地球惑星圏物理学
第8回:惑星大気1
1
担当:黒川 宏之
小レポート課題解答
2
太陽風と地球磁気圏の境界(磁気圏界面)の位置は太陽風動圧と磁気圧の釣り合い の位置によって見積もることができる。太陽風の動圧を ( : 陽子密度, :
陽子質量, : 速度)とし、磁気圧を とするとき( : 真空の透磁 率)、磁気圏界面の位置 は地球半径 の何倍か求めよ(有効数字1桁)。計算 では地球近傍における太陽風の値 , を用いること
1
2 nmv 2 n m
v B 2
2μ 0 = 1 2μ 0 B 0 2 ( R E r )
6 μ 0
R m R E
n = 6.6 × 10 −6 m −3 v = 450 km/s
力の釣り合いから、 ̶ (1)
(1)を変形して、 ̶ (2) よって地球半径の8倍 1
2μ 0 B 0 2 ( R E R m )
6 = 1
2 mnv 2 R m
R E = ( B 0 2
μ 0 mnv 2 )
16
≃ 8
惑星大気の存在条件
3
r
r 0
静水圧平衡の式 (力の釣り合い) ̶ (1)
理想気体の状態方程式 ̶ (2) ポリトロープ関係式 ( は定数)
̶ (3)
(1), (2)だけでは3つの熱力学変数 を求められない
(3)は等温 ( ), 断熱 (二原子分子なら比熱比 ) を含む 様々な状況を近似的に表すことができる関係式として導入
dp
dr = − GM r 2 ρ
p = ρk B T m γ
( p
p 0 ) = ( ρ ρ 0 )
γ = ( T T 0 )
γ−γ 1
p, ρ, T
γ = 1 γ = 7 5
: 圧力 : 密度 : 温度
添字0は地表面での値 p
ρ
T
惑星大気の存在条件
4
r
r 0
(1)̶(3)を解くと、
̶ (4)
̶ (5)
̶ (6)
ここで ̶ (7) は エスケープ・パラメータと呼ばれる
惑星大気が有限の に留まるためには となる が存在する 大気を保持する条件式 ̶ (8)
p(r) = p 0 [ γ − 1
γ λ 0 ( r 0
r − 1 ) + 1 ]
γ−γ 1
ρ(r) = ρ 0 [ γ − 1
γ λ 0 ( r 0
r − 1 ) + 1 ]
γ−1 1
T(r) = T 0 [ γ − 1
γ λ 0 ( r 0
r − 1 ) + 1 ] λ = GMm
rk B T
r p(r) = 0 r
λ 0 > γ γ − 1
: 圧力 : 密度 : 温度
添字0は地表面での値 p
ρ
T
5 理科年表ホームページより
鉛直圧力・密度構造
6
地球を含む太陽系内岩石惑星の大気は惑星サイズと比較して薄いため、
̶ (1) と近似できる ( は重力加速度)
等温・理想気体を仮定して ̶ (2) から を消去して解くと、
̶ (3) ここで は地面からの高さ
̶ (4) ここで は スケールハイト と呼ばれる
最後に (4)を積分して、 ̶ (5)
ともに 上空へ 進むごとに 倍ずつ減少していく (地球大気のスケールハイト 8.45 km)
dp
dr = − GM
r 2 ρ ∼ ρg g
p = ρk B T
m ρ
dp
dz = mg
k B T p z
1
p dp = 1
H dz H ≡ k B T
mg
p(z) = p 0 exp ( − z H )
p, ρ H 1/ e
Homopause ( 均質圏界面 )
~Ex
ob as e ( 外気圏界面 )
Catling & Kasting (2017)
上層に行くに従い、
化学組成が不均質
(homopause) になり、
やがて大気は非衝突系
(exobase) となる
均質圏 非均質圏
大気の熱収支
大気の熱源:太陽放射 + 惑星内部熱
岩石惑星で支配的
太陽放射の反射率:アルベド(ボンドアルベド) 地球の場合 A = 0.3
4.1. 大気の物理構造 45
4.1.2 鉛直温度分布
図 4-2 .地球大気のエネルギー収支。成山堂書店『地球環境を学ぶための流体力学』より転載。
惑星大気の温度分布は、大局的には、大気に供給されたエネルギーを放射・対流・熱伝導 の過程で惑星間空間に運び出すような温度分布として理解できる。主なエネルギーの供給源 は、太陽放射と惑星内部の熱である。地球型惑星 ( 岩石惑星 ) の場合、惑星内部の熱が大気の 温度分布に与える影響は太陽放射と比較して無視できるほど小さい。
惑星大気に入射した太陽放射のエネルギーフラックスのうち、一部は惑星大気に吸収され、
一部は大気分子や大気中の雲によって散乱されて最終的に大気外に反射される。地表まで到 達した太陽放射の一部は地表面で反射され、残りは地表に吸収される。惑星大気に入射した 太陽放射のエネルギーフラックスのうち、宇宙空間へ反射される割合 A を アルベド という。
特に、すべての方向に対する反射を積分したアルベドを ボンドアルベド と呼ぶ。大気と地面 に吸収されるのは、太陽放射のエネルギーフラックスのうち、 (1 − A) の割合である。
大気や地面に吸収された太陽放射は、大気や地面の温度に応じた波長で再放射され、大気 中での吸収・再放射を繰り返しながら、最終的に惑星放射として惑星間空間に放出される ( 図 4-2) 。太陽放射が主に可視域の波長であるのに対し、低温の惑星放射は主に赤外域の波長で ある。大気は可視域の太陽放射に対しては比較的透明だが、赤外域の惑星放射に対しては不 透明という特性を持つため、地表からの熱エネルギーの流出を阻害する。結果として、大気 上空と比較して地表付近の温度は高くなる。このことは大気の 温室効果 と呼ばれる。
4.1.
大気の物理構造
454.1.2
鉛直温度分布
図
4-2.地球大気のエネルギー収支。成山堂書店『地球環境を学ぶための流体力学』より転載。
惑星大気の温度分布は、大局的には、大気に供給されたエネルギーを放射・対流・熱伝導 の過程で惑星間空間に運び出すような温度分布として理解できる。主なエネルギーの供給源 は、太陽放射と惑星内部の熱である。地球型惑星
(岩石惑星
)の場合、惑星内部の熱が大気の 温度分布に与える影響は太陽放射と比較して無視できるほど小さい。
惑星大気に入射した太陽放射のエネルギーフラックスのうち、一部は惑星大気に吸収され、
一部は大気分子や大気中の雲によって散乱されて最終的に大気外に反射される。地表まで到 達した太陽放射の一部は地表面で反射され、残りは地表に吸収される。惑星大気に入射した 太陽放射のエネルギーフラックスのうち、宇宙空間へ反射される割合
Aを アルベド という。
特に、すべての方向に対する反射を積分したアルベドを ボンドアルベド と呼ぶ。大気と地面 に吸収されるのは、太陽放射のエネルギーフラックスのうち、
(1− A)の割合である。
大気や地面に吸収された太陽放射は、大気や地面の温度に応じた波長で再放射され、大気 中での吸収・再放射を繰り返しながら、最終的に惑星放射として惑星間空間に放出される
(図
4-2)。太陽放射が主に可視域の波長であるのに対し、低温の惑星放射は主に赤外域の波長で ある。大気は可視域の太陽放射に対しては比較的透明だが、赤外域の惑星放射に対しては不 透明という特性を持つため、地表からの熱エネルギーの流出を阻害する。結果として、大気 上空と比較して地表付近の温度は高くなる。このことは大気の 温室効果 と呼ばれる。
大気の温室効果
8
鉛直温度構造
9
46 第 4 章 惑星大気
図 4-3 .地球大気の温度構造。岩波書店『比較惑星学』より転載。
図 4-3 に地球大気の温度構造を示す。 対流圏 は高度とともに温度が下がり、 熱圏 は高度と ともに温度が上がる。 成層圏 と 中間圏 はまとめて 中層大気 と呼ばれる。この区分は多くの惑 星大気に共通する。地球大気の場合、 オゾン層 が存在するという特有の事情により、中層大 気に温度のピークがあり、中層大気が成層圏と中間圏に区分される。大気の各層が異なる温 度分布を持つ要因は、それぞれ重要となる熱輸送過程が異なるためである。
下層大気 ( 対流圏 ) : 太陽放射を吸収した地面の赤外放射や熱伝導によって、地面付近の大 気は加熱される。加熱されて低密度になった空気が上昇することにより、大気の下層に対流層 が発達する。対流層では赤外放射と対流熱輸送によってエネルギーが上向きに運ばれる。対 流が発達した時、平均的な温度勾配は断熱温度勾配になる。
dT
dz = dp dz
!
∂ T
∂p
"
s
= − ρg
!
∂ T
∂p
"
s
. (4.5)
ここで、 (∂T /∂ p)
sは断熱圧縮・膨張による温度変化であり、理想気体の場合、
!
∂T
∂ p
"
s
= µ
ρc
p, (4.6)
となる。ここで、 µ は大気の平均分子量、 c
pは低圧モル比熱である。地球大気における H
2O のように、大気中で凝結する成分が含まれている場合、凝結の潜熱の効果のために (∂T /∂ p)
s46 第4章 惑星大気
図4-3.地球大気の温度構造。岩波書店『比較惑星学』より転載。
図4-3に地球大気の温度構造を示す。対流圏は高度とともに温度が下がり、熱圏は高度と ともに温度が上がる。成層圏と中間圏はまとめて中層大気と呼ばれる。この区分は多くの惑 星大気に共通する。地球大気の場合、オゾン層が存在するという特有の事情により、中層大 気に温度のピークがあり、中層大気が成層圏と中間圏に区分される。大気の各層が異なる温 度分布を持つ要因は、それぞれ重要となる熱輸送過程が異なるためである。
下層大気(対流圏):太陽放射を吸収した地面の赤外放射や熱伝導によって、地面付近の大 気は加熱される。加熱されて低密度になった空気が上昇することにより、大気の下層に対流層 が発達する。対流層では赤外放射と対流熱輸送によってエネルギーが上向きに運ばれる。対 流が発達した時、平均的な温度勾配は断熱温度勾配になる。
dT
dz = dp dz
!∂T
∂p
"
s
= −ρg
!∂T
∂p
"
s
. (4.5)
ここで、(∂T /∂p)s は断熱圧縮・膨張による温度変化であり、理想気体の場合、
!∂T
∂p
"
s
= µ
ρcp, (4.6)
となる。ここで、µは大気の平均分子量、cpは低圧モル比熱である。地球大気におけるH2O のように、大気中で凝結する成分が含まれている場合、凝結の潜熱の効果のために(∂T /∂p)s
上層大気
中層大気
下層大気 地球大気の例
惑星大気に共通の特徴
大気全体では下層ほど温度が高い
→ 大気の温室効果
熱圏では温度勾配が逆転
→ 紫外線の吸収
地球大気固有の特徴
中層大気に温度の極大値 (成層圏の存在)
• オゾン層の紫外線吸収
外気圏↑
熱圏
中間圏
成層圏
対流圏
下層大気 (対流圏)
大部分の大気質量が存在
地表付近で暖められた気体の
対流運動(+赤外放射)で熱を運ぶ 気象現象:雲の発生・降雨など 平均的温度分布:断熱温度勾配
10
46 第 4 章 惑星大気
図 4-3 .地球大気の温度構造。岩波書店『比較惑星学』より転載。
図 4-3 に地球大気の温度構造を示す。 対流圏 は高度とともに温度が下がり、 熱圏 は高度と ともに温度が上がる。 成層圏 と 中間圏 はまとめて 中層大気 と呼ばれる。この区分は多くの惑 星大気に共通する。地球大気の場合、 オゾン層 が存在するという特有の事情により、中層大 気に温度のピークがあり、中層大気が成層圏と中間圏に区分される。大気の各層が異なる温 度分布を持つ要因は、それぞれ重要となる熱輸送過程が異なるためである。
下層大気 ( 対流圏 ) : 太陽放射を吸収した地面の赤外放射や熱伝導によって、地面付近の大 気は加熱される。加熱されて低密度になった空気が上昇することにより、大気の下層に対流層 が発達する。対流層では赤外放射と対流熱輸送によってエネルギーが上向きに運ばれる。対 流が発達した時、平均的な温度勾配は断熱温度勾配になる。
dT
dz = dp dz
! ∂ T
∂ p
"
s
= − ρg
! ∂ T
∂ p
"
s
. (4.5)
ここで、 (∂ T /∂ p) s は断熱圧縮・膨張による温度変化であり、理想気体の場合、
! ∂ T
∂ p
"
s
= µ
ρc p , (4.6)
となる。ここで、 µ は大気の平均分子量、 c p は低圧モル比熱である。地球大気における H 2 O のように、大気中で凝結する成分が含まれている場合、凝結の潜熱の効果のために (∂ T /∂ p) s
(乾燥)断熱温度勾配 地球大気の場合、H 2 Oの凝結に よる潜熱によって乾燥断熱温度 勾配より緩やかな温度変化
(湿潤断熱温度勾配)
中層大気
46 第 4 章 惑星大気
図 4-3 .地球大気の温度構造。岩波書店『比較惑星学』より転載。
図 4-3 に地球大気の温度構造を示す。 対流圏 は高度とともに温度が下がり、 熱圏 は高度と ともに温度が上がる。 成層圏 と 中間圏 はまとめて 中層大気 と呼ばれる。この区分は多くの惑 星大気に共通する。地球大気の場合、 オゾン層 が存在するという特有の事情により、中層大 気に温度のピークがあり、中層大気が成層圏と中間圏に区分される。大気の各層が異なる温 度分布を持つ要因は、それぞれ重要となる熱輸送過程が異なるためである。
下層大気 ( 対流圏 ) : 太陽放射を吸収した地面の赤外放射や熱伝導によって、地面付近の大 気は加熱される。加熱されて低密度になった空気が上昇することにより、大気の下層に対流層 が発達する。対流層では赤外放射と対流熱輸送によってエネルギーが上向きに運ばれる。対 流が発達した時、平均的な温度勾配は断熱温度勾配になる。
dT
dz = dp dz
!
∂ T
∂p
"
s
= − ρg
!
∂ T
∂p
"
s
. (4.5)
ここで、 (∂T /∂ p)
sは断熱圧縮・膨張による温度変化であり、理想気体の場合、
!
∂T
∂ p
"
s
= µ
ρc
p, (4.6)
となる。ここで、 µ は大気の平均分子量、 c
pは低圧モル比熱である。地球大気における H
2O のように、大気中で凝結する成分が含まれている場合、凝結の潜熱の効果のために (∂T /∂ p)
s安定成層が
対流運動を阻む
惑星大気共通の性質
対流運動はない(あっても弱い) 赤外放射によって熱輸送
地球大気固有の性質
成層圏と中間圏に分けられる
http://static.panoramio.com/photos/large/24120392.jpg
11
上層大気 (熱圏)
4.2. 大気の化学構造 49
による混合であるため、最終的な平衡状態は化学組成が z に依存しないよく混合した状態で ある。 気体分子の平均自由行程が大きいほど分子拡散は早く進むため、分子拡散のフラックスは 密度に反比例する。そのため、ある高度以上では乱流拡散より分子拡散が卓越する。地球大 気の場合、この 均質圏界面 の高度は 100 km 程度であり、これより上空では組成成層が生じ る ( 図 4-7) 。また、地球大気中の H
2O のように凝結成分が存在する場合、均質圏においても 凝結成分の存在度は高度によって異なる。
図 4-7 .地球大気の鉛直組成分布。左右のグラフはそれぞれ太陽活動が不活発な時と活発な時 に対応。岩波書店『比較惑星学』より転載。
4.2.2 光化学反応
一般に惑星大気は化学平衡にはない。地球の場合、生物の活動が平衡から離れた分子をつ くり出すことが、地球大気の化学組成を決める一因となっている。しかし、生物の活動がな くても、 光化学反応 によって大気は非平衡な組成となる。地球大気中のオゾン ( 図 4-1) は、光 化学反応による非平衡組成の一例である ( 図 4-8) 。高度 20 km より上空で、 242 nm 以下の波 長の紫外線を吸収して酸素分子が 光解離 し、酸素原子になる。この酸素原子が酸素分子と結 合することで、オゾンが生成される。同時に、 320 nm 以下の波長の紫外線を吸収することに よる分解反応も起きている。
熱圏の温度・化学組成
太陽活動不活発 太陽活動活発
太陽の紫外線を吸収→高温 (地球の場合:800-1300 K) 上空ほど高温の温度分布
12
46 第4章 惑星大気
図4-3.地球大気の温度構造。岩波書店『比較惑星学』より転載。
図4-3に地球大気の温度構造を示す。対流圏は高度とともに温度が下がり、熱圏は高度と ともに温度が上がる。成層圏と中間圏はまとめて中層大気と呼ばれる。この区分は多くの惑 星大気に共通する。地球大気の場合、オゾン層が存在するという特有の事情により、中層大 気に温度のピークがあり、中層大気が成層圏と中間圏に区分される。大気の各層が異なる温 度分布を持つ要因は、それぞれ重要となる熱輸送過程が異なるためである。
下層大気(対流圏):太陽放射を吸収した地面の赤外放射や熱伝導によって、地面付近の大 気は加熱される。加熱されて低密度になった空気が上昇することにより、大気の下層に対流層 が発達する。対流層では赤外放射と対流熱輸送によってエネルギーが上向きに運ばれる。対 流が発達した時、平均的な温度勾配は断熱温度勾配になる。
dT
dz = dp dz
!∂T
∂p
"
s
= −ρg
!∂T
∂p
"
s
. (4.5)
ここで、(∂T /∂p)s は断熱圧縮・膨張による温度変化であり、理想気体の場合、
!∂T
∂p
"
s
= µ
ρcp, (4.6)
となる。ここで、µは大気の平均分子量、cpは低圧モル比熱である。地球大気におけるH2O のように、大気中で凝結する成分が含まれている場合、凝結の潜熱の効果のために(∂T /∂p)s
太陽系惑星大気の比較
13
Catling & Kasting (2017)
温度 [K]
圧力 [bar]
火星 地球
金星 天王星
海王星
木星
土星
岩石惑星の比較
14
軌道半径 0.7 AU 1 AU 1.5 AU
地表面気圧 90 bar 1 bar 0.006 bar 大気主成分 CO
2N
2, O
2CO
2地表平均気温 735 K 288 K 210 K 全球平均水深 30 mm 2700 m >20 m
水の主な形態 水蒸気 液体の水 極冠の氷
金星大気
15
金星大気
16
4.3. 惑星大気の概観 51
金星
図 4-9 .金星大気の温度構造。 (a) 高度と温度の関係。破線は探査機による計測で、実線は探 査の結果からつくられた標準大気モデルである。数字は緯度を表す。 (b) 圧力と温度の関係。
破線は地球大気を比較のためプロットしたもの。数字は緯度を表す。
金星大気は高温高圧の CO 2 大気で特徴づけられる。化学組成は主に CO 2 : 97 %, N 2 : 3 % である。地表圧力は 9.2 MPa, 地表温度は 735 K である。
図 4-9 に金星大気の構造を示す。高度 50-65 km に全球を覆う雲の層があり、 0.78 という金 星の高いアルベドをつくりだしている。金星の高い地表温度は、主に大量に存在する CO 2 と、
わずかに存在する H 2 O の温室効果によるものである。雲の下の下層大気の温度分布はほぼ断 熱温度勾配に従う。雲層の上の中層大気は地球のような温度のピークをもたず、成層圏と中 間圏に区分されていない。金銭の熱圏温度は 100-300 K 程度と、地球の熱圏温度 800-1300 K と比較して非常に低い。これは金星大気の主成分である CO 2 の赤外放射による冷却によるも のと考えられている。
(a) 高度-温度分布
上層大気
中層大気
下層大気
46 第4章 惑星大気
図4-3.地球大気の温度構造。岩波書店『比較惑星学』より転載。
図4-3に地球大気の温度構造を示す。対流圏は高度とともに温度が下がり、熱圏は高度と ともに温度が上がる。成層圏と中間圏はまとめて中層大気と呼ばれる。この区分は多くの惑 星大気に共通する。地球大気の場合、オゾン層が存在するという特有の事情により、中層大 気に温度のピークがあり、中層大気が成層圏と中間圏に区分される。大気の各層が異なる温 度分布を持つ要因は、それぞれ重要となる熱輸送過程が異なるためである。
下層大気(対流圏):太陽放射を吸収した地面の赤外放射や熱伝導によって、地面付近の大 気は加熱される。加熱されて低密度になった空気が上昇することにより、大気の下層に対流層 が発達する。対流層では赤外放射と対流熱輸送によってエネルギーが上向きに運ばれる。対 流が発達した時、平均的な温度勾配は断熱温度勾配になる。
dT
dz = dp dz
!∂T
∂p
"
s
= −ρg
!∂T
∂p
"
s
. (4.5)
ここで、(∂T /∂p)s は断熱圧縮・膨張による温度変化であり、理想気体の場合、
!∂T
∂p
"
s
= µ
ρcp, (4.6)
となる。ここで、µは大気の平均分子量、cpは低圧モル比熱である。地球大気におけるH2O のように、大気中で凝結する成分が含まれている場合、凝結の潜熱の効果のために(∂T /∂p)s
惑星大気に共通の性質
• 高度とともに温度低下する下層大気
• 高度とともに温度上昇する上層大気 下層大気
• ほぼ断熱温度勾配
• 雲層
中層大気
• 成層圏をもたない(オゾン層がない) 上層大気
• 地球と比較して低温(CO 2 による冷却) エネルギー収支
• 雲によってアルベドが高い(0.78)
火星大気
17
火星大気
(a) 高度-温度分布
52 第 4 章 惑星大気
火星
図 4-10 .火星大気の温度構造。 (a) 高度と温度の関係。破線は探査機による計測で、実線は 探査の結果からつくられた標準大気モデルである。 (b) 圧力と温度の関係。破線は地球大気 を比較のためプロットしたもの。
火星大気は希薄な CO 2 大気で特徴づけられる。化学組成は金星同様、主に CO 2 : 95 %, N 2 : 2.7 % である。地表圧力は平均で 6 hPa, 地表温度は平均で 210 K であるが、金星大気と異 なって著しい日変化・季節変化がある。低温の火星大気中では主成分である CO 2 が凝結する ため、大気圧は大きく時間変動する。
図 4-10 に火星大気の構造を示す。火星大気の特徴は、大気中の塵によって温度分布が強く 影響を受ける点である。下層大気の温度分布は断熱温度勾配と比較してずっと等温に近い温 度分布が観測されている。これは、大気中の塵が太陽放射を吸収することで、大気上層部を 暖めているからである。火星大気中の塵の存在量は大きく時間変化するため、大気の温度分 布も大きく変動する。比較的塵が少ない条件下では下層大気の温度分布は断熱温度勾配に近 づく。中層大気は金星と同様に温度のピークをもたず、地球のような成層圏と中間圏の区分 はない。火星の熱圏温度は平均的には 150 K 程度であり、太陽活動が活発な時期は 300 K に 達することもある。火星は金星と同様 CO 2 大気をもつことから、地球と比べて熱圏温度は低 温である。
18
上層大気
中層大気
下層大気
46 第4章 惑星大気
図4-3.地球大気の温度構造。岩波書店『比較惑星学』より転載。
図4-3に地球大気の温度構造を示す。対流圏は高度とともに温度が下がり、熱圏は高度と ともに温度が上がる。成層圏と中間圏はまとめて中層大気と呼ばれる。この区分は多くの惑 星大気に共通する。地球大気の場合、オゾン層が存在するという特有の事情により、中層大 気に温度のピークがあり、中層大気が成層圏と中間圏に区分される。大気の各層が異なる温 度分布を持つ要因は、それぞれ重要となる熱輸送過程が異なるためである。
下層大気(対流圏):太陽放射を吸収した地面の赤外放射や熱伝導によって、地面付近の大 気は加熱される。加熱されて低密度になった空気が上昇することにより、大気の下層に対流層 が発達する。対流層では赤外放射と対流熱輸送によってエネルギーが上向きに運ばれる。対 流が発達した時、平均的な温度勾配は断熱温度勾配になる。
dT
dz = dp dz
!∂T
∂p
"
s
= −ρg
!∂T
∂p
"
s
. (4.5)
ここで、(∂T /∂p)s は断熱圧縮・膨張による温度変化であり、理想気体の場合、
!∂T
∂p
"
s
= µ
ρcp, (4.6)
となる。ここで、µは大気の平均分子量、cpは低圧モル比熱である。地球大気におけるH2O のように、大気中で凝結する成分が含まれている場合、凝結の潜熱の効果のために(∂T /∂p)s
惑星大気に共通の性質
• 高度とともに温度低下する下層大気
• 高度とともに温度上昇する上層大気 火星固有の性質
• 時間変動が大きい
• 塵の影響 下層大気
• 断熱温度勾配より等温的 (塵が太陽光吸収) 中層大気
• 成層圏をもたない(オゾン層がないため) 上層大気
• 地球と比較して低温(CO 2 による冷却)
まとめ
大気を保持する条件 :
鉛直圧力分布 静水圧平衡
圧力, 密度はスケールハイト上空にいくほど1/e倍
鉛直温度分布
上層大気(> 80 km):熱圏
中層大気(> 10 km):中間圏, 成層圏 (地球のみ) 下層大気(> 地表):対流圏
化学組成分布
非均質圏(> ~100 km):分子種ごとに異なるスケールハイト分布 均質圏:対流, 乱流による混合
λ 0 > γ
γ − 1
小レポート課題(7/5締切)
2019
[email protected] 7 15
1
1.1
(1)
λ ≡ GMpmg
RpkBTs > γ
γ − 1 (1)
Mp, Rp, mg, Ts λ
γ 5
( )Teq (N2)
Ts,max 1
0 (2)
Teq = 280
! a
1 AU
"−1/2
K (2)
a
[AU] [1024 kg] [km]
0.39 0.33 2400
0.72 4.9 6100
1 6.0 6400
1 0.073 1700
1.5 0.64 3400
1:
1.2
1.1 Teq Ts,max (1)
1