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福島県の大学連携による教育事業

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福島大学地域創造

第29巻 第2号 73〜81ページ 2018年2月

Journal of Center for Regional Affairs, Fukushima University 29 (2):73-81, Feb 2018

研究ノート

は じ め に

 本稿は,福島県内の大学コンソーシアムであるアカ デミア・コンソーシアムふくしま(以下,ACF)の うち16校が共同で取り組んだ,文部科学省大学間連携 共同教育推進事業の取組「ふくしまの未来を拓く『強 い人材』づくり共同教育プログラム」(以下,「強い人 材」事業)の記録と,地域と連携した人材育成の展開 を論考するものである。

 「強い人材」事業の中では196件に及ぶ教育プログラ ムを実施しており,それらを担当した教員による先行 研究がある。高森(2014)は「合宿型討論会」の企画 立案の背景とその内容を概説の上,その成果として参 加学生等から集められたキーワードに対する共起ネッ トワーク分析を試みている。白石ほか(2015)は「キッ ツ森のようちえんへの参加」の実施にあたり,森のよ うちえんに参加する幼児・児童と学生が接するための 事前学習や実践,その後の振り返りから読み取れる学 生の変化を詳述している。池田(2016)は「ふくしま キッズ博」における人材育成の達成状況を,「強い人 材」事業の質保証システムから得られた成果を根拠に し,論考している。

 しかし,こうしたそれぞれの教育プログラムを束ね る「強い人材」事業そのものの全貌を詳説する研究は ない。また,それによる成果,具体的には大学コンソー

シアムの中で開発された教育プログラムと,後述する アウェイ感と気づきの学習の関係など,本取組の特色 についての論究はこれまで十分に行われていない。そ こで本稿では,すべての教育プログラムの担当教員と 二人三脚で個々の教育プログラムの開発や実施,成果 の抽出というすべての段階で関わった事務局という視 座で,この「強い人材」事業そのものを俯瞰し,「強 い人材」事業の考え方と,各教育プログラムに共通し て見られた成果を詳述する。

 1章では,「強い人材」事業の概要を説明する。2 章では,その取組により得られた成果を,実績に基づ き分析する。3章では,この取組を契機に始まった,

福島県内の大学と地域が連携した教育プログラムの推 進と,大学コンソーシアム内での位置づけについて整 理する。4章では,この取組で得られた有意義な成果 を継続するにあたり立ちはだかる課題を,カリキュラ ム編成と財源獲得の視点から整理する。このことを通 して,今後どのような対応,とりわけ研究が必要なの かを考察する。

1.取組の概要

⑴ 大学間連携共同教育推進事業とは

 本事業は「国公私立の設置形態を超え,地域や分 野に応じて大学間が相互に連携し,社会の要請に応 える共同の教育・質保証システムの構築を行う取組」

Educational projects through Inter-University in Fukushima prefecture

IWAMOTO Masahiro

福島県の大学連携による教育事業

大学間連携共同教育推進事業を例に

福島大学地域連携課  

岩 本 正 寛 

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に対する補助を通して「教育の質の保証と向上,強 みを活かした機能別分化を推進すること」を目的と し,2012年に文部科学省が始めた,大学改革等推進 補助金を財源とする事業である。初年度の予算規 模は30億円で,取組1件あたりの補助金基準額は 6,600万円,各取組の推進期間は5年間(2012〜

2016年度)である。取組の形態はイ)地域連携とロ)

分野連携から選択でき,初年度の2012年度には地 域連携が25件,分野連携が24件の計49件が選定され た。「強い人材」事業は地域連携の取組として選 定された。

⑵ 「強い人材」事業の概要

 「強い人材」事業は,福島県固有の課題であるイ)

低い進学率,ロ)進学希望者数に比して小さい収 容定員が呼び起こす18歳人口の流出により,人材 確保が困難な本県において,地元で活躍できる人材 を大学間連携で育むものである。これにより,地元 に根差した人材育成を望む地元産業界からの要望に 応えると共に,その過程で教育の質の保証と,教育 プログラムの共同開発・実施による高等教育改革を 実現する。

 推進体制は福島大学を代表校とし,ACF の正会 員機関のうち大学,短大,高専の16校を連携校に,

同じく正会員機関である県立テクノアカデミー3校 を協力校と位置づけた。また,ステークホルダー としてACFの特別会員7機関10を位置づけている。

 この取組における「強い人材」とは,イ)課題探求・

解決力を持ち,ロ)情報発信力が高く,ハ)つなぎ・

導く力を持つ人材と定義する。その力を持った高度 専門職業人ないし専門職業人を,大学・ステークホ ルダーが一丸となって育成し,質保証を試みる。

 具体的には図1のように5つのプロジェクトで構 成される。2009〜2011年度に実施した大学教育充 実のための戦略的大学連携支援プログラム11(以下,

戦略事業)で培ったノウハウを凝縮・再編した4つ のプロジェクトを設け,その中では教育プログラム を開発する。そして,このプログラムに適した質保 証システムのモデルを,5つ目のプロジェクトで開 発する。

⑶ 「強い人材」事業の推進体制

 「強い人材」事業の推進では,この事業に特化し た組織を構築する時間を省き,事業推進中の混乱を 抑えるべく ACF の仕組みを活用していることが特 徴である。そのため,学長等で構成された理事会が 意思決定を,また部局長等で構成された事業推進会 議が具体的な事業推進の方法を確認する。事業評価 については,本取組の成果が蓄積され始めた2014年 に事業評価委員会を発足させ,この委員会が外部評 価と内部評価の双方の観点で行っている。この事業 評価委員会の構成員は,3名が連携校から,1名が ステークホルダーとして ACF の特別会員から選任 されたほか,県内民間企業と他県大学コンソーシア ム関係者が1名ずつ選任されており,計6名の構成 である。

 教育プログラムは連携各校に在職する教員が中心 となって計画し実施しているが,その過程では「強

図1 「強い人材」事業の5つのプロジェクトの相互関係

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い人材」事業の事務局となっている福島大学地域連 携課(ACF事務局)の研究員も必ず関与し,教員 と歩調を合わせ,教育プログラムを設計する作業 を担うほか,ACF正会員機関に対する募集・周知,

関係する機関間の調整,成果抽出などの形で教員を 支援する。特に,実際の教育プログラムの実施時に その運営を補助することで,本稿のような俯瞰する 視座で事業実績を報告することができ,また学生の 生の声を仕組みの改善に役立てることもできてい る12。通常,個々の教育プログラムを担当する教員 は県内の多様な大学の学生すべてに対応した普遍的 な教育プログラムを設計することに不慣れで,前例 や他県の事例を掌握している ACF事務局がその担 当教員と共に考えるという仕組みが定着した。

 同じく福島大学は代表校として「強い人材」事業 の経理・事務手続き全般を行っており,各教育プロ グラムで必要な調達や手配,諸手続きは,その教育 プログラムの担当教員の在職する大学ではなく,福 島大学が一括して行っている。これには,事務機能 を集約する合理化の目的だけではなく,連携校の担 当教員の業務量軽減を図り,その分の余力を大学間 連携の教育プログラムの開発・改善に充てていくよ うな狙いがある。

⑷ 「強い人材」事業の変遷

 「強い人材」事業を実施した5年間は大きく4つ のタームに区分できる。

 まず,2012年度と2013年度は企画実施の準備・試 行の段階と位置付け,先の戦略事業で実施した教育 プログラムを発展させたものや,新規で創設した教 育プログラムを多数実施した。

 2014年度には教育プログラムのカリキュラム化や 質保証の試行を目指し,各教育プログラムの担当教 員にはシラバスの作成を,また学修成果抽出のため 学生には「共通ワークシート」を作成することを義 務付けた。

 2015年度にはメタ・ルーブリックの開発が実現し,

同時に「自己評価シート」の運用も開始するなど,

本取組で目指していた質保証システムのモデルが完 成した。

 2016年度にはこれまでの教育プログラムの統廃合 を行い,教育効果やその質保証の有効性,独立採算 での実施可能性が高いものに集中することとした。

なお,この年から ACF として「参加証明書」を発 行する制度が始まり,学生本人が簡単な手続きを行

えば,教育プログラムへ参加したことによる成果を 視認できるようになった。また一部の連携校では,

この参加証明書を正課授業の単位認定に用いる根拠 の一つと位置付け,制度を積極的に活用するよう促 した。

 次に,この各教育プログラムに参加する学生数に ついて,事業開始時の見込みでは県内の大学・短大・

高専の学生の3.0%相当の人数である年間600名と考 えていたが,実際には東日本大震災後の課外活動に 対する関心の高まりの影響か,その1.6倍に及ぶ年 間平均995名の学生が参加した13。実施した教育プ ログラムの件数と参加学生の変遷は,図2のとおり である。

図2 教育プログラムの件数と参加者数の変遷

2.得られた成果

⑴ 質保証システムの構築

① 「強い人材」の具体像の想定

 この取組では「強い人材」づくりを掲げている が,その「強い人材」の像に具体性がないことが,

取組に着手した当初からの課題だった。その課題 を克服する一つの方法として,この「強い人材」

像の具体化を目指し,学生と教職員が一丸となっ て議論を行う「合宿型討論会」を2012年度より実 施した。

 この「合宿型討論会」については,高森(2014)

が詳しいため本稿では概略を説明する14。この合 宿は,福島県内で既に活躍する「強い人材」や,「強 い人材」を欲する企業等の経営者による話題提供 から始まる。その提供された話題と,討論会のテー マ(表1)に基づくグループ討議を行い,成果を まとめる。ここで引き出された成果が「強い人材」

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の一つの具体像となるよう設計されている。後述 のルーブリック開発でも,各観点を詳述する文章 にこの合宿型討論会で得られた「強い人材」に関 する説明が役立てられている15

確認し,必要であれば軽微な編集をし,使用す る17

 また,共通ワークシートの欠点を克服するべく,

このメタ・ルーブリックを併記した自己評価シー トの運用も同時に始まった。この自己評価シート は,各観点各項目に設けられたリフレクティブク エスチョンへの回答が自己評価の根拠となるよう に設計されており,それまでの弱点だった正確性 について,ある程度の克服が実現した。また,こ の記入にあたっては学生同士のピアレビューを認 めており,それによっても客観性を高めることが できた。

⑵ アウェイ感と気づきの学習の確立

 「強い人材」事業で構築できた教育プログラムの 基本構造であり代表的な成果として,アウェイ感に よる気づきの学習が挙げられる。アウェイ感とは,

大学間連携の教育プログラムに学生が参加したとき に学生本人が自覚する,異質の他者との出会いによ り生じる感覚を言い表したもので,いわば能動的学 習の契機のことである。ここでの異質の他者とは,

イ)所属する大学や学部の違いによりカリキュラム が異なり,その結果生じる学術的なバックグラウン ド,ロ)学生と社会人などの属性,ハ)年齢の違い による経験などが異なる他者のことをいう。

 たとえば,「強い人材」事業で実施した教育プロ グラムの中に「発電所見学会」というものがある。

そこで,本稿ではこれを一つの代表例として,アウェ イ感と気づきの学習を説明する。

 「発電所見学会」は,東日本大震災に伴う東京電 力福島第一原子力発電所の事故以降,福島県民にと り大きな関心事となっている発電の方法とその経済 性について,実際に県内外の発電所を見学するもの である。この教育プログラムは会津大学短期大学部 産業情報学科の教員が考案したもので,この教員が 受け持つゼミナールの校外活動と位置づいているた め,参加学生には経済学の視点を持つ者が多い。し かし,大学間連携の教育プログラムとして開放さ れ,その題材ゆえに他大学の工学系の学生の参加数 も年々増加した。また,そうした学生側の期待に応 えるように,受け入れる発電所側も施設の心臓部も 含め18,通常は見学できない装置等を見学する段取 りを整え,さらに理解するためには高度な知識が必 要となるようなことでも,平易な言葉により丁寧に 説明していただけた。その結果,たとえば最先端  表1 「合宿型討論会」のテーマの変遷

実施年月

2013年3月 求められる強い人材へ向けて

2013年8月 目指すべき「強い人材」とは

2014年3月 「強い人材」を育むために

2015年2月 「強い人材」への道しるべを描こう!

② 共通ワークシートの導入

 2014年からは共通ワークシートを導入した。こ れは,各教育プログラム間で書式を揃えた,学生 の学習成果を抽出するためのワークシートで,学 生本人が教育プログラムの参加前後に記入するも のである。2015年度からは簡易なルーブリック16 を参照しながら記入するよう改良し,成果抽出 を行った。学習成果の測定は,各自が設定した到 達目標の達成の度合いにより行われる。

 しかしこの共通ワークシートの記入にあたり,

学生がルーブリックを参照しないという課題が あった。また,同程度の能力を持つ学生の間でも,

その学生の向き合う姿勢や性格により評価に差が 生じる課題があった。具体的には,ルーブリック を読み飛ばす学生や自己評価が甘い学生は高い学 習成果が得られたかのような成果となり,ルーブ リックをしっかり読み,厳格な自己評価を行う学 生は低い学習成果しか得られなかったかのような 成果になるという,教員の感覚と正反対になる傾 向があり,正確性が課題となった。このことにつ いて,ルーブリックに目を通すよう教員が指導す るだけでは限界があるため,すべての教育プログ ラムで用いる共通のルーブリック(メタ・ルーブ リック)の開発を急ぐことと並行し,学生にその ルーブリックを確実に参照させつつワークシート に記入させる方法について,引き続き検討を重ね た。

③ メタ・ルーブリックと自己評価シートの導入  この取組の質保証の要であるメタ・ルーブリッ クは,2015年4月に開発に着手し,同年10月に完 成した。このメタ・ルーブリックを,各教育プロ グラムの担当教員が教育プログラムとの整合性を

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の技術を用いた石炭火力発電所を見学したときに,

イ)化石燃料の使用量を抑制するための工夫に強い 関心を持つ学生と,ロ)石炭を微細に粉砕する技術 の高さに強い関心を持つ学生によるミクスチャが生 じた。見学後に行う合同ゼミ形式のリフレクション は,こうした経済学と工学のそれぞれの視点で議論 が進むため,自らとは異なる視点の知見に触れるこ とができる。この「発電所見学会」は,学生と同様 に関心を持つ教員の参加も認めているため,学生は 他大学の教員による助言からもアウェイ感を得られ る。こうして参加した学生は自らの知識の空白を自 覚し,そのことがたとえば卒業研究における論考の ように,学生本人の能動的な学習を促す効果として 現れている。こうした教育効果は,総合大学のない 福島県においては大学間連携により初めて得られる ものであり,「強い人材」事業を代表する成果であ ると考える。

なるのは,複数の教育プログラムの参加経験によっ て,幅広い見識と経験を持った人材を育むことであ る。本項では,そのような複数の教育プログラムに 参加をした学生の実像を確認する。

写真1 「発電所見学会」の様子

⑶ 複数の教育プログラムに参加する学生の出現  「強い人材」事業で実施した教育プログラムは,「強 い人材」としての力をつけるための仕組みである必 要があるため,それぞれがある程度の「強い人材」

を育むことができるよう設計されている。よって,

学生が一つの教育プログラムだけに参加したとして も,事業そのものがアラカルト形式を想定していな いため,その教育プログラムの範囲内の「強い人材」

としての力がつけば,それで問題がない。ゆえに,「強 い人材」事業で実施する教育プログラムの参加者は,

1つの教育プログラムだけに参加する学生が多い傾 向がある。

 しかし,本取組の趣旨を考えると,やはり理想と

表2 本取組における学生の教育プログラムへの    参加件数

件数 1件 2件 3件 4件 5件以上 学生数 959 199 72 24 16

割合 75.5% 15.7% 5.7% 1.9% 1.3%

 表2は本取組の推進期間中の各教育プログラム参 加件数が確認できた学生1,270人分の分布で,複数 の教育プログラムに参加した学生は全体のおよそ  1/4にあたる311人であることがわかる。

 表3 複数の教育プログラムに参加した学生の     校種別人数

四年制 短大 TA 高専 医療系 学生数 177 111 12 全体に対する割合 56.9% 35.7% 2.6% 3.9% 1.0%

各校種内での割合 21.6% 31.5% 32.0% 24.5% 12.0%

注1 TAはテクノアカデミーを指す。

注2 医療系として,福島県立医科大学と奥羽大学の在学生を 数えている。

注3 全体に対する割合とは,本表に掲載した学生311名の中で の割合である。

注4 各校種内での割合とは,学生1,270名を各校種ごとに集計 し,その中に占める複数の教育プログラムに参加した学生 の割合である。

 また,表3は複数の教育プログラムに参加した学 生の所属する校種別人数である。一般に短期大学は カリキュラムに余裕が少なく,かつ保育や幼児教育,

食物栄養などのように現地実習の多い分野の学科が 多いため,本連携取組のような課外活動への参加が 困難とされるが,実際には複数の教育プログラムに 参加した学生の35.7%が短期大学の学生であり,さ らに複数の教育プログラムに参加した学生が四年制 大学より短期大学に多く在学していた傾向があるこ とも確認できる。この中には,短期大学在学中の2 年間に8件の教育プログラムに参加している学生も 含まれており,実際に大学間連携の教育プログラム に学生が参加できるかどうかは,学生本人の時間の 使い方と積極性によって決まる側面があるといえ る。

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⑷ 学生の進路選択への影響

 本取組で実施した教育プログラムに参加した学生 は,卒業後に地元定着が実現できているのか。2017 年11月に実施した調査の速報値によれば(表4),

本取組に参加した学生の63.6%が福島県内に就職 し,27.2%が県外に就職している。就職した者だけ に限れば,70.1%の学生が県内に就職している。福 島県内の大学生の35.1%が福島県内に就職している ことを考えると19,本取組で実施した教育プログラ ムに参加した学生の7割が福島県内に就職したこと は,本取組の大きな成果といえるだろう。

 また,学校基本調査によると,福島県の四年制大 学から大学院への進学率は9.4%,短期大学卒業後 の四年制大学への編入は5.0%という水準であるた め20,「強い人材」事業で実施した教育プログラム に参加した学生の1割弱が進学している点も特筆で きる。これについて,たとえば短期大学の場合,前 項で述べたように短期大学の学生は積極的に教育プ ログラムに参加しており,四年制大学の学生と接す る機会が他の学生に比して多くなっている。この結 果,四年制大学の授業内容やカリキュラムに関する 生の声に接することができ,それが進学を促す要因 の一つとなった可能性があると推察される。

 その結果,この「強い人材」事業については6名 の事業評価委員が付した評点の平均が3.2となり21, 本取組の目標としていた成果を得ることができたこ とが確認された。

3.地域と連携した人材育成の展開

⑴ 福島県中小企業団体中央会との協働

 本取組の実施によって,地域と連携した人材育成 はどのように展開したのか。本章ではステークホル ダーとなる各機関の側に軸足を置き,本取組との関 わりを整理する。

 まず特筆すべきは ACF の特別会員である福島県 中小企業団体中央会(以下,中央会)との協働の例 で,福島県の中小企業を紹介する冊子を学生がPBL

(Project‑Based Learning)形式の教育プログラム の中で制作した事例が挙げられよう。この事業は,

本来は学生教育を想定していない事業で22,若者目 線で福島県内の中小企業を紹介する冊子が作られれ ば目標を達成できるものである。しかし,制作物に ついて一定の成果を得るためにも,真に若者に対す る訴求力の高い冊子を作ることが必要で,その対策 をACFと協議した結果,学生が中小企業を取材し,

その成果を冊子にまとめることができれば,自ずと 若者目線になるのではないかという結論に至った。

 この制作の過程では「強い人材」事業で培った教 育プログラム形成の手法を用いるほか,当時の「強 い人材」事業の中では,まだこうした明確な PBL の実践例が少なかったため,開かれた内部質保証シ ステムのモデル開発にあたって役立つ可能性がある と判断され,ACF側は「強い人材」事業に位置付 けて実施した。この冊子制作の手法については,類 似したものが既に南大阪地域大学コンソーシアムの

「リンカーンマッチングプロジェクト」で確立され ていたため23,その成果物を参考に,制約の多い受 託事業の下で中央会として円滑に実現できるよう,

具体的な段取りを中央会と連携校の双方の教職員で 検討した。そして2015年2月に県内中小企業紹介冊  表4 本取組に参加した学生の進路

就   職 進   学

県 内 県 外 県 内 県 外

人 数 131 56 12

割 合

既卒者の進路全体

63.6% 27.2% 3.4% 5.8%

就職した者のみ 進学した者のみ

70.1% 29.9% 36.8% 63.2%

注 2014年以降の卒業生のうち,現在の勤務先・進学先が把握 できている206名を対象とした。

⑸ 事 業 評 価

 先述のとおり,2014年度から ACF の事業評価委 員会が「強い人材」事業の進捗状況と成果に関する 評価を行っている。最終年度である2016年度の事業 評価委員会では,取組を推進した5ヶ年(2012〜

2016年度)を総括する評価が行われ,表5の4段階

評価で取組の計画と遂行状況,その成果が評価され た。

 表5 事業評価委員会における評点とその指標

指      標 評点

目標を上回る成果を得ることができた

目標の成果を得ることができた

目標の成果を得るまであと一歩である

目標までかなり遠い

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子「Pride」を刊行することができた。

⑵ 福島県との協働

 ACF としては福島県からの受託事業を2011年度 と2012年度に実施したが,共に教育事業ではなかっ たため,福島県との教育事業の協働は「強い人材」

事業の実績を基に2016年度から始まった2つの事業 が初めての例である。一つは,それまでの「会津高 原 森林の楽校」や「リサイクル体験ツアー」など,

林業の振興,森林環境保全などを目的とした取組の 実績から,森林自己学習支援事業という新たな補助 金制度が創設された。この事業の展開については,

本誌別稿にて詳述しているため24,本稿では割愛す る。

 また,同年に「首都圏学生と連携した情報発信強 化事業」が始まった。この事業は具体的には,首都 圏の大学生が参加するスタディツアーの行程を本県 の大学生が企画・検討し,県内の大学生が首都圏の 大学生に同行して随所で本県のことを案内し,SNS を通じて県内外の視点から情報発信をするというも のである。「強い人材」事業の教育プログラムでも 2015年にスタディツアーのプランを組み立てる教育 プログラムの実践例があったため,単に福島県との 協働事業というだけではなく,この「強い人材」事 業で実施した教育プログラムの後継という位置づけ になる。

⑶ 福島民報社との協働

 ACF の特別会員との協働の事例に限らず,民間 企業との協働の事例もある。本項では福島民報社と の協働の実例を紹介する。

 福島民報社と ACF正会員大学およびその学生の 関わりは,「ふくしまキッズ博」の実施に遡る25。 福島市内4大学の学生により編成された「ふくしま キッズ博学生事務局」はこのイベントの初年度であ る2012年からあり26,「ふくしまキッズ博実行委員 会」の事務局を持つ福島民報社の社員は学生たちと 打合せや準備などで日常的に関わる機会があった

27。この「ふくしまキッズ博」における実績から,

「イベント運営までの計画・準備の作業すべてが PBLには欠かせない」という理解を同社より得られ,

2016年度には新たな教育プログラムを構築し協働す る提案を,福島民報社から得た。これは,いわゆる ロックコープスのようなものであり,社会貢献活動 を学生への教育活動に役立て,参加した学生には「風

とロック芋煮会」の無料観覧の特権を与えるという ものであった。

 しかし社会貢献活動に関心のある学生が必ずしも 大型音楽フェスに興味があるとも限らないなど,実 現にあたって懸念があった。そのため,学生の社会 貢献活動の場としてこの「風とロック芋煮会」を活 用できないかという提案をACF側から行い,「風と ロック割り箸大作戦」が成立した28

⑷ 第3期中期ビジョンの策定

 ⑴〜⑶で述べたような福島県内の多様な機関と協 働し教育事業を展開している実績を基に,2016年5 月に策定した ACF の第3期中期ビジョンでは,こ うした教育プログラムの継続を明記した29。  なお,この第3期中期ビジョンの策定は,ACF の理事長校である福島大学の法人評価において,平 成28年度の実績のうち注目される事項として特記さ れた30。このように,地域内の大学間が連携して中 長期のビジョンを策定し,共有したことの先進性は 特筆されるものである。

4.課題と展望

⑴ 正課授業との関係

 各大学の正課授業と「強い人材」事業の各教育プ ログラムの関係については,今後の課題の一つであ る。具体的には,各大学のカリキュラムの中でどの ように大学間連携の教育プログラムを位置付けるべ きか,という議論が各大学の中で成熟する必要があ る。大学としての実像を持たない ACF では,どの ように教育プログラムを大学間連携で展開しても,

それは課外活動としての定着が限界であり,それを 大学の正課のカリキュラムの一部と呼ぶことはでき ない。そのため,各連携校において大学間が連携し た教育プログラムという特色や利点を生かしつつ,

正課のカリキュラムに組み入れ定着させることを考 える必要がある。

 なおこの課題について,一部の教育プログラムで はシラバス設計の段階で正課の授業との関係性を明 記しており,また授業中にも案内するなど,担当教 員の中で対応できる範囲で徐々に改善が行われてい ることを付記しておく。

⑵ 事業経費の獲得

 「強い人材」事業で実施している教育プログラム

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の多くは,補助金の交付を受けて実現した教育プロ グラムである。したがって,補助金交付の終了後に,

そこで必要となる事業経費を獲得することは,継続 のための大きな課題である。この課題については,

先述した福島県や福島民報社との関わりにより,別 の補助金の交付や資材の提供などを得ることがで き,課題の多くを克服している。

 また,国内でも北海道,岩手県に次いで広大な福 島県で教育プログラムを展開するために,その拠点 間の移動手段に要する費用負担も軽視できない課題 である。このことについて,たとえば教育プログラ ムの一つとして実施した「キッツ森のようちえんへ の参加」では,連携校が保有する小型バスに他大学 の学生を乗せてフィールドへ移動することが2016年 に実現し,克服し始めている段階である31

お わ り に

 本稿で紹介したように,大学間連携共同教育推進事 業の取組として福島県内の高等教育機関と官界・産業 界が一丸となって取り組んだ「強い人材」育成のため の仕組みは,アウェイ感による気づきの学習を中心と した教育効果と,多種多様な大学で共通に活用できる 質保証システムのモデル開発という成果を残すことが できた。今後は事業経費の負担問題を中心に,この良 好な仕組みの性能を落とすことなく機能を持続するた めの議論を尽くすことが求められる。そのためには,

こうした大学間の連携による教育効果が各大学にとり 有効なものであることを証明するなど,本稿で説明し た以上に精緻な研究が不可欠である。

 本稿はそのような研究につなげるための論点整理で ある。今後は本稿で述べたような大学コンソーシアム と個々の大学が担う教育活動の役割分担や,課外活動 として始まった教育プログラムの受益者負担のあり方 を論究していく必要があると考える。

参 考 資 料

文部科学省「大学間連携共同教育推進事業 公募要領」

2012年4月

文部科学省・日本学術振興会「平成27年度 大学間連 携共同教育推進事業」2016年

株式会社リクルートキャリア就職みらい研究所「大学 生の地域間移動に関するレポート2017」2016年  9月

参 考 文 献

池田  洋子「ふくしまキッズ博における学生事務局の 活動報告」『人間学研究所所報』第19号 桜の聖 母短期大学 2013年

高森  智嗣「ふくしまの未来を拓く「強い人材」づく り共同教育プログラムの取組」『第63回東北・北 海道地区大学等高等・共通教育研究会 報告書』

東北・北海道地区大学等高等・共通教育研究会  2014年2月 pp.91‑95 

白石 昌子,柴田 卓,柴田 千賀子「「森のようちえん」

への参加が学生に及ぼす影響」『福島大学総合教 育研究センター紀要』第18号 福島大学総合教育 研究センター 2015年1月

池田  洋子「ふくしまキッズ博における学修成果〜ふ くしまの未来を拓く「強い人材」づくり共同教育 プログラム〜」『人間学研究所所報』第22号 桜 の聖母短期大学 2016年

1 文部科学省(2012)p.1

2 文部科学省・日本学術振興会(2016)p.3参照 3 文部科学省(2012)p.2

4 文部科学省(2012)p.2

5 http://www.mext.go.jp/a̲menu/koutou/

kaikaku/renkei/1323138.htm(2017年11月26日 参 照)

6 学校基本調査によると,ここ10年間は40%〜45%

前後の水準である。これは,全国平均より10ポイン ト近く低い数値である。

7 同じく学校基本調査によると,ここ10年間は進学 を希望する高校生の約半数が流出している状況で,

この水準は国内下位10位以内に位置する。

8 福島大学,会津大学,福島県立医科大学,いわき 明星大学,奥羽大学,郡山女子大学,日本大学工学 部,東日本国際大学,福島学院大学,放送大学福島 学習センター,会津大学短期大学部,いわき短期大 学,郡山女子大学短期大学部,桜の聖母短期大学,

福島学院大学短期大学部,福島工業高等専門学校の 16校である。

9 これは,この3校が文部科学省の所管外であり,

本事業費の投入が認められないためである。

10 福島県,福島県市長会,福島県町村会,福島県商 工会議所連合会,福島県商工会連合会,福島県中小 企業団体中央会,福島県農業協同組合中央会の7機 関である。

(9)

11 2009年度〜2011年度に実施した。

12 大学間連携により感じる教育効果を学生が発見す ることもあり,たとえば本稿で述べた「アウェイ感」

という語も元々は学生が使い始めた表現である。

13 初年度である2012年度は下半期から事業が開始し たため,5ヶ年の総数に4.5を除して平均値を算出 している。

14 高森(2014)pp.92‑94

15 たとえば情報発信力について,「自らが経験した 地域における活動(フィールドワーク,ボランティ ア,サークル活動等)を他者に共有することができ る」を最も低いStep 1に,「公に公開されるメディ ア(学内外の広報誌,学内外に公開する活動報告書,

インターネットメディア(Facebook や Twitter な どのSNSは除く))に対して,自らの地域における 活動を通じた発見・課題を発信することができる」

を最も高い Step 6に位置付け,この間の各段階は この両端からロジカルに想定している。

16 後に完成するメタ・ルーブリックとは別のもので,

ルーブリックの運用の試行のために作成したものと いう位置づけに近い。

17 より正確には,教育プログラム間で用いるルーブ リックの尺度が,編集の過程で大きく変わることを 防ぐため,事務局で素案を作成し担当教員に確認を 受け,最終的には事務局と担当教員が調整しながら 準備している。

18 たとえば写真1で示したのは水力発電所のタービ ンの内部であり,筆記具を床に落としただけで長期 に渡る分解点検が必要となるような,受け入れ側に とってリスクの高い装置の内部であるが,見学させ ていただけた。

19 株式会社リクルートキャリア就職みらい研究所

(2016)p.19 なおこの調査は大学生と大学院生を 対象に行っており,四年制大学と比して地元進学・

地元就職の多い短期大学が調査対象に含まれていな いため,実際にはこの数値より高い数値が福島県内 の地元就職率となると考えられる。

20 共に2017年の学校基本調査より筆者が算出した。

21 事業評価委員会の委員のうち5名が3点,1名が 4点と評価した。

22 この事業は中央会が全国中小企業団体中央会から 受託した「地域中小企業の人材確保・定着支援事業」

の一環として行ったものである。

23 http://www.osaka‑unicon.org/lincoln/(2017年 11月26日参照)

24 本誌pp.65‑71

25 詳細は池田(2016)を確認されたい。

26 池田(2013)p.75 27 池田(2016)p.3,p.5 28 本誌pp.65‑71

29 具体的には,この第3期中期ビジョンには基本と

なる方針が5つ掲げられており,このうち「福島県 の高等教育の本質化(質保証による高度化)と,そ の過程での連携を目指します」「学生の教育にあたっ ては,大学間連携共同教育推進事業で培った アウェ イ感 による気づきの学習を深化させ,その成果を 学生,教員,ステークホルダーのいずれもが視認で きる仕組みを目指します」という2つの方針が該当 する。

30 「平成28年度に係る業務の実績に関する評価結果  国立大学法人福島大学」p.2

31 バスを保有するのは大学であるが,その運転をす るドライバーは外部委託であり,燃料費の他に人件 費が発生する。この応分負担が必要という課題は 残っており,課題を全面的に克服できたわけではな い。

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