• Tidak ada hasil yang ditemukan

超伝導体と単分子磁石の出会いで現れた量子状態を観測

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2024

Membagikan "超伝導体と単分子磁石の出会いで現れた量子状態を観測"

Copied!
7
0
0

Teks penuh

(1)

www.tohoku.ac.jp

2022年5月13日 報道機関 各位

東北大学多元物質科学研究所

【発表のポイント】

 トンネル電流を用いて量子コンピュータの単位である量子ビット*1と して期待される単分子磁石*2のスピン状態の検出に成功

 電流を用いた磁性分子の量子ビット利用に道

 量子物性出現の超伝導物理と単分子磁石の化学との邂逅による新しい量 子状態の検出と化学分析への応用の可能性

【概要】

これまで磁性分子は、ESR(電子スピン共鳴)/NMR(核磁気共鳴)と組み合 わせて量子コンピュータの基本情報単位の量子ビットとして機能し、その演算 も可能であることは実証されてきました。しかし量子ビットの材料として今後 も発展するためには、電磁波を用いて多数の分子で演算する大型装置から、電 流を用いた少数分子の局所領域での演算への変更が必須となります。その実現 には電流でESR/NMR観察を可能にする大きな発展が必要とされています。単分 子磁石は、配位子の設計により中心金属のスピン方向(磁場の向き)を保持で きる特性があるため、量子ビットの有力な候補です。中心金属であるランタノ イド*3原子の4f電子*4スピン、あるいは核スピンの量子ビットへの応用が研究 されています。

東北大学多元物質科学研究所のS.M.F.シャヘド助教と米田忠弘教授、理学研究 科の山下正廣名誉教授、城西大学理学部の加藤恵一准教授らの共同研究グルー プは、超伝導体の量子現象と、化学合成で得られた単分子磁石を融合すること によって、磁性金属錯体のスピン状態を電流利用で読み込むことに成功しまし た。超伝導状態は精密で磁場に敏感な電子状態を有し、特に磁性不純物が近傍 に置かれたときYu-Shiba-Rusinov (YSR)状態が超伝導ギャップ内に出現すること が知られています。本研究では、空間的に原子レベルの限られた領域を流れる トンネル電流の分光を用いて、4f電子スピンをYSRで検知、かつ4fスピンと配 位子が作るスピンの相互作用エネルギー(分子内交換相互作用エネルギー)を 直接に観察することに成功し、超伝導と分子の組み合わせが量子ビット応用に 有用であること、また精密化学分析技術にも貢献できることを示しました。

本研究成果は、2022年4月25日(米国時間)に米国化学会の学術誌「ACS Nano」 にオンライン掲載されました。

超伝導体と単分子磁石の出会いで現れた量子状態を観測

-電流による分子スピンの読み書きと量子コンピュータの実現に一歩前進-

(2)

2

【詳細な説明】

背景

近年、量子コンピュータに関心が集まっていますが、実用的なハードウエア ーは未完成で、未だ多くの手法が競争している状態です。特に情報の単位であ る量子ビットには様々な候補が挙げられています。分子のスピン利用もその有 力候補であり、実際にESR/NMR を利用して量子コンピュータ動作を検証する ことは、他の手法に先駆けて2000年にはすでに実証されていました。

しかしながら、多数の分子を電磁波で読み書きする手法では他の手法に伍し て発展して行くことは困難とみられ、少数分子を用いた電流を用いた検知に移 行することが望まれます。同時にスピンを電流で読み取る技術は現状の MRI

(磁気共鳴画像)の基礎技術である NMR 手法を根源から変革する技術でもあ り、空間分解能の飛躍的な発展が注目されています。

分子合成が進歩し、スピンの方向や位相を長時間保持する特性が分子設計・

合成の進歩とともに得られています。特に単分子磁石は、スピンの向きを高い 温度で保持できる有力候補です。中心金属のスピンが量子ビットとして利用さ れると期待されていますが、その電流での読み出し技術は緒についたばかりで す。

成果

東北大学多元物質科学研究所の S.M.F.シャヘド助教と米田忠弘教授、理学研 究科の山下正廣名誉教授、城西大学理学部の加藤恵一准教授らの共同研究グル ープは、量子コンピュータの量子ビットの候補として期待される単分子磁石を 合成し、超伝導体を電極基板として用いることで生じる量子状態をトンネル電 流で読み出すことに成功しました。

今回、剥離法によって表面を平坦にした超伝導体NbSe2を電極として用いま した。図1(a)のインセットに示した原子像に、六方晶系(2H)相の3x3超格子 構造が見られます。図1(a)には、高さの違う2 種類の分子が見られますが、こ れらは中心原子Tbをフタロシアニン(Pc)がサンドイッチしているTbPc2分子と、

その解離状態TbPcの2種の分子です。図2でそれを模式的に示していますが、

TbPc2分子は図2(a)、TbPc分子は図2(b)です。イオン価数はTbPc2では中心Tb は3+であり、J=6のスピンを持ち、配位子Pcもラジカルスピンを有する、2ス ピン系分子です。図 1(b)に示すように約 2 倍の高さの差が見られ、図 2(b)の 2 種の解離した分子は図 1(c)に観察され、TbPc 分子は図 1(d)で示されています。

中心が暗く見えていることから、Tb原子が表面側に吸着している事がわかりま す。TbPcにおいてもTb金属およびPc配位子ともにスピンを有しています。

超伝導体NbSe2に吸着した2種類の分子が持つスピンに関する情報を、電流 を用いて読み出しを試みました。ここで電流はSTM(走査トンネル顕微鏡)で 用いるトンネル電流であり、空間的に原子スケールの分解能を持ち、またトン ネル電流を用いる手法は実際のデバイスにも応用可能な技術です。

(3)

3 図1 (a) 超伝導体NbSe2(インセットに表示)電極に吸着させたTbPc2および TbPcの分子像。(b) 2つの分子の高さの比較、TbPc2分子は焼く2倍の高さを持 つ。(c) TbPcとPc分子の混在表面部位のSTM像。(d) TbPc分子の拡大像。

図 2 TbPc2(a)、およびそれが解離した TbPc+Pc(b)の模式図とそのイオン価 数のモデル。

図3(a)に示すように、TbPc2(T)および2種類の吸着対称性の異なるTbPc(Iお よびII)が同時に観察可能な領域を示し、これらの分子に関してトンネル電流分 光を行います。超伝導体は、スピンが反対方向を持つ2つの電子がクーパー対 を形成し、それ由来の超伝導ギャップが生じており、ギャップ内部には電子が 存在できません。超伝導は非磁性の不純物には耐性が強く転移温度も大きく変 化しませんが、磁性不純物に関しては強い影響を受け、その不純物による散乱 によってギャップ内に新しい量子電子準位が生じることが知られています。こ れはYu-Shiba-Rusinov (YSR)状態と呼ばれています。磁性的な相互作用Jが強く なると、その準位は超伝導ギャップ端から分離し、電圧0のフェルミ準位に接 近します。

(4)

4 図3 (a) NbSe2に吸着したTbPc2(T), TbPc (吸着タイプI and II)の像。(b)(c) YSR 状態のトンネル分光スペクトル。分子配位子での測定 (b)、および中心での測 定。(c).

図 3(b)(c)は、NbSe2表面および分子の配位子位置での分光結果と、分子中心

での分光結果を示しています。'bare'と表したNbSe2表面で得られたスペクトル には超伝導ギャップが観察され、エネルギー位置は2本の縦線で示しています。

すべての分子で超伝導端からエネルギー的に離れた位置にピークが観測されま す。これらは分子のスピンで生じたYSR状態と考えることができ、配位子のパ イ電子スピン、Tbの4f電子のスピンの両者がYSR状態を作ることが示されま した。従来知られているd電子によって形成されるYSR状態に加えて非局在の π電子や4f電子のスピンがYSR状態を示すことをSTMで示した最初の例です。

また、IとIIのTb金属で得られたスペクトルには大きな差があり、IIではフェ ルミ準位付近に強いピークとして観察されています。これはNbSe2表面の対称 性が2Hであり、吸着対称性でYSRに大きな違いが生じることを示しました。

(5)

5 図 4 (a)分子内交換相互作用に由来するスピン励起を検知した非弾性トンネル 分光。超伝導ギャップに相当するΔL ΔRの外側に IEL IERとして観察されて

いる。(b)-(d)分子内部での非弾性トンネルスペクトルの位置依存性。

図5 非弾性トンネルスペクトルの模式図。(a) 通常金属の場合、(b) 超伝導体 の場合の励起機構のモデル。

超伝導体の鋭い電子状態と、磁場への敏感な応答は、化学分析に大きな貢献 をすると考えられます。その例を図4に示します。図 4(a)で超伝導ギャップの 外にIEL、IERと示した2つのピークが出現します。これはギャップの外にある ことからYSR状態ではなく、分子スピンの励起に相当し非弾性トンネル分光と 呼ばれています。通常の金属上に比べて明瞭な状態が得られます(図5)。この 励起エネルギー領域(1.5 meV)で、もっとも確からしい励起機構は、中心Tb 原子の 4f 電子スピンと配位子パイラジカルがスピンの相互作用で形成する反 平行状態から平行状態への遷移で、詳細は磁場の印加による状態の分裂によっ て確認されました。このスピン励起は分子内交換相互作用エネルギーを直接観 察したことに相当し、従来観測が困難であった、量子情報処理・スピントロニ

(6)

6 クス応用における最も重要なパラメターを観察したことになります。今回、超 伝導体を電極として用いることでそのエネルギーを実験的に求めることができ ました。また、図4(b)-(d)において分子中心と配位子の位置で交換相互作用の振 る舞いが異なり、ナノスケールでの化学分析が可能であることを示しています。

今後の期待

量子物性を発揮する超伝導体と分子合成・設計技術による単分子磁石の組み 合わせは物理・化学境界領域の様々な新奇現象を生じると期待されています。

今回、本研究で明らかにした、YSR 状態を用いた 4f スピンの直接検出は量子 ビットの読み取りに応用されると期待されます。同時に超伝導体はクーパー対 が形成されており吸着した分子のスピンの情報を撹乱しないなど電極として優 れた性能も有しており、更にその界面研究が発展すると考えられます。

【論文情報】

タ イ ト ル :Observation of Yu-Shiba-Rusinov States and Inelastic Tunneling Spectroscopy for Intra-Molecule Magnetic Exchange Interaction Energy of Terbium Phthalocyanine (TbPc) Species Adsorbed on Superconductor NbSe2

著 者 :Syed Mohammad Fakruddin Shahed,a Ferdous Ara,a Mohammad Ikram Hossain,a Keiichi Katoh,b Masahiro Yamashita,c and Tadahiro Komeda*a

所属: a東北大学多元物質科学研究所, b 城西大学理学部化学専攻 c東北大学大学院理学研究科化学専攻

掲載誌:ACS Nano

DOI:10.1021/acsnano.1c11221

URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsnano.1c11221

【用語解説】

*1.量子ビット:量子コンピュータを構成する情報の最小単位。従来のコンピュ ータにおけるビットと異なり、何らかの物理的な素子の状態の量子重 ね合わせで情報が表現される。

*2.単分子磁石:分子1つが磁石のような性質を示す物質群。配位子の設計により 中心金属のスピン方向(磁場の向き)を保持できる特性がある。

*3.ランタノイド:原子番号57(ランタン)から71(ルテチウム)までの15の元 素の総称。希土類元素に分類される。

*4.4f電子:ランタノイドに属する希土類元素が持つ4f軌道とよばれる軌道を占め

る電子。4f軌道には最大14個の電子が収容される。

(7)

7

【問い合わせ先】

(研究に関すること)

東北大学多元物質科学研究所

教授 米田 忠弘(こめだ ただひろ)

電話:022-217-5368

E-mail:[email protected]

(報道に関すること)

東北大学多元物質科学研究所 広報情報室 電話:022-217-5198

E-mail:[email protected]

Referensi

Dokumen terkait

有用微生物の細胞機能に関する分子遺伝生化学的研究 東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命工学専攻 教授 依 田 幸 司 人類は古来より経験的に多様な微生物の働きを利用し,微生 物の実体を知ってからは,積極的な探索と育種が進んだ.動植 物に比べて,有用微生物の育種では,理屈に基づく計画的改変 と,膨大な数の変異体からの闇雲な探索が,容易に両立する.

光の波動と粒子の二重性 電子の波動と粒子の二重性 1924ド・ブローイの物質波 量子力学の扉を開く 量子論の夜明け 19世紀末,古典力学,古典電磁気学では説明できない現象が観測さ れ,このような現象を説明するために20世紀初頭量子論的考え方が 生み出された。 ボーアの原子模型は水素原子スペクトルの解釈では画期的なもので

3 研 究 現行のナノ材料よりもさらに小さな物質を扱う次世代のナノ物質科学を切り拓くこと を目標に、原子の数(サイズ)が数~数十個の範囲で正確に定まった原子分子クラスタ ーを対象として、これら極微小な物質に特有の基礎物性を、物理化学の視点と手段で探 究する。クラスターの特質は、原子1個の増減で物性や反応性が不規則かつ劇的に変化

A01 合成班の戦略目標と新規性 論文数=134 戦略目標: サンプル早期提供 mmサイズグラフェン単結晶達成! ・SiC上単層グラフェン: ・CVD法グラフェン: アルコール法 応用班(輸送特性) エッチング析出法 新規性: 新規二次元原子層の合成技術の共同開発実現! 物性班(磁気抵抗測定) 応用班(量子容量測定) 日本, 韓国, 米国特許

フ フッ ッ素 素化 化反 反応 応: :合 合成 成素 素子 子を を用 用い いる る方 方法 法② ② 3個のFトリフルオロメチル基を持った合成素子 1炭素合成素子CF3−, CF3·, CF3+の等価体 2炭素合成素子 3炭素合成素子 含フッ素有機化合物シントン 合成素子 ケイ素置換基をフッ化物イオンで切断=アニオン等価体

各 IMC/P407 GM 懸濁液中においては、液相成分として P407 の高分子ミセル、固相成分としてIMCナノ結晶及び その結晶界面に吸着した P407 が存在している。IMC ナ ノ結晶界面に吸着した P407 は、疎水性の PPO 鎖の疎水 性相互作用により IMC 結晶に強く相互作用する一方、親 水性の PEO の水和層形成により IMC ナノ結晶の分散安定

コスメトロジー研究報告 第 11 号(2003) 水分子の移動とその速度制御のための分子膜の開発 師 井 義 清 九州大学大学院 理学研究院化学部門 【目的・背景】 「液体の蒸発速度に及ぼす単分子膜の効果」に関する研究は、古くは1800年代に遡る。 水の有効利用は強く望まれながらも、大量の水が蒸発によって失われている。そこで、1950

29 Table 化学吸着と物理吸着 吸着特性 化学吸着 物理吸着 吸着力 化学結合 ファン・デル・ワー ルス力 吸着場所 選択性あり 選択性なし 吸着層の構造 単分子層 多分子層も可能 吸着熱 10〜100kcal/mol 数kcal/mol 活性化エネルギー 大きい 小さい 吸着速度 遅い 速い 吸着・脱離 可逆または非可逆 可逆 代表的な吸着の型