年7月に行った。土壌1‑1の放射性Cs含有量を ゲルマニウム半導体検出器で測定した(Cs134の検出 限界3.05Bq/㎏,Cs137の検出限界2.78Bq/㎏)。土壌 中セシウムの水への溶解性,および,水酸化ナトリウ ム,塩酸,塩化アンモニウム水溶液への溶解性をみ た。土壌に試薬を加えて,室温(20℃)で,撹拌した

(プロペラ式攪拌機を使用,後述の図3と同様)。混 合液をろ紙(定性ろ紙No.2(ADVANTEC社製))で ろ過した(ろ液1)。このろ液を,メンブレンフィル ター(DISMIC‑13HP ,孔径0.45μm ,ADVANTEC 社製)でろ過した(ろ液2)。次に,このろ液を遠心 分離(10000rpm)にかけた(分離液3)。

2.6 野菜の栽培

 土壌1‑1と培養土(こうじや社製 家庭園芸用花と 野菜の培養土,原料名:たい肥・ココビート・鹿沼土・

その他)を混合して,放射性Cs含量=2800Bq/㎏の混 合土壌を作った(土壌2‑1, 2012年3月1日製造)。混 合物のベクレル値を測定後,プランターに入れた。は つか大根(種子1‑1)(アタリヤ農園販売,品種:コメッ ト,生産地アメリカ),万能葉ねぎ(種子1‑2)(アタ

(4)

リヤ農園販売,品種:岩槻葱,生産地南アフリカ)を 蒔いた。発芽後,所定の日数毎に収穫して,含有セシ ウム量を測定して,植物への移行係数を求めた。

2.7 高分子材料の製造と Cs吸着実験

⑴ アクリル酸グラフト化繊維の製造

 アクリル酸,過酸化水素水の水溶液中に,レーヨ ン布を加えて紫外線(UV)照射によって,グラフト 化を行った。仕込比は繊維0.45g,アクリル酸1ml,

過酸化水素(濃度30%)0.2ml ,温度は50℃とした。

UV照射は,東芝高圧水銀灯H‑400P を0.5〜1.0h照射 して行った。反応混合物をろ過,沸騰水で洗浄後,乾 燥して重量増加%をグラフト率%とした。グラフト率

26.4%が得られた。アクリル酸グラフト化繊維は,1

N‑NaOH水溶液に1時間浸漬して(浴比1/100),ナ トリウム塩とした。このアクリル酸ナトリウムグラフ ト化繊維を吸着材3‑1とする。

⑵ PB含有繊維の製造

 レーヨン繊維に,ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム三 水和物(フェロシアン化カリウム;K[Fe(CN)4 63・ H2O)水溶液を含浸させてから,硫酸第一鉄水溶液と 混合させて,レーヨン繊維上に PB を製造した。仕込 み量は繊維1g,フェロシアン化カリウム0.1g,硫 酸第一鉄0.1g,室温下で24h放置した。このPB含有 繊維を吸着材4‑1とする。

⑶ 吸 着 実 験

 塩化セシウム(CsCl)を蒸留水に溶解して,水溶 液(濃度500ppm)を製造した。この水溶液を用いて

2種のゼオライト,モルデナイト型ゼオライト(日本 原子力研究開発機構 埋設事業推進センター提供)(吸 着材1‑1)とモレキュラーシーブ4A‑1/16(和光純薬製)

(吸着剤1‑2),吸着材2‑1,3‑1,4‑1をそれぞれ,別々 に加えて,撹拌後,CsCl水溶液中の残存セシウムイ オン濃度を,イオンクロマトグラフィーで測定して,

求めた。

 各試料・材料の番号付けを表1にまとめた。

3.結果と考察

3.1 放射性Cs吸着土壌からの溶出試験

⑴ 水への溶解性の定性的試験

 土壌1‑1をビーカーに入れて,蒸留水を混ぜて,1h, 撹拌した(撹拌速度:200rpm)分散液をメスシリン ダーに入れて,静置した。下層の土からは,0.12‑0.18 μSv/h が測定された。一方,上層の水は0.07‑0.08  μSv/h であったが,この時(2011年4月20日)の福 島大学内の実験室内空間線量が,0.07μSv/h であっ たので,サーべイメータでは,このような測定を正確 に行うことはできない(図2)。しかし,「土壌に吸着 した放射性Cs は,水や通常の塩には溶けにくい」と いうことは示唆された。各種金属塩を加えても,水へ の移行による変化は見られなかった。この時用いた土 壌の放射性Cs含有量は34.9万Bg/㎏と見積もられた。

2011年5月の学会(前出)では,このデータを基に話

した。

表1 試料・材料一覧

試    料 番 号 採取・測定・

製造年月日 採取方法,

製品名等掲載場所

土壌 土壌1‑1 2011.4.20 2.3‑(1)

混合土壌 土壌2‑1 2012.3.01 2.6

フキ花茎(地点1) フキ1‑1 2012.4.02 2.3‑(3)‑1)

フキ花茎(地点1) フキ1‑2 2014.4.02 2.3‑(3)‑1)

フキ花茎(地点2) フキ2‑A 2015.2.26 2.3‑(3)‑2)

フキ地下茎(地点2) フキ2‑B 2015.2.26 2.3‑(3)‑2)

枯葉 枯葉1‑1 2011.5.11 2.3‑(2)

モルデナイト型ゼオライト 吸着材1‑1 2011.5.01 2.1 モレキュラーシーブ4A‑1/16 吸着材1‑2 2011.5.01 2.1

柿渋 吸着材2‑1 2012.7.10 2.1

カチオン交換機能性繊維 吸着材3‑1 2011.5.01 2.7‑(1)

PB含有繊維 吸着材4‑1 2011.5.02 2.7‑(2)

はつか大根 種子1‑1 2012.3.01 2.6

万能葉ねぎ 種子1‑2 2012.3.01 2.6

(5)

⑵ ろ過法の違いによるろ液の放射性Cs含量の相違

ゲルマニウム半導体検出器による測定

 福島大学に,ゲルマニウム半導体γ線検出器が導入 されて,γ線スペクトルの測定が可能になったので,

より精密な実験を行った。土壌1‑1をビーカーに入れ て,水道水を混ぜて,10h,撹拌した(図3;撹拌 速度:200rpm)。懸濁水について,ろ紙(規格No.2)

によるろ過,メンブレンフィルター(孔径0.42μm)

ろ過,遠心分離(10min ,10000rpm)の順に行った。

それぞれの分離液のベクレル値を測定した(測定日:

2011年7月22日)。表2に各溶液の Cs濃度(Bq/㎏),

土壌からの移行係数,モル溶解度を示す。土壌に33.7 万Bq/㎏含まれる放射性Csは,水道水に,ほぼ移行し ないことが示唆された。⑴ろ紙によるろ液,⑵そのろ 液をメンブレンフィルターでろ過したろ液,⑶そのろ 液を遠心分離して得た水溶液と,ろ過の程度が細かく なるほど,水への移行量は少なくなると考えられる。

しかし,遠心分離液は茶色を示すので,まだ,分離が 不十分で,微量の土壌が含まれている(図4)。さらに,

完全な分離を行えば,移行係数はゼロに接近すると推 定される。即ち,土壌に含まれる放射性Cs は通常の 水にほぼ溶けないと考えられた。

図2 サーベイメータによる測定

 表2 枯葉洗浄懸濁液のろ過または遠心分離による  残液の含有量の違い

分離法 Cs濃度

(Bq/L) 移行係数

x103 溶解度 モル%

ろ紙規格No.2ろ液1/ 155 0.459 0.0486

メンブレンフィルター,ろ液2/

孔径:0.42μm 20.9 0.0620 0.00646 分離液3/

遠心分離 18.2 0.0542 0.00563

 表3 土壌からの試薬水溶液への抽出

抽出液 Bq/L

Cs134+Cs137 移行係数

x103 移行 係数比

18.2 0.0542 1.00

NaOH 54.7 0.162 3.00

CH3COONH4/

pH=8.0 529 1.57 29.1

(NH42CO3 439 1.30 24.1 HNO3 1156 3.43 63.5

⑶ 土壌からの試薬による抽出の比較

 土壌1‑1(実験時の放射性Cs含量=33.7万Bq/㎏)

について,水のみ,水酸化ナトリウム,酢酸アンモニ ウム,炭酸アンモニウム,硝酸の各水溶液への抽出実 験を行った(各濃度は0.100M)。土壌と水溶液の分離 は,遠心分離(10min ,10000rpm)で行った。水へ の移行係数=1.00とした場合の相対値を示す(表3)。

アンモニウムイオンは,一部がセシウムイオンと置換 されるので,移行係数は水より25倍程度,硝酸は土壌 粒子を溶解して,セシウムイオンを放出するために,

移行係数は55倍程度大きくなる事が確認された。アン モニウム塩の効果の報告がある[6,7]。なお,この 土壌のγ線スペクトルを図5に示す。Cs134と Cs137 から,複数の放射線が出ることがわかる。このことは

「アイソトープ手帳」からも確認される[8]。

図3 放射性Cs含有土壌の水への溶出実験 撹拌速度200rpm

図4 ろ紙No.2‑ろ液(左)と遠心分離液(右)

(6)

⑷ 枯葉の放射線量と水への溶解

 枯葉1‑1(放射性Cs含量=5,540Bq/㎏)を,水,水 酸化ナトリウム水溶液(濃度=0.1N,pH=14)で洗 浄した(図6)。水のみの洗浄液(pH=6.23)に含ま れた放射性Cs量と,枯葉に残った Cs量を求めた。枯 葉には,水には溶出しない放射性Cs が69.3%,水酸 化ナトリウムに溶け出ない放射性Cs が22.7%残存し た。この場合,水または水酸化ナトリウムによる洗浄 液は,枯葉に付着していた土壌,枯葉の成分,放射 性Csを含む懸濁液である。次に,これらの懸濁液を,

遠心分離して,分散土壌を分離して得られた液(遠心 分離液)の放射性Cs含量を求めた(表4)。それぞれ,

1,700から6.7,4,280から11.1Bq/Lに低下した。即ち,

枯葉洗浄液の汚泥等を遠心分離すれば,水への溶解量 はごく微量(0.26%程度)である事がわかった。さら に,分離の程度を高めれば,水中への溶解量は極めて 少なくなると思われた。放射性Cs は土壌及び枯葉由 来の微粒子に吸着しており,水に溶けにくい事が示唆 された。

3.2 物理的減衰の考察

 物理的減衰とは,除染や移動などの影響を受けずに,

放射性原素が物理的減衰理論に基づいて,そのまま減

衰して行く現象である。野菜,米,果物,地面の含有 放射性Csの時間変化を求めたとき,「除染や移動がな かった場合の参考値」として記載されることが多い が,その求め方についての記載は省略されている[9

‑12]。放射性原素の数の減少,放射性原子から出るγ 線(エネルギー)の減衰を表現する場合があり,両者 が混同される事がある。そこで考察した。

図5 土壌のγ線スペクトル

図6 採取枯葉(左)、水洗後の枯葉(中)、

枯葉の水洗浄懸濁液(右)

表4 枯葉の放射性Cs含量

試 料 枯葉の

Cs含量Bq/Kg

懸濁液のCs含量  Bq/L

遠心分離液の Cs含量Bq/L

洗浄前の枯葉 5,540

水で洗浄 3,840 1,700 6.7

NaOHで洗浄 1,260  4,280 11.1

(7)

⑴ 放射性Cs134と Cs137の崩壊による原子個数の減 衰;Bq値に相当

 放射性元素の崩壊は一次反応である。tを経過時間

(年)とする。原子Aが放射性分解して,原子Bになり,

γ線やその他のエネルギーを放出する場合,

  A → B + energy

原子数の時間変化は,‑d[A]/dt=k[A]

 t=0 のときの [A]=[A]0 とすると,

[A]t=[A]0 exp(‑kt) … ①

元素Aの半減期がT(year)とすると,k=ln2/T と なる。

1)Cs137:T=30.07年とすると,

  k=ln2/30.07 =0.0231

  [Cs137]t=[Cs137]0 x exp(‑0.0231t) … ② 2)Cs134:T=2.065年とすると,

  [Cs134]t=[Cs134]0 x exp(‑0.336t) … ③

*重要:原発事故初期において,Cs134と Cs137の個 数の比が約1:1であったという[13,14]。即ち,

[Cs134]0=[Cs137]0とみなされる。

*t年後におけるCs134とCs137の数  [Cs134+Cs137]]t は,

 [Cs134+Cs137]t=1/2 x[Cs134+Cs137]0 x  [exp(‑0.336t)+exp(‑0.0231t)] … ④

この式から時間 t と,その時のCs134+Cs137の数(ベ クレル値でもよい)がわかれば,初期の値[Cs134+

Cs137]0  が求められ,経過時間 t の時の値[Cs134+

Cs137]t が求められる。例えば,t=4yearの時,ある 物質中の[Cs134+Cs137]の数が48.0Bq であれば,

式④から,事故初期の[Cs134+Cs137]0=81.2Bq と 求められる。逆に,時間tにおける[Cs134+Cs137]t

(Bq)は式④から求められる。

⑵ 放射性Cs134と Cs137の崩壊で出るγ線エネルギ ーの物理的減衰(μSv値に相当)

 Cs134の崩壊で放出されるγ線のエネルギーは,

Cs137の崩壊で放出されるγ線のエネルギーよりも

2.68倍高い。「アイソトープ手帳」[8]から,Cs134

とCs137の1回の崩壊で発生する光子(γ線)のエネ ルギーと,それが出る頻度(割合のようなもの)を元に,

Cs137の1回の崩壊で出る光子のエネルギーE137,お よび Cs134からの同エネルギー E134は次のように求 められる(Cs134は1回の崩壊で2個の光子を出す事 を考慮する)。

Cs137の1回の崩壊で出る光子のエネルギー値は,

 E137(MeV)≃0.662x0.851+0.0321x0.058+

 0.0365x0.013=0.566

Cs134は

 E134(MeV)≃0.563x0.084+0.569x0.154+

 0.605x0.976+0.796x0.855+0.802x0.087+

 1.365x0.03≃1.52 

 両値の比=E134/E137=1.52/0.566=2.68/1 近似的に,時刻0でのγ線エネルギーE0=1.0の時,

その1.0への寄与は,Cs137からが1/3.68=0.272,

Cs134から2.68/3.68=0.728となる[12]。即ち,事 故初期に1000μSvの放射線量があった場合,Cs137か らのγ線が728μSv ,Cs134からのγ線が272μSv で あったと求められる。γ線エネルギーの初期値が E0

である時に,時間t におけるγ線エネルギーは次式で 求められる。

 Et=E0 x[0.272 x exp(‑0.0231t)+0.728x  exp(‑0.336t)] … ⑤

この式から,「除染や移動の影響を全く考慮しない場合」

の放射線エネルギーの物理的減衰が見積もられる。

3.3 福島大学内自生のフキ

 キャンパス内に,毎年,フキが自生する。2012,

2014年は,ほぼ同じ場所(地点1)で花茎を採取して 測定した(フキ1‑1,フキ1‑2)。2015年2月の除染作 業によって,2014年の採取場所からはフキは得られな かった。そこで,2015年には,除染後の別の場所で,

フキの地下茎(フキ2‑B)と花茎(フキ2‑A)を同時 に採取した。それぞれの測定値ほかを表5に示す。

⑴ 地点1のフキ花茎の放射性Cs含有量の時間変化  フキ1‑1の放射性Cs含有量は499Bq/㎏(2012年4月 2日採取・測定),ほぼ同じ採取場所のフキ1‑2の放射 性Cs含有量は139Bq/㎏(2014年4月2日採取・測定)

であった。全く同じ場所,同じ状態のフキを採取する 事は不可能であるが,おおよその見積もりを試した。

 放射性Csの物理的減衰(原子数)の計算によれば,

除染や移動がなかったと仮定すれば実測値499Bqの値 は,2011年4月には,およそ590Bq/㎏以上に相当す ると見積もられる。始めに,590Bq/㎏の放射性Cs が あり,そのまま物理的に減衰するならば,計算によっ て,2014年4月の値は383Bq/㎏と見積もられる。デー タを表5に示す。2014年4月のフキ1‑2が含有した放 射性Cs の実測値は139Bq であり,理論値383Bq/㎏よ りも大幅に減少した値であった。植物の放射性Cs が 物理的減衰値よりも実測値が低い事を記載した報告は 見られる[15]。しかし,実際には,土壌の変化,植 物内の移動の違いなどが複合的に関わるので,「試料 の移動がない場合」という仮定のうえでの目安である。

(8)

本検討の場合,試料採取時には,フキの採取場所の除 染は全くなされていなかったので,人為的な除染の効 果は無視して考えられる。フキの花茎は地下茎から発 芽するので,フキの花茎の放射性Cs含有量は,地下 茎からの移行に基づくと考えられる。「初期にフキの 地下茎に含有された高濃度の放射性Cs は,年々強固 に結合されて,花茎への移動がしにくくなる」と考え られる。

⑵ 地点2で採取したフキ花茎と地下茎の放射性Cs 含有量について

 「除染:土壌の表層を削り,雑草をほぼ全て削除する」

が行われた場所2から,フキの花茎が発生して,花茎 と地下茎を同時に採取できた。放射性Csの含有量は,

地下茎(フキ2‑B)(図7)が709Bq/㎏であるのに対 して,花茎(フキ2‑A)は181Bq/㎏であった。地下 茎の放射性Cs の25%程度が花茎部に移動したと見積 もられる。除染は2015年2月初旬,採取は同年2月26 日であった。この結果,フキの地下茎の放射性Cs の 含有量>花茎の放射性Cs の含有量であるので,上述 の「地下茎から花茎には移行しにくい」という考えは 支持される。

 他の一年草の植物と異なり,フキの地下茎の放射性 Cs含有量が高い事は,⑴「地下茎に事故直後の放射 性Csが吸収されて,残留している」と考えられるが,

⑵「フキ地下茎が地面の比較的浅い部分にあり,現在

でも,土壌表層の放射性Cs を吸収している」という 可能性がある。ただし,フキの採取場所の土壌の放射 性Cs含有量は10,000Bq/㎏以上であったので(測定日,

5月20日/2016),土壌から地下茎への移行は少ないと 推定される。この考察については,さらに検討を要する。

3.4 各種植物の放射線量

 2011年4‑5月にかけて測定した結果,コケ類,山 菜類の含有量が高い事がわかった。この事は,現在で は一般的に知られる[16]。

3.5 野菜による放射性Cs の吸収

 混合土壌2‑1に,2012年3月から継続して,野菜の 種子(1‑1,1‑2)を蒔き,発芽,生長期に野菜を採取 してベクレル値を測定した(図8)。以下の結果が得 られ,考察した。

⑴ 2013年8月30日に蒔き,10月30日に収穫したハ ツカダイコンの移行係数0.012,万能ねぎの移行係数 0.0090が得られた。

⑵ 放射性Cs の移行は,土壌質によって不検出の場 合と,検出の場合がある。特に粘土質の量に関係する。

⑶ 実際には,土壌質,耕した深さ,水,肥料中のカ リウム,アンモニウムの量など,多くの因子が関与す る。さらに,継続的検討によって,再現性を確認する 必要がある。

図7 フキの地下茎

表5 フキの放射性Cs含有量

試料 測定

日/月/年 試料量

(g) 測定 時間

Cs量(Bq/g) 総Cs

(Bq/㎏)

減衰値Cs物理的

(Bq/㎏)

検出限界値

(Bq/g)

Cs134 Cs137 Cs134 Cs137

フキ1‑1

(花茎部) 2/4/

2012 20.6 1h 0.206 0.293 0.499 499 0.0166 0.0150

フキ1‑2

(花茎部) 2/4/

2014 30.6 3h 0.038 0.101 0.139 139 383 0.0079 0.0109

フキ2‑A

(花茎部) 26/2

/2015 9.9 2h 0.037 0.144 0.181 181 0.0149 0.0124 フキ2‑B

(地下茎) 26/2

/2015 8.66 2h 0.157 0.552 0.709 709 0.0149 0.0124

図8 ハツカダイコン(左)と万能ネギ

(9)

3.6 リンゴの含有量の時間変化:福島県農業総合 センター公開データの考察

 リンゴについては公開データを元にして考察した。

福島市周辺の多くの地域で,2011年に収穫されたリン ゴの放射性Cs含量は,不検出(ND)であった。

 不検出でなく,数値で示されたデータを探した。福 島県農業試験場の公開データに国見町のリンゴの測定 値(数値が複数年示されたもの)が見られた(特定の 場所での平均値とみられる)[17]。表6にまとめた。

⑴ 2011年8月29日:

  76Bq/㎏(Cs134=35,Cs137=41)

⑵ 2012年8月24日:

  22.9Bq/㎏(Cs134=8.28,Cs137=14.6)

⑶ 2013年9月11日:ND

極端な減少は,⑴「除染作業の結果,リンゴが吸収す る程度の放射性Csが存在しなくなった」,⑵「放射性 Cs が存在しても,土壌に吸着して移動しにくい」な どが考えられる。現在,県内では,リンゴ以外の果樹 でもNDとなっている。除染の効果や土壌から果樹へ の移行が極端に少ない事については,詳細な検討がな されている[18‑20]。

3.7 放射性Cs と粘土質土壌との関係の考察  「放射性Csが土壌に強く結合して,容易に移動でき ない」という事実は,初期の実験3.1でも支持される。

さらに,この事は,多くの研究でも確認されている

[7,14, 21‑24]。すなわち,粘土質土壌の表面は負電 荷をもち,Csイオンは既存のイオン(例:アンモニ ウム,カリウムなど)と交換されて,取り込まれ,強 固な結合体を作ると説明されている。図9に模式図を 示す。丸囲みマイナス記号(−)は負電荷雰囲気を示 す。この状態の放射性Cs の取り込みが進めば,植物

への移行は益々困難となると考えられる。

3.8 吸着材によるセシウム吸着の実験

 放射性のないセシウムイオンCsと放射性セシウム イオンCsの化学的性質は同じである。Cs134やCs137 を集めることは容易ではないので,試薬の塩化セシウ ム(CsCl)を用いた実験が行われる。本件も,CsCl 水溶液を用いて,セシウムイオンの吸着実験を行った。

 CsCl水溶液はリン酸緩衝液でpH=7.23, 9.32とした。

⑴ カチオン交換機能性繊維

 カチオン交換機能を考慮して,アクリル酸グラフト 化レーヨン(機能化レーヨン;グラフト率=26.4%)

(吸着材3‑1)を製造した。この繊維を CsCl水溶液中 に入れて,撹拌した。撹拌時間と水溶液中のセシウム イオン濃度の変化を図10に示す。アクリル酸グラフト 化レーヨンにはCsがよく吸着した。実際の土壌には 鉄,カルシウム,マグネシウム,ナトリウムなどの化 合物の存在量が多いので,同様の実験を,複数のイオ ン(K, Mg2+, Ca2+,Cs)の共存する水溶液で行った。

アクリル酸グラフト化レーヨンは,複数のイオンを区 別なく多量に吸着した。

⑵ ゼオライトによる吸着実験

 モルデナイト型ゼオライト(吸着材1‑1)による CsCl水溶液(pH=7.23, 9.32)中での吸着実験を行っ た。結果は図10に示す。pH=7.23と pH=9.32の水溶 液では,pH=7.23水溶液からのCs吸着量が多い。

 表6 リンゴの放射性Cs含有量(Bq/㎏)(日/月/年)

測定日 29/8/2011 24/8/2012 11/9/2013

実測値 76 22.9 ND

図9 Csイオンの土壌取り込みモデル

10 ゼオライト(モルデナイト:吸着材11)、

アクリル酸グラフト化レーヨン(吸着材31)に よるセシウムイオンの吸着(文献[4]を一部訂 正および改変)

(10)

 複数イオン共存の条件下では,ゼオライトにはCs が選択的に吸着した。Csの水和物がゼオライトのK と交換されると考えられている。ゼオライト・モレキュ ラーシーブ(吸着材1‑2)も同様であった。

⑶ PB吸着シートによる吸着実験

 PB含有繊維(吸着材4‑1)にはゼオライトと同様の 効果がみられた。PB の構造内にある空隙にセシウム イオンが取り込まれると考えられている。

 ただし,ゼオライトや PB の効果が,イオン交換や 空孔への取り込みであるならば,セシウムイオンが水 に溶けている場合に効果が大きいと考えられる。

⑷ 柿渋のタンニンの効果

 柿渋のタンニン(吸着材2‑1)はセシウムイオンを 吸着するという報告があった[25]。水中に Csだけ が存在する場合は,柿渋タンニンは,ゼオライトや PB以上に,セシウムイオンをよく吸着した。しかし,

他のイオン(Ca2+,Mg2+,Fe3+など)が共存すると,

Csの吸着量は,極端に減少した。なお,タンニンは 水中に分散するので,固定化の工夫が必須となる。

3.9 放射性Cs の除去についての考察 

⑴ 水中に存在する Csを取るには?

 水に溶けているセシウムイオンの捕捉にはゼオライ トやPBに効果が見られた。ただし,ゼオライトやPB をそのまま用いると,回収が困難である。そこで,ゼ オライトはメッシュの網に入れて用いられる。PB は 水に溶けるので,繊維の不織布に固着させて用いられ る。但し,水中にCsが存在しても,多くはイオンそ のものではなく,イオンが取り込まれた微粒子として 分散すると考えられる。一般的な放射性Cs の低濃度 の河川水の処理には,繊維や高分子材料のフィルター によって,分散粒子をろ過する事が効果的であろう。

⑵ 焼却飛灰(ばいじん)中のセシウム

 ゴミの焼却炉に入った放射性Cs は,気化すれば,

塩化セシウム(水溶性)となって,焼却飛灰(ばいじ ん)に含まれる事,焼却炉内で固化する物はアルミナ シリケート(CsAlAi2O6)となる事が報告されている

[26]。セシウムを含む焼却飛灰は,水に触れさせない ように埋立処分するという。水に溶けたセシウムは新 しい土壌に接触すると,また強固に結合すると推定さ れる。この性質はセシウムの拡散が起こりにくい結果 となる。

3.10 土壌に取り込まれた放射性Cs

 その土壌を破壊すれば,水に溶け出す可能性がある。

「土壌を200℃の硝酸で処理して放射性Cs を溶出させ て,PBで捕捉させたという報告」がある[27]。しか し,無限に近い大地の処理に高温の硝酸の使用は困難 であろう。表層の削除や天地返しが現実的であり,今 現在,除染作業で行われている。

3.11 実在する放射性Cs の量

 計算によれば,Cs を10万Bq/㎏含む土壌がある時,

1000トンの土壌に含まれる Cs(元素)は僅か3.1㎎

となる。従って,これらを回収することがいかに困 難かわかる。但し,3.1㎎を原子数に換算すると,1

㎏の土壌に約34兆個の Cs原子が存在する事になる

(3.39x1013個/㎏)。

3.12 除染の効果公園の実例

 福島県の地域では,学校のグランド,公園,舗装道 路の表層を剥離する作業が継続されている。実際に住 んでいると,「この広大な土地の一部を削って放射線 量は減少するのだろうか」という疑問が起こる。そこ で,公園の線量の経時変化を考察した。2012年8月 22日に,福島市大森公園のγ線量はモニター表示で,

0.733μSv/hであった。このとき,この公園付近は全

く除染がなされていない。図11の左のように雑草が 茂っており,誰一人公園に入る者はなかった。この公 園の初期値(2011年4月頃)の線量を,式から1.02μ Sv/h程度と仮定する。事故から約3.4年後の同公園の 2014年8月7日の線量は0.137μSv/hであった。図11 の写真のように,雑草と土壌は削り取られて,除染が なされた。土壌の測定の場合,除染や移動のない場合 の物理的減衰値(μSv単位)を参考とする報告は多 い[22‑24]。実測値と2012年8月22日の測定値を基に,

求められた物理的減衰値を表7に示す。2015年11月29 日の0.095は,物理的減衰値の20%である。3.4年と3.75 年の急激な減少は除染の効果を示すと考えられる。

4.お わ り に

4.1 地上の粉塵の放射線量の問題と効果的な繊維 フィルターの必要性

 放射性Cs を吸着した土壌は,雨で高所から低所へ 流れて,溜まり場に集まる。または河川や海に流入し て,水中に懸濁するか沈殿する事になる。そして,長 年かけてゆっくりと移動する。放射性Cs を吸着した 土壌は乾燥すると,埃になって,飛びかう。

 人の歩行によって,放射性Cs を高濃度に含有する

(11)

土壌が建築物の玄関・廊下などに運ばれる。2013年3 月,周辺の地面の表層の土は1〜2万Bg/㎏の放射性 Cs が存在した。この表層の土壌は,靴によって室内 に運ばれている。また,乾燥して浮遊する。そこで,

埃を吸い込まない事が重要と考えて,空気清浄機によ る粉塵の捕捉を行い,効果的なフィルターの開発に取 り組んでいる。多くの時間が必要であり,現状では,

人材と設備が不足で,データの収集が遅れている。

4.2 提案できる対策

 放射性Csについて,以下のことを考えた。

⑴ 放射性Cs は土壌に強く吸着されている。従っ て,除染廃棄物を土壌に埋め立てた場合,さらに拡 散する可能性は少ない。

⑵ 現在,特別に高い地域以外は別として,低濃度 地域では,基本的に植物に移行しにくい。土壌のつ いた食物は,よく洗うことが大切である。

⑶ 水道水は濁度管理がなされているので,原則的

には含まれない。

⑷ ホコリの飛散と吸い込みには注意する。

4.3 科学的な検討の必要性

 放射性物質の被害については,多方面から検討がな されている。放射性物質の調査や被災者のメンタルケ アが多く実施されている。「実生活でどうすべきか?」

という住民の立場からの対策も重要ではないだろう か。「科学的な検討はアカデミック過ぎる」と考える 方々がいるが,果たしてそうであろうか。多くの公的 機関によって,貴重な研究データが公開されている。

特に「福島県農業総合センター」の詳細な検討は大変 に参考となる[15]。

4.4 風評被害について

 「果物や野菜にセシウムは含まれていないのに,な ぜ買ってくれないのか,風評被害だ」という。それに は,「⑴除染で田畑には低濃度のセシウムしかない(ま たは,ない)。⑵土壌は常に洗い流されている,⑶そ のうえ,放射性セシウムは年々,土壌に強固に強く吸 着しており,植物に移行しなくなる。これらの総合的 な結果として,放射性セシウムの実在量は物理的減衰 の理論式から求められる量よりも,はるかに少なくな り,不検出になっている」というメカニズムの説明が 伴わないと,説得力がないと思われる。

 表7 公園の線量(μSv/h)の変化と物理的  減衰値の比較

日/月/年測定 経 過 実測値 物理的

減衰値 備 考

0年 1.026

22/8/2012 1.4年 0.733

9/4/2014 3.0年 0.156 0.532 除染あり 8/8/2014 3.4年 0.137 0.495

29/11/2015 3.75年 0.095 0.466 除染あり

11 福島市大森の公園のγ線モニターの変化 0.733μSv/h

2012年8月22 0.156μSv/h

2014年4月9日 0.137μSv/h

2014年8月8日 0.095μSv/h

20151129

(12)

5.謝   辞

 研究室所属の学生にはアルバイトで補助して頂い た。深く謝意を表します。

文   献

1.日本原子力文化財団, 東京電力㈱・福島第一原子 力発電事故, http://www.jaero.or.jp/data/02topic/

fukushima/(閲覧確認年月日:2016年4月15日)

2.福島大学放射線計測チーム ホームページ, http://

www.sss.fukushima‑u.ac.jp/FURAD/FURAD/

data̲%26̲doccuments.html( 閲 覧 確 認 年 月 日:

2016年4月15日)

3.山口克彦・高瀬つぎ子・難波謙二他12名, 原発事 故直後の土壌中放射性核種分析,  福島大学地域創 造, 24巻 2号, 2013年2月, pp.74‑80.

4.金澤等, 震災・原発事故後の福島市に住む:繊維 による放射性セシウム捕捉の可能性,  繊維学会誌,  68巻9号, 2012年9月, pp.261‑267.

5.金澤等, 震災・原発事故後の福島市に住む‑その 後:繊維は役に立つのか?, 繊維学会誌, 70巻9号,  2014年9月, pp.196‑201.

6.山口紀子・江口定夫・池羽正春・藤原英司・牧野 知之・谷山一郎, 放射性物質沈着初期の農地土壌か らの放射性セシウムの抽出, 農業環境技術研究所報 告, 34号, 2015年3月, pp.29‑32.

7.Tsukada, H., Takeda, A., Hisamatsu, S., Inaba,  J., Concentration and specific activity of fallout 137Cs  in extracted and particle‑size fractions of cultivated  soils, Journal of Environmental Radioactivity, 99(6),  June 2008, pp.875‑881.

8.日本アイソトープ協会, 11版アイソトープ手帳,  丸善, 2011年

9.福島県農業総合センター生産環境部環境・作物栄 養科, 水田および畑地における土壌中放射性セシウ ム濃度および空間線量率の経年変化, http://www4.

pref.fukushima.jp/nougyou‑centre/kenkyuseika/

h26̲radiologic/h26̲radiologic̲01̲keinen‑henka.

pdf(閲覧確認年月日:2016年4月15日)

10.文部科学省原子力対策支援本部, 報道発表 東京電 力株式会社福島第一原子力発電所の事故に伴い放出 された放射性物質の分布状況等に関する調査研究結果 について, 2012年3月,http://radioactivity.nsr.go.jp/

ja/contents/6000/5233/24/5233̲20120313̲20120615̲

rev20130701.pdf(閲覧確認年月日:2016年5月10日)

11.群馬県農業技術センター環境部, 平成26年度モニ タリング定点調査, https://www.pref.gunma.jp/ 

06/ f0100433.html(閲覧確認年月日:2016年4月 15日)

12.文部科学省原子力対策支援本部,  報道発表  第 6次航空機モニタリングの測定結果, 2013年3 月,  http://radioactivity.nsr.go.jp/ja/conten ts/7000/6749/24/191̲258̲0301̲18.pdf( 閲 覧 確 認 年月日:2016年5月10日)

13.日本原子力研究開発機構福島技術本部,  土壌中 における放射性セシウムの濃度分布の拡がり及び 事故前のフォールアウトについて , 平成25年3月,  http://fukushima.jaea.go.jp/initiatives/cat01/

pdf05/02‑Appendix3‑2.pdf( 閲 覧 確 認 年 月 日:

2016年5月10日)

14.田崎清明, やっかいな放射線と向き合っていくた めの基礎知識, 朝日出版社, 2012年

15.岡敏弘, 農業における放射能汚染対策の費用便益 分析, 環境経済・政策学会2014年大会(法政大学),  2014年9月

16.森本晶子・染木泰子・大隅晶子・伊井一夫,  山 野草・コケの観察と放射能測定,  ふくしま再生の 会 第6回報告会 福島・飯舘村 再生の意味(東京大 学農学部), 2014年5月, http://www.fukushima‑

saisei.jp/app‑def/S‑102/madei/wp‑content/

uploads/2014/08/20140525̲poster13̲Plant.pdf(閲 覧確認年月日:2016年5月10日)

17.福島県農林水産部農産物流通課, 福島県農林水産 物モニタリング情報, http://www.new‑fukushima.

jp/ monitoring/(閲覧確認年月日:2016年4月15日)

18.高田大輔・佐藤守・阿部和博, 放射性セシウムの 果樹樹体内での動態,  東京大学大学院農学生命科 学研究科附属生態調和農学機構資料, 2014年5月,  http://www.agc.a.u‑tokyo.ac.jp/fg6/pdf/140526̲

fg6.pdf(閲覧確認年月日:2016年5月10日)

19.佐藤守, 休眠期に汚染された落葉果樹における放 射性セシウム移行メカニズムと吸収抑制対策, 日本 土壌肥料学雑誌, 85巻2号, 2014年4月, pp.103‑

106.

20.湯田美菜子・佐藤守・阿部和博他9名, 落葉果樹

における部位別放射性セシウムの経年変化と除染の 効果,  福島県農業総合センター研究報告  放射性物 質対策特集号, 2014年2月, pp.78‑81.

(13)

21.石井慶造, 水洗浄による放射性セシウム汚染土壌 の除染方法について, 原子力委員会定例会議, 2011 年9月, http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/

siryo2011/siryo34/siryo1.pdf(閲覧確認年月日:2016 年5月10日)

22.西村拓, 土壌中の放射性セシウムの振る舞いにつ いて ,  第六回放射能の農畜水産物等への影響につ いての研究報告会, 2013年4月, http://www.a.u‑

tokyo.ac.jp/rpjt/event/20130420.html(閲覧確認 年月日:2016年5月10日)

23.中尾淳,セシウムの土壌吸着と固定,  月刊学術の 動向, 17(10), 2012年10月, pp.40‑45

24. 国 立 環 境 研 究 所  資 源 循 環・ 廃 棄 物 研 究 セ ン ター「放射性物質を含む廃棄物に関する Q&A」;

http://www.nies.go.jp/shinsai/techrepo̲

QandA̲130111.pdf(閲覧確認年月日:2016年5月 10日)

25.井上勝利, バイオマスを利用したセシウム,スト ロンチウムの吸着・除去, 放射性物質の吸着・除染 および耐放射線技術における材料・施工・測定の新 技術, 技術情報協会, 2014年11月, pp.227‑230.

26.国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター,  放射性物質の挙動からみた適正な廃棄物処理処分

(技術資料 第四版)2014年4月, pp.62‑100.

27.鈴木正哉, 非晶質アルミニウムケイ酸塩粒子によ る放射能汚染土壌の減容化システムの開発, 放射性 物質の吸着・除染および耐放射線技術における材 料・施工・測定の新技術,  技術情報協会, 2014年,  pp.531‑540.

(14)

図1 福島県北部エリアの空間放射線量測定結果

2011年3月25日〜31日)(文献2を再編)

図2 サーベイメータによる測定

図3 放射性Cs含有土壌の水への溶出実験 撹拌速度200rpm

図4 ろ紙No.2‑ろ液(左)と遠心分離液(右)

図6 採取枯葉(左)、水洗後の枯葉(中)、

枯葉の水洗浄懸濁液(右)

図7 フキの地下茎 図9 Csイオンの土壌取り込みモデル

11 福島市大森の公園のγ線モニターの変化 図8 ハツカダイコン(左)と万能ネギ

0.733μSv/h

2012年8月22 0.156μSv/h

2014年4月9日 0.137μSv/h

2014年8月8日 0.095μSv/h 20151129

Referensi

Dokumen terkait

1, 2013 43 セミナー室 放射性降下物の農畜水産物等への影響-8 放射性セシウムのイネへの移行 根本圭介 東京大学大学院農学生命科学研究科 昨年3月の福島原発事故により,さまざまな放射性核 種が多量に漏出して農耕地が広範に被曝した.こうした 核種のうち,放射性セシウム (Cs) は漏出量が多いうえ に

セミナー室 放射性降下物の農畜水産物等への影響-2 福島県農業総合センターの取り組み 吉岡邦雄 福島県農業総合センター生産環境部 東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所 (以下,「第一原発」という.)の事故により放射性物質 が拡散し,農業生産へ大きな影響を与えている.福島県 農業総合センターでは農地・農作物への影響を明らかに

1 CTBT 高崎放射性核種観測所の粒子状放射性核種の観測結果 2013年4月~ 公益財団法人 日本国際問題研究所 軍縮・不拡散促進センター (CTBT国内運用体制事務局) 2013年4月23日 1.はじめに 2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故で放出された放射性核種は,包括的核実験禁止 条 約(CTBT)の 放射性核 種観測網

第6章 福島第一原発事故後のロシアの原子力エネルギー政策 -原子力安全、国内エネルギー供給、対外戦略- 岡田 美保 はじめに ロシアでは、国内の10か所に所在する原子力発電所で31基の原子炉が稼働している1。 発電量及び設備容量で比較した場合、ロシアは米国、フランス、日本に次いで世界第4番

広島県公立大学法人定款 目次 第1章 総則(第1条-第7条) 第2章 役員等 第1節 役員(第8条-第13条) 第2節 役員会(第14条-第17条) 第3章 審議機関 第1節 経営審議会(第18条-第21条) 第2節 教育研究審議会(第22条-第25条) 第4章 業務の範囲及びその執行(第26条・第27条) 第5章 資本金等(第28条・第29条)

研究ノート 原子力に関する副読本の比較 〜日本とドイツ〜 福島大学共生システム理工学類 後 藤 忍 1.背景と目的 1−1 原子力に関する国の副読本の問題 2011年3月に起きた東京電力福島第一原子力発電 所(以下,福島第一原発)の極めて深刻な事故を受けて, これまで行われてきた原子力に関する教育や広報のあ

福島大学地域創造 第30巻 第2号 77〜86ページ 2019年2月 Journal of Center for Regional Affairs, Fukushima University 30 2:77-86, Feb 2019 調 査 報 告 1.は じ め に 本報告は,2011年3月11日東北地方太平洋沖地震

学校給食のはじまりに関する歴史的考察 27 1月6日から3月23日まで,計12回の給食が,1回 を除いて,すべて日曜日に24人から最大で61人に供さ れていた。昭和4年度の福島第五小学校の児童数は 1,228人であった。 これは,他の児童にわからないように,困窮児童を 助けるという配慮であったと思われる。 5 学校給食状況調査から