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先行事例からの知見と考察

Dalam dokumen Socially (Halaman 77-81)

 以上、アメリカ・ペンシルヴェニア州における ピアサポートの制度化の影響について、Adamsの 研究論文を紹介し概観した。ここから筆者は以下 のような示唆を受けた。

 日本では精神障害のある人が制度の中でピアサ ポートを行うことは、精神科病院からの退院促進 の活動において本格的に始まった。そして近年で は、2013年から精神障害領域を対象とした「ピア サポート専門員養成研修」が開始され、2016年か らは厚生労働科学研究としてすべての障害領域を 対象とする「障害者ピアサポーター養成研修」が、

さらに2020年からは都道府県・指定都市を実施主 体とした「障害者ピアサポート研修」が実施され ている。そして本年からは、障害福祉サービス提

供事業所で「障害者ピアサポート研修」に紐づく

「ピアサポート体制加算」および「ピアサポート実 施加算」が算定されることになった。このように、

現在日本ではピアサポートが国の制度に組み込ま れる動きが活発化している。

 こうした状況において、Adamsがアメリカ・ペ ンシルヴェニア州で見出した「ピアサポートの制 度化の意図せざる影響」すなわち、「ピアサポー トの範囲と性質が変わる」、「ピアサポートする人 が制限される」、「ピアサポートにおけるクライエ ントとの関係が変わる」、「職場で専門職からのス ティグマを経験する」、「給与は低いままで昇進は 保障されない」といったことは、今後日本でも起 きることが懸念される。ここではこのうち「職場 で専門職からのスティグマを経験すること」につ いて考察する。

 脳性まひがあり車椅子ユーザーの研究者の熊谷 晋一郎は、ピアどうしの関係には横軸と縦軸があ ると言い、「横軸」とは他のピアとの共感などのピ アどうしの関係を指し、「縦軸」とはピアの先人た ちがこれまで築き上げてきた知恵の伝承を指すと 言う。先に1章で筆者が述べた、ピアサポートの 理論的基盤である体験的知識やヘルパーセラピー 原則は、まさにこの「縦軸」に当たるものである。

そして熊谷は、ピアサポートを行う人はピアの

「横軸」だけでなく「縦軸」にもつながり続けるこ とが必要不可欠だと言う。なぜなら、ピアサポー ターを援助専門機関で雇用する場合、ピアサポー ターに「縦軸」のつながりがなければ「ともすれば 当事者間で継承されてきた方法論や価値観が専門 家という健常者に搾取される事態も起こりかね」

ないからである(12)

 さらに熊谷は、当事者と共同で創造する医療実 践について「医療をつつがなく行うためにピアサ ポートを手段として使うのは違う」と述べる(13)。 つまり、専門職にとって都合が良いようにピアサ ポートを使うのは間違いだ、と熊谷は言っている のである。

 では、日本におけるピアサポートの制度化の現 状はどうだろうか。ピアサポーター養成研修のプ ログラムとテキスト(14)を見ると、体験的知識や

ヘルパーセラピー原則についての記述は見当たら ない。また、精神障害当事者の運動の歴史につい ての記載もない。さらに、精神障害がある受講者 のうちSHGなどの当事者団体に入って活動してい る人はさほど多くないと思われるが、そうした当 事者の組織や活動とつながりを持ちたい場合の 情報が研修で提供されることも、研修プログラム やテキストを見る限り、なさそうである。このよ うなピアサポーター養成研修では、ピアの「縦軸」

を知らない・意識しないピアサポーターが量産さ れていってしまうのではないだろうか。

 そして、こうした養成研修の背後にあるのは、

専門職のピアの「縦軸」への無知や無関心であろ う。日本の援助専門職は果たしてピアの「縦軸」

の重要性や内容をどれだけ理解しているだろう か。そもそも「縦軸」の存在じたいを知っている のだろうか。

 もし日本で専門職がピアの「縦軸」を十分理解 しないままにピアサポートの制度化を進めていけ ば、「縦軸」とのつながりを欠くピアサポートが広 く行われるようになる可能性があるのではないだ ろうか。そのようなピアサポートは、Adamsが指 摘したように「本当のピアサポート」──「縦軸」

である体験的知識やヘルパーセラピー原則に裏打 ちされた、本人と他のピアのリカバリーを促すピ アサポート──とは異質なものになってしまうの ではないだろうか。

 さらに、「縦軸」とのつながりを持たないピアサ ポートは、熊谷が述べるように、専門職にとって 都合が良いように搾取されてしまうことにもな りかねない。そのような事態はAdamsが指摘する

「専門職によるピアサポートのスティグマ化」に もつながりうるのではないかと、筆者は危惧して いる。

 以上、Adamsの先行研究からピアサポート制度 化の影響について示し、それが今後日本の制度化 でも起きうる懸念について述べた。

 なお、本論では「精神障害がある人」や「精神 障害当事者」、あるいは「専門職」といわば一括り に表現したが、もちろん精神障害当事者の中でも 専門職の中でも、ピアサポート制度化についての

意見や姿勢は様々である。そうした多様な立場の 人たちの多様な意見を含めて、また本論に掲げた Adamsの論考などもふまえて、ピアサポートの制 度化については丁寧に議論される必要があるもの と考える。

おわりに

 本論では、先行してピアサポート制度化が進ん できたアメリカの論考を通じて、日本でピアサ ポート制度化が進展すると何が起こり得るかにつ いて考察してきた。

 今後はアメリカのこの先行研究からの知見をも とに、日本のピアサポートの制度化について、実 態を踏まえて、さらに深く考察していきたいと考 える。

〈注〉

(1)相川がここで言う「ピアサポーター」とは、「疾患や障 がいがあり保健福祉サービスの受け手(利用者)であ り、かつ保健福祉サービスの送り手(職員)となって いる人で、かつそれを仕事として報酬を得ている人」

を指す(相川2013)。一方、本論では「ピアサポーター」

という言葉を報酬を受けている・いないに関わらず用 いる。したがって、相川の言う「ピアサポーター」は筆 者が言う「ピアサポーター」よりも限定的だが、ピア サポートの理論的・価値的な基盤を考える上で相川の 論は有効と考えるため、ここに引用し活用する。

(2)本論では「体験的知識」と呼ぶ。

(3)本論では「ヘルパーセラピー原則」と呼ぶ。

(4)本論では「制度化」とは、制度として確立するより前 の過程も指すこととする。

(5)本論ではAdamsの論文を筆者が全訳したものをもと に論じる。

(6)Denigan-Macauley(2018).

(7)Adams はピアサポート提供者を「ピアサポートワー カー」(peersupportworker)と表記しているが、本論 では「ピアサポーター」という語を用いる。

(8)Adamsは こ の 運 動 を 示 す も の と し てChamberlin

(1978)を挙げている。

(9)Adamsによると、ペンシルヴェニア州の認定ピアスペ シャリストは75時間の認定トレーニングを完了してお り、認定されるとメディケイド支払い請求可能なメン タルヘルスピアサポートサービスを提供できる。

(10)18歳以上、ペンシルヴェニア州在住、刑事司法システ ムのピアサポートのコースを修了している人を対象と した。

(11)関係者とは、現在ピアサポーターではなく、ピアサ

ポートに関係する業務をしている人のことを指す。な お関係者のうち5名はピアサポーターとして活動した 経験を持っていた。

(12)熊谷(2018).

(13)COMHBO(地域精神保健福祉機構)主催 リカバリー 全国フォーラム2021の基調講演における熊谷の発言よ り(2021年10月16日)。

(14)岩崎(2019a,b,c,d).

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