地球惑星圏物理学
第3回 太陽系の形成
担当:黒川 宏之
1
授業内容(予定)
第1回 :地球惑星物理学概論
第2回 :太陽系の構造と元素組成 第3回 :太陽系形成論
第4回 :太陽の構造と太陽活動 第5回 :〃
第6回 :惑星間空間 第7回 :〃
第8回 :惑星大気の構造 第9回 :〃
第10回:惑星の磁気圏 第11回:〃
第12回:惑星の内部構造と表層環境の進化 第13回:系外惑星
第14回:生命の起源と存在条件
2
惑星形成の場:原始惑星系円盤
アルマ望遠鏡によるHL tauのミリ波観測 (アルマ望遠鏡プレスリリース記事より)
※実際には別の領域の天体
16 第1章 太陽系の構造
図1-5.分子ガス雲の代表例の1つ馬頭星雲。ヨーロッパ南天文台(ESO) VLTによ る撮像 Press Photo http://www.eso.org/public/outreach/press-rel/pr-2002/phot-02-02.html このガス雲 の中では星が次々と形成されている。
分子ガス雲(馬頭星雲)
ESO-VLTプレスリリース記事より
分子雲の中の密度の高い領域(分子雲コア)が 自己重力によって収縮
原始星と原始惑星系円盤が誕生
3
18 第 1 章 太陽系の構造
z
図 1-6.太陽系形成の標準シナリオ。(a)-(e) は本文中の対応するステージの原始惑星系 円盤の断面図である。矢印はガスもしくは惑星の運動方向を示す。日本評論社 シリーズ 現代の天文学『太陽系と惑星』の図を改変。
1.5.2 原始惑星系円盤の構造
原始惑星系円盤の構造は、太陽系を形成した分子雲コアの質量や角運動量に応じて決まっ ているはずである。しかし、太陽系を形成した分子雲コアの物理量は未知であるため、太陽 系形成論の標準シナリオでは、現在の惑星の固体物質の量から原始惑星系円盤の構造を推定 している。この推定方法では、
• 惑星の材料物質はすべて現在の太陽系の惑星に取り込まれた。
• 惑星の材料物質は最小移動で最寄りの惑星に取り込まれた。
• ダスト/ガス比は太陽系元素存在度から推定される値とする。
という仮定から得られる最小質量の円盤モデル (林モデル) が採用されている。
林モデルでは、円盤に垂直な単位表面積当たりの物質量 (面密度)Σ(r) = ! ρ(r, z)dz が、太 陽からの距離 r に対して単純な冪関数で与えられる。ダストとガスの面密度分布 Σd, Σg はそ れぞれ、
Σd = 71" r
1 AU
#−3/2
kg m−2 (0.35 AU < r < 2.7 AU), (1.15)
太陽系形成の概観
(a) 分子雲コアの収縮による太陽と円盤の形成 角運動量が保存するため、ガスは直接中心に 落ちず、円盤を形成
(b) 降着円盤を通じた原始太陽の成長
円盤を通じて質量を内側に、角運動量を外側に 輸送。アウトフローが分子雲コアからの降着を 止める
(c-e) 惑星の形成
円盤の質量が太陽の1/100程度になった時、
円盤の乱流状態が弱まり、惑星が形成可能に
4
原始惑星系円盤の構造
林モデルの円盤面密度構造
P. Armitage『Astrophysics of Planet Formation』より
原始惑星系円盤の構造は
分子雲コアの質量や角運動量に依存 不明 林モデル (Hayashi, 1981)
•
現在の太陽系の固体物質をすりつぶして ばらまく
•
太陽系元素組成に基づきガスを加える
18 第 1 章 太陽系の構造
z
図 1-6.太陽系形成の標準シナリオ。(a)-(e) は本文中の対応するステージの原始惑星系 円盤の断面図である。矢印はガスもしくは惑星の運動方向を示す。日本評論社 シリーズ 現代の天文学『太陽系と惑星』の図を改変。
1.5.2 原始惑星系円盤の構造
原始惑星系円盤の構造は、太陽系を形成した分子雲コアの質量や角運動量に応じて決まっ ているはずである。しかし、太陽系を形成した分子雲コアの物理量は未知であるため、太陽 系形成論の標準シナリオでは、現在の惑星の固体物質の量から原始惑星系円盤の構造を推定 している。この推定方法では、
• 惑星の材料物質はすべて現在の太陽系の惑星に取り込まれた。
• 惑星の材料物質は最小移動で最寄りの惑星に取り込まれた。
• ダスト/ガス比は太陽系元素存在度から推定される値とする。
という仮定から得られる最小質量の円盤モデル (林モデル) が採用されている。
林モデルでは、円盤に垂直な単位表面積当たりの物質量 (面密度)Σ(r) = ! ρ(r, z)dz が、太 陽からの距離 r に対して単純な冪関数で与えられる。ダストとガスの面密度分布 Σd, Σg はそ れぞれ、
Σd = 71" r
1 AU
#−3/2
kg m−2 (0.35 AU < r < 2.7 AU), (1.15)
1.5. 太陽系の形成 19
Σd = 300! r 1 AU
"−3/2
kg m−2 (2.7 AU < r < 36 AU), (1.16) Σg = 1.7 × 104! r
1 AU
"−3/2
kg m−2 (0.35 AU < r < 36 AU), (1.17) で与えられる。2.7 AU 以遠ではH2O が凝結して固体となるため、ダストの面密度が増加する。
一方、温度分布 T(r) は、円盤内のダストを黒体と近似して、太陽からの放射を吸収・再放 射する平衡温度で与えられる。太陽放射の吸収と再放射のつり合いの式は、
L⊙
4πr2πR2d = σST(r)44πR2d, (1.18) ここで、Rd はダストが球形とした時の半径である。L⊙ は太陽光度である。式変形して、
T(r) = 280! r 1 AU
"−1/2
K, (1.19)
のように温度分布 T(r) を求めることができる。ただし、林モデルの円盤は、実際には太陽放 射に対して光学的に厚いことに注意。
円盤の厚み h(r) は鉛直方向 (z 方向) の密度分布から求めることができる。力のつり合いの
式より、 1
ρ(r, z)
∂p(r, z)
∂z = G M⊙ r2 + z2
z
(r2 + z2)1/2, (1.20) ここで、ρ はガス密度、p は圧力である。理想気体の状態方程式を仮定、z 方向は等温と仮定、
さらに r ≫ z を使って近似すると、
1 ρ(r, z)
∂ρ(r, z)
∂z = ΩK2
c2T z, (1.21)
と書くことができる。ここで、ΩK ≡ (GM⊙/r3)1/2 (ケプラー角速度)、cT ≡ (kBT /mg)1/2 は 等温音速である。この微分方程式を解いて、ガス密度の鉛直方向の分布は、
ρ(r, z) = ρ0(r) exp!−1 2
z2 h2
"
, (1.22)
と求められる。ここで、h ≡ cT/ΩK と置いた。式 (1.22) は、z 方向に h 進むごとにガス密度 が 1/e 小さくなることを示している。このような h をスケールハイトと呼び、円盤の典型的 な厚みを表している。定義式に円盤の温度分布 (1.19) などを代入すると、
h(r) = 0.047 ! r 1 AU
"5/4
. (1.23)
円盤は幾何学的に薄いこと (h ≪ r)、外縁部に行くほど膨れ上がっている (フレアアップして いる) ことがわかる。
1.5.3 微惑星の形成
原始惑星系円盤内の半径 0.1 µm ほどのダストから、km サイズの微惑星が形成されるには、
多数の衝突合体を繰り返す必要がある。しかし、衝突合体のみを繰り返して km サイズまで 成長するには 2 つの困難がある。まず第一に、ダストサイズが 1 m ほどになると、分子間力
1.5. 太陽系の形成 19
Σd = 300! r 1 AU
"−3/2
kg m−2 (2.7 AU < r < 36 AU), (1.16) Σg = 1.7 × 104! r
1 AU
"−3/2
kg m−2 (0.35 AU < r < 36 AU), (1.17) で与えられる。2.7 AU 以遠ではH2Oが凝結して固体となるため、ダストの面密度が増加する。
一方、温度分布 T(r) は、円盤内のダストを黒体と近似して、太陽からの放射を吸収・再放 射する平衡温度で与えられる。太陽放射の吸収と再放射のつり合いの式は、
L⊙
4πr2πR2d = σST(r)44πR2d, (1.18) ここで、Rd はダストが球形とした時の半径である。L⊙ は太陽光度である。式変形して、
T(r) = 280! r 1 AU
"−1/2
K, (1.19)
のように温度分布 T(r) を求めることができる。ただし、林モデルの円盤は、実際には太陽放 射に対して光学的に厚いことに注意。
円盤の厚み h(r) は鉛直方向 (z 方向) の密度分布から求めることができる。力のつり合いの
式より、 1
ρ(r, z)
∂p(r, z)
∂z = G M⊙ r2 + z2
z
(r2 + z2)1/2, (1.20) ここで、ρ はガス密度、p は圧力である。理想気体の状態方程式を仮定、z 方向は等温と仮定、
さらに r ≫ z を使って近似すると、
1 ρ(r, z)
∂ρ(r, z)
∂z = ΩK2
c2T z, (1.21)
と書くことができる。ここで、ΩK ≡ (GM⊙/r3)1/2 (ケプラー角速度)、cT ≡ (kBT /mg)1/2 は 等温音速である。この微分方程式を解いて、ガス密度の鉛直方向の分布は、
ρ(r, z) = ρ0(r) exp!−1 2
z2 h2
"
, (1.22)
と求められる。ここで、h ≡ cT/ΩK と置いた。式 (1.22) は、z 方向に h 進むごとにガス密度 が 1/e 小さくなることを示している。このような h をスケールハイトと呼び、円盤の典型的 な厚みを表している。定義式に円盤の温度分布 (1.19) などを代入すると、
h(r) = 0.047 ! r 1 AU
"5/4
. (1.23)
円盤は幾何学的に薄いこと (h ≪ r)、外縁部に行くほど膨れ上がっている (フレアアップして いる) ことがわかる。
1.5.3 微惑星の形成
原始惑星系円盤内の半径 0.1 µm ほどのダストから、km サイズの微惑星が形成されるには、
多数の衝突合体を繰り返す必要がある。しかし、衝突合体のみを繰り返して km サイズまで 成長するには 2 つの困難がある。まず第一に、ダストサイズが 1 m ほどになると、分子間力
ダスト面密度
ガス面密度
H2Oの凝結
5
原始惑星系円盤の構造
温度分布
1.5. 太陽系の形成 19
Σ
d= 300 ! r 1 AU
"
−3/2kg m
−2(2.7 AU < r < 36 AU), (1.16) Σ
g= 1.7 × 10
4! r
1 AU
"
−3/2kg m
−2(0.35 AU < r < 36 AU), (1.17) で与えられる。 2.7 AU 以遠では H
2O が凝結して固体となるため、ダストの面密度が増加する。
一方、温度分布 T (r) は、円盤内のダストを黒体と近似して、太陽からの放射を吸収・再放 射する平衡温度で与えられる。太陽放射の吸収と再放射のつり合いの式は、
L
⊙4π r
2π R
2d= σ
ST (r )
44πR
d2, (1.18) ここで、 R
dはダストが球形とした時の半径である。 L
⊙は太陽光度である。式変形して、
T (r) = 280 ! r 1 AU
"
−1/2K, (1.19)
のように温度分布 T (r) を求めることができる。ただし、林モデルの円盤は、実際には太陽放 射に対して光学的に厚いことに注意。
円盤の厚み h(r ) は鉛直方向 (z 方向 ) の密度分布から求めることができる。力のつり合いの
式より、 1
ρ(r, z )
∂ p(r, z )
∂ z = G M
⊙r
2+ z
2z
(r
2+ z
2)
1/2, (1.20) ここで、 ρ はガス密度、 p は圧力である。理想気体の状態方程式を仮定、 z 方向は等温と仮定、
さらに r ≫ z を使って近似すると、
1 ρ(r, z )
∂ρ(r, z )
∂ z = Ω
K2
c
2Tz, (1.21)
と書くことができる。ここで、 Ω
K≡ (GM
⊙/r
3)
1/2( ケプラー角速度 ) 、 c
T≡ (k
BT /m
g)
1/2は 等温音速である。この微分方程式を解いて、ガス密度の鉛直方向の分布は、
ρ(r, z ) = ρ
0(r) exp ! − 1 2
z
2h
2"
, (1.22)
と求められる。ここで、 h ≡ c
T/Ω
Kと置いた。式 (1.22) は、 z 方向に h 進むごとにガス密度 が 1/e 小さくなることを示している。このような h を スケールハイト と呼び、円盤の典型的 な厚みを表している。定義式に円盤の温度分布 (1.19) などを代入すると、
h(r) = 0.047 ! r 1 AU
"
5/4. (1.23)
円盤は幾何学的に薄いこと (h ≪ r ) 、外縁部に行くほど膨れ上がっている ( フレアアップ して いる ) ことがわかる。
1.5.3 微惑星の形成
原始惑星系円盤内の半径 0.1 µm ほどのダストから、 km サイズの微惑星が形成されるには、
多数の衝突合体を繰り返す必要がある。しかし、衝突合体のみを繰り返して km サイズまで 成長するには 2 つの困難がある。まず第一に、ダストサイズが 1 m ほどになると、分子間力
厚み
1.5. 太陽系の形成 19
Σ
d= 300 ! r 1 AU
"
−3/2kg m
−2(2.7 AU < r < 36 AU), (1.16) Σ
g= 1.7 × 10
4! r
1 AU
"
−3/2kg m
−2(0.35 AU < r < 36 AU), (1.17) で与えられる。 2.7 AU 以遠では H
2O が凝結して固体となるため、ダストの面密度が増加する。
一方、温度分布 T (r ) は、円盤内のダストを黒体と近似して、太陽からの放射を吸収・再放 射する平衡温度で与えられる。太陽放射の吸収と再放射のつり合いの式は、
L
⊙4π r
2π R
2d= σ
ST (r )
44π R
2d, (1.18) ここで、 R
dはダストが球形とした時の半径である。 L
⊙は太陽光度である。式変形して、
T (r) = 280 ! r 1 AU
"
−1/2K, (1.19)
のように温度分布 T (r) を求めることができる。ただし、林モデルの円盤は、実際には太陽放 射に対して光学的に厚いことに注意。
円盤の厚み h(r) は鉛直方向 (z 方向 ) の密度分布から求めることができる。力のつり合いの
式より、 1
ρ(r, z )
∂ p(r, z )
∂ z = G M
⊙r
2+ z
2z
(r
2+ z
2)
1/2, (1.20) ここで、 ρ はガス密度、 p は圧力である。理想気体の状態方程式を仮定、 z 方向は等温と仮定、
さらに r ≫ z を使って近似すると、
1 ρ(r, z )
∂ρ(r, z )
∂ z = Ω
K2
c
2Tz, (1.21)
と書くことができる。ここで、 Ω
K≡ (GM
⊙/r
3)
1/2( ケプラー角速度 ) 、 c
T≡ (k
BT /m
g)
1/2は 等温音速である。この微分方程式を解いて、ガス密度の鉛直方向の分布は、
ρ(r, z ) = ρ
0(r) exp ! − 1 2
z
2h
2"
, (1.22)
と求められる。ここで、 h ≡ c
T/Ω
Kと置いた。式 (1.22) は、 z 方向に h 進むごとにガス密度 が 1/e 小さくなることを示している。このような h を スケールハイト と呼び、円盤の典型的 な厚みを表している。定義式に円盤の温度分布 (1.19) などを代入すると、
h(r) = 0.047 ! r 1 AU
"
5/4. (1.23)
円盤は幾何学的に薄いこと (h ≪ r) 、外縁部に行くほど膨れ上がっている ( フレアアップ して いる ) ことがわかる。
1.5.3 微惑星の形成
原始惑星系円盤内の半径 0.1 µm ほどのダストから、 km サイズの微惑星が形成されるには、
多数の衝突合体を繰り返す必要がある。しかし、衝突合体のみを繰り返して km サイズまで 成長するには 2 つの困難がある。まず第一に、ダストサイズが 1 m ほどになると、分子間力
z
r
•
円盤は幾何学的に薄い (r >> h)
•
円盤はフレアアップしている (h/rがrの増加関数)
h(r)
6
微惑星の形成
18 第 1 章 太陽系の構造
z
図 1-6 .太陽系形成の標準シナリオ。 (a)-(e) は本文中の対応するステージの原始惑星系 円盤の断面図である。矢印はガスもしくは惑星の運動方向を示す。日本評論社 シリーズ 現代の天文学『太陽系と惑星』の図を改変。
1.5.2 原始惑星系円盤の構造
原始惑星系円盤の構造は、太陽系を形成した分子雲コアの質量や角運動量に応じて決まっ ているはずである。しかし、太陽系を形成した分子雲コアの物理量は未知であるため、太陽 系形成論の標準シナリオでは、現在の惑星の固体物質の量から原始惑星系円盤の構造を推定 している。この推定方法では、
• 惑星の材料物質はすべて現在の太陽系の惑星に取り込まれた。
• 惑星の材料物質は最小移動で最寄りの惑星に取り込まれた。
• ダスト / ガス比は太陽系元素存在度から推定される値とする。
という仮定から得られる最小質量の円盤モデル ( 林モデル ) が採用されている。
林モデルでは、円盤に垂直な単位表面積当たりの物質量 ( 面密度 )Σ(r) =
!ρ(r, z)dz が、太 陽からの距離 r に対して単純な冪関数で与えられる。ダストとガスの面密度分布 Σ
d, Σ
gはそ れぞれ、
Σ
d= 71
"r
1 AU
#−3/2
kg m
−2(0.35 AU < r < 2.7 AU), (1.15)
ダスト落下問題
20 第 1 章 太陽系の構造
が効かなくなり、合体確率が小さくなることである。第二に、ダストサイズが 1 m ほどにな ると、ガス抵抗を受けて角運動量を失い、速やかに太陽へと落下してしまうことである ( ダス ト落下問題 ) 。
ダスト落下問題の簡単な説明は以下のとおりである。軌道半径 r の場所で円軌道を公転す る天体 ( ダスト ) の速度 v
dは、力のつり合いより、
v
d2r = GM
⊙r
2. (1.24)
一方、ガスの速度 v
gは、
v
g2r = GM
⊙r
2+ 1 ρ
∂ p
∂ r . (1.25)
ここで右辺第二項はガスの圧力勾配力を表す負の量である。すなわち、ガスはダストより遅 い速度で公転している。ダストは常に向かい風を受けて公転運動するため、ガス抵抗を受け る。ダストのサイズが十分に小さいときは、ガス抵抗が強く効くため、ガスと一緒に運動す る。ダストのサイズが十分に大きいときは、ガス抵抗があまり効かずガスと無関係に運動す る。ダストのサイズが 1 m ほどの場合にのみ、ガス抵抗がほどよく効くため、ダストは角運 動量を失い、太陽へと落下してしまう。
この困難を解決すると考えられていたのが、ダスト層の重力不安定による微惑星形成であ る。円盤内を漂うダストは太陽の重力と遠心力の合力を受けて円盤の中心面に沈殿する。沈 殿したダストで構成されるダスト層の厚みが十分に薄くなると、ダスト層は自己重力によっ て分裂し、微惑星が形成される。ダスト層の厚みを H とすると、太陽の潮汐力に打ち勝って 自己重力によって分裂する時の H は詳細な計算により、以下のように求めることができる。
H ≃ 0.63πGΣ
dΩ
2K. (1.26)
林モデルの面密度分布を代入すると、地球軌道付近では、
H ≃ 2.3 × 10
2!r 1 AU
"3/2
km, (1.27)
木星軌道付近では、
H ≃ 1.1 × 10
4!r 5 AU
"3/2
km, (1.28)
である。また、分裂する波長 λ ≃ 2.9π H となる。こうして、 km サイズの自己重力天体 ( 微惑 星 ) が形成され、ダスト落下問題は回避できるとされた。
しかし、この微惑星形成モデルにも問題点が指摘されている。ダスト層のダストは式 (1.24) のようなケプラー回転をするが、その上空のガスは式 (1.25) のようなダストより遅い回転を する。このため、ダスト層とその上空のガスには回転速度差が生じる。このような速度差の ある 2 つの流体の境界では、 Kelvin-Helmholz 不安定が生じ、沈殿したダストが巻き上げら れてしまう。この反論に対する明確な答えは得られておらず、微惑星形成過程には未だ未解 決の問題が残されている。
1.5.4 岩石惑星の形成
前の小節では微惑星形成の困難を説明したが、太陽系に小惑星が多数存在することから、
実際には何らかの過程を経て微惑星が形成されたと考えられる。ここでは微惑星が形成され たとして、微惑星から岩石惑星が形成される過程をみていく。
ダストの回転速度
ガスの回転速度
mサイズダストはガスから向かい風を受けて角運動量を失い、太陽に落下
・中心面に沈降したダスト層の重力不安定でkmサイズの微惑星を形成?
・Kelvin-Helmholz不安定性により、実現不可能?
微惑星の形成過程は未解明の点が多いが、太陽系に小天体が多数存在する ことから、何らかの方法で微惑星が形成されたはず
7
18 第 1 章 太陽系の構造
z
図 1-6.太陽系形成の標準シナリオ。(a)-(e) は本文中の対応するステージの原始惑星系 円盤の断面図である。矢印はガスもしくは惑星の運動方向を示す。日本評論社 シリーズ 現代の天文学『太陽系と惑星』の図を改変。
1.5.2 原始惑星系円盤の構造
原始惑星系円盤の構造は、太陽系を形成した分子雲コアの質量や角運動量に応じて決まっ ているはずである。しかし、太陽系を形成した分子雲コアの物理量は未知であるため、太陽 系形成論の標準シナリオでは、現在の惑星の固体物質の量から原始惑星系円盤の構造を推定 している。この推定方法では、
• 惑星の材料物質はすべて現在の太陽系の惑星に取り込まれた。
• 惑星の材料物質は最小移動で最寄りの惑星に取り込まれた。
• ダスト/ガス比は太陽系元素存在度から推定される値とする。
という仮定から得られる最小質量の円盤モデル (林モデル) が採用されている。
林モデルでは、円盤に垂直な単位表面積当たりの物質量 (面密度)Σ(r) = ! ρ(r, z)dz が、太 陽からの距離 r に対して単純な冪関数で与えられる。ダストとガスの面密度分布 Σd, Σg はそ れぞれ、
Σd = 71" r
1 AU
#−3/2
kg m−2 (0.35 AU < r < 2.7 AU), (1.15)
岩石惑星の形成
22 第 1 章 太陽系の構造
(a) (b)
図 1-7 .重力多体シミュレーションによる、 (a) 暴走成長と、 (b) 寡占的成長の様子。円 の大きさが天体の半径に対応している。日本評論社 シリーズ現代の天文学『太陽系と惑 星』の図を改変。
1.5.5 巨大ガス惑星の形成
巨大ガス惑星の特徴は、 エンベロープ と呼ばれる大量の水素・ヘリウムガスの存在である。
標準シナリオでは、固体の原始惑星 ( コア ) が重力的に円盤ガスを捕獲して、巨大ガス惑星が 形成されたと考えられている ( コア集積モデル ) 。原始惑星が円盤ガスの大気をまとうために は、ガス分子の熱運動を重力によって抑えこむ必要がある。より物理的には、円盤ガスのエ ンタルピーと惑星から受ける重力ポテンシャルの和が負である場合に、惑星は円盤ガスの大 気をまとうことができる。すなわち、
γ γ − 1
k
BT
m
g< GM
R . (1.32)
ここで γ は円盤ガスの比熱比である。惑星質量が大きいほど重力ポテンシャルが大きくなる ため、大気を保持しやすい。 5.2 AU での温度 120 K では、 10
−2M
Earth以上の場合にこの条 件が満たされる。
数値シミュレーションによって得られた円盤ガス捕獲過程の質量の進化を図 1-8 に示した。
コア質量が大きくなるほどエンベロープ質量が大きくなるが、コア質量がある値に達した時 に一気にエンベロープ質量が増加する。これはエンベロープの自己重力によって暴走的な円 盤ガス捕獲が起こることを示している。このような暴走的なガス捕獲が起こるコア質量は、
エンベロープの自己重力が有効になる時、すなわちエンベロープの質量がコア質量と同程度 になる時である。この質量はおおよそ 10 倍の地球質量程度であることが知られている。
木星や土星は上述のような暴走的ガス捕獲を通じて形成された。一方で、天王星や海王星 は円盤ガス捕獲がはじまる頃には円盤ガスの量がすでに少なかったと考えることができる。
微惑星の暴走成長
微惑星の暴走成長の数値シミュレーション
日本評論社『太陽系と惑星』より
他の微惑星より大きい微惑星は 早く成長(衝突合体)していく
1.5. 太陽系の形成 21
微惑星は 暴走成長 と呼ばれる過程を経て成長していく。図 1-7(a) の重力多体シミュレーショ ンでは、サイズの同じの多数の微惑星集団から、少数の微惑星が暴走成長して大きくなって いく様子がわかる。この成長の様子は以下のような考察で理解することができる。初期に微 惑星集団 ( 平均質量: m) の中に質量の異なる少数の惑星 ( 質量: M , 半径: R) があったとす る (M ≫ m とする ) 。惑星の成長方程式は次式で与えられる。
dM
dt = πR
2! 1 + 2GM Ru
2"
ρ
pu. (1.29)
ここで、 ρ
pは微惑星の空間密度、 u は惑星と微惑星の相対速度である。また、 2GM/Ru
2は 重力による補正項である。惑星成長においては、 2GM/Ru
2≫ 1 であることから、 dM/dt ∝ M
4/3である。ここで、惑星の密度を一定として R ∝ M
1/3とした。惑星の成長時間 t
grow≡ M (dM/dt)
−1は、 t
grow∝ M
−1/3となり、惑星の質量 M が大きくなるほど成長時間 t
growが 短くなることがわかる。これが暴走成長である。
暴走成長が進行すると、 寡占的成長 と呼ばれる別の成長様式に移行する。図 1-7(b) の重力 多体シミュレーションでは、同じような大きさの惑星が距離をおいて並んでいる。成長時間 の短い内側から原始惑星が形成され、重力半径 ( ヒル半径 ) の 10 倍程度の間隔で並ぶ。集積 が進むと微惑星はほとんど食べ尽くされ、原始惑星だけが各領域ごとに孤立して存在するよ うになる。これが寡占的成長である。原始惑星が集積領域 ( ヒル半径の 10 倍程度 ) にある微 惑星をすべて食べ尽くした時の孤立質量は、林モデルの場合、次のようになる。地球軌道付 近で、
M ≃ 0.09 ! a 1 AU
"
3/4M
Earth, (1.30)
木星軌道付近で、
M ≃ 1.7 ! a 5 AU
"
3/4M
Earth. (1.31)
外側に行くほど孤立質量は大きくなることがわかる。これは、外側ほど面密度が小さくなる が、太陽から遠ざかるほど重力半径 ( ヒル半径 ) が大きくなる効果が勝つためである。
このようにして、地球型惑星領域では火星質量程度の原始惑星が 10 数個形成される。こ れらは寡占的成長の時間スケールでは安定であるが、より長時間の天体力学的な総合作用に よって軌道が不安定化する。さらに、木星・土星の形成が地球型惑星領域に影響を与えた可 能性も指摘されている。軌道が不安定化した原始惑星は衝突合体し ( 巨大衝突 ) 、地球・金星 が形成された。一方で、質量の小さい火星・水星は巨大衝突を経験していない原始惑星の生 き残りである可能性もある。
重力による衝突断面積の補正項
1.5. 太陽系の形成 21
微惑星は 暴走成長 と呼ばれる過程を経て成長していく。図 1-7(a) の重力多体シミュレーショ ンでは、サイズの同じの多数の微惑星集団から、少数の微惑星が暴走成長して大きくなって いく様子がわかる。この成長の様子は以下のような考察で理解することができる。初期に微 惑星集団 ( 平均質量: m) の中に質量の異なる少数の惑星 ( 質量: M , 半径: R) があったとす
る (M ≫ m とする ) 。惑星の成長方程式は次式で与えられる。
dM
dt = π R 2 ! 1 + 2GM Ru 2
"
ρ p u. (1.29)
ここで、 ρ p は微惑星の空間密度、 u は惑星と微惑星の相対速度である。また、 2GM/Ru 2 は
重力による補正項である。惑星成長においては、 2GM/Ru 2 ≫ 1 であることから、 dM/dt ∝ M 4/3 である。ここで、惑星の密度を一定として R ∝ M 1/3 とした。惑星の成長時間 t grow ≡ M (dM/dt) − 1 は、 t grow ∝ M − 1/3 となり、惑星の質量 M が大きくなるほど成長時間 t grow が
短くなることがわかる。これが暴走成長である。
暴走成長が進行すると、 寡占的成長 と呼ばれる別の成長様式に移行する。図 1-7(b) の重力
多体シミュレーションでは、同じような大きさの惑星が距離をおいて並んでいる。成長時間 の短い内側から原始惑星が形成され、重力半径 ( ヒル半径 ) の 10 倍程度の間隔で並ぶ。集積 が進むと微惑星はほとんど食べ尽くされ、原始惑星だけが各領域ごとに孤立して存在するよ うになる。これが寡占的成長である。原始惑星が集積領域 ( ヒル半径の 10 倍程度 ) にある微
惑星をすべて食べ尽くした時の孤立質量は、林モデルの場合、次のようになる。地球軌道付 近で、
M ≃ 0.09 ! a
1 AU
" 3/4
M Earth , (1.30)
木星軌道付近で、
M ≃ 1.7 ! a
5 AU
" 3/4
M Earth . (1.31)
外側に行くほど孤立質量は大きくなることがわかる。これは、外側ほど面密度が小さくなる が、太陽から遠ざかるほど重力半径 ( ヒル半径 ) が大きくなる効果が勝つためである。
このようにして、地球型惑星領域では火星質量程度の原始惑星が 10 数個形成される。こ
れらは寡占的成長の時間スケールでは安定であるが、より長時間の天体力学的な総合作用に よって軌道が不安定化する。さらに、木星・土星の形成が地球型惑星領域に影響を与えた可 能性も指摘されている。軌道が不安定化した原始惑星は衝突合体し ( 巨大衝突 ) 、地球・金星
が形成された。一方で、質量の小さい火星・水星は巨大衝突を経験していない原始惑星の生 き残りである可能性もある。
質量の大きい天体ほど、
実効的な衝突断面積が大きくなる
質量の大きい天体ほど、
成長時間が短くなる
8
岩石惑星の形成
18 第 1 章 太陽系の構造
z
図 1-6.太陽系形成の標準シナリオ。(a)-(e) は本文中の対応するステージの原始惑星系 円盤の断面図である。矢印はガスもしくは惑星の運動方向を示す。日本評論社 シリーズ 現代の天文学『太陽系と惑星』の図を改変。
1.5.2 原始惑星系円盤の構造
原始惑星系円盤の構造は、太陽系を形成した分子雲コアの質量や角運動量に応じて決まっ ているはずである。しかし、太陽系を形成した分子雲コアの物理量は未知であるため、太陽 系形成論の標準シナリオでは、現在の惑星の固体物質の量から原始惑星系円盤の構造を推定 している。この推定方法では、
• 惑星の材料物質はすべて現在の太陽系の惑星に取り込まれた。
• 惑星の材料物質は最小移動で最寄りの惑星に取り込まれた。
• ダスト/ガス比は太陽系元素存在度から推定される値とする。
という仮定から得られる最小質量の円盤モデル (林モデル) が採用されている。
林モデルでは、円盤に垂直な単位表面積当たりの物質量 (面密度)Σ(r) = ! ρ(r, z)dz が、太 陽からの距離 r に対して単純な冪関数で与えられる。ダストとガスの面密度分布 Σd, Σg はそ れぞれ、
Σd = 71" r
1 AU
#−3/2
kg m−2 (0.35 AU < r < 2.7 AU), (1.15)
22 第 1 章 太陽系の構造
(a) (b)
図 1-7 .重力多体シミュレーションによる、 (a) 暴走成長と、 (b) 寡占的成長の様子。円 の大きさが天体の半径に対応している。日本評論社 シリーズ現代の天文学『太陽系と惑 星』の図を改変。
1.5.5 巨大ガス惑星の形成
巨大ガス惑星の特徴は、 エンベロープ と呼ばれる大量の水素・ヘリウムガスの存在である。
標準シナリオでは、固体の原始惑星 ( コア ) が重力的に円盤ガスを捕獲して、巨大ガス惑星が 形成されたと考えられている ( コア集積モデル ) 。原始惑星が円盤ガスの大気をまとうために は、ガス分子の熱運動を重力によって抑えこむ必要がある。より物理的には、円盤ガスのエ ンタルピーと惑星から受ける重力ポテンシャルの和が負である場合に、惑星は円盤ガスの大 気をまとうことができる。すなわち、
γ γ − 1
k
BT
m
g< GM
R . (1.32)
ここで γ は円盤ガスの比熱比である。惑星質量が大きいほど重力ポテンシャルが大きくなる ため、大気を保持しやすい。 5.2 AU での温度 120 K では、 10
−2M
Earth以上の場合にこの条 件が満たされる。
数値シミュレーションによって得られた円盤ガス捕獲過程の質量の進化を図 1-8 に示した。
コア質量が大きくなるほどエンベロープ質量が大きくなるが、コア質量がある値に達した時 に一気にエンベロープ質量が増加する。これはエンベロープの自己重力によって暴走的な円 盤ガス捕獲が起こることを示している。このような暴走的なガス捕獲が起こるコア質量は、
エンベロープの自己重力が有効になる時、すなわちエンベロープの質量がコア質量と同程度 になる時である。この質量はおおよそ 10 倍の地球質量程度であることが知られている。
木星や土星は上述のような暴走的ガス捕獲を通じて形成された。一方で、天王星や海王星 は円盤ガス捕獲がはじまる頃には円盤ガスの量がすでに少なかったと考えることができる。
原始惑星の寡占的成長
原始惑星の寡占的成長の数値シミュレーション
日本評論社『太陽系と惑星』より
暴走成長が進行すると、
惑星は自分の縄張り(ヒル半径の約10倍) の中の微惑星を食い尽くして成長が止まる
1.5. 太陽系の形成 21
微惑星は 暴走成長 と呼ばれる過程を経て成長していく。図 1-7(a) の重力多体シミュレーショ ンでは、サイズの同じの多数の微惑星集団から、少数の微惑星が暴走成長して大きくなって いく様子がわかる。この成長の様子は以下のような考察で理解することができる。初期に微 惑星集団 ( 平均質量: m) の中に質量の異なる少数の惑星 ( 質量: M , 半径: R) があったとす る (M ≫ m とする ) 。惑星の成長方程式は次式で与えられる。
dM
dt = π R
2! 1 + 2GM Ru
2"
ρ
pu. (1.29)
ここで、 ρ
pは微惑星の空間密度、 u は惑星と微惑星の相対速度である。また、 2GM/Ru
2は 重力による補正項である。惑星成長においては、 2GM/Ru
2≫ 1 であることから、 dM/dt ∝ M
4/3である。ここで、惑星の密度を一定として R ∝ M
1/3とした。惑星の成長時間 t
grow≡ M (dM/dt)
−1は、 t
grow∝ M
−1/3となり、惑星の質量 M が大きくなるほど成長時間 t
growが 短くなることがわかる。これが暴走成長である。
暴走成長が進行すると、 寡占的成長 と呼ばれる別の成長様式に移行する。図 1-7(b) の重力 多体シミュレーションでは、同じような大きさの惑星が距離をおいて並んでいる。成長時間 の短い内側から原始惑星が形成され、重力半径 ( ヒル半径 ) の 10 倍程度の間隔で並ぶ。集積 が進むと微惑星はほとんど食べ尽くされ、原始惑星だけが各領域ごとに孤立して存在するよ うになる。これが寡占的成長である。原始惑星が集積領域 ( ヒル半径の 10 倍程度 ) にある微 惑星をすべて食べ尽くした時の孤立質量は、林モデルの場合、次のようになる。地球軌道付 近で、
M ≃ 0.09 ! a 1 AU
"
3/4M
Earth, (1.30)
木星軌道付近で、
M ≃ 1.7 ! a 5 AU
"
3/4M
Earth. (1.31)
外側に行くほど孤立質量は大きくなることがわかる。これは、外側ほど面密度が小さくなる が、太陽から遠ざかるほど重力半径 ( ヒル半径 ) が大きくなる効果が勝つためである。
このようにして、地球型惑星領域では火星質量程度の原始惑星が 10 数個形成される。こ れらは寡占的成長の時間スケールでは安定であるが、より長時間の天体力学的な総合作用に よって軌道が不安定化する。さらに、木星・土星の形成が地球型惑星領域に影響を与えた可 能性も指摘されている。軌道が不安定化した原始惑星は衝突合体し ( 巨大衝突 ) 、地球・金星 が形成された。一方で、質量の小さい火星・水星は巨大衝突を経験していない原始惑星の生 き残りである可能性もある。
地球型惑星領域では、火星質量程度
巨大ガス領域では、地球質量程度
太陽から遠ざかるほどヒル半径が大きく、
巨大ガス惑星領域ではH
2Oが凝結するため 孤立質量が大きくなる
9
岩石惑星の形成
原始惑星の巨大衝突
18 第 1 章 太陽系の構造
z
図 1-6.太陽系形成の標準シナリオ。(a)-(e) は本文中の対応するステージの原始惑星系 円盤の断面図である。矢印はガスもしくは惑星の運動方向を示す。日本評論社 シリーズ 現代の天文学『太陽系と惑星』の図を改変。
1.5.2 原始惑星系円盤の構造
原始惑星系円盤の構造は、太陽系を形成した分子雲コアの質量や角運動量に応じて決まっ ているはずである。しかし、太陽系を形成した分子雲コアの物理量は未知であるため、太陽 系形成論の標準シナリオでは、現在の惑星の固体物質の量から原始惑星系円盤の構造を推定 している。この推定方法では、
• 惑星の材料物質はすべて現在の太陽系の惑星に取り込まれた。
• 惑星の材料物質は最小移動で最寄りの惑星に取り込まれた。
• ダスト/ガス比は太陽系元素存在度から推定される値とする。
という仮定から得られる最小質量の円盤モデル (林モデル) が採用されている。
林モデルでは、円盤に垂直な単位表面積当たりの物質量 (面密度)Σ(r) = ! ρ(r, z)dz が、太 陽からの距離 r に対して単純な冪関数で与えられる。ダストとガスの面密度分布 Σd, Σg はそ れぞれ、
Σd = 71" r
1 AU
#−3/2
kg m−2 (0.35 AU < r < 2.7 AU), (1.15)
•
孤立質量に達した原始惑星どうし が長い時間(~10
7年)をかけて軌道 交差
•
火星質量の天体が複数衝突合体し、
地球や金星を形成
•
火星や水星は原始惑星の生き残り?
ダストから微惑星、原始惑星を経て形成された岩石惑星は、
原始惑星系円盤の難揮発性元素を主体とした天体となった
10
巨大惑星の形成
18 第 1 章 太陽系の構造
z
図 1-6.太陽系形成の標準シナリオ。(a)-(e) は本文中の対応するステージの原始惑星系 円盤の断面図である。矢印はガスもしくは惑星の運動方向を示す。日本評論社 シリーズ 現代の天文学『太陽系と惑星』の図を改変。
1.5.2 原始惑星系円盤の構造
原始惑星系円盤の構造は、太陽系を形成した分子雲コアの質量や角運動量に応じて決まっ ているはずである。しかし、太陽系を形成した分子雲コアの物理量は未知であるため、太陽 系形成論の標準シナリオでは、現在の惑星の固体物質の量から原始惑星系円盤の構造を推定 している。この推定方法では、
• 惑星の材料物質はすべて現在の太陽系の惑星に取り込まれた。
• 惑星の材料物質は最小移動で最寄りの惑星に取り込まれた。
• ダスト/ガス比は太陽系元素存在度から推定される値とする。
という仮定から得られる最小質量の円盤モデル (林モデル) が採用されている。
林モデルでは、円盤に垂直な単位表面積当たりの物質量 (面密度)Σ(r) = ! ρ(r, z)dz が、太 陽からの距離 r に対して単純な冪関数で与えられる。ダストとガスの面密度分布 Σd, Σg はそ れぞれ、
Σd = 71" r
1 AU
#−3/2
kg m−2 (0.35 AU < r < 2.7 AU), (1.15)
1.5. 太陽系の形成 23
図1-8.円盤ガス捕獲過程。原始エンベロープの質量 (実線) と原始コアの質量 (点線)。日 本評論社 シリーズ現代の天文学『太陽系と惑星』の図を転載。
1.5.6 惑星大気の起源
惑星大気の特徴は大きく 2 つに分類することができる。まず第一に微量の大気しかもたな い地球型惑星と、惑星質量に匹敵する大気(エンベロープ) をもつ木星型惑星である (表 1-4)。 木星型惑星の大気は水素とヘリウムを主成分としているのに対し、地球型惑星の待機は炭素、
窒素、酸素で構成される化合物である。木星型惑星の大気の起源は、前の小節で述べたよう に円盤ガスであり、原始惑星 (コア) の質量が大きかったことにより、暴走的ガス捕獲を経て 大気の割合が大きくなっている。また、その組成は円盤ガスの主成分を反映している。
第二に、地球型惑星大気の組成は希ガスと呼ばれる反応性に乏しい元素 (Ne, Ar, Kr, Xe) が少ないことである(表 1-5)。表 1-5 は太陽組成で規格化した元素存在度を表しており、同程 度の質量数の他の元素と比較して、希ガスが著しく少ないことがわかる。この元素存在度の パターンは、小惑星帯から地球に飛来する隕石(特に、炭素質コンドライト隕石) のものと酷 似している。原始惑星系円盤内で固体成分となったケイ酸塩 (岩石) に、揮発性元素が取り込 まれ、その揮発性元素が地球型惑星の大気の起源となった可能性が高い。希ガスは反応性に 乏しいため、岩石にあまり取り込まれなかった。
表 1-3.惑星大気の占める割合と主成分。日本評論社『太陽系と惑星』の表を転載。
円盤ガス捕獲の数値シミュレーション。
破線:原始惑星コアの質量, 実線:エンベロープ質量
日本評論社『太陽系と惑星』より
円盤ガスの捕獲
惑星が十分に成長すると、重力によって 円盤ガスを捕獲した大気をまとう
22 第 1 章 太陽系の構造
(a) (b)
図 1-7 .重力多体シミュレーションによる、 (a) 暴走成長と、 (b) 寡占的成長の様子。円 の大きさが天体の半径に対応している。日本評論社 シリーズ現代の天文学『太陽系と惑 星』の図を改変。
1.5.5 巨大ガス惑星の形成
巨大ガス惑星の特徴は、 エンベロープ と呼ばれる大量の水素・ヘリウムガスの存在である。
標準シナリオでは、固体の原始惑星 ( コア ) が重力的に円盤ガスを捕獲して、巨大ガス惑星が 形成されたと考えられている ( コア集積モデル ) 。原始惑星が円盤ガスの大気をまとうために は、ガス分子の熱運動を重力によって抑えこむ必要がある。より物理的には、円盤ガスのエ ンタルピーと惑星から受ける重力ポテンシャルの和が負である場合に、惑星は円盤ガスの大 気をまとうことができる。すなわち、
γ γ − 1
k
BT
m
g< GM
R . (1.32)
ここで γ は円盤ガスの比熱比である。惑星質量が大きいほど重力ポテンシャルが大きくなる ため、大気を保持しやすい。 5.2 AU での温度 120 K では、 10
−2M
Earth以上の場合にこの条 件が満たされる。
数値シミュレーションによって得られた円盤ガス捕獲過程の質量の進化を図 1-8 に示した。
コア質量が大きくなるほどエンベロープ質量が大きくなるが、コア質量がある値に達した時 に一気にエンベロープ質量が増加する。これはエンベロープの自己重力によって暴走的な円 盤ガス捕獲が起こることを示している。このような暴走的なガス捕獲が起こるコア質量は、
エンベロープの自己重力が有効になる時、すなわちエンベロープの質量がコア質量と同程度 になる時である。この質量はおおよそ 10 倍の地球質量程度であることが知られている。
木星や土星は上述のような暴走的ガス捕獲を通じて形成された。一方で、天王星や海王星 は円盤ガス捕獲がはじまる頃には円盤ガスの量がすでに少なかったと考えることができる。
ガスの粒子の運動エネルギー
(エンタルピー) 惑星の重力ポテンシャル
木星軌道だと、地球質量の0.01倍
暴走的円盤ガス捕獲
原始惑星が10地球質量を超えると
捕獲した円盤ガスの自己重力によって 暴走的なガス捕獲が起こる
11
巨大惑星の形成
8 第 1 章 太陽系の構造
表 1-1. 惑星の諸物理量
公転半径 質量 (地球質量=1) 分類 備考
水星 (Mercury) 0.38 AU 0.055 岩石惑星 大気なし、磁場あり
金星 (Venus) 0.72 AU 0.82 岩石惑星 CO2 大気、磁場なし
地球 (Earth) 1.00 AU 1 岩石惑星 N2・O2 大気、磁場あり
火星 (Mars) 1.52 AU 0.11 岩石惑星 CO2 大気、磁場なし
木星 (Jupiter) 5.20 AU 317.83 巨大ガス惑星 磁場あり
土星 (Saturn) 9.54 AU 95.16 巨大ガス惑星 磁場あり
天王星 (Uranus) 19.22 AU 14.54 巨大氷惑星 H2・He 大気、磁場あり
海王星 (Neptune) 30.06 AU 17.15 巨大氷惑星 H2・He 大気、磁場あり
図 1-1.太 陽 系 の 構 造 。日 本 学 術 会 議 に よ る 対 外 報 告( 第 一 報 告 )よ り、
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-20-t35-1.pdf
巨大ガス惑星 暴走的ガス捕獲を経て形成 主成分は円盤ガス
巨大氷惑星 暴走的ガス捕獲する前に、円盤ガスが消失 主成分は氷
12