6 . 関数の極限と ε-δ 論法
科目: 基礎解析学I及び演習(1‐3組)
担当: 相木
高校までに学んだ関数に関する極限を厳密に定義する.まず,関数に関する復習から 始める.
関数
I ⊂ Rとする.全てのIの元xに対して1つの実数f(x)を対応させる対応fを関数 と呼ぶ.このとき,fは「I上で定義された関数」であるといい,Iをfの定義域とい う.fがI上で定義された関数であることを略して「I上の関数」と言ったりもする.
また,fがI上で定義された関数であることを f :I →R
などとも書く.特に,f(x)が実数の値をとることを強調して実数値関数とも呼ぶ.
関数の値域
I ⊂R上で定義された関数f に対して
R(f) = {y∈R| ∃x∈I, y =f(x)} によって定義される集合R(f)をf の値域という.
次に関数に関する極限を定義する.これらは高校までで扱った極限の定義の厳密化に なっている.
極限
I ⊂Rとし,fをI上の関数f :I →R とする.
a∈Iとb∈Rに対して,x→aのときにf(x)がbに収束するとは
∀ε >0, ∃δε,a >0, ∀x∈I, (0<|x−a|< δε,a ⇒ |f(x)−b|< ε) (1)
が成り立つことを言う.このとき,bをf のx → aでの極限値といい,このことを
xlim→af(x) =bと書く.
関数の収束の条件(1)を噛み砕いて考えてみよう.数列の収束のときと同様にε >0は 小さい値のときが本質的である.(1)は
どんなに小さいε >0に対しても,それに応じてδε,a >0を十分小さくとれば「xとa が近い(誤差δε,a以内)ならばf(x)とbも近い(誤差ε以内)」が成り立つ.
という意味になる.添字が付いているようにδε,aはεに依存するし,考えている定義域の 点aにも依存する.
このようにε > 0に応じてδε,a >0を決めて議論するのでこのような論法をε-δ 論法 という.
また,(1)において一部が括弧で囲まれているのは,「括弧で囲まれている部分を1つ の命題として扱いなさい」という意味である.つまり,|x−a|< δε,aと|f(x)−b|< εを 別々の命題として扱うのではなく,|x−a|< δε,a⇒ |f(x)−b|< εという命題(構造とし ては「P ならばQ」)として扱う必要がある.これは,否定命題を作るときに重要になる ので注意が必要である(演習問題参照).
関数の極限に対しては「右極限」と「左極限」という概念もある.
右極限・左極限
I ⊂Rとし,fをI上の関数f :I →R とする.
右極限 a∈ Iとb+ ∈Rに対して,x→ a+のとき(つまり,xがaの右側から近 づくとき)にf(x)がb+に収束するとは
∀ε >0, ∃δε,a >0, ∀x∈I, (a < x < a+δε,a ⇒ |f(x)−b+|< ε)
が成り立つことを言う.このとき,b+をfのx → a+での右極限値といい,
lim
x→a+f(x) = b+と書く.
左極限 a∈ Iとb− ∈Rに対して,x→ a−のとき(つまり,xがaの左側から近 づくとき)にf(x)がb−に収束するとは
∀ε >0, ∃δε,a >0, ∀x∈I, (a−δε,a < x < a⇒ |f(x)−b−|< ε)
が成り立つことを言う.このとき,b−をf のx → a−での左極限値といい,
lim
x→a−f(x) = b−と書く.
右極限・左極限においてはそれぞれ考えている定義域の点aの右側(a < x < a+δε,a) および左側(a−δε,a < x < a)にあるxに対してのみ条件を課していることに注意.
x→ ±∞のときにf(x)が収束することを定義する.
x→ ±∞における極限
a, b∈Rとする.
• I = (a,∞)とし,fをI上の関数とする.x→ ∞でf(x)がbに収束するとは
∀ε >0,∃Lε >0, ∀x > Lε, |f(x)−b|< ε が成り立つことを言う.このとき,lim
x→∞f(x) =bと書く.
• I = (−∞, a)とし,fをI上の関数とする.x→ −∞でf(x)がbに収束するとは
∀ε >0,∃Lε >0, ∀x <−Lε, |f(x)−b|< ε が成り立つことを言う.このとき, lim
x→−∞f(x) =bと書く.
最後にa∈Iにおいてf(x)が発散することを定義する.
関数の発散
I ⊂R,a∈Iとし,fをI上の関数とする.
• x→aでf(x)が∞に発散するとは
∀L >0, ∃δL,a >0, ∀x∈I, (0<|x−a|< δL,a ⇒ f(x)> L)
が成り立つことを言う.
• x→aでf(x)が−∞に発散するとは
∀L >0, ∃δL,a >0, ∀x∈I, (0<|x−a|< δL,a ⇒ f(x)<−L) が成り立つことを言う.
以上で定義した関数に関する極限の定義は,数列の極限と似た部分もあるので2つを比 べながら考えると分かりやすいかと思う.大きく違うのは数列においては添字番号nが n→ ∞となる場合のみを考えたのに対し,変数xは定義域Iの任意の点aに対してx→a におけるf(x)の極限を考えることができるところである.
注意:ここまでで,I ⊂Rとa ∈Iに対してx→ aにおけるf(x)の収束を定義した際に aにおけるfの値f(a)が現れていないことに気づく.実は,a ∈Iにおいてfが定義され ていなくてもx→aにおけるf(x)の極限は定義できる.実際このプリントで書いた定義 はf(a)が定義されていなくても通用するような書き方になっている.
例)I = (−1,1)とし,関数fをx̸= 0に対して
f(x) = xsin1 x
によって定める.このf(x)はx= 0において定義されていないが,x→0におけるf(x) の極限値は0である.実際,定義に従って示してみる(収束の定義(1)と見比べながら以 下の証明を見るとよい).
∀ε >0に対してδε,0 =εとして定めると,∀x∈Iに対して0<|x−0|< δε,0ならば
|f(x)−0|=xsin1
x=|x|sin1
x≤ |x|< δε,0 =ε となり,lim
x→0f(x) = 0であることが示された. □
これは,右極限,左極限に関しても同様である.
特に断りがない限り以下の演習問題においてはI ⊂Rとする.
予約制問題
(6-1) このプリントで解説した定義を参考にしてI = (0,∞)上の関数fがx → ∞のと きに∞に発散することの定義を(論理記号を用いて)書け.
(6-2) I上の関数f,a ∈I,b∈Rに対して以下の2つが同値であることを示せ.
(i) lim
x→a+f(x) = lim
x→a−f(x) = b (ii) lim
x→af(x) = b
(6-3) I上の関数f,a ∈I,b ∈R に対して,x→ aのときにf(x)がbに収束すること の否定を論理記号を用いて書け.
早いもの勝ち制問題
(6-4) このプリントで解説した定義を参考にしてI = (−∞,0)上の関数fがx→ −∞の ときに−∞に発散することの定義を(論理記号を用いて)書け.
(6-5) 以下で与えられるR上の関数fのグラフの概形を描き,指定されたa ∈Rにおけ る右極限と左極限を求め,それぞれ右極限,左極限であることを定義に従って示 せ.(グラフの概形は増減表などを書く必要はなく,「形がなんとなくわかる」程度 のものでよい)
(i)f(x) =x2, a= 1
(ii) f(x) =
x2, x̸= 1 2, x= 1
, a= 1
(6-6) a∈I,b ∈Rとする.数列{an}∞n=1は∀n ∈N, an∈Iと lim
n→∞an=aを満たすとす る.さらに,I上の関数fがlim
x→af(x) =bを満たすとき,
bn=f(an)
で与えられる数列{bn}∞n=1がbに収束することを示せ.
(6-7) 開区間(0,∞)上の関数fがf(x) = 1
xで与えられるとき,x→0+でf(x)が∞に 発散することを定義に従って示せ.
(6-8) 具体例を用いて,ある点において右極限値と左極限値は存在するが極限値が存在
しないような関数を作れ.また,極限値が存在しないことを証明せよ.
(6-9) a ∈ Iとb ∈Rに対してI 上の関数fがlim
x→af(x) = bを満たすとする.このとき,
以下が成り立つことを示せ.
∃δ >0, ∀x∈I, (|x−a|< δ ⇒ |b|
2 <|f(x)|)