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Academic year: 2024

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章︱日本社会の課題に多角的な方面から挑む

オーストラリア留学が研究のきっかけ

 戸田貴子教授は学生時代、言語学を学ぶためにオーストラリア国立大学に留学し、同大学院に進学した。当時は日本がまだバブル全盛期の一九八〇年代後半、飛ぶ鳥を落とす勢いだった日本企業がまさに世界経済を席巻せんとしていたころだ。当然のごとく、日本への関心が高まり、オーストラリアでも日本語教室が生徒であふれ返る、そんな活気に満ちた時代であった。オーストラリアは多文化・多言語国家で知られるが、アジアでいえば中国、韓国、ベトナム、ヨーロッパからはギリシャ、イタリアなど英語圏以外の国からもたくさんの人が移住や留学で集まっていた。「教員や学生の言語文化背景が実に多種多様でした。そういう中で言語学を学び、いろいろな国の人と交流できたことは大きな収穫」 そう語る戸田教授の当時の指導教授は、音響音声学を専門とし、英国のケンブリッジ大学で博士号を取得し、オーストラリアに移住してきた英国人の教授だった。 音響音声学とは、音声データを解析、分析する実証的な学問である。オーストラリア国立大学では、消えゆく言語と言われるオーストラリア先住民のアボリジニの言語をフィールドワークで収集し、分析する研究が活発に行われていた。バックパックをかついで広大なオーストラリア大陸の砂漠を越え、話者を求めて言語収集をする先輩の姿に感銘を受けたという。 戸田教授はこうした環境の中で勉強を続けると同時に、オーストラリア国立大学で日本語を教

音声コミュニケーションを 科学的に分析し

実践にいかす

早稲田大学大学院日本語教育研究科教授。専門:

音声学、日本語教育。言語学博士。1989年オース トラリア国立大学文学部言語学科卒業。1997 年 オーストラリア国立大学大学院人文科学研究科博 士課程修了。オーストラリア国立大学、筑波大学、

早稲田大学日本語研究教育センターを経て 2006 年より現職。著書に Second Language Speech Perception and Production: Acquisition of Phonological Contrasts in Japanese, University Press of America(2003)、『コミュ ニケーションのための日本語発音レッスン』スリー エーネットワーク(2004)など。

大学院日本語教育研究科教授

(とだ・たかこ)

戸田貴子

世界に羽ばたく日本語教師を育成

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え始める。生徒は様々な母語を持つ人たち。日本語を教えることが初めての戸田教授にとって貴重な体験であると同時に、大いに刺激を受ける機会となった。「日本語を教えることは、私自身が学ぶことでもありました。発音、語彙、文法など、普段、自分が無意識に使っている言葉の一面を外国人に教えるわけですが、改めて日本語を見直すきっかけになったといえるでしょう」 特に発音は、日本語教育の中でもまだ研究がそれほど進んでいない言語領域である。戸田教授がオーストラリア国立大学にいたころは、有効な指導法の検討すら行われていなかった。同大学で一〇年近く日本語を教えていたが、このときの経験が将来の研究での礎になったことは言うまでもない。

同じ表現でも音声次第で意味が変わる

 音声学の研究領域には言語学(音声学、音韻論)、教育学(外国語教育、言語習得)、心理学(音声知覚、音声認識)、情報工学(音声合成、音響分析)など幅広い関連分野がある。その中でも戸田教授は、音声がコミュニケーションにおいてどのような役割を果たしているのかを研究している。 日本語を例にとれば、日常会話によく使われる「そうですか」という表現がある。これはあい

づち的用法では「分かりました」「了解しました」という意味だが、言い方次第で意味が大きく変化する。 ①「うちの娘が結婚するんですよ」「そうですか!」~喜びの表現 ②「実は不合格だったんですよ」「そうですか……」~落胆の表現 ③「定休日は火曜日ですよ」「そうですか?」~疑念の表現 ここに挙げた①~③の例は、表記すると一様に「そうですか」となってしまうが、会話では音声的特徴が使い分けられ、話し手の表現意図や心的態度が聞き手に伝わっていく。 この三つの喜び、落胆、疑念のイントネーションを解析したピッチ曲線を見れば違いが明確である。ピッチ曲線とは、声の高さの変動を示し、イントネーションの分析に使用される音響特性である。「日本語を母語とする人であれば、声の高さ、長さ、強さで音声表現を場面によって難なく使い分けられます。しかし、母語が異なる外国人の日本語学習者は、イントネーションの使い分けができないまま会話をしてしまい、相手の誤解を招いてしまうこともあるのです」

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問題意識から研究の未開拓分野に着手

 ある留学生が、自分のことをいろいろ面倒見てくれる親切な日本人に、イントネーションの間違いで誤解された経験を語ってくれた。「私がアパートを探していたときに、知り合いの日本人の女性が一生懸命手伝ってくれました。『今日は猛暑の中をあちこち走りまわってとても大変だったのよ』。この女性は私にこう話しかけました。それですごく申し訳ない気持ちで『そうですか』と返答したら、急にその女性の顔色が変わって不機嫌になり、怒られました。私は理由が分からなくて戸惑いました。後でその場に一緒にいた日本人から私の『そうですか』のイントネーションが、相手を疑っているように聞こえたと言われ、初めて間違いに気が付きました」 これは、文法や語彙をしっかり学んでも、音声表現が適切でなければコミュニケーションに支障が起きる典型的なケースといえる。しかし、日本語学習者の音声については十分な研究が行われていないのが現状だ。 アクセントやイントネーションなどの韻律情報は文字に表せないので、学習者が意識しにくいだけでなく、教師の側も指導に困ることが多い。しかし音響解析の技術を駆使すれば、イントネーションの特徴などを可視化して指導に応用できる。戸田教授の音声コミュニケーション研究室では、複数の音響分析機器を導入して科学的な分析を行っている。

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1000 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900

そう

文頭が高い

です

高音域

低音域

「喜び」の解析図

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1800 0 150 300 450 600 750 900 10501200135015001650

そう

全体的に低い

です

高音域

低音域

「落胆」の解析図

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1000 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900

そう

文末が高い

です

高音域

低音域

「疑念」の解析図

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章︱日本社会の課題に多角的な方面から挑む

界期仮説と呼ばれますが、日本語の発音習得について科学的な研究はされていませんでした。我々が調査してみると、大人になってから学習してもネイティブ・レベルの発音ができるようになる人が少なくないということが分かったのです」 言語学習の成功者たちにインタビューをしてみると、共通点が見つかった。ほぼ全員が、テレビ、ラジオなどから聞こえてくる音声に対しほぼ同時に、同じ発音を口頭で繰り返す、シャドーイングという訓練法を実践していた。このように、学習成功者たちは自分なりの工夫をした結果として、短期間でネイティブレベルの発音を習得していたのである。 さらに、その学習者の母語は特定の言語に偏っていなかった。「学ぼうとする言語に発音が似ている母語を話す人たちが、ネイティブレベルの発音を習得しやすい」という通説も覆す結果になった。 調査結果は、学習次第でネイティブレベルの発音、またはそれに近い発音を身に付けられることに希望を持たせるものとなった。「世間に存在する通説の多くが人々の直感と一致するものです。根拠が全くない通説は有り得ないでしょうが、印象論を語るのではなく、実際に調査を行ってみると、新たな側面が見えてきます。例えばLとRの発音が曖昧で英語の発音に苦労すると言われる日本人でも、学習方法次第では短期間でネイティブレベルの発音を習得できる可能性があるのです」 この研究成果を踏まえた上で、科学研究費補助金による新プロジェクトで現在開発中のシャ 「音声教育という未開拓の分野を、自分の研究テーマにしようというチャレンジ精神がいまにつながっています。音声コミュニケーションを科学し、日本語教育に生かすことを目標に研究を続けているのです」 戸田教授は二〇〇四年に『コミュニケーションのための日本語発音レッスン』を著した。音声とコミュニケーションを結び付けて、教師用の理論的な指導書と学習者用の実践的な練習問題を取り上げた初めての書籍だ。韓国語版も出版されるなど、大きな注目を浴びた。研究成果を一般に広く知ってもらうためのメディアとしても貴重な存在だ。

言語学習の通説を覆す研究

 戸田教授のもう一つの研究の柱は、言語習得の通説を追跡調査し、根拠と実態を明らかにすることである。 これは文部科学省の科学研究費補助金による研究で、個人要因に焦点を当て、発音習得に関与する要因を探るものだ。子供のときに外国語学習を開始した場合は、ネイティブのような発音ができるようになるが、大人になってからでは母語のアクセントが残るというような印象を持つ人が多い。「ほかにも言語を学ぶときには数多くの通説が存在します。これは年齢要因と発音の関連性で臨

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章︱日本社会の課題に多角的な方面から挑む

ドーイング用DVD教材が公開される予定である。

日本語を学びに来る留学生は増加傾向

 戸田教授が所属している日本語教育研究科は二〇〇一年度に早稲田大学に新設された大学院だ。下部組織に日本語教育研究センターがあり、世界中からやって来る留学生を対象に日本語教育を行っている。戸田教授は同研究科で音声学・音韻論、音響音声学、日本語教育学などの講義を担当し、日本語教員の養成に力を注いでいる。留学生の中には母国に帰り、日本語関連の教職に就きたいと考えている人も多い。 日本語教育研究センターには現役の日本語教師、これから日本語教師を目指す人などを対象にした日本語教育学オンデマンド講座がある。オンデマンド講座は、インターネットを使って在宅学習できるシステムだ。特徴は、BBS(電子掲示板)を活用することで意見交流を活発化させ、受講生が孤立しがちなオンデマンド講座を、コミュニケーション型に変えたことである。ほかの日本語学習者の発音を聞くことができ、話者の母語を当てるクイズなども盛り込んで楽しく学習できるよう工夫されている。 受講者からは「先生の顔を見て、声を聞いて勉強できるのが魅力」「音声は一人で本を読んでも分かりにくいので、オンデマンド講座の利点を実感している」などの声が寄せられている。

 最後に戸田教授の音声コミュニケーション研究室を紹介しよう。ここでは「日本語教育と音声研究会」を年に二回開催しており、コミュニケーションにおいて音声が果たす役割について理解を深め、日本語教育の発展に寄与することを目的としている。最前線で活躍している研究者や日本語教育関係者に講演を依頼し、研究発表も行う。研究会の趣旨は次の通りである。 ①音声研究・音声教育の分野における最新の研究動向を学ぶ ②音声研究・音声教育に関心のある参加者に意見交換の場を提供する ③理論と実践の両輪を備えた研究基盤を構築する 二〇〇六年度は、複数の専任教員がそれぞれの専門領域から見た日本語教育の歴史と展望をまとめた『早稲田日本語教育の歴史と展望』を出版。戸田教授は編集長として携わった。早稲田から世界への発信が戸田教授たちの合言葉である。現在、子供から大人までの日本人を対象にした「日本語コミュニケーション」の指導への要請も高まっている。「子供たちの間には、一方的に話すだけで双方向のコミュニケーションがうまくできないという問題があります。口形などに注意してはっきりとした発音で話す、その場の目的に応じた適切な音量や速さで話すといったことは、言語コミュニケーションの重要なポイントとして新学習指導要領にも盛り込まれています。今後はこうした社会的な要請にも応えていかねばなりません」 音声コミュニケーションという、未開拓の分野を切り開いてきた戸田教授の研究は、今後さらに幅広い分野で活用されていくだろう。

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