2006年度 上智大学経済学部経営学科 網倉ゼミナール 卒業論文
「パン屋の月曜日」
A0242403
青木 智子
2006年1月
1 素朴な疑問
私は以前、アルバイトで地元のジャスコに入っている「パン工場」というパン屋さんで働 いていた。そこでは毎日一時間ごとに売り上げと客数と客単価を割り出して、指定された紙に記 入することが原則だった。また、閉店時間になるとレジ閉めの際にその日一日の全ての売り上げ と客数と客単価を割り出し、ノートにも記入することになっていた。それをバイトの日毎にする うちにある一つの事実に気付き、またある一つの疑問が浮上してきた。それは、曜日ごとに客単 価を見ていった場合、なぜか平日のうち月曜日が少々他の平日よりも高いということだった。
その事実を店長に話したところ、店長も前々から月曜日の客単価が少々高めであることに気付い ていてなぜそうなるのかはよくわからない、ということだった。そこで私はこの月曜日の謎を卒 業論文のテーマにしようと考えた。
しかし、何が何に影響を与えているのかを突き止めることは少々難しいといわれる。例え ば、コウノトリが赤ちゃんを運んでくるという話が当てはまると思う。以前はコウノトリが飛ん でくると赤ちゃんがたくさん生まれるという話が信じられていたらしいが、それはコウノトリが 人体になんらかの影響を及ぼして赤ちゃんが生まれやすくなったというわけではないらしいの だ。ここで「都市化」という言葉が全ての鍵になってくる。その街は最近つくられたばかりの街 で、前は雑木林で野生の動物が住んでいた。都市化が進んだことによって森が切り開かれ、動物 の住む場所がなくなり、野生のコウノトリは仕方なく飛び去っていくしかなかったのだ。一方、
新しくつくられた街には新婚の夫婦やまだマイホームを持っていない若い夫婦が引っ越しきて、
自然と赤ちゃんがたくさん生まれるようになった。野生のコウノトリの飛来と赤ちゃんブームと いう珍しい出来事が重なり、都市化というもう一つの要因が見落とされてしまったのだ。このよ うに、何かが起こったときに何がダイレクトに影響しているのかを突き止めることは難しいよう だ。私のテーマもこのコウノトリ-赤ちゃん伝説のようにもしかしたら第三の要因があるのかも しれないが、できるだけ正確な原因を突き止められればと思う。
2 客単価とは
客単価とは一般的に「客一人当たりの一回分の購買額」を指す。そして当たり前のことだ が、売っているものやその値段によって客単価の値は変わってくる。例えば家具屋の場合では、
安い品物でも大体一万円はするし高い品物だと何千万とすることだろう。このような店では客単 価の値は当然万単位となり、また、日々の客単価の変動も激しいと思われる。ところが、私の働 いていたパン屋では安いものだと70円、一番高いものでも480円とかなり低価格な品物ばか り売っている。このような店では客単価は家具屋などに比べて大幅に低く、客単価の変動もあま りない。バイトの時に一時間ごとに客単価を割り出していたが、複数の客が普段より多めにパン を買っていったとしても、いきなり客単価が30円や40円も上がることはまずなかった。
3 パン工場の客単価
ここで、パン工場の実際の曜日別の客単価を挙げたいと思う。このデータの基は、パン工 場小山店が開店した日(2005年6月13日)から9月5日までのもので、およそ13週分あ
る。閉店の際に出す最終的な客単価の計算方法は、
(その日一日の売り上げ)÷(客数)
となっている。そして13週分の月曜日から日曜日までの客単価を曜日別に平均を出したところ、
このようになった。
月曜日 596 火曜日 571 水曜日 544 木曜日 581 金曜日 579 土曜日 619 日曜日 639
水曜日が他の平日に比べて低いのはおそらく火曜日にジャスコで行われる火曜市が原因だと考 えられる。火曜市とは普段売っている価格より少々安めの値段をつけて品物を売り出す特売市の ことで、毎週火曜日に行われている。また、火曜市では他の平日には売っていない品物も売り出 すのでさらに来店客数を増加させる。大体の客は火曜市で安い商品を大量に買っていくので、わ ざわざ普段の値段で売り出す水曜日に商品を買う客も少なくなり、購入点数も少なくなるのだと 思う。土曜日・日曜日の客単価が高いのは、おそらく購入者が同伴者を引き連れて買い物にくる からだと思われる。土曜日・日曜日ともなると大半のサラリーマンは休日になるので、子供も連 れて家族ぐるみで買い物に行く場合が多くなる。そうすると必然的に子供も「パン」という甘く ておいしいお菓子に目を奪われてお母さんにおねだりをしたり、子供がおねだりをしなくても親 の方から子供の分のパンを購入したりする。また、パン工場では子供が喜ぶ「チョココロネ」な どの菓子パンのほかに「ヨモギ餅パン」や「京風アンパン」などの大人用のパンも置いているの で、お父さんも自然とパンに手が伸び、結果的に土曜日・日曜日の客単価が高くなる。しかし、
やはりよくわからないのが月曜日の客単価が他の平日に比べて少々高いことだ。
4 客単価に影響を与えうる事柄
客単価を左右させる事柄は大別して三種類にわけることができる。一つ目は店側に因るも の、二つ目は外的なもので、三つ目は客側に因るものだ。また、ここでは月曜日の客単価に影響 を及ぼす事柄としては絞らずに、全体として月~日曜日の客単価に影響するもの全てを挙げてい くことにする。
一つ目の店側に因る事柄というのは、具体的に表すと商品の価格などだ。他には、店頭に 置いてあるパンの種類や数、店内の構造(パンの配置・ポップ・客の店内滞留時間)、試食品の 有無、店員(態度・顔なじみの程度・客の呼び込み度合い)などが含まれる。
二つ目の外的なものは気温や天気のことだ。また、近くに他のパン屋があるかどうかとい う事柄やパン工場が入っているジャスコ自体の事柄も考えられる。
三つ目の客側に因るものには様々な事柄が考えられる。それらは、性別や年齢、同伴者が いるかどうかだ。更に細かく言えば、周辺の地域に住んでいる人々の仕事の休日や食生活の習慣 なども含まれる。
それではどのように客単価に影響を与えうるか一つずつみていきたいと思う。
○店
・商品価格
商品の価格は客が品物を購入する際に目安となる(客にとっての)重要な事柄だ。ま た、価格をどう設定するかによって店の売り上げも左右するので店側にとっても細心の注意 を払わなければならない事項だろう。商品が安くて、またいくらでも消費できるものであれ ば客は「もう一つ買ってもいい」という風に思うかもしれないが、商品が高い場合(客にと って高いと感じられた場合)はもう一つ買うどころか、まったく買う気が失せてしまうかも しれない。
商品の価格についてだが月曜日は他の平日と比べてほとんど変わりなかったといえ える。というのも、毎日同じパンばかりを置いているわけではないからだ。しかし月曜日は このパンを必ず置いて火曜日はその代わりこのパンを置くという規則はなかった。ただし、
土曜日と日曜日だけは休日で家族でくる客が多いということで、店頭に値段の高めのパンを 置いていた。また、月曜日のみ値段を下げて売りだすということもなかったので、商品価格 は月曜日の客単価に影響を及ぼしていないと思われる。
・店頭に置いてあるパンの種類
パンの種類も周辺地域に住んでいる人々の年齢などにあわせて揃えていかなければ ならない。小山のジャスコの周りの住人には様々な世代がいる。小学生の子供もいれば新婚 夫婦もいて、またお年寄りの方も住んでいる。土曜日・日曜日には子供用にコロネパンやド ーナツパンを置いたり、四人くらいで食べてちょうどぴったりのサイズの大きめなパンを置 いたりしていた。
ただし商品価格のところでも述べたが、月曜日に決まったパンを置くということもな かったので、店頭に置いてあるパンの種類によって特別月曜日の客単価が左右されることは ないと考えられる。
・パンの数
店頭に置いてあるパンの数も客単価を左右する。パンの種類の数によって客の購入す る数も変わり、種類が多ければ多いほど購入点数も増える可能性が高くなる。また、種類の 数ではなく、一種類のパンが何個くらい店頭に置いてあるかというのも客単価を左右させる。
例えば、閉店間際までたくさん残っているパンはどんなに客が来てもあまり売れない。それ はおそらく「残っている」ということは「あまりおいしくないに違いない」と客に連想させ るからだと思う。また、これはコンビニの話になりますが、棚に一つだけ残っているおにぎ りなどは売れにくいと聞いたことがある。なぜそうなるのかは覚えていないが、品物の数が
客の購買意思になんらかの影響を与えているのは間違いない。
パンの数も覚えている限りでは月曜日のみ多く焼いたり、品数を増やしたりというこ とはなかったと思う。したがって、これも月曜日の客単価になんの関わりもないと考えられ る。
・店内の構造(パンの配置・ポップ)
パンの配置場所は店員にとって最も気配りを要する事柄だった。全体として、フラン ス系はフランス系でまとめて置いて、惣菜パンや菓子パンもなるべく区別して置いていた。
また、子供の好きそうなパンはなるべく子供の目の届くところに置いたり、売れ行きがよさ そうなパンはわざと目立ちやすいポップの横に配置したりしていた。
パンの配置は特に月曜日だけ変えているというわけではなく、むしろ客が飽きないよ うに毎日のように試行錯誤しながら配置を変えていた。また、ポップの方も同様に月曜日の み多めにとりつける様子もなかった。
・店内の構造(客の店内滞留時間)
店内の構造というのも店の売り上げ(客単価)と密接な関わりを持っている。例えば、
スーパーマーケットなどでは客に長い時間、そしてなるべく長い距離を歩いてもらうために わざわざ奥の方に主流商品を置いているようだ。(または、店内の隅々まで歩いてもらえる ように、流れるように店内の壁に沿って野菜や肉・魚を配置している)パン工場では客に店 の中にまで入ってもらえるように入り口は出来る限り広く開けるようにして、長く店内に留 まってもらえるように店内のあちこちにパンを配置していた。
これも月曜日に限って店の構造を変えるということはなかった。また、他の平日に比 べて月曜日だけ客が長く店に留まっているなぁと感じることもなかった。よって、おそらく 店内の構造も月曜日の客単価になんの影響も与えてないと思われる。
・試食品の有無
試食品は客単価に影響を与えるが、それはよい影響だけではなく悪い影響にもなり得 る。試食品を食べてみて客がそれをおいしく感じてもっと食べたいと思ったらそれは売り上 げにつながるが、食べてみてそれほどおいしくなかったとか、または味がわかったからもう いらないという場合には利益にはつながらない。しかしパン工場では、試食品を出すことに よって客がおいしいといって買っていくケースが多々見受けられたのでなるべく試食品は 切って出すようにしていた。
ただし、試食品を切る日も特に何曜日と決まっていたわけではなく、手があいたら出 すという感じだったのでこれもあまり関係がないように思われる。
・店員(態度・顔なじみの程度・呼び込み具合)
私が思うに、売り上げを伸ばすにあたって最も重要な事柄には、商品価格や品物の品
質もそうだが店頭で接客する店員も含まれると思う。例えば私が好きでよく行く店の中に
「スターバックス」がある。あそこは店内禁煙だし、揃っている商品も私にとってはとても おいしいものばかりだ(コーヒーは除く)。だが一番の決め手はやはり店員の態度だ。スタ ーバックスの店員はどこの店でも快活としていて、また次も行こうという気にさせられる。
パン工場でもなるべく笑顔でなおかつ丁寧に接客し、気さくそうな客に対しては人気のパン を勧めるように上司に言われていた。また、顔なじみというのも客単価をあげる重要な要素 だ。まったく面識のない店員より少し仲いい方の店員に勧められた方が誰でも買う気持ちは 大きくなる。
人間は人が群がっているところに行きたがる習性を持っているようだ。例えば、もう 半年くらい前のことだが、私がジャスコの食品売り場のお菓子コーナーにいた時のことだ。
よく通路の真ん中にワゴンに大量に乗っているお菓子などを見かけると思うが、私が通りか かったときにはそのワゴンの中にはお菓子付きスゴロクが乗っていた。そのワゴンの周りに はまったく客の気配もなく、私は一人でそのスゴロクを見ていたわけだが、なんとはなしに 自然とスゴロクワゴンの周りに人が集まってきた。それもスゴロクだから子供が集まってく るのならわかるが、大の大人が何人も集まってきて、いったい何がそんなに面白いのかと考 えた。他でも、これは実験したことはないのだが、人は人が見ていた商品を自分も見たいと 思うようだ。誰かが買っているのを見れば自分も買いたくなる。そしてコンビニでは他の人 がレジに向かえば自分もレジに向かいたくなるのだ。人間はそのような「真似」したくなる 習性を持ち合わせているように思える。したがって、店員が呼び込みを行えば行うほど客は 集まり、客がパンを買えば他の客もそれにつられてさらにパンを買いたくなる。
パン工場の店頭で働いていた人は大体私を含めて6人くらいいたが、やはり呼び込み をする勢いや回数などには人によってばらつきがあった。意気込んで呼び込みをする人やあ まりやる気のない人など、様々な人がいたが、誰が何曜日に入るなどの習慣はあまりなかっ た。
○外的
・気温や天気
気温や天気などにも売り上げは左右される。例えば、とても気温が暑くて太陽が照っ ているような日は売り上げがあまり芳しくない。暑い日にはきっと冷たいそばなどを食べた くなるからだろう。また、暑すぎてあまり食欲がわかず、パンを買っていったとしてもせい ぜい一個や二個程度で、客単価を低下させる原因にもなる。
レジ閉めの際にノートに毎日その日の売り上げと共に気温や天気の様子を記入して いたが、月曜日のみ晴れであったり、過ごしやすいような気候であったりというような記憶 はあまりない。
・他のパン屋やジャスコ
他にパン屋らしいパン屋はジャスコ周辺にはない。しかし、パン工場が入っているジ
ャスコの食品売り場で少しだけパンコーナーがある。そこではパン工場より安い値段のパン が陳列されていて、しかも保存料が使用されているのだと思うが、日持ちがいいものも売っ ている。(パン工場のパンはそういったものは使用していないらしく、持っても二日・三日 程度だ)近くに他のパン屋があるかどうかはあまり月曜日の客単価に影響しないと思うが、
ジャスコについては少々気になる情報を入手した。下に載せた数字はジャスコの食品売り場 の客単価の値だ。
月曜日 2070 火曜日 2381 水曜日 1945 木曜日 1995 金曜日 1963
ただしこの数字は7月の一週間分のものなので、考慮にいれるためのデータとしては不適切 かもしれない。しかしこの客単価の値を見る限り、ジャスコの食品売り場でも月曜日の客一 人当たりの購入額が多いようだ。
○客 ・性別
来店する客の性別によっても少々客単価に影響が出てくると思う。例えば、客が男性 だった場合、男性が一人で食べられる量は女性よりも多いので、女性が自分の分だけ買う場 合と比べて購入点数がより多いのは確実だ。(しかしこれは男性がパンのみでお腹を満たし たいと思うときに限る)また、これは私の偏見ですが男性は女性に比べて少々財布の紐が緩 いように思われる。男性は明らかに必要のないものを買ったり、店で見栄を張って食べきれ る量以上に料理を注文したり、というケースが多いようだ。それに比べて、女性(主に主婦)
にはさすが家計のやりくりをしなければならないだけあって、きちんとお金の管理をできる 人が多いと思う。
また、女性は男性に比べて他の人にお土産を買っていくことが多いと思う。自分がお いしいと思ったものを他の人と共有すること、いわゆる「おすそわけ」だ。こうした行為は やはり女性に多く、男性にはあまり似つかわしくないものだ。
・年齢
年齢は客単価に微妙な影響を与える。たくさん体を動かしてたくさん食べものを食べ る若い年齢の人が来ればそれなりに購入点数は増える。それに比べてお年寄りのかたはそれ ほどたくさん食べることはないだろう。しかし、ここで視点を「食べられる量」から「経済 的余裕」に変えると事情は一変する。若い人が一概に経済的に余裕がないとは言い切れない が、どちらかという歳を重ねていけばいくほど余分に使えるお金は増えると思われる。パン 工場では同じ重さ(g)でも使っている材料やかかった手間によってパンの値段が変わって くる。ので、お年寄りがあまり食べられないといっても高いパンを一つ買えば、たくさん安
いパンを購入する若者と同じくらいの購入額になることもある。また、歳をとっている人は 収入額と比例して、商品に払ってもいいお金のボーダーラインが上がっていく。(ただし、
人生経験が豊富な主婦の中にはさらに安いほうの野菜を追って格闘している人も大勢いる)
こうした視点で見ると、若者が来店するより歳をとって経済的に余裕な人が来店した方が客 単価はあがるような気がする。
・同伴者
同伴者は多ければ多いほど客単価はあがると考えられる。それは「パン工場の客単価」
の段落でも述べたが、同伴者がおいしそうなパンを見ることによって刺激され、それが消費 者としての問題意識に発展し、問題を解決するために買いたいと思うようになるからだ。そ して購入者に対して働きかけが行われ、その行為が客単価の上昇につながる。
・食生活の習慣
日本人の食生活は現在どうなっているのだろうか。今は欧米風の朝食をとる家庭も以 前より増えてきているのではないだろうか。小山の住人が今どのような食べ物をとっている のかは知る由もないが、パン工場で一斤分や一本分のホテルブレッドが売れているというこ とはそれを食べている人がいるということになる。また、もしホテルブレッドのような一本 分のパンを買うとしたらそれは他の食料品と共に土・日曜日に買う人が多いと思われる。ま たは、週始めの月曜日に買う人も多いのではないだろうか。月曜日にホテルブレッドを買う 人が多くいたとしたらそれも客単価によい影響を与えうる事柄になる。
このように店、外、客という風にひとつひとつ見ていったが、やはり一番客単価に影響を 与えうる事柄は未知数の「客」側のように思われる。なので、現状を調べるために直接パン工場 小山店の店頭に立ち、客層などを調査することにした。しかし、店頭で調査したとしてもやはり 正確なデータを得るには限界がある。それは購入者が必ずしも消費者になるとは限らないからだ。
この隠れた問題はなるべくパンの個数や袋を二つに分けるかどうかという細かい点で区別はし ていきたいと思う。
5 店頭調査
周辺の地理の説明をしておこう。パン工場小山店の入っているジャスコの西側の地域及び 南西側の地域はニュータウンという住宅地が広がっている。ニュータウンには様々な世代の人が 住んでいて、お年寄りばかりだとか新婚夫婦ばかりだとか偏ったような住宅地ではない。また、
東に少しずれると国道4号線が通っていて、下の道に降りられるようになっている。ジャスコは 小山駅から車でおよそ10分から15分かかるが、小山駅周辺にロブレやイトーヨーカドーなど が建っているので小山駅周辺に住んでいる人はわざわざジャスコまで来て買い物をしないと思 われる。
今回の調査ではその日一日の客単価、調査した時間帯の客単価、客のおよその年齢、性別、
購入額、購入点数、買ったパンの中で一番値段の高いもの、同伴者の有無(及び同伴者の年齢と 性別)、ホテルブレッドを購入したかどうかの9項目を調べた。
また、調査は月曜日と木曜日に一時間ずつ店頭に立ち、上の9項目を直接客に聞くことな く観察するというものだ。購入額や購入点数などはともかくとして、客の年齢は私の偏見で判断 しているので少々ズレが生じていると思う。
こちらが今回の調査の結果だ。
9月12日(月) 9月8日(木)
調査時間 16:15~17:15 16:40~17:40 天気及び気温 晴れ 31℃ 晴れ 35℃
その日一日の客単価 579円 532円
その時間帯の客単価 631円 590円
その時間帯の客数 33人 27人
男/女の人数 3/30 0/27
平均個数 3.8個 3.5個
売り上げ/個数(この時間の) 171.8円 168.6円
同伴者数 13人 13人
その時間帯の客単価より高め に買った人数の割合
14/33 42%
12/27 44%
平均個数は客が購入した個数の平均、売り上げ/個数は高いパンがその時間帯どの程度買 われたかということをさしている。この数字は客が安いパンをたくさん買えば買うほど小さくな り、高いパンを買えば買うほど大きくなる。(ただし下限は70円、上限は480円)
集めたデータは分析の仕方によって違った答えを導き出す。それではまず私がたてた仮説 を検証するため客層について詳しく見ていきたいと思う。
6 仮説と分析
<仮説1 月曜日は他の平日に比べて同伴者が多いのではないだろうか?>
「客単価に影響を与えうる事柄」のところで説明したように、同伴者が多ければ多いほど 購入点数が増える可能性はある。なので、こちらも同伴者数を数えてみたところ、残念なことに 月曜日も木曜日も13人というまったく同じ数字がはじきだされた。念のため、独りの購入者と 同伴者のいる購入者の平均購買額を比べて見る。
月曜日 木曜日
同伴者なし 668 579
同伴者あり 618 613
木曜日の方は望ましい結果が出ているが月曜日はそうではなく、むしろ、同伴者なしのほ うが客単価は高くなっている。同伴者がいたとしてもあまりパンの売り上げにつながらないとい うことが今回の分析でわかった。
<仮説2 月曜日は他の平日に比べてホテルブレッドを買う客が多いのではないだろうか?
大体の客は土曜日や日曜日にパンを買いに来るが、月曜日にホテルブレッドを買いにわざ わざジャスコまで出向く人もいると思う。そのような傾向が実際にあるのか、またはそのような 傾向があると信じられているのかどうかはわからないが、店長に聞いたところパン工場小山店で は、月曜日は他の平日に比べてちょっとだけホテルブレッドの焼く本数を増やしている、という ことがわかった。これも少々客単価に影響を与えるのではないかと思い、私が調査した時間帯に ホテルブレッドを購入していった客の人数を数えてみたところ、
月曜日 三人 木曜日 三人
という、また残念な結果が出てきた。しかし、ホテルブレッドが最も売れる時間帯を調査したわ けではないのでこれも少々信憑性に欠けると思う。ホテルブレッドが最も売れる時間帯は、ホテ ルブレッドが焼きあがってからおよそ10分~15分間の間で、しかもホテルブレッドが焼きあ がる時間は決まっていない。今回私が調査していた時間帯の間にホテルブレッドは焼き上がって いなかったので、焼き上がっていた場合と比較して購入していく客の人数も大幅に少ないと思わ れる。
<仮説3 他の平日と月曜日では客層が違うのではないだろうか?>
(1) 月曜日は他の平日に比べて男性の客が多め?
「客単価に影響を与えうる事柄」のところでも述べたように、よく食べる男性が多かった ら客単価も上昇するのでは、と考えてこの仮設をたてた。しかし、結果は上の表でもわかるとお り、
月曜日の女性の数…30人 月曜日の男性の数…3人 木曜日の女性の数…27人 木曜日の男性の数…0人
と、月曜日と木曜日を比較して男性客の人数があまり変わりないことがわかった。
よって、この男性客が多いため月曜日の客単価があがったのでは、という仮説はくずれる。
(2) 月曜日は年配の方が多い?
年配の方のほうが経済的に余裕で、パンを何個買うも高いパンを買うも(若い人に比べて)
制限があまりないと思われる。ここで、年代別の客の人数をわかりやすくするために図にしてま とめてみた。
0 2 4 6 8 10 12 14 16
人数
10代 20代 30代 40代 50代 60代 およその年齢
月曜日と木曜日の客層
月曜日 木曜日
この図を見てみると、月曜日の方が50代・60代の方の人数が多いようだ。しかし、月 曜日はなぜか30代の方の人数が一番多く、30代の方の購買額も客単価に影響しているかもし れない。なので、それぞれの年代の平均購買額を出してみることにした。
月曜日 木曜日
30代 546円 485円
40代 666円 574円
50代 814円 813円
60代 646円 480円
月曜日に30代が多いとしても平均購買額を見る限りあまり客単価に貢献していないよ うだ。そのかわり、月曜日と木曜日のどちらを見てもやはり50代あたりの客が他の年代に比べ てたくさんパンを買っている。そうすると、必然的に50代の客が多い月曜日の客単価は上昇す るだろう。
7 考察
今回のパン工場小山店での調査でわかったことは○1基本的に男性はパン屋に買い物をし に来ないこと、○2同伴者は客単価及び売り上げに必ずしもよい影響を与えるわけではないこと、
○3年配の方のほうが購買額が高いこと、○4そして月曜日の方が木曜日より年配の方が多いという ことだ。こうして考えてみるとやはり原因は年配の方の購買額にあるように思える。
しかし、ここでふと疑問に思ったことがある。それは、ここパン工場小山店でのみ月曜日 のほうが他の平日に比べて客単価が高いのかどうかという疑問だ。私はこの疑問の答えを探すた め、また、今回わかったことをさらに新しい事実で強化するために他のパン屋でも調査してみる ことにした。
8 第二回目店頭調査
ここでも周辺の地理の説明をしておく。まず、第二回目の店頭調査をすることに決めたパ ン屋「ホルン(J-HORN」はカインズホームの中に入っている。そのカインズホームの周辺 には目立った集合住宅地もなく、一軒家もぽつんぽつんと見える程度だ。なので、集合住宅地の 近くに立っているジャスコと違って、カインズホームに来る人たちの中に徒歩で来る人はあまり いると思えない。また、カインズホームが接している道路には50号がある。50号線は栃木(小 山)の中では比較的大きな道路で車の通りが激しく、その通り沿いにはレストランや娯楽施設、
コンビ二やドラッグストアなどが林立している。また、ホルン自体はカインズホームの入り口近 くに配置されている。
ホルンは第一回目に調査したパン工場と同じフジパンストア系列のパン屋で、売っている ものや価格などもほぼ同じだ。ただ問題なのは、ホルンの店の規模が最初に調査したパン工場の 規模に比べて3分の2くらいしかないということだ。店の規模によって、置くことのできるパン の数や種類も少なくなる。パンの数が少なくて全て売り切れてしまった場合は機会ロスも起きや すいだろうし、見てまわる場所も少ないので客の店内滞留時間も減るだろう。ただし、もしパン 工場と比較してホルンの客単価がパン工場のそれと同じくらい、もしくはそれ以上だったら問題 ないと思われる。
今回の調査も前回と同様に一時間ほど店頭に立ち、客に直接聞くことなく客層を観察して いくというものである。また、調べるものは調査した時間帯の客単価、客のおよその年齢、性別、
購入額、購入点数、同伴者の有無(及び同伴者の年齢と性別)、ホテルブレッドを購入したかど うか、同じパンを二個以上買っていったか、もしくはもう一つ袋を要求したかの8項目だ。その 日一日の客単価については残念ながら入手できなかったので、これまでホルンでは月曜日とその ほかの平日の客単価がどのような様子なのか調べることはできないが、調査した時間帯の客単価 のみを参考にすることにする。
こちらが二回目の調査の結果だ。
12月12日(月) 12月20日(火)
調査時間 15:50~16:50 15:30~16:30 天気及び気温 晴れ 5℃ 晴れ 9℃
その時間帯の客単価 643円 597円
その時間帯の客数 19人 10人
男/女の人数 3/16 0/10
平均個数 3.8個 3.5個
売り上げ/個数(この時間の) 169.8円 170.5円
同伴者数 9人 6人
その時間帯の客単価より高め に買った人数の割合
6/19 31%
5/10 50%
店の規模についてはむしろこちらの方が高かったので問題ないと思われる。ただし、今回 の調査での問題はサンプル数が少ないことだ。パン工場と同じく一時間調査したのだが、やはり ジャスコとは違ってベイシアと融合しただけのホームセンターのカインズホームの規模が小さ いせいか、客がまったく集まってこなかったのである。ではなぜホルンの客単価が高くなったの かということを調べるためにまた集めたデータを分析していきたいと思う。
9 仮説と分析(2)
<仮説1 月曜日は年配の方が多い?>
ここでもさらにパン工場ででた結果を強化するために年代別に客を分けて分析してみた いと思う。下の図が簡単にまとめたものである。
0 1 2 3 4 5
人数
20代 30代 40代 50代 60代 およその年齢
月曜日と火曜日の客層
月曜日 火曜日
ホルンでも月曜日は50代、60代のほうが20代、30代より少々多いようである。火 曜日は30代、50代、60代ともに同じくらいの人数が来店している。では年代別の平均購買 額はどうなっているだろうか。
月曜日 火曜日
30代 917円 606円
40代 560円 0
50代 709円 413円
60代 532円 766円
このように、ホルンではパン工場とはまた違った結果がはじだされてきた。月曜日の30代の客 単価が群を抜いて高いのは一人だけ1860円ほどたくさんパンを買っていった人がいるから である。しかし、そのほかはパン工場と同じように50代の客の平均購買額が他の年代より高い
ことがわかる。また、火曜日に関してはサンプル数が少なかったことによりこのような予期しな い数字が出てきたのである。サンプルが少なければ少ないほど数字は左右されやすいので、火曜 日のデータも信憑性に欠けると思われる。
<仮説2 月曜日はお土産としてパンを多めに買っていく人が多い?>
ここでもう一度確認しておきたいことは、客単価の中身は複雑である、ということだ。そ して複雑にしているのは、購入者が必ずしも消費者ではない、ということである。購入者が消費 者となるかどうかは聞かずにわかるものでもないが、それは袋やパンの個数で出来る限り判断し た。そして、それを念頭に置いて調査したところ、やはり月曜日は火曜日に比べてお土産を買っ ていく人が多いことに気付いた。この場合、『お土産』は同じ家に住んでいるものの分も買って いくことも含め、別々の袋にしてもらう『他人(親戚やお隣さんなど)への土産』も含む。具体 的な数値としては、月曜日4人、火曜日0人と、非常に少ない人数になるが、月曜日の4人中3 人が1000円以上パンを買っていき、これが決定的に月曜日の客単価をあげていることがわか った。
また、パン工場の方でも値段や個数のデータを参考にして数えてみたところ、お土産を買 っていったと考えられる人数は、月曜日7人、木曜日5人、となった。これもおそらく客単価を 少しは高くさせる要因になっていると思われる。他に特徴的なこととしては、パン工場でもホル ンでもお土産を買っていく人は50代、30代に多いということがわかった。
10 考察
全体的に客単価を上げる要因としてわかったことは、○1年配の方(特に50代)は購買額 が高いこと、○2月曜日は他の平日に比べて年配の客が多いこと、○3月曜日は他の平日と比べてお 土産(1000円以上)を買っていく人が多いこと、○430代、50代に1000円以上パンを 買っていく人が多いことの四点である。ただし、ここで疑問に思うことがある。それは、なぜ月 曜日はお土産を買っていく人がおおいのだろうか、またはお土産が月曜日に多く買われるのはパ ン屋だけだろうか、というものだ。この疑問の答えを探すためにまず私が向かった先は「花屋」
である。私のイメージとしては、花はもちろん自分の家に飾ったりするものでもあるが、人にあ げるもの、というのが先行してしまうのである。もし、これで花屋でも月曜日の売り上げが好調 であったり、人にあげるから見繕ってくれという人が多かったり、という事実が発覚すれば、そ れはそれでまた面白い展開になるのでは、と考えたわけである。しかし結果は残念なことに、月 曜日の売り上げがよいことや、曜日によって売り上げは違う、などの情報は得ることができなか った。ということは、ただ単に月曜日がお土産を買う日として最適だから、ということになって しまう。
では、改めてなぜ月曜日は他の平日に比べてお土産を買う人が多かったり、年配の方が多 いのだろうか?ここでもう一つ注目してほしいもの、というより見落としていたものがある。そ れは全体的な『来店客数』である。パン工場やホルンでのサンプル数からでもわかるとおり、月 曜日は他の平日より比較的来店客数が多いのである。また、具体的な数値としては、パン工場の
9月12日(月)の客数は254人、9月8日(木)の客数は232人、となっている。実際に 月曜日と火曜日や木曜日のグラフを比較すると、月曜日のみ面白いほど30代と50代の人数の 割合が大きくなっている。来店客数が多ければ多いほど、月曜日の客層の場合はよりたくさんパ ンを購入していく年代の人が増え、必然的に客単価が上昇するという仕組みである。
客単価が上昇する仕組みはわかったが、もう少し掘り進んでいくとなぜ30代と50代が より多くパンを買っていくのだろうか、という疑問にぶつかる。こればかりはパンをたくさん購 入していった客に直接問いただすことしか方法はない。私なりに考えたところ、答えはこのよう になった。
30代…30代といえば育ち盛りの子供を抱えている年代だからなにかと食料を買い込む機会 は多い。例えば、かなり前に160円のメープルメロンパンを20個以上買っていった客 がいたが、その客は30代前半くらいで、一つ一つパンを袋にいれてくれと言っていた。
その様子から、おそらく草野球類のクラブのこどもたちに配るのだろう、と思われた。
50代…子供の養育費も払いおわり、生活にゆとりを持って過ごせるようになる時期。サラリー マンもまだ仕事についていて収入のあてもあるので少々贅沢するようになる。
これはこれとして、腑におちない点はもう一つある。なぜ、全てが月曜日なのだろう?というこ とだ。月曜日に来店客数が多いことも気になるし、または月曜日に30代・50代が多いことも 気になる。ジャスコでは火曜日に火曜市があるのだから月曜日の客数は減ってもよさそうだ。も し土曜日・日曜日にパンを買いにいったとしたら、食べきるのは大体水曜日くらいだろう。そう すると木曜日にパンを補充するために客数が増えてもおかしくないはずだが、パン工場やホルン ではそうではないらしい。もしかしたらそれは人々の食生活の習慣によるものなのかもしれない が、それも直接購入者に聞いて見ないことにはわからなそうである。
11 結論
なぜ月曜日の客単価が他の平日より高いのか。それは他の平日に比べてよりたくさんパン を購入していく年齢層が多いから、というようなごく普通の答えが出てきてしまった。何か他に さらに奇抜な答えが出るものと予想していた私としては、少々残念な気持ちが少なくはない。し かし、もしかしたら他に思いもつかない要因があるのかもしれない。または、考察のところでも 述べたが、なぜ月曜日なのか、という問いに答えが出たとしたらもう少しこの論文も面白くて読 み応えのあるものとなったことだろう。
今回はこのサンプルの少なさが一番の難点となった。これによって出した数字が少々本来 の数字より離れていることは否定できない。しかし、少ないサンプル数でもこれだけ顕著に結果 が出れば、今回の結論はそれほど本当の原因からかけ離れたものだと言えなくもないだろう。