3 . 基本行列と掃き出し法による逆行列の 計算
科目: 線形代数学IB及び演習(1‐1組)
担当: 相木
列基本変形
前回のプリントで行基本変形というものを定義したが,同様に行列の列に対しても定 義する.
列基本変形
行列に対する以下の3つの操作を列基本変形という.
(i) 2つの列を入れ替える.
(ii) ある列の何倍かを他の列に加える.
(iii) ある列に0でない数をかける.
基本変形
行基本変形と列基本変形を総称して基本変形という.
行基本変形と列基本変形の関係
行列Aに対して行基本変形を行うのと,tAに対して列基本変形を行うのは同等であ る.つまり,行列Aに対してある一定の行基本変形を行って行列Bができたとする.
このとき,tAに対して同じ操作を列に対して行う(これは列基本変形)とtBを得る.
例えば,以下のように行列の第1行目と2行目を入れ替えたものと
1 0 −1 2 −3 4
0 8 9
→
2 −3 4 1 0 −1
0 8 9
転置行列の第1列目と2列目を入れ替えたもの
基本行列
基本行列
以下の3種類のn次正方行列をn次基本行列とよぶ.以下ではcはスカラーであると する.
1. P(i, j;c) = n次単位行列の(i, j)-成分をcに取り替えたもの. (i̸=j) 2. Q(i, j) = n次単位行列の第i列と第j列を入れ替えたもの.
3. R(i;c) = n次単位行列の(i, i)-成分をcに取り替えたもの. (c̸= 0)
このように定義すると,m×n行列Aの行基本変形はAに左からm次基本行列をかける ことで得られる(演習問題).例えば,Aの1行目と2行目を入れ替えた行列をB とす ると
B =Q(1,2)A
と表せる.したがって,「Aに対していくつかの行基本変形を行って得られる行列」は「A に左からP, Q, Rを適当な組み合わせでかける」ことで得られる.
基本行列の正則性
n次基本行列は正則行列であり,その逆行列もまたn次基本行列である.
このことから特に,行基本変形は可逆であることが分かる.つまり,行列Aに対して行 基本変形を行って行列Bが得られたとすると,その「逆」に相当する行基本変形を行っ てBをAに戻すことができる.例えば,
P(i, j;c)Q(j, k)A =B となっていたとすると,
Q(j, k)−1P(i, j;c)−1B =A となる.
逆行列の計算
一般に,n次正方行列Aがdet(A)̸= 0を満たせばAは正則行列であり,逆行列A−1は A−1 = 1
det(A)Cof(A)
で与えられることはすでに見た.しかし,行列のサイズが大きくなると余因子行列Cof(A) を求めるための計算量が大幅に増える.そこで,逆行列の別な求め方を解説する.それが 掃き出し方による計算法である.
掃き出し法による逆行列の計算
n次正方行列Aとn次単位行列Enを
[A | En]
のように並べてできるn×2n行列に対して行基本変形を行い,
[En | B]
と変形できたとき,A−1 =Bである.
なぜこのようにして逆行列が求まるのか考えてみよう.
[A |En] に対して行基本変形を行って
[En | B]
が得られたとしよう.また,[En | B]に変形するために行った行基本変形の全行程にfと 名前をつけておく([A |En]はfを行った結果[En | B]に変形された,などと表現したい のと,同じ変形を別な行列にも適用したいので名前をつけた).ここで1つ注目して欲し いのは,[A | En]にfを行い,[En | B]が得られたということは
A に f を行うと En が得られ,
En に f を行うと B が得られる
ということである.さらに,1≤j ≤nに対して行列Bの第j列目をb とおく.
を考える.ここで,ekは第k成分が1,他が0の基本単位ベクトルである.前回のプリン トで見たように,このような連立方程式は,拡大係数行列に対して行基本変形を行って解 を求めることができる.この拡大係数行列を
[A |ek] とおく.
さて,[A | ek]に対してfを行うとどうなるであろうか?Aにfを行うとEnになる.
また,Enにfを行うとBになるので,特に第k列目だけに着目すると,ekはbkになる ことが分かる.したがって,
[A | ek]に f を行うと [En | bk]になる
ということが分かる.行基本変形を行った結果,拡大係数行列が[En | bk]になったとい うことは,連立方程式(1)の解はbkである.つまり,
Abk =ek (2)
が成り立つ.kは任意だったので,1≤k ≤nを満たす全てのkに対して(2)が成り立つ.
すると,行列の積ABの第k列目はAbkで与えられるので,(2)からAB=Enである.
次に,連立方程式
Bx=ek
(3)
を考え,その拡大係数行列[B |ek]を見る.行基本変形は可逆であったので,fに対して その「逆」となるf−1という行基本変形が存在する.f−1は
[En | B] に f−1 を行うと [A | En]になる
という行基本変形である.このことから特に,Bにf−1を行うとEnになり,Enにf−1を 行うとAになる,ということなので
[B | ek]に f−1 を行うと [En | ak]になる
ということが分かる.ただし,akは行列Aの第k列目を表す.これはつまり,(3)の解は akで与えられるということである.さらに,行列の積BAの第k列目はBakで与えられ るので,(3)からBA =Enである.
以上からAB=BA=Enであることが示され,A−1 =Bであることがわかった.
予約制問題
(3-1)n次基本行列の逆行列を求めよ.
(3-2) m×n行列Aの行基本変形は,Aにm次基本行列を左からかけることで得られる
ことを示せ.
(3-3) 以下の行列が逆行列を持つならば,掃き出し法により逆行列を求めよ.
1 −1 1
2 1 0
1 −2 3
(3-4) 以下の行列が逆行列を持つならば,掃き出し法により逆行列を求めよ.
0 1 1 1 1 0 1 1 1 1 0 1 1 1 1 0
早いもの勝ち制問題
(3-5) m×n行列Aの列基本変形は,Aにn次基本行列を右からかけることで得られる
ことを示せ.
(3-6) 以下の行列が逆行列を持つならば,掃き出し法により逆行列を求めよ.
1 2 3 6 5 4 7 8 9
(3-7) 以下の行列が逆行列を持つならば,掃き出し法により逆行列を求めよ.
(3-8) 以下の行列が逆行列を持つならば,掃き出し法により逆行列を求めよ.
2 −1 0 0 0 2 −1 0
0 0 2 −1
−1 0 0 2