5 . 距離空間における連続写像
科目: 数学演習IIA( f組)
担当: 相木
前回の補足:距離空間における閉集合
(S, d)を距離空間とする.A⊂Sに対して
AcはSの開集合 が成り立つとき,AはSの閉集合であるという.
前回のプリントに閉集合の定義を書き忘れていました.一般の距離空間においても閉 集合はRnのときと同様に定義されます.
前回導入した距離空間において写像の連続性という概念を考える.その準備として連 続関数の確認から始める.これまでと同様にB(n)(x;r)はRnにおける開球を表し,d(n) はRnにおけるユークリッド距離を表すとする.また,Rnを距離空間として扱うときは d(n)を距離関数として使うことにする.
連続関数
I ⊂R上で定義された実数値関数f :I →Rがa∈Iで連続であるとは
∀ε >0, ∃δ >0,∀x∈I, (|x−a|< δ ⇒ |f(x)−f(a)|< ε) (1)
が成り立つことであった.また,Iの全ての点において連続であるときにfはI上連 続であるといい,このことを「f はI上の連続関数である」という.
命題(1)をこれまでに導入したε-近傍を用いて表現しなおしてみよう.すると
∀ε >0, ∃δ >0, ∀x∈I, (
x∈B(1)(a;δ) ⇒ f(x)∈B(1)(f(a);ε)) (2)
となる.Rにおけるユークリッド距離d(1)はd(1)(x, y) = |x−y|であることに注意すれば,
命題(2)は命題(1)の別表現になっていることが確認できる.
命題(2)を見てみるとf の定義域と値域それぞれで「開球」というものが定義できて いれば(2)は意味のある命題になっていることに気づく.そこで連続関数の概念を以下の ように距離空間に拡張する.
(S1, d1),(S2, d2)をそれぞれ距離空間とし,d1, d2を用いて定まるS1, S2における開球
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をB1, B2とそれぞれ置く.つまり,r >0とx∈S1, y ∈S2に対して B1(x;r) ={z ∈S1 | d1(x, z)< r}
B2(y;r) ={z ∈S2 | d2(y, z)< r}
と置く.これらの記号を準備してS1からS2への写像fが連続であることを定義する.
写像の連続性1
f :S1 →S2を距離空間S1からS2への写像とする.a ∈S1に対して以下が成り立つ ときに写像fはaで連続であるという.
∀ε >0, ∃δ > 0, ∀x∈S1,(
x∈B1(a;δ) ⇒ f(x)∈B2(f(a);ε)) (3)
また,S1の全ての点において連続なとき,f はS1からS2 への連続写像であるとい う.値域がS2であることが明らかなときはfはS1上の連続写像である,と言うこと もある.
距離空間においてはS1, S2は一般の集合であるので考えるf も関数ではなく,写像に なっていることに注意.しかし,S1 =S2 =Rの場合には関数の連続性と同じになってい る.そういった意味では上の定義は1変数関数の連続性の定義から自然と導出される連続 性の定義であると言える.
ここでさらに写像の連続性の別表現を与える.これは距離空間ではなく,もっと一般 的な位相空間において写像の連続性を定義する際に用いられる表現でもあるので重要で ある.
写像の連続性2
f :S1 →S2が以下を満たすときにfはS1からS2への連続写像であるという.
∀O ∈ O(S2), f−1(O)∈ O(S1).
(4)
復習:O(S1)はS1の開集合全体であった.また,写像f : A→ BとB1 ⊂Bに対し てその逆像f−1(B1)は
f−1(B1) = {x∈A |f(x)∈B1} で定義される集合であった.
(4)は「値域の任意の開集合のf による逆像が定義域の開集合である」ことを主張し ている.これだけ見ると(3)との関連が見えにくいが,距離空間においては(3)の意味で 写像がS1上の連続写像であることと(4)の意味で連続写像であることは同値になる(演 習問題参照).
f が連続写像であることの定義として(4)の表現が重要な理由は開球などの距離関数 が必要な事項が陽に現れないからである.今まで「開集合」は距離関数(特に開球)を用
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いて定義したが,一般に与えられた集合Sに距離関数が定まっているとは限らない.しか し,距離関数を使わずに「開集合」を定義することはでき,そのようにして「開集合」が 定義された空間を位相空間という(詳しい定義は次回のプリント).(4)は「開集合」が 定義されていれば意味がある表現になっているので,距離空間よりも一般的な位相空間に おける写像の連続性の定義として採用できる形になっているのである.
以下の演習問題においては(S1, d1),(S2, d2),(S3, d3)は距離空間であるとする.
予約制問題
(5-1) 写像f :S1 →S2が(3)の定義の下でS1 上の連続写像であれば(4)の定義の下で連 続写像であることを示せ.
(5-2) 写像f :S1 →S2が(4)の定義の下でS1 上の連続写像であれば(3)の定義の下で連 続写像であることを示せ.
(5-3) f, gがS1からRへの連続写像であるとき,f+gもS1からRへの連続写像である ことを(3)の定義にしたがって示せ.
早いもの勝ち制問題
(5-4) 写像f :S1 →S2が(4)の定義の下でS1 上の連続写像であれば以下が成り立つこ とを示せ.
任意のS2の閉集合Aに対してf−1(A)はS1の閉集合
(5-5) 写像f :S1 →S2が
任意のS2の閉集合Aに対してf−1(A)はS1の閉集合
を満たしているとする.このとき,fは(4)の定義の下でS1上の連続写像であるこ とを示せ.
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(5-6) 写像f :S1 →S2は(4)の定義の下でS1上の連続写像であるとする.このとき,O がS1の開集合であってもOの像f(O)はS2の開集合になるとは限らない.そのよ うな具体例を一つ挙げよ.
(ヒント:S1 =S2 =Rである例が比較的簡単にみつかる).
(5-7) 写像f :S1 →S2,g :S2 → S3はそれぞれS1, S2上の連続写像とする.このとき,
合成写像g◦f :S1 →S3もS1からS3への連続写像となることを(3)の定義にした がって示せ.
(5-8) 写像f :S1 →S2,g :S2 → S3はそれぞれS1, S2上の連続写像とする.このとき,
合成写像g◦f :S1 →S3もS1からS3への連続写像となることを(4)の定義にした がって示せ.
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