-1-
パーシャルデンチャー補綴学講座
プロフィール
1. 教室員と主研究テーマ
教 授 山下秀一郎 主機能部位としての大臼歯部の役割に関する研究 咬合の再構成時に有用な咬合分析法に関する研究 准 教 授 田坂 彰規 デジタルデンティストリーの有床義歯への応用 助 教 大平真理子 COPD 患者に特異的な摂食嚥下障害の評価法の開発
田中 章啓 局部床義歯の支台歯へ新規材料補綴装置の応用に関する研究 池田 一洋 咬合平面の傾斜と下顎機能運動路との関連
上窪 祐基 無歯顎および遊離端欠損部顎堤粘膜に対する光学印象の精度検証 加藤 芳実 荷重負荷を伴う繰り返し着脱における支台装置の受ける影響
レジデント 相場 一輝 精度の高い咬合採得を行うための新たな咬合床形態の提案 椎貝 誠 精度の高い咬合採得を行うための新たな咬合床形態の提案 大学院生 鎌田 聡仁 セメント芽細胞における Ca2+活性化 K+チャネル発現
岡野 日奈 金属積層造形で付与した内部構造がコバルトクロム合金の機械的特性 に及ぼす影響
清水 廷浩 遊離端欠損の近遠心的長さの違いが口腔内スキャナーの精度に及ぼす影響 伴野 圭太 金属積層造形で製作した局部床義歯支台装置のアンダーカット量が
維持力に及ぼす影響
加藤 雄人 義歯支台装置の繰り返し着脱が CAD/CAM 冠に与える影響 北村 旭 顎関節における腱-骨接合部”エテーシス“の発生メカニズム
小林 裕 SLSの造形角度が局部床義歯フレームワークの形状精度と内部欠陥 に及ぼす影響
専 攻 生 井田 裕己 大臼歯部咬合支持の補綴処置に伴う顎機能の経時的変化の観察
2. 成果の概要
1) 欠損歯列における咬合再構成 -適正な咬合高径をどのように求めるか-
部分欠損歯列における咬合の再構成を行う際には、咬合高径の回復が必要となることが多い。そのような 場合、咬合高径単独で修正を行うのではなく、咬合平面をはじめとし、咬合に関わる他の要素の再構成も併 せて行いながら治療を進めることが重要である。
咬合高径を新たに設定する際には、使用中の補綴装置で決定される咬合高径を参考に、顔面計測や下顎安 静位を用いることが一般的である。しかし、症例によっては下顎安静位を越えた咬合挙上が必要であり、低 い咬合高径に適応した筋や顎関節の状態を十分に観察し、新たな安静空隙の出現を確認する必要がある。さ らに、顎関節においては、下顎頭が顆頭安定位に位置する範囲での咬合挙上が要件である。
(日本補綴歯科学会誌 12・129 回特別号:57, 2020)
2) 3D プリンティングパターンによる鋳造と金属積層造形で製作した局部床義歯フレームワークの精度に補 強バーが及ぼす影響
3D プリンターにて積層造形したレジンパターンを鋳造する技術と金属積層造形技術で製作した局部床義歯 フレームワークに精度に補強バーが及ぼす影響を検討した。下顎部分歯列欠損模型をシミュレーション模型 として使用し、3D スキャニングを行った。CAD ソフトウェアを用いてフレームワークを設計した。設計した デザインデータに補強バーを設定し、3D プリンターにて積層造形したレジンパターンを鋳造する技術(AM- Cast)と金属積層造形する技術(SLS)でフレームワークを製作した。製作したフレームワークを 3D スキャニン グし、製作データを取得した。3D 検査ソフトウェアにてデザインデータと製作データの重ね合わせを行い、
形状差分比較を行った。両側維持格子間に 1 本の補強バーを設定することで AM-Cast のリンガルバーの精度 は向上したが、SLS でのリンガルバー中央部の変位には寄与しなかった。
(J Prosthodont Res. 2020 Sep 15. doi: 10.2186/jpr.JPOR_2020_10.)
3) 加熱重合および積層造形で製作した総義歯の人工歯排列位置の比較
無歯顎模型の 3D スキャンを行い、人工歯排列した後に蝋義歯の 3D スキャンを行った。加熱重合義歯はア
-2-
クリルレジンにて製作した。蝋義歯のデータから模型のデータを差し引いたデータをもとに、紫外線硬化型 アクリル樹脂を用いて積層造形義歯を製作した。蝋義歯の人工歯領域のデータに、加熱重合義歯と積層造形 義歯を重ね合わせ、人工歯排列位置の変位を測定して精度を検証した。上顎義歯の人工歯の変位は、加熱重 合義歯では 0.08〜+0.06mm、積層造形義歯では 0.25〜+0.06mm であった。2 つの義歯の間には、有意な差が 認められた。下顎義歯の人工歯の変位は、加熱重合義歯では 0.09~+0.07mm、積層造形義歯では 0.03~+
0.07mm であった。2 つの義歯の間には、有意な差は認められなかった。積層造形で製作した上顎義歯の人工 歯は、加熱重合と比較して大きな変位を示すことが明らかとなった。
(Aust Dent J. 2021 Jun;66(2):182-187. doi: 10.1111/adj.12817.)
4) CAD/CAM 技術で製作したガイドプレーン形成用ジグを用いた教育効果の検討
本研究の目的は、補綴学的前処置であるガイドプレーン形成に関する学生の理解度の向上と 、ガイドプレ ーン形成能力の向上をはかるために、CAD/CAM 技術で製作したガイドプレーン形成用ジグを用いた教育効果 について検討することである。実習は模型上でガイドプレーン形成を行うこととし、最初にフリーハンドに よる形成を行った後に形成用ジグを用いて行った群(A 班)と、手順を逆とした群(B 班)の2群に分けて実施し た。実習では学生にプレテストとポストテストおよび実習の理解度アンケートを実施した。さらに形成した ガイドプレーンの形成面の評価を行った。
学生はジグを使用した場合、理想的な形成を行っていることがわかり、プレポストテストで実習後に良好 な成績が得られた。今研究より当学修システムは有効な教育効果を得る可能性が示唆された。
(歯科学報 121 巻 1 号 2021 年に掲載予定)
5) 精度の高い咬合採得を行うための新たな咬合床形態の提案
支台装置を有していない咬合床において、定位置にこれを装着するためには、咬合圧を利用しているのが 一般的である。過去様々な報告がされているが、咬合床下の粘膜が示す動態については不明である。印象採 得時と咬合採得時の粘膜の変位に相違が生じた場合、結果的に顎位の不適切な義歯が完成する。そこで我々 は、咬合床を術者自身が定位置に加圧し、力をコントロールすることで、この変位の差を可及的に減少させ る術式を提案したい。そして、本研究では基礎床に加圧用のフィンガーレストを付与した新たな咬合床(フ ィンガーレスト付咬合床)を考案した。従来から咬合採得時に咬合床へ負荷される咬合力により顎堤粘膜が過 度に変形し、これに起因するエラーが危惧されていた。本法を用いることで可及的にこのエラーを回避する ことが可能になると考えている。
(日本補綴歯科学会誌 2020:12:129 回特別号:155)
6) セメント芽細胞における Ca2+活性化 K+チャネル発現
セメント芽細胞は硬組織形成細胞であり、セメント質を形成する。細胞膜を介するイオン移動に伴う細胞 膜シグナル伝達は、多くの細胞過程を調節しているにもかかわらず、ヒトセメント芽細胞のイオンチャネル 発現についての報告はない。そこで、ヒト由来セメント芽細胞から細胞膜イオン電流記録を行い、電位依存 性イオンチャネル発現を検討した。セメント芽細胞(HCEM)から whole-cell patch-clamp 法を用いて細胞膜 イオン電流記録を行い、イオンチャネル発現を検討した。TEA や IbTX などの Ca2+活性化 K+チャネルブロッ カー試薬を検討した。その結果、HCEM には large-conductance を示す Ca2+活性化 K+チャネルが発現してい ると考えられた。
(JADR Program & Abstracts p110,2020)
7) 金属積層造形で付与した内部構造がコバルトクロム合金の機械的特性に及ぼす影響
SLS は鋳造や CNC ミリングでは不可能な複雑な形状や内部構造を付与することが可能である。軽かつ高強 度のメタルフレームワークの製作を目標とし、SLS で付与したラティス構造が Co-Cr 合金の機械的特性に及 ぼす影響を検討するため、4条件(Cast、Milling、SLS 充実型、SLS ラティス型)の試験片を用いて、引張 試験を行った。SLS ラティス型は、試験片内部に幅 1.2mm のラティス構造を設計した。結果は、ヤング率が Milling と Cast および SLS ラティス型間で統計学的有意差があった。最大引張強さは SLS ラティス型と Milling 間以外の条件間で有意差があり、0.2%耐力と伸び率は全ての条件間で有意差がなかった。ラティス 構造を付与したことで、合金内部にミクロ構造異方性を獲得した一方で、長軸方向への引張応力に対する抵 抗性が低下したことが示唆され、Co-Cr 合金の機械的特性に影響を及ぼすことが明らかとなった。
(日本補綴歯科学会誌 2020;12・129 回特別号:91)
8) 遊離端欠損の近遠心的長さの違いが口腔内スキャナーの精度に及ぼす影響
部分欠損歯列における口腔内スキャナーによる光学印象では、残存歯部と比較して顎堤部は精度が落ちる ことが報告されている。本研究は、部分欠損歯列に対する精度の向上を図るために、遊離端欠損の近遠心的 長さの違いが口腔内スキャナーの精度に及ぼす影響をについて精度検証を行った。下顎 KennedyⅠ級の遊離
-3-
端欠損の長さが異なる 2 種類の模型に対し各 10 回スキャニングを行った。得られた STL データを3次元デー タ検査ソフトウェアにて、設置型 3D スキャナーで得られた STL データに対し重ね合わせ、形状差分比較を行 った。結果は、顎堤部の差分値に関して有意差が認められた。部位別の比較では、右側小臼歯部とレトロモ ラーパッド部間で有意差が認められた。遊離端欠損の近遠心的長さの違いがスキャニング時の精度に影響を 及ぼすことが示唆された。
(日本補綴歯科学会誌 2020;12・129 回特別号:95,2020)
9) 荷重負荷条件下での繰り返し着脱試験が金属積層造形で製作したクラスプの維持力に及ばす影響 これまで金属積層造形(SLS)で製作した義歯支台装置の繰り返し着脱による維持力の変化については報告 がなされているが、人工歯部へ負荷される機能力が支台装置の維持力および形態の変化に及ぼす影響につい ては不明であった。本研究では、機能力を想定した荷重の負荷が SLS で製作したクラスプの維持力に及ぼす 影響を明らかにすることを目的とした。SLS にて製作した支台歯と、鋳造と SLS でそれぞれ製作したクラス プを用いて、試験機に装着し、荷重負荷条件下で繰り返し着脱試験を計 10,000 回行った。その結果、クラス プに機能力を想定した荷重を負荷した場合、SLS で製作したクラスプの維持力の変化は、従来の鋳造で製作 したクラスプと同等であり、 1,000 回までにクラスプアーム変形やアーム内面と支台歯表面に摩耗の生じる 可能性が示唆された。
(日本補綴歯科学会誌 2020;12・129 回特別号:93.)
10) SLS の造形角度が局部床義歯フレームワークの形状精度と内部欠陥に及ぼす影響
SLS (Selective Laser Sintering)の局部床義歯フレームワーク製作では、造形方向が精度に影響する可能 性がある。本研究では、造形角度の違いがフレームワークの形状精度および内部欠陥の発現に及ぼす影響を 明らかにすることを目的とした。Kennedy II級1類の下顎歯列欠損模型に対して、CADソフト上でフレーム ワークを設計した(設計データ)。SLS造形機にて、造形角度を0、45、-45度の3条件でフレームワークを 各10個造形した。製作したフレームワークを3Dデータ化し、設計データとの形状差分値を算出した。また、
µCTにて内部欠陥の精査を行った。全計測部位の差分値の範囲は0度で最も小さく、0度での形状精度が高 かった。内部欠陥数は、0度での欠陥数が最も少なかった。リンガルバー部に欠陥が集中する傾向にあり、統 計学的有意差を認めた。以上に示す形状精度と内部欠陥の結果には、造形角度の違いによるサポート材の付 着量と積層時の金属収縮の両者が関与することが考察された。
(日本補綴歯科学会誌 2020;12・129 回特別号:95,2020)
3. 学外共同研究
担当者 研究課題
学外研究施設
研究施設 所在地 責任者
田坂 彰規
ジルコニアとグラスファイバー強 化型コンポジットレジンを組み合 わせたダブルクラウンの維持力
ハイデルベルグ大学
附属病院補綴科 ドイツ Peter Rammelsberg
4. 科学研究費補助金・各種補助金
研究代表者 研究課題 研究費
科研費の場合は種目も記載
大平真理子 COPD 患者に特異的な摂食嚥下障害の評価法の開発 文部科学省科学研究費 若手研究
-4-
5. 研究活動の特記すべき事項
学会招待講演・特別講演・教育講演
講演 年月日 演 題 学会名 開催地
山下秀一郎 2020. 5.27
欠損歯列における咬合再構成
─適正な咬合高径をどのように 求めるか─
日本補綴歯科学会学術
大会(第 129 回) Web 開催
6. 教育に関する業績、活動
共用試験
氏 名 年月日 種 別 役 割 開催地
山下秀一郎 2020.10- 2 臨床能力試験トライアル
臨床実地試験 実施責任者 東京都
千代田区
山下秀一郎 2021. 2.28 令和 2 年度東京歯科大学共用歯
学系 OSCE 評価者 東京都
千代田区
田坂 彰規 2021. 2.11 令和 2 年度日本歯科大学共用歯
学系 OSCE 外部評価者 東京都
千代田区
田坂 彰規 2021. 2.28 令和 2 年度東京歯科大学共用歯
学系 OSCE 評価者 東京都
千代田区
大平真理子 2021. 2.28 令和 2 年度東京歯科大学共用歯
学系 OSCE 補助係 東京都
千代田区
田中 章啓 2021. 2.28 令和 2 年度東京歯科大学共用歯
学系 OSCE 器材係 東京都
千代田区
池田 一洋 2021. 2.28 令和 2 年度東京歯科大学共用歯
学系 OSCE 準備係 東京都
千代田区
上窪 祐基 2021. 2.28 令和 2 年度東京歯科大学共用歯
学系 OSCE 補助係 東京都
千代田区
加藤 芳実 2021. 2.28 令和 2 年度東京歯科大学共用歯
学系 OSCE 補助係 東京都
千代田区
他の大学・研究機関等における学生・大学院生を対象とする講義・実習
担当者名 年月日 テーマ・演題 大学・機関 所在地
山下秀一郎 2020. 9.24
部分床義歯学
歯の欠損に由来する顎口腔 系の変化
歯の欠損様式と義歯の分類 部分床義歯に加わる力への対応
昭和大学・歯学部
東京都 品川区 Web 講義