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Academic year: 2024

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「移動する子ども」の私が読んだ

「移動する子ども」学

林 李早 (はやし りさ, 福島県在住)

モノリンガルという視点からの脱却

複言語能力というと、「日本語が話せます」「英語が話せます」のようについ捉えてしまいま す。私自身も、例えば履歴書や就職面接で「(日本語以外に)英語と中国語が話せます」のよ うに表現してきたので、何となくそれぞれの言語別の箱があって、それを詰め合わせたものが 私の「言語能力」というふうに感じていました。

でも、複数言語環境で育った子どもの「ことばの力と教育」を考えるとき、日本語、英語、〇〇 語…、という個別の能力の「詰め合わせ」として捉えている限り、その言語能力全体を正確に 捉えることはできない、ということがこの本に書かれていました。

それぞれの言語は複雑に作用しあっていて混然一体となった状態が、複数言語環境で育っ た子どもの「ことばの力」であり、それはお菓子でいうところの「吹き寄せ」のようなものと言え るかもしれません。そして「吹き寄せ」の入った箱の形や大きさは、その「子ども」によって様々 なのです。

既存の「物差し」を捨てなければ「こどばの力」は見えない

実は私は、幼少期を台湾で過ごしました。そこでの生活で「色んな人の日本語」に出会いまし た。本書で紹介されていた温又柔さんのエッセイで紹介されるような「ママ語」にも、出会いま した。でも幼かった私は、「この日本語はレベル〇〇」のように判別する発想も手段もなく、そ れらを「あるがままの状態」で受け入れていました。

中学校で英語の授業が始まり、「英検」や「TOEIC」というものと出会ったことで、「〇〇レベル の〇〇語」という考え方が当たり前のものとしてしみ込んで行きました。日本で日本語で育っ た多くの人も、同じではないでしょうか。そういうマジョリティの社会の中で、「移動する子ども」

の「ことばの力」を知り「ことばの教育」に寄与するためには、いちどその物差しを捨てなけれ ばならないと、この本を読んで強く感じました。

(2)

「移動する子ども」が「ことばの力」を育めるように

地方都市に住んでいると、その地域から出たことのない人、という方と接する機会がたくさん あります。その人たちの社会の認識は「内・外」という土台で成り立っているように感じます。

少しズームを引いて、日本全体で見てみても、恐らくまだまだこの「内・外」というベースは根 強く残っていると思います。それ自体が悪いということではないと思いますが、その枠組みで しか人やモノや社会を見ることができないことと、既に Superdiversity となりつつある社会全 体とのギャップが大きいことに気がつけないことが問題だと思うのです。

仕事や家族の事情で、あるいは国の事情で、これから日本で生活する「移動する子ども」はど んどん増えていくでしょう。その時に、「日本=日本語」というモノリンガルという視点だけでい ては、「ことばの力」を育める環境は育たないと思うのです。「ことばの力」を失った社会は、衰 退していくに違いない。だからこそ、「移動する子ども」が安心して「ことばの力」を育んでいけ る環境を整えることが大切なのだ、ということを強く感じ、そんな壮大なテーマをどう自分の行 動に落とし込んで行けば良いのかという課題を突き付けられた本でした。

他人の靴を履ける1冊

本書には、多くの「移動する子ども」たちの語りが出てきます。インタビュアーの素晴らしい手 腕によって、様々な視点から引き出された心情、感情が散りばめられた体温を感じる「語り」

ばかりです。自分自身の体験はなくとも、この「語り」を読むことで、他者の経験や感情を知る きっかけをたくさん得ることができました。まさにエンパシー、「誰かの靴を履いてみる」(ブレイ ディみかこ, 2021, p.90)*体験をした書籍でした。

多くの問いかけを得るとともに、私自身の過去を振り返り、台湾&日本育ちの日本語教師、と いうアイデンティティの再構築の機会をいただくことになった本と出会えて、とても幸せに思い ます。

*ブレイディみかこさんの著書『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(2021)で、息子さん が学校で「エンパシーとは?」と問われて「誰かの靴を履いてみること」と答えた、という話が紹介 されています。今回感想文を書くにあたり、これ以上にぴったりの表現はないと思い、引用させて いただきました。

Referensi

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