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生体元素と医薬品の開発

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(1)

生体元素と医薬品の開発

桜 井 弘 *

1.

はじめに を生み出せるようになり、原始生命分 人や動物の体の中に存在している金 子からもっと複雑な化合物を合成する 属は、種類は大変多いにもかかわらず、 ようにな った。例えば、鉄イオン、簡 体全体の重さから見れば、極くわずか 単なヘム鉄錯体そしてヘム鉄酵素のカ

しか存在しない 。 このため、微量金属 タラーゼヘと進化すると、過酸化水素 元素、略して微量元素とよばれている。 (H凸)を分解する触媒作用は、鉄イオ 一般にはミネラルと呼ばれている微量 ンを

1

とすると、ヘム鉄錯体では lo3 元素が、我々の

quality of life  (QOL)

を 倍に、そしてカタラーゼでは1 0 1 0倍に 高めるための 一つ の手段として、栄養 も増幅される 。 この過程は、化学進化 学的観点から社会的に注目されるよう とよばれている。

40

億年前の地球に になってきた。そこで、なぜこの よう は、すでに

D N A

を持った原核生物、つ な微量元素が我々の体の中に存在し、 まり最初の生命が誕生していたと考え なぜ我々の健康や生存に必要なのかに られている。そして、

27

億年前になる ついて、考えることとする。さらに、 と、酸素分子を発生する光合成バクテ 微量元素から発想される医薬品開発の リア(シアノバクテリア、ストロマト 例をいくつか紹介すると共に、生活習 ライト)が生まれた。この時期は、地 慣病の 一つである糖尿病の治療に期待 球に強い磁場が生まれた時と 一致して が世界的に寄せられているバナジウム いる 。海洋中に酸素分子がバクテリア 錯体の開発の現状を紹介することとす から放出されると、鉄イオンは酸化さ る。 れ 酸 化 鉄 と し て 沈 殿 ( 赤 鉄 鉱 ) し て いったため、海洋中の鉄濃度は極端に

2.

金属と生命 減少し、生物が生活しやすい環境が準 地球は約46億年前に誕生したと言わ 備されるようになった。そして、鉄イ れている。原始地球を覆っていた

N H3 ,

オンで果たせなかった酸化還元電位と

H 2S,   C O,   C O2   N O x ,

などが、海岸の

Al

機能は、やがて銅、亜鉛、マンガンあ や

Si

を含む粘土を触媒として高熱で反 るいはモリブデンイオ ンなどを利用す 応し、簡単な生命分子の原型を作った 。 る方向へと向かい、より高度な生命分 これらの分子は、当時の海洋に多量に 子を作った。生命進化は加速され、多 溶けていた鉄イオンを結合し、様々な 細胞生物が出現した 。

酸化還元電位とそれに伴う多彩な機能 地球上では、ますます酸 素分子が増

*京都薬科大学代謝分析学教室 607‑8414京都市山科 区御陵中内町5

(4)  海 洋 化 学 研 究 第13巻第1号 平 成1 24

(2)

え、大気上空まで蓄積されるようにな レン、クロムあるいはバナジウムなど る と 、 太 陽 の 強 い 紫 外 線

( U V C

や がその後の生物種進化に用いられた。

U V B )

と反応してオゾンを作り、オゾ 現在の人体やヒトの血奨中に存在する

ン層が地球を覆うようになった。この 元素の種類と濃度が、海水中のそれら ため、生物は地上に上陸出来るように と相対的に似ていることは、生命が海 なった。草花や樹木が生い茂り、地殻 洋で出現したという考え方の大きな根 に含まれる金属も利用できるようにな 拠になっている(図

l)

。現在では、多 り、哺乳動物へと高度に進化し、約

240

くの研究の結果、人類の誕生には、海 万年前には、現在の人類の直系の祖先 洋中の金属はなくてはならなかったと ホモ・ハビクスが登場した。 理解されるのみならず、生命進化の過 程が現在の我々の体内に記憶されてい

3.

海洋金属の重要性 ることを示している。

酸素分子の放出により鉄イオンが沈 我々の体内に見出される金属元素は、

殿してしまった後の海水に含まれてい 無数とも言われる金属を含むタンパク る種類の豊富な金属イオンは、生命の 質や酵素として存在している事が知ら 飛躍的進化に用いられた。陸上へ進出 れている。それぞれが特有の生体反応、

してからは、海洋に含まれていなかっ 例えば、電子移動、物質輸送、酸素分 た金属イオン、例えば、コバルト、セ 子の運搬や貯蔵、生物信号の伝達、酸

l 曹

賣 □ 鴫 昌 し 工 言 言 ば ゜

}O 

0.1 

x  

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̀   `  - •… ク ‑ 、ー・ー , 

・ 忍 ・ i l  

図1.地殻、人体、人血漿および海水中の微量元素の種類と濃度

Tansactions or T h e  R esearch  Institute or  Oceanochemistry V ol.13. No. I. 

(5) 

(3)

表1.必須金属元素の欠乏症と過剰症

カ ) 口 ン : │ 骨格変形、;;傷風、乏虫歯障

過 剰 障 胆石、アテローム性動脈硬化症、

白内障

カ リ ウ ム ア ジ ソ ン 病

ナ ト リ ウ ム ア ジ ソ ン 病 高 血 圧 症 、 脳 出 血 、 心 臓 疾 患 マ グ ネ シ ウ ム 血 管 拡 張 、 典 奮 、 不 整 脈 、 感 情 不 安 定 、 痙 攣

貧 血 症 、 脱 毛 症 、 根気 滅 退

I

出 血 、 嘔 吐 、 循 環 器 障 害

亜 鉛 小人症、成長抑制、食欲不振、味覚減退、 1嘔吐、下痢、肺の衰弱、高熱、悪寒 生殖腺機能障害、睾丸 萎 縮 症 、 知 能 障 害

マ ン ガ ン 骨 格 変 形 、 発 育障害、糖尿病、脂肪代謝異常、肝硬変、神経障害、筋肉運動不整、

生 殖 腺 機 能 障 害 、 筋 無 力 症 、 動 脈 硬 化 パ ー キ ン ソ ン 病

貧 血 症 、 ち ぢ れ 毛 症 、栄養疾患、食欲不振、 肝硬変、腹痛、運動障害、下痢、

毛 髪 色 素 欠 乏 症 、 成 長 減 退 、 メ ン ケ ス 病 嘔吐、知覚神経障害、りィル')ン病 モ リ ブ デ ン 痛 風 、 貧 血 、 性 欲 不 振 、 虫 歯 、 食 堂 ガ ン

クロム 糖尿病、高血糖症、動脈硬化症、

成 長 の 遅 れ 、 角 膜 障 害

コバルト

I

貧 血 症 、 食 欲 不 振 、 体 重 減 少 心 筋 疾 患 、 赤 血 球 増 加 症

化還元、加水分解などあらゆる種類の 素を与えたときのみに、改善される。

化学反応を触媒することが知られてい 金属の働きは、その種類ごとに極めて る。このように、生命の発生とその後 特異的である。

の進化には、多種類のしかしわずかに 存在する金属と高度に進化した豊富な 高 分 子 化 合 物 が な け れ ば 成 り 立 た な かった。つまり、我々の生命はこれら の金属がなければ誕生しなかったので あり、また、生命が維持されるために は、常にこれらの金属が細胞や体内に 存在しなければならなか った。

4.

微量元素の欠乏と過剰

金属元素のどれかが体の中で不足す れば、体の機能つまり我々の生理的な 機能に障害が起ることは古くから知ら れている。これまでは、金属欠乏症は 多数知られ、そして、金属元素ごとに、

欠乏症状が異なっている 。対応する特 有の欠乏症は、それに対応する金属元

(6) 

一方、金属が過剰に体内に入ると、

本来の生理機能に異常が生じる。産業 現場で特定の金属元素を作業員が大量 に吸入したり、飲み込んだりした例や 有害金属元素が工場から環境中へ放出 され、それらを人々が摂取してしまっ た例など、歴史上様々な金属過剰症と して知られている。表

l

に微量元素の 欠 乏 症 と 過 剰 症 の 幾 つ か の 例 を 挙 げ た。

このように、微量金属元素は欠乏して も過剰に摂取しても、我々の健康を損 なう原因となる。したがって、微量元 素の最適濃度範囲が存在する(図

2)

。 微量元素の種類によって、この最適濃 度範囲の巾が広いものや狭いものがあ る。例えば鉄は広く、セレンは狭い 。

海 洋 化 学 研 究 第 1 3 巻第 1 号 平 成 1 2 年 4 月

(4)

→ 反 応

︵ た と え ば 成 長 な ど

I

欠 乏 症

最適濃度

範囲 過 剰 症

死 亡

成 長 し な い

元素濃度

図2. 生体反応と元素濃度との関係

5.

生体に存在する元素の分類 宇宙のそして地球のすべての無生物 と生物は多数の元素から構成されてい る。 2,000 年現在、地球上で存在が確認 された元素の数は、 118 種類ある。これ ら 118 種類の元素のうち、我々の体の 中に存在する元素はどのくらいあり、

また生命の維持や健康に欠くことの出 来ない元素はどのくらい知られている のであろうか。

体の中の元素を、酸素、炭素、水素 など多量に存在する

6

種類の「多量元 素」、それ よりも少ないイオウ、カリウ ム、ナトリウムなど

5

種類の「小量元 素」、そし ても っと微量に存在する鉄 、 亜鉛、銅など 9 種類の「微量元素」、さ

らにほんのわずかしか存在しないセレ

ン、モリブデン、 コバルトなど

14

種顆 の「超微量元素」の

4

つに分類してい る(表

2)

。この分類では、ヒトの体重 lグラム当たり 10 m g 以上存在する元 素を「多量元素」、

l,..̲̲,

10 m g の範囲で 存在する元素を「小量元素」、 1,‑.̲̲, 100  m gで存在する元素を「微量元素」そし て 20,‑.‑.,1000 ng の範囲で存在する元素 を「超微量元素」と規定している。

「多量元素」と 「小量元素」の

11

種 類の元素の量をすべて合わせると人体 の 99.3 % を占めている。しかし我々 は、この 11 種類の元素のみでは生きて いけない。残りの 0.7 %は、「微量およ び超微量元素」の 23 種類で構成されて いる。この種類の豊富さには、驚ろか される。現在の時点で、我々にとって

Transaclions or T h e  Research lnslilule or  

ceanochemislry Voi.13.  N o. IApril .21MMI

(7) 

(5)

2.

人体中の元素濃度(*は非金属)

分 類 元素名 必須性

動物 多量元素 酸素

  ・ o

゜゜

炭素 C* 

゜゜

水素 H* 

゜゜

窒素 N* 

゜゜

カルシウム Ca 

゜゜

リン p•

゜゜

少量元素 イオウ S* 

゜゜

カリウム K  

゜゜

ナトリウム Na 

゜゜

塩素 CI *  

゜゜

マグネシウ ム M g  

゜゜

微量元素

゜゜

フッ素 F* 

゜゜

ケイ素 S1*  

゜゜

亜 鉛 Zn 

゜゜

ス トロ ンチウム Sr 

ルビジウム R b  

Pb 

マンガン M n  

゜゜

C u  

゜゜

超微量元素 アルミニウム A l   カドミウム Cd 

スズ Sn 

バリウム Ba 

水銀 H g  

セレン Se 

゜゜

ョウ素 I*  

゜゜

モリブデン M o  

゜゜

ニッケル N i  

゜゜

ホウ素 B* 

クロム Cr 

゜゜

ヒ素 As 

コバルト Co 

゜゜

バナジウム V  

真に必要な元素は「多量と小量元素」

の 11 種類と「微量と超微量元素」の 12 種類をあわせて 23 種類にすぎな い。周 期表中の 118 種類 の元素のうちの約 1/5 に あ た る 。 今 後 の 科 学 技 術 の 進 歩 に

体内存在量 体重70kgの人 体重 lgあたり

  の体内存在呈 の体内濃度 6 5  0   4 5  50  kg  650  mg/g体重

18 0   12 6 0   180 

10 0   7  0 0   100  

3 0   2. 10  30 

I  5   I  0 5   15 

IO  (98 5%)  0  70  10 

0.25  17 5  g   2  5  mg/g体重

0  20  140  2 0  

0  15  105  1  5  

0  15   105  1  5  

0  0 5  (99 3%)  35  0  5   6  g   8 5  70  μg/g体重 3   4 2  80 

2   28.50  2   2 8  50  320  m g   4  57  320  4  57  120  I  71 

100  1.43 

80  1.14 

60  m g   857 0  ng/g体重

50  714 0  

20  286 0  

17  243 0  

13  186 0  

12  1710 

11  157 0  

10   143 0  

10  143 0  

10   143.0 

2   28.5 

2   2 8  5   I  5   21 4  

0.2  2 9  

よ っては、この数はもう少し増えると 予想される。

6.

微量元素発見の歴史

ヒトにお いて人工的に金属の欠乏症

(8)  海 洋 化 学 研 究 蒙1 3巻 鋼1号 平 成 1 24

(6)

を作りだすことは出来ないため、 一般 には実験動物を用いて研究される。 例 えば、フッ素、錫およびバナジウムを 含まない飼料を作り、それをラットに あたえ て飼育すると、

20

日後に はやせ 細り、体毛がパサパサになってしまう。

普通の飼料を与えたラットはとても元 気で体重も増えていく。これらの元素 欠乏ラットの飼料を通常の飼料に 切 り替えると、元気を取り戻す。根気 よ く時間をかけて、ひとつずつ元素の必 要性が研究されて来た。微量元素発見 の簡単な歴史を、表3 に示した。

7. 

ヒトにおける微量元素

ヒトにおいて、ある元素が必要かどう かの実験はできないため、これまでは特 異な病気の発見や偶然に発見された病気

の観察から必要性が証明されていた。こ こでは、亜鉛とセレンについて紹介す る。

イランやイラクあるいはエジプトで 人間の成長が止まる「小人症」が多発し て いることが発見された 。体が小さい のみならず貧血、味覚や嗅覚の異常そ して性腺機能も発達していなかった。

アメリカのプラザド 博士が研究に着手 し、鉄剤を与えると貧血は治ったが、そ の他の症状は改善されなかった。色々 と調べた結果、「小人症」は亜鉛の不足 が原因していることを明らかにした。

これらの地域では、小麦やトウモロコ シのパン、あるいは豆を多くとり、鉄や 亜鉛を比較的多く含む動物性タンパク 質はほとんどとらない。つまり、「小人 症」の原因は日常の 食生活の亜鉛欠乏

表3 .動物における必須微量元素の発見の歴史

元 素 発見年 発 見 者

鉄 1745  Mengh101 

ョウ素 1820  Coinlet 

1928  Hart 

マンガン 193]  KemmererOrent と McCallum 

亜 鉛 1934  Todd 

コバルト 1935   Underwood とFilmer モリブデン 1953 

セレン 1957  SchwarzとFoltz クロム 1959  SchwarzとMeltz

スズ 1970  Schwarz

バナ ジウム 1971  HopkinsとMohr Stras1aSchwarzとMilne フッ素 1972  SchwarzとMilne ケイ素 1972  SchwarzとMilne ニッケル 1974  NielsenとOllerich

ヒ素 1975  Nielsen 

198 1   Richelmyer  

Transactions of T h e  R esearch lnslilule o f   Oreanorhemistry  Vol. 13.  No. I, A pril.21HHI 

証明された事項 貧血

甲状腺腫

ラットのヘモグロビン形成

マウス及びラットの成長や卵巣機能の正常化

ラットの成長、食欲、皮膚損傷、生殖機能の改善 ヒッ ジやウシにおける 成育因子

キサンチ ンオ キ シダーゼの活性 ラットの肝壊疸の回復

グルコース代謝、脂質代謝 ラットの成長

ヒヨコやラ ッ トの成長

ラットの成長

ヒヨコ の生育、ラッ トの頭蓋骨変形 ヒヨコやラ ッ トの 生育

ヤギ、 ブタの繁殖や出生率 ラットの成長、繁殖、造血に必須

(9) 

(7)

に よ る こ と が 判 っ た 。 小麦などには フィチン酸とよばれる化合物が多く含 まれ、これが胃や腸の中で少ない亜鉛 と結合するため、体内に吸収されず排 出されたのである。その後、遺伝的病気 である腸性肢端性皮膚炎やある種の脱 毛、味覚 ・臭覚異常は亜鉛欠乏によるも のであることが明らかにされた 。 さら

布して、体の中の過酸化水素や脂質の 過酸化物を分解し、酸化的ストレスか ら体や組織を防護していると考えられ ている。

8.

微量元素の一日の摂取必要量 先に述べた劇的な微量元素の欠乏症 は別にしても、わが国では、最近、鉄 に、亜鉛タンパク質の亜鉛フィンガー や亜鉛を欠乏している人が多くなって が単離精製され、亜鉛は遺伝情報に関 いることが懸念されている。諸外国で 係しているという重大な事実が発見さ は、この対策に、古くから、 一 日に摂 れた。こうして亜鉛は微量元素として 取すべき微量元素の必要量を規定して 鉄とならんで重要な位置を占めている いる。わが国では、ごく最近まで、カ ことが判った。亜鉛は体のいたるとこ リウム、カルシウム、リ ンおよび鉄以 ろで、亜鉛タンパク質や亜鉛酵素とし 外は定められていなか った。 しかし、

て、これまで

100

種類以上が発見されて

1999

3

月に、政府の 「規制緩和推進

いる。

3

カ年計画」の 一環として、多数の微量

中国の黒竜江省克山県で、成長が止 元素の 一 日必要量が設けられた。アメ まり、骨が曲がり、心原性のショック、 リカと比較して、新たに設けられたわ 不整脈あるいは心不全などのために長 が国の微量元素の 一 日必要量を表

4

に 生きできない風土病が発見され、克山

病と名付けられた 。

詳しく調査された結果、血液中のセ レンとセレンを含む酵素の 一つ である グルタチオンペルオキシダーゼ

GPx

が 欠乏していることが明らかにされた。

この地域では土壌中のセレン含有量が 極めて低いため、植物、野菜、家畜など

示 した 。

9.

金属を含む医薬品

微量金属はそれぞれ異な った特性を 持ち、かつ様々なタンパク質や酵素の 活性中心に存在して、生体反応の本質 的な役割を果たしていることが明らか になったため、それらの特徴を生かし にセレンが欠乏し、食物連鎖の頂点に て医薬品が合成され、実際に病気の治 あるヒトにもセレン欠乏が生じた 。そ 療に用いられている。以下に、幾つか こで亜セレン酸を 一週間に 一回患者に の例を挙げる。

経口投与したところ、この病気による

a)

鉄欠乏性貧血と コバルト

死者は急激に減少した 。 ヒトにおいて コバルトはビタミンB の最も重要 セレンは必要元素であることが確立さ な構成成分であるが、ヒトはビタミン た。セレンが欠乏すると、セレン酵素が B 1 2を合成できないため食物から取り込 合成されなくなる 。セレン酵素は、赤血 み、酸素運搬の機能を持つ鉄タンパク 球をはじめとして種々 の臓器に広く分 質であるヘモグロビンの合成を促進し

(10)  海 洋 化 学 研 究 第13巻 第1号 平 成124

(8)

4. 1

日に摂取必要な元素量

元 素 単 位 アメリカ 日 本'

ナトリウム N a   m g   I  100 3300 

塩素* CI• m g   1700 5100 

カリウム K   m g   1875 5625  2000 4000 

カルシウム Ca  m g   800 0 0  

  . .

リン* p   m g   800 0 0   400 900 

マグネシウム M g   m g   300 600 

  . .

鉄 Fe   m g   10 18 

  . .

ョウ素 I  • μg   150  1000 

フッ素 F *   m g   I  5 4  0   4  

亜 鉛 Z n   m g   15   50 

鋸 C u   m g   2 3  

, 

クロム Cr  m g   0.05 2 0   0 4  

マンガン M n   m g   2  5 5  0   10 

セレン Se  m g   0  0 5 0  2   0 2  

モリプデン M o   m g   0.15 0  5   0 3  

コバルト C o   m g  

ピタミン8 1 2 (コバルト) C o   μg   3.0 

*は非金属 CaFeM gにつ い て は 上 限 値 を 設 け な い

t

平 成11 331 日 「規制緩和推進三か年計画」閣議決定

している。

b) ガンと白金(プラチナ)

米国のローゼンバーグは、白金錯体

(シスプラチン=シスジアミンジクロ 口白金)はガ ンの増殖を抑制できるこ とを発見した。現在、肺ガン、食道ガ ン、胃ガン 、卵巣ガ ン、睾丸ガン、膀 眈ガンの治療を目的とした医薬品とし て広く用いられている 。シスプラチン はガン細胞の

D N A

に結合して、

D N A

合成を抑 制することが主な作用機構で

ある。

C)

リウマチと金(ゴールド)

結核苗の発見者コッホは、結核菌 の成長を抑制するために金イオンを 用いた。その後、リウマチ性関節炎に 金イオンが有効であることが見出さ れ、金ーイオウ結合をもつ錯体が注目

Transactions of T h e  R esearch  Institute  o f   Oceanochemistry Vol.13, N o.I,  April.2I

(11 )  

され、米国で経口投与ができる金製剤 オーラノフィンが開発された。オーラ ノフィンは、免疫抑制、抗炎症作用、

免疫グロブリンE産生の抑制効果など によりリウマチ性関節炎に有効と考え

られている。

d) 潰瘍とアルミニウム・亜鉛

アルミニウムを含むスクラルファー トと亜鉛を含むポラブレジンクは、共 に、胃腸粘膜のタンパク質と結合して 潰瘍部分をおおい、胃酸やペプシンの 作用から粘膜を保護したり、ペプシン と直接結合してその作用を停止させる 働きをも っている。両薬剤はともにわ が国で開発されたものである。

e)

躁鬱病とリチウム

炭酸リチウムが躁病に有効であると 発見されて以来、世界中で広く用いら

(9)

れている。

t) 炎症とセレン

つ遷移金属元素の 一つであるバナジウ ムやその錯体が、実験動物のみならず 酸化的ストレスから体を保護してい ヒト糖尿病の治療に有効であることが るセレンを含む酵素グルタチオンペル 明らかにされ、世界的に注目が集めら オキシダーゼの化学モデルとしての化 れるようになった。

合物が医薬品として開発されている。

ェブセレンと名付けられたセレンを含 む化合物は、酵素の百分の一程度の活 性を示すと同時に過酸化脂質の生成を 抑 制 す る 強 い 抗 酸 化 活 性 を も っ て い る。

g)

糖尿病とバナジウム

4 価や 5 価バナジウムイオンが実験 糖尿病動物の高い血糖値を正常化させ

a)

バナジウムのインスリン様作用発見 の簡単な歴史

1960

年代の終わりころ、古くから強 心配糖体として知られていたウアバイ

アン(キョウチクトウ科の植物の種子 中に存在)は、

N a+ , K+‑ATPase

を阻害す ること、およびラットの脂肪細胞にお いてインスリンと同様の作用を示すこ とが見出されていた。その後

1977

年 ることが明らかにされてから、米国を に、

Sigma

社の

A T P

製品中に酸化数+

5

中心として、これらのイオンを糖尿病 のバナデイトが混在しており、これが 患者に経口投与する試験が始められ、

Na+,K+‑ATPase

を阻害することが偶然 改善作用が認められた。我々のグルー に見出された。この二つの事実を合わ プでは、経口投与できるバナジウム錯 せると、ウアバインがインスリンを様 体を合成して、糖尿病を治療しようと

開発を進めている 。そこで、研究の背 景にある考え方と最近の動向を、次に 紹介する。

1   0.

糖尿病冶療薬として期待される バナジウム錯体

糖尿病は 1 型インスリン依存性糖尿 病と

2

型インスリン非依存性糖尿病と に大きく分類される。わが国の糖尿病 患者の

9 5 9 7

%は

2

型、そして

l 3 %

1

型であるのに対し、欧米の

1

型糖尿 病患者は全体の約

10 20

%を占めると 言われている。

2

型糖尿病の治療には、

作用を示すなら、

Na+,K+‑ATPase

の阻害 剤として見出されたバナデイトにもイ

ンスリン様作用があることが期待され た。そこで多くの人々が研を行った結 果、バナデイトはラットの脂肪細胞ヘ のグルコースの取り込みを促進する、

つまりインスリン様作用をもっている ことが判った。この結果にもとづいて、

in vivo

研究が展開され、

1987

年に、ス トレプトゾシン

(STZ)

で誘導した 1型 糖尿病ラットに

8 0 m M

の食塩水に溶か した

N a V 03

溶液

(0.8 mg/ml)

を飲料水 の代わりに与えると、

4

日後には正常 血糖値を示した。しかし、この溶液を 多数の合成薬剤が開発され用いられて 飲料水のみに変えると血糖値は元のよ いるが、 1 型糖尿病の治療にはインス うに高くなった。この事実は、バナデ リンの筋肉注射に頼るしかないのが現 イトが血糖降下作用を示す最初の例と 状である。近年、生体元素であり、か なった。バナデイトは一電子還元型の

(12)  海 洋 化 学 研 究 稟 1 3 巻 蒙 1 号 平 成 12年 4 月

(10)

酸化数+

4

のバナジルよりも毒性がある ことを報告した。この発見に続いて、

ため、バナジルを用いて同様の研究が カナダの

McNeil

らは、バナジル ーマル 行われた。その結果、バナジルにも血 トール錯体も経口投与で有効であると 糖降下作用があることが分かった。 報告した。我々は引き続き種々の配位 b)バナジウムのインスリン様作用発現 構造を持つ錯体を見出した。 1999 年ま

の機構 でに報告されている経口投与で有効な

飲料水に溶かしたバナジルあるいは バナジル錯体を図

4

に示した。これら バナデイトが共にインスリン様作用を の中で、バナジル_ピコリン酸錯体が 示すことが判ったため、どちらの酸化 有望である。

状態が活性型であり、どのような機構 d) バナジウムによる糖尿病発症の防止 が作用しているかが追究された。エピ

5

日間連続して

S T Z

を投与したマウ ネ フ リ ン 共 存 下 で ラ ッ ト 脂 肪 細 胞 に スは、放置すると糖尿病を発症する。

+3

+4

または+

5

バナジウム

(V)

を加 しかし、

S T Z

投 与 後 の

6

日目から えると、+

3

および+

4 V

はインスリン

voso

を一週間毎日投与すると血糖値 と同様に細胞からの脂肪酸の放出を抑 は 正 常 値 を 維 持 す る 。 すなわち、

制するが、+5 Vは抑制しなかった 。+

3 voso4

を毎日与えると

S T Z

誘導糖尿病

V

は+

4 V

に自動酸化されるため、+

3 V

の発症は阻止されることが判った。こ は+

4 V

に酸化されて効果を発揮する の機構について、

N O

に関して検討し と考えられた。また、+

4 V

はグルコー たところ、バナジウムはインターフェ ス ト ラ ン ス ポ ー タ に 作 用 す る こ と 、 ロン

‑g

とリポポリサッカライドで活性

phosphotyrosine phosphatase

を阻害する 化した

S T Z

糖尿病マウスから得たマク ロフ ァージからの

N O

産生を用量依存 ニットに存在する

tyrosine kinase

を活 的に抑制することが判った。バナジウ 性化すること、あるいは脂肪細胞内に ムは

N O

との関係において糖尿病の発 取り込まれた+

4 V

はインスリンレセ 症を抑えうる可能性が示唆された。

プタやグルコーストランスポータとは

関係のない酵素系に作用している可能 以上、微量元素とバナジウムについ 性などが提案されているが、まだ統 一 て紹介した。微量元素と健康や病気と 的な機構は明らかでないのが現状であ の関係は、今後さらに研究を展開する る。作業仮説としてのバナジウムのイ 必要がある。バナジウムのインスリン ン ス リ ン 様 作 用 の 機 構 を 図

3

に示し 様作用の本質はまだ未解明であり、作

た。 用機構にもとづく錯体の開発は

21

世紀

C)

経ロバナジウム錯体の開発研究 の課題になると思われる。分子量 6,000 1990 年、著者らは初めてバナジルー のインスリンの役割に、原子量 51 のバ シ ス テ イ ン メ チ ル エ ス テ ル や バ ナ ジ ナジウムがどこまで迫ることができる ルー酒石酸錯体を経口投与すると、

S T Z

かは、この領域の研究の核心である。

糖尿病ラットの血糖値を正常化させる

Transactions of T h e  Research Institute or 

Oceano,・hemistry Vol.13. No.I. April.2I (I 3) 

(11)

I エビネフリン│ ̀

/3受容体

インスリン

l   │  

I

アデニレー

: 1/

クラーゼ

I ,; ' ‑‑‑

1  活 性 型 チ ロ タ 方 王 三 町

'  , 

インスリン受容体

i  

、,

 '  タンバク質チロシンのリン醸化

1活性型プロテ

1

ン;ナーゼI

I;舌性型リバ・ーゼ1

: 

ホスホジエステラーゼ

' 5 ' A M P ,  

ニ │  

A    A  

i ロ I  

グルコース・

トリグリセリド トランスポーター

.   ( G L U T 4 )  

̀‑‑

V 3+V O叫 V 0 3 ‑効果なし) ] 

物質の移動または代謝

脂肪細胞にエピネフリンを作用させると、 /3‑受容体に作用してアデニレートシクラーゼを活性 化する 。この酵素の作用によりA T Pより生成されたc A M Pは プ ロテインキナーゼを活性化する。こ の酵素は、リパーゼを活性 化し、した がってトリグリセリドから脂肪酸を生成し、細胞外に放出さ せる 。この系にインスリンを添加すると、イン ス リン受容体に結合してチロシンキナーゼを活性化 する 。すなわちタンパク質のチロシンがリン酸化され、これが情報源となり、さまざまな反応が生 ずる。その中でグルコーストランスポーター (CLUT4) を膜中へ移動させる反応が生じて、細胞外 のグルコースが細胞内に取り込まれる 。取り込まれたグルコースが、ホスホジェステラーゼを活性 化すると、これはc A M P5'‑AMPに変換させる 。すなわちc A M Pのレベルが低下するために、先 に述べたプロテインキナーゼ の活性化が低下し、結果的に脂肪酸の遊離が抑制される。この脂肪細 胞系においてインスリンの代わ りにバ ナジウムを加えると、脂肪酸の遊離が抑制される。バナジウ ムの作用点には、 1) イ ンスリン受容体、 2) グルコーストランスポーター、そして 3) 細胞内のホ スホジエステラーゼなどの酵素系 の3点が考 えられる 。

図 3 .バナジウムのインスリン様作用の機構

(I  4)  海 洋 化 学 研 究 第 13 巻 第 1 号 平 成 12 年 4

(12)

様式 バナジル錯体

C H 2  

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バ\/ N H 2   C H  I‑ I  

H 3 C⑩  C H‑ N H i .  S ・ C H 2  

C H 2  

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H 1 7 C 8  

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13 

4.

血糖正常化作用を持つバナジル錯体と配位様式

引用文献

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2) 桜 井 弘 編 著 : 元 素

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OceanochemislyVol.13. N o.  I.pril .ZIHHI (I 5) 

Referensi

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