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羽 が 朽 ち た 天 使 が 叫 ぶ

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Academic year: 2024

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(1)

たすために会いに来たんだ」

  この日、ベッドの上で寝ていた祖母が忽然と姿を消した。村中総出で山狩りまで行ったのにも関わらず、その痕跡すら見つけることが出来なかった。

  祖母が何故いなくなったのか……その理由を知る者は、私を除いて一人もいない。

人間科学部人間科学科2年

守山 文也

  金属を打ち合わせたような音が耳に入り、目が覚めると、そこには見渡す限りの青色が広がっていた。はて、この青色は何だろうか――と思いを巡らせ、それが空であることに気付くのには時間はかからなかった。では、何故空を見上げているのかと言えば――記憶を手繰り寄せる。そういえば、確か昼休みに屋上で眠っていたからだろう。

  そこで、現在の自分が置かれている状況に気が付いた。そう、私の眠りを妨げたあの金属音は、五限の始まりを知らせるチャイムではないか。

  私は小さくため息を付き、仰向けから上半身を起こし、地べたに座る態勢に移る。この調子だと、五限には間違いなく間に合わないだろう。どうやら、思っていた以上に気持ちよく眠り過ぎていたらしい。そう結論づけた私は、出席することを諦めて屋上でゆっくりとサボタージュすることに決めた。六限には出席するが、五限はサボる。そうしよう。

  そうと決まれば話は早い。今日は確か、購買 で昼食を買った後、屋上に来て食べる前に眠りに付いた筈だ。脇に置いていたプラスチック袋から、お目当ての物を取り出す。

  「あったあった。クリームパンと、

ミルクティー」

  紙パックのミルクティーにストローを刺し、クリームパンの包装を開ける。頂きます、と小さく呟いてクリームパンに一口、二口とかじり付く。中のクリームの上品な甘さが、パンと混ざり合って口の中一杯に優しく広がる。まさに絶品である。いまいちパッとしない購買で売っているパンの中でも、クリームパンだけは別格だ。

  半分ほど食べた所で、ミルクティーのストローに口を付けて飲み始める。こちらは、至って代わりのないミルクティーだが、それでも並以上の味はする。元々、私がミルクティーを好きだというのも理由の一つだろう。

  「あぁ、幸

せ」

  皆が一生懸命に面倒臭い授業を受けている中、自分だけが優雅にランチタイムなのだと考える と、小さな優越感を得る。我ながら、小さい器の人間だと思うが感じるのだから仕方ない。

  そんな小さな幸せを得ている時、屋上の扉が開く音が聞こえた。思わず、体を強ばらせてしまい、急いで振り向く。見回りの先生でも来たのか、と身構える。

  だが、そこにいたのは、我が高校の制服を着ていた可愛い女の子だった。美少女、と形容しても違和感がない容姿を持っている。その子は、どこか驚いたように私の方を見ていた。

  それに対して、私は。

  「……なんだ」

  強ばらせた体の緊張が解けた、だけだ。この時間帯で屋上に来たという事は、彼女もサボリなのだろうと思い至ったからだ。

  に、しても随分な美少女である。こんな美少女がサボリとは、人は見かけによらないものだ。美人でも不細工でもない、普通の私からしたら羨ましい容姿である。

使

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羽 が朽ちた天使 が叫 ぶ ● 小説

(2)

  「――ど、どうして」

  美少女は、信じられない、といった様子で私を見て呟く。どうにも、友好的と言ったような雰囲気ではない。その態度に疑問符がつく。私は何もしていないはずだが、何故そのような雰囲気を醸し出しているのだろうか。思い返してみても、彼女とは会ったことがないはずだ。知らない所で恨みを買った可能性は無きにしも非ずだが、サボり癖が付いていること以外は善良な生徒である私に、そのような因縁があるのだろうか。取り敢えず、現時点では判断が付かない。彼女の言葉の続きを待つことに決める。

  暫くした後、鋭い視線で美少女ちゃんは睨んでくる。

が居るんですか。こんな事、あり得ません!」   「どうして、五限が始まっているのに屋上に人   「はい?」

  思わず、間抜けな声を上げてしまった。一体、彼女は何を言っているのか。

授業をサボっただけなのだけど」   「いや、何で居るのかと言われても……まぁ、

  「そんな事

を聞いているんじゃありません!」

  無茶苦茶である。私の中で、彼女の認識が美少女ちゃんから残念な美少女ちゃんへと変わった。

  ぶっちゃけ、アナタだって何故此処に居るのか、

  「いえいえ、どう致

しまして」

  どうやら、杏里は私が思っている以上に丁寧な女の子のようだ。さっきの様子から受けた印象とは大分違う。彼女の爪の垢を煎じて飲めば、少しは私も真面目になれるかもしれない。

たいと思います。とっておきの秘密ですよ」   「食事を奢って頂いたお礼に、私の秘密を教え   「ん?」

  唐突に、彼女が真面目な表情をして、私に言う。

  それを見て、私も佇まいを変える。こんな時間に屋上に来た理由だろうか。

  少しだけ、間が開く。そして、杏里は口を開く。

  「実

は私、世界を救う天使様なんです」

  微笑みを浮かべて、彼女は言った。

  「は?」

  一瞬、彼女の言葉の意味が理解できなかった。

  思わず、呆けた声を出してしまう。

  「えと、今

なんて言ったのかしら」

  冗談、もしくは聞き間違いであることを祈って彼女に尋ねる。

  「だから、

私は世界を救う天使様なんです。とっておきの秘密ですよ、これ」

  「……」

  どうやら、本気で言っているようだ。思わず絶句する。少し抜けている所がある美少女だと思っ と問いたいが、売り言葉に買い言葉を返したところで、話は進まない。よって黙る。

  「あり得

ません、どうして、今日に限って……」

  ブツブツと、残念な美少女ちゃんは何かを呟いている。その横顔は何処か思い詰めているようでもあった

  その時、ぐう、と腹の虫が大きな音を挙げて鳴いた。勿論、私の腹の虫ではない。だとすれば、この恥ずかしい音を鳴らしたのは――。

  「……」

  美少女が、顔を真っ赤にして俯いている。ああ、やっぱりさっきの音は彼女から出たモノだったのか。何となく、居たたまれない気持ちになる。このまま放っておくのも、少し気分が悪い。

  「えと、パン食

べる?」

  取り敢えず、袋から二つ目のクリームパンを取り出して、彼女に差し出した。一瞬、彼女は呆けた顔をする。

  「その、すみません」

  彼女は小さく呟いて、頬を染めたままパンを受け取った。

  「なかなか、豪快

な食べっぷりで」

  彼女は、クリームパンを受け取った後、物凄い早さでかぶり付いた。よっぽどお腹が空いていた

ていた彼女は、どうやら電波少女だったらしい。

  「あ、信

じていませんね?」

  「うん、まぁ」

  いきなりこれを信じろ、と言われても正直困る。どうやら彼女も、最初から信じて貰えるとは思ってはいないようで、「仕方ないですね」といった表情をしている。

のです」 それを浄化するために、神は私を地上に使わした   「この世界は、人間の悪意で満ち溢れています。

  「え、ええ」

悪意によって朽ちてしまいました」 いたはずなのでしたが……地上に降りた際、その   「そう、本来なら私の背には二つの羽が生えて

  いきなり、杏里の論説が始まる。私は、多少引き気味で彼女の言葉に耳を傾ける。

す」 ためでしたが……どうやら、間が悪かったようで   「今日、屋上に来たのも世界を救う儀式を行う   杏里が私の方を見て喋る。成る程、だから私が屋上に居たことにあんなにも驚いていたのか。これで、彼女の不思議な行動の一つに納得がいった。

できませんが……まぁ、機会はまだあります。ゆっ   「まぁ、その儀式の内容については話すことは のだろう。瞬く間にクリームパンを食べ尽くした。

  「ご馳走様

でした」

  美少女ちゃんは、満足げな表情で手を合わせて一礼する。

  「どういたしまして」

  別に私が作ったと言うわけではないのだが、何となく照れ臭い。どうぞ、と私の飲み掛けのミルクティーを彼女に差し出す。一瞬、躊躇した後、恐る恐る受け取って、ストローに口を付ける。別に、毒薬が入っているわけでもないのに、そんな大仰な仕草をしなくても、と思う。

  「……美味

しい、です」

  美少女ちゃんは、小さな声で呟いた。

  「ん、それは良

かったわ」

  満足そうでなによりだ。奉仕主義ではないが、人が喜ぶ姿を見るのは少しだけ嬉しい。

  「私

は田中  美里。あなたは?」

  「篠崎

  杏里、と言います」

  美少女ちゃん改め、杏里はミルクティーを私に返す際に、名前を教えてくれた。

  「美里

さん、ですか。良い名前ですね」

  「どうも。あなたも良

い名前だと思うわよ」

  互いにお世辞を言い合う。社交辞令のようなものだが、別に悪い気分はしない。

  「今日

は、凄くお世話になりました」

くりと待つことにしました」

  「そ、そうなの」

  それからも、彼女は素敵な妄想を私に披露してくれた。

  曰く、私は選ばれた人間なのだと。曰く、世界は静かに人の悪意によって滅亡に向かっていると。曰く、その儀式によって人の悪意は浄化され世界は救済される、と。

  彼女の言葉には何一つ証拠は無く、幾つかの矛盾が生じて居るものさえあった。誰が聞いても、彼女の喋っていることは妄想であることは明らかだろう。

  ただ、それでも。彼女が喋っている妄想を聞いて笑い飛ばすことができなかった。

  「……と、まぁ、こんな所

ですね」

  ふぅ、と杏里は自分の妄想を喋り終えて、満足そうな笑みを浮かべる。それはまるで、何かを成し遂げたような顔だった。

  その顔を見て、私の中に小さな感情が生まれる。

  「ちょっとだけ、羨

ましいわね」

  それは、嘘偽りのない感想だった。

  杏里は驚いたような表情でこっちを見る。

からないけれど、一生懸命になれる何かがあるっ   「あなたが言っていることが本当かどうかは分

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羽 が朽ちた天使 が叫 ぶ ● 小説

(3)

てのは、羨ましいわ」

  例え、それが妄想であったとしても、彼女は必死なのだ。日々をグータラと過ごしている私と違って、毎日を本気で生きている。

が、羨ましいんですか?」   「  ……本当に、羨ましいんですか?こんな私

  「本当

よ。あまり私は嘘を付かないのよ」

  彼女は、頬を染めて目に涙を貯め、それでいて嬉しそうな表情を浮かべる。どうやら、自分が褒められるとは露にも思っていなかったらしい。

  何というか、むず痒い気持ちになってくる。大した意味を込めては居なかったのにここまで感激されると、照れ臭くなる。

  彼女に対して、何か言葉を掛けようかと思ったところで、五限の終わりのチャイムが屋上に鳴り響く。

  「あ、もう終

わったのね」

  どうやら、彼女の話に思う以上に聞き入っていたようだ。いつの間にか、時間が過ぎていたようだ。杏里も、驚いたような表情を浮かべる。

  「美里

さんは、六限には出席するんですか?」

ちは?」 ね。出席できるときに出席しとかないと……そっ   「ん。流石にこれ以上サボると色々面倒なのよ   「もう少

し、ここに居ようかと」

  「……杏里?」

  彼女の名前を聞いた瞬間、彼女の顔が強ばる。

  「なに、知ってるの?」

が……」   「知ってるというか、ちょっと噂を聞いたこと

  「へぇ、それってどんな」

  この時私は、どんな噂なの、と続けようとした。だが、その言葉は最後まで続かなかった。何故なら、私は見てしまったからだ。

  ――佳子の後ろの窓に、大きな何かが落ちているのが。

  「……みーちゃん?」

  佳子が不思議そうに私を見ているが、今はそれ所ではない。

  今のは、何だ。落ちていたのは分かる。だったら何が?  大きかった。凄く大きかったように見える。例えるなら、人と同じ位の大きさだ。……と、言うか。

  今、人が落ちていなかったか?

うです』 行うためでしたが……どうやら、間が悪かったよ   『今日、屋上に来たのもその世界を救う儀式を   屋上での彼女の言葉が、フラッシュバックする。その瞬間、酷く嫌な予感が頭をよぎった。儀式ってなんだ。一体、彼女は何をするつもりだったのか。

  「そうなの。あんまりサボりすぎないようにね」

  これは私が言えた義理ではないけどね、と付け加える。ミルクティーが入っていた紙箱とクリームパンの袋を一つのプラスチック袋にまとめる。

  ゴミはしっかり持って帰らなければならない。

ね」   「今日は楽しかったわよ。また会えると良いわ

  「……」

  彼女は、酷く寂しそうな眼で私を見てくる。別に、今生の別れでもあるまいし、そんな顔をしなくても良いのにと思う。

  「それじゃあ、またね」

  私の言葉を受けて、彼女は寂しそうな顔を微笑みに変える。

  「さようなら。

――今まで一番、楽しかったです。あなたに会えて、良かったと思います」

  「……そんな大袈裟

な」

  でもまぁ、悪い気はしない。一度だけ振り返って。そのまま屋上から出て行った。

  最後に見えた、彼女の顔は何処か満足げだった。

  「五限サボりやがって羨

ましいぞ、みーちゃん」

  教室に帰ってきて早々、友人の佳子が私に早口

  席を蹴り上げて立ち、急いでベランダの方へと向かう。ドアを壊しかねない勢いで開けて、塀から身を乗り出すようにして真下を見る。

  そこには、人間だったモノが仰向けに倒れていた。後頭部の位置からアスファルトを真っ赤に染めている。悲鳴を上げそうになって、それを抑える。落ち着け、と自分に言い聞かせる。それから、今、自分が取るべき行動を――と逡巡したところで、あることに気付いた。いや、気付いてしまった。その人間だったモノの顔が、誰かに似ていることに。考えるな考えるな考えるな、と本能が警鐘を鳴らすが思考は止まらず、そして。

  「杏、里?」

  その名前を口に出して、しまった。

   その直後のことは、殆ど覚えていない。ショックで、その場に倒れてクリームパンを吐き散らかしたような気がする。佳子が「みーちゃん、みーちゃん!」と誰かが必死に呼び掛けてくれた事は何となく覚えている。意識が朦朧としたまま、保健室に運び込まれて、そのまま家へと連れ戻されて、眠った。

  そして翌日、篠崎杏里が、屋上で飛び降りたことを親の口から伝えられた。生死は、言うまでも で愚痴を漏らしてきた。彼女は、窓際の席に座っている。その隣に私の席があるので、彼女を見ていると外も同時に見ている事になる。彼女曰く、五限が非常につまらなかったので謝罪と賠償を要求する、といったような内容だった。要約すると「妬ましい」の一言で片づけられた。

と昼寝をしていたら授業が始まっていて」   「  サボるつもりはなかったのよ?ただ、ちょっ

カヤロー!」   「それを世間一般ではサボるって言うんだよバ

  ごもっともである。

  「サボってたのは、私

だけじゃないのに」

  目を逸らして、言い訳にもならない弁解をする。他人がしているからといて自分がして良い理由にはならない。だがまぁ、話を逸らす位ならできるかもしれない。

もんだね」   「へー、みーちゃん以外にも不良生徒って居る

  思惑通り、この話に佳子が食いついてくる。彼女は新聞部に所属しているため、常日頃から面白そうな話題を探しているのだ。素行が良くない人間は、彼女にとっての話題のタネになりやすい。よって、こういう話は食いつきが良いのだ。

少女だったわ」   「そうなのよ。名前は杏里って言って結構な美

なかった。

  数日後、佳子が見舞いに着た時に、この事件の詳細を聞くことができた。彼女の親は、有名なゴシップ紙で働いているらしく、普通の人間より情報を集まってくるようだ。私が、屋上で杏里と話した内容を簡潔に伝え、事件について知ってることを教えてくれと懇願した。

  何度も「……本当にロクでもない話だよ?」と念を押されたが、私の熱意に押されて、話してくれた。

  杏里は、同学年の生徒から酷い虐めを受けていたそうだ。学校で補導された虐めの主謀者によると、『最初は、何となく彼女が気に入らなかった』から、だそうだ。

  最初の方は、変な話ではあるが、普通の虐められっ子であったらしい。与えられる苦痛に涙を浮かべて、許して、と訴えるような女の子だった。だが、ある日を境として彼女の様子が一変した。それは、両親が事故で亡くなった日、だそうだ。詳しいことは分からない。ただ、その辺りから、彼女の行動に奇異な物が目立ち始めた。

  簡単に言うならば、喜び始めたのだ。叩かれても笑い、嘲笑を受けても微笑みを返すようになりはじめた。虐めという苦痛が、彼女にとって喜

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羽 が朽ちた天使 が叫 ぶ ● 小説

(4)

びと変わっていたのだ。何故そうなったのか、理由は分からない。ただ、私の想像からすると、彼女にとって他人との繋がりが、その虐めしか無くなってしまったからではないかと思う。彼女は両親と言う繋がりを失った彼女に残されたのは、それしかなかったのだろう。

  そこから、彼女に対する虐めがエスカレートしていく。最初は、ただ気に入らなかっただけで虐めをしていたのだが、そこに別の感情が交じり始める。

  それは、恐怖だった。虐めの主謀者は、こう語っている。

たのよ、アイツは!』   分かる?笑っているのよ、虐められて笑ってい   『アイツが気持ち悪かった。いや、怖かった。

  何故、コイツはこのような虐めを受けているのに笑っていられるのか。人は理解できない物に恐怖を覚える。ならば、それをどうするか。答えは二つだ。それから逃げるか――もしくは排除しようとするか、だ。そして、虐めた者達は、後者を選んだ。

  エスカレートする虐め。その内容について少しだけ耳にしたが、それを誰かに詳しく説明するつもりは無い。それほどまでに酷い内容だった。

  そして、最終的に彼女は自殺した。それだけの、

  結局、全ては幻想だった。天使なんてものは存在しなかった。

  「……救

われたかったのは、誰なのかしらね」

  どこまでも、空は続いていた。

  羽が朽ちた天使の叫びは、もう聞こえない。 話だった。  「救

いようが無い話だね」

  一連の流れを教えてくれた佳子は、そう話を締めくくった。全くその通りだと思う。

  本当に、どうしようもなく救いようがない話だ。

けどね」 う可愛い子が虐めを受けているって程度、だった   「私が聞いてた噂も、そんな感じ。杏里って言

  そういって、彼女は私に向き直る。

にもどうしようも無いことだったんだから、さ」 れは、私が間に合わなかったように、みーちゃん   「……だから。あんまり気負わないようにね。こ

  珍しく、佳子が私を慰める。どうやら私は、とても酷い顔をしているらしい。

  「大丈夫。うん、大丈夫

よ、きっと」

  「……みーちゃん」

  ギュ、っと佳子が私を抱きしめてくれた。その暖かさに、思わず涙を流しそうになったが、何とか我慢する。

  彼女はきっと、この暖かさを知ることなく、この世を去ったのだろう。

  そう思うと、寂しさが胸の中をこみ上げてきた。

  私は、佳子の体を抱きしめ返して、この暖かさを忘れたくない、と強く思った。   あれから数ヶ月経った。  今、私は家の二階のベランダから何となく空を眺めている。勿論、飛び降りる気は全くない。もしそうしたとしても、この高さなら骨が一、二本折れる程度ですむだろう。

  この数ヶ月という月日は、私に思考する時間を与えてくれた。

  ――彼女は。私以外に自分の妄想を話してはいなかった。一体、これが何を意味するのかは、私には分からない。

  自殺を止めて欲しいというSOSだったのか。それとも、死ぬ前の余興だったのだろうか。あるいは、本当にその妄想を信じていたのだろうか。今となっては、真相は闇の中、だ。

  ただ、と私は思う。

  あの妄想は、彼女の心の叫びだったのではないだろか。何を伝えたかったのかは分からない。だが、聞こえる人が居なくとも、必死に世界に向けて叫ばずには居られなかったのではないだろうか。

  「世界

を救う、か」

  彼女は一体、何を思ってその言葉を口にしていたのだろう。

  彼女一人が死んだ程度では、この世界はなにも変わらなかった。ただ、それだけの話だ。

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