レポート2(解答例)
科目: 数学演習IIB(d組)
担当: 相木 [1] 位相空間(S,O)が第1分離公理を満たすということの定義を書け.
解答
位相空間(S,O)が第1分離公理を満たすとは以下が成り立つことである.
Sの任意の相異なる2点x, yに対して
∃U ∈V(x), y /∈U
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[2] 位相空間(Q,OQ)が第1分離公理を満たすことを定義にしたがって示せ.ここで,OQ
はQにおけるOd(1) (Rの位相)の相対位相でる.
解答
相対位相の定義から
OQ={O∩Q | O ∈ Od(1)}
である.Qの相異なる2点q1, q2を任意に取る.q1 > q2もしくはq1 < q2のどちらかが必 ず成り立つので,q1 < q2だとして証明を続ける(逆の場合も同様).
ε0 = q2−2q1 と定めると,ε0 > 0である.また,Rの開球B(1)(q1;ε0)を用いて集合 BQ(q1;ε0)を
BQ(q1;ε0) =B(1)(q1;ε0)∩Q
によって定めとB(1)(q1;ε0)∈ Od(1)であるので,OQの定義からBQ(q1;ε0)∈ OQである.
したがって,BQ(q1;ε0)はq1を含むQの開集合なので特にq1の近傍である.さらに,
d(1)(q1, q2) =q2−q1 > ε0 なのでq2 ∈/ BQ(q1;ε0)である.
以上をまとめると,Qの任意の相異なる2点q1, q2 に対してq1 の近傍BQ(q1;ε0)で q2 ∈/ BQ(q1;ε0)を満たすものが存在したので(Q,OQ)は第1分離公理を満たす.
□
[3] (S, d)を距離空間とし,S上の連続関数全体の集合をC(S)とする.つまり C(S) = {f :S →R | fはS上で連続}
Sがコンパクトなときはf, g∈C(S)に対して d∞(f, g) = sup
x∈S|f(x)−g(x)|
で定まるd∞はC(S)上の距離関数になるが,Sがコンパクトでない場合は一般にd∞ はC(S)上の距離関数にならないことを(S, d)の具体例を1つ挙げて示せ.
解答
空でない集合Xに対してdがX上の距離関数であるとは,関数d: X×X → Rが以下 を満たすことであった.
(D1) ∀x, y ∈X, d(x, y)≥0.
(D2) x, y ∈Xに対して以下の同値性が成り立つ.
d(x, y) = 0 ⇔ x=y (D3) ∀x, y ∈Xに対してd(x, y) = d(y, x).
(D4) dは以下の三角不等式を満たす.
∀x, y, z∈X, d(x, z)≤d(x, y) +d(y, z).
見落としがちであるが,距離関数の定義には,dが実数値として定まっていることが含ま れることに注意してほしい.
ここで,距離空間(S, d)がコンパクトでないときの例としてS = (0,1)の場合を考え る.まず,Rの部分集合に対してコンパクトであることと有界閉集合であることは同値な ので,閉集合ではない(0,1)はコンパクトではない.距離関数はユークリッド距離d(1)を 定め,距離空間((0,1), d(1))上の連続関数C((0,1))を考える.
そこで,(0,1)上で定義された以下の2つの関数を考える.
f(x) = 1
x, g(x)≡0.
f, gはともに(0,1)上の連続関数であるのでf, g∈C((0,1)) である.しかし,
A={
|f(x)−g(x)| | x∈(0,1)}
で定まるRの部分集合AはA= (1,∞)であるので上に有界でない.したがって,
d∞(f, g) = supA=∞
となり,C((0,1))上で実数値関数として定まっていないのでd∞はC((0,1))上の距離関数
ではない.
□
[4] 閉区間[0,1]上で定義された有界な関数全体の集合をL∞([0,1])とおく.つまり,
L∞([0,1]) ={f : [0,1]→R | fは[0,1]上で有界} である.このとき,f, g∈L∞([0,1])に対して
d∞(f, g) = sup
x∈[0,1]
|f(x)−g(x)|
によって定まるd∞はL∞([0,1])上の距離関数になることを示せ.なお,L∞([0,1])に 属す関数は連続であるとは限らないことに注意せよ.
解答
問[3]の解答例に記載した,距離関数の定義を満たすことを1つずつ確認する.
まず,∀f, g ∈L∞([0,1])に対してf, gは[0,1]上で有界なので
∃M1, M2 >0 s.t. sup
x∈[0,1]
|f(x)|< M1, sup
x∈[0,1]
|g(x)|< M2
が成り立つ.すると d∞(f, g) = sup
x∈[0,1]
|f(x)−g(x)| ≤ sup
x∈[0,1]
(|f(x)|+|g(x)|)≤ sup
x∈[0,1]
|f(x)|+ sup
x∈[0,1]
|g(x)|
< M1+M2 が成り立ち,d∞は実数値として定まっている.
(D1)を満たすこと
∀f, g ∈L∞([0,1])と∀x∈[0,1]に対して
|f(x)−g(x)| ≥0 であり,上限の定義から∀x∈[0,1]に対して
|f(x)−g(x)| ≤ sup
x∈[0,1]
|f(x)−g(x)|=d∞(f, g)
であるので,∀f, g ∈L∞([0,1])に対してd∞(f, g)≥0であり,(D1)を満たす.
(D2)を満たすこと
f, g ∈ L∞([0,1])がd∞(f, g) = 0を満たすとすると,上限の定義から∀x ∈ [0,1]に対 して
|f(x)−g(x)| ≤ sup
x∈[0,1]
|f(x)−g(x)|=d∞(f, g) = 0
が成り立つので∀x∈[0,1]に対してf(x)−g(x) = 0,つまりf =gが成り立つ.
一方,f, g ∈ L∞([0,1])がf =g,つまり∀x∈ [0,1]に対してf(x) =g(x)であったと すると
∀x∈[0,1], |f(x)−g(x)|= 0 が成り立つので
A ={|f(x)−g(x)| | x∈[0,1]}={0} となる.定義からd∞(f, g) = supA = 0なので(D2)を満たす.
(D3)を満たすこと
∀f, g ∈L∞([0,1])と∀x∈[0,1]に対して
|f(x)−g(x)|=|g(x)−f(x)| なので,実数の部分集合として
{|f(x)−g(x)| |x∈[0,1]}={|g(x)−f(x)| |x∈[0,1]}
が成り立つ.両方の上限を取ればd∞(f, g) = d∞(g, f)がしたがい,(D3)を満たす.
(D4)を満たすこと
∀f, g, h ∈ L∞([0,1])と∀x ∈ [0,1] に対して,実数に対する三角不等式と上限の定義 から
|f(x)−h(x)| ≤ |f(x)−g(x)|+|g(x)−h(x)| ≤ sup
x∈[0,1]
|f(x)−g(x)|+ sup
x∈[0,1]
|g(x)−h(x)|
=d∞(f, g) +d∞(g, h) が成り立つ.上の不等式からd∞(f, g) +d∞(g, h)が
{|f(x)−h(x)| | x∈[0,1]} の上界になっていることがわかり,上限は最小の上界なので
d∞(f, h) = sup
x∈[0,1]
|f(x)−h(x)| ≤d∞(f, g) +d∞(g, h)
が成り立ち,(D4)を満たすことが示された.
以上からd∞はL∞([0,1])上の距離関数であることが示された.
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[5] 問[4]の結果から(L∞([0,1]), d∞)は距離空間であるが,これが完備であることを示せ.
解答
完備性を示すために任意のコーシー点列が収束点列であることを示す.そこで,{fn}∞n=1
をL∞([0,1])の任意のコーシー点列とする.つまり,以下が成り立つ.
∀ε >0, ∃N ∈Ns.t. ∀n, m≥N, d∞(fn, fm)< ε (1)
が成り立つ.
まず,{fn}∞n=1に対して
∃M > 0 s.t. ∀n ∈N, ∀x∈[0,1], |fn(x)|< M (2)
が成り立つことを示す.コーシー点列の定義(1)から特に,ε = 1に対してN1 ∈ Nが存 在して
∀n, m≥N1, d∞(fn, fm)<1 (3)
が成り立つ.ここで,
M1 = max{ sup
x∈[0,1]
|fj(x)| | j ∈ {1,2, . . . , N1}} と定義し,M =M1+ 1と定める.すると,∀n ∈N に対して
(i) n ≤N1のときは∀x∈[0,1]に対して
|fn(x)| ≤ sup
x∈[0,1]
|fn(x)| ≤M1 < M が成り立つ.
(ii) n > N1のときは∀x∈[0,1]に対して(3)から
|fn(x)| ≤ |fn(x)−fN1(x)|+|fN1(x)| ≤d∞(fn, fN1) + sup
x∈[0,1]
|fN1(x)|<1 +M1 =M が成り立つ.
いずれの場合でも∀x∈[0,1]に対して|fn(x)|< M が成り立ったので(2)が示された.
さて,(1)から特に,∀ε >0, ∃N ∈Ns.t. ∀n, m≥N, ∀x∈[0,1]に対して
|fn(x)−fm(x)| ≤d∞(fn, fm)< ε
が成り立つので∀x ∈ [0,1]に対して{fn(x)}∞n=1は実数のコーシー列である.実数の完備 性からこの数列は収束するので
が成り立つ.つまり,x∈[0,1]ごとに定まる数列{fn(x)}∞n=1 の極限値をαxとおいたので ある.添字のxはそれぞれの値がxに依存して決まることを強調するために書いた.この ようにしてx∈[0,1]ごとに定まる実数αxを用いて[0,1]上の関数fを
f(x) = αx によって定義する.
まず,f が[0,1]上の有界な関数であることを示す.(4)においてε = 1とした命題か ら∀x∈[0,1] に対して
∃Nx ∈N s.t.∀n≥Nx, |fn(x)−f(x)|<1 が成り立つ.したがって,(2)と合わせると∀x∈[0,1]に対して
|f(x)|=|f(x)−fNx(x) +fNx(x)| ≤ |f(x)−fNx(x)|+|fNx(x)|<1 +M が成り立ち,fが有界な関数であることが示された.
最後に,コーシー点列{fn}∞n=1が距離空間(L∞([0,1]), d∞)において先ほど構成したf へ収束することを示す.
∀ε >0を取る.(1)から
∃Nε∈N s.t.∀n, m≥Nε, d∞(fn, fm)< ε 2 が成り立つ.特に,上限の定義から上と同じNεに対して
∀n, m≥Nε, ∀x∈[0,1], |fn(x)−fm(x)|< ε (5) 2
が成り立つ.Nεはεに依存するが,xには依存していないことに注意.さらに,(4)から
∀x∈[0,1], ∃Nx ∈Ns.t. ∀n≥Nx, |fn(x)−f(x)|< ε (6) 2
が成り立つ.そこで,∀ε >0と∀x∈[0,1]に対してN0x := max{Nε, Nx}と定める.する と,(5)と(6)から∀n ≥Nε, ∀x∈[0,1]に対して
|f(x)−fn(x)|=|f(x)−fN0x(x) +fN0x(x)−fn(x)| ≤ |f(x)−fN0x(x)|+|fN0x(x)−fn(x)|
<|f(x)−fN0x(x)|+d∞(fN0x, fn)
< ε
が成り立つ.ここで,N0xの定め方からN0x ≥Nε, N0x≥Nxであることを用いた.
以上から,∀ε > 0に対してεのみに依存して決まるNε ∈ Nが存在し,∀n ≥ Nεと
∀x∈[0,1]に対して
|f(x)−fn(x)|< ε
が示されたので,∀n≥Nεに対してεは
{|f(x)−fn(x)| |x∈[0,1]}
の上界になっている.上限は最小の上界なので∀n≥Nεに対して sup
x∈[0,1]
|f(x)−fn(x)|< ε
が成り立つ.
まとめると,
∀ε >0, ∃Nε ∈N s.t.∀n ≥Nε, d∞(f, fn)< ε
が示された.つまり,{fn}∞n=1はfへ距離空間(L∞([0,1]), d∞)において収束する.
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補足
問[4]および[5]では,問題設定をわかりやすくするために関数の定義域を[0,1]にした が,解答例を見ると分かるように定義域が[0,1]であること,あるいは有界閉区間である ことを特別には用いていない.実は,有界な関数の空間は,定義域を任意の区間にしても 同じ距離関数(つまり,定義域上で2つの関数の差のsupを取る,という距離関数)の下 で完備距離空間になる.