多治見市における猛暑のメカニズム解明
明星大学 理工学部 総合理工学科 環境・生態学系 4年 13t7-055 原 徹也
指導教員 亀卦川 幸浩 1.はじめに
近年、地球の温暖化や都市のヒートアイランド 現象などにより年々気温が上昇傾向にある。それ に伴い日本でも猛暑日の増加が見られているが、
ヒートアイランドによる昇温が大都市域と比べ小 さい地方都市の埼玉県熊谷市や岐阜県多治見市で 大都市の東京を上回る猛暑現象が発現している。
多治見市は日本で歴代 2位タイの 40.1℃を 2007 年に記録している。また 2016 年の夏季最高気温
も39.7℃を記録している。ヒートアイランド現象
の影響が大きく関わっていない地域で大都市より 気温が上がっているのはなぜか。そのメカニズム を明らかにすることは、極端気象現象としての局 所的猛暑の発現機構の解明に関連し重要な研究課 題を位置づけられ得る。
2.先行研究と研究目的
先行研究 1)では埼玉県熊谷市における猛暑のメ カニズムが研究された。その結果、北東以外の北 寄りの風からのフェーン現象を伴う山越え気流と 南東以外の南寄りの風からの海風が熊谷市付近で 収束前線を形成し、顕熱の滞留を誘発することが 原因と推測された。
また、他の先行研究2)では多治見市を対象に猛 暑のメカニズムが研究された。その結果、3 つの 空間スケールの猛暑要因が仮説として提唱された。
1つ目はSynoptic scaleのクジラの尾型と言われ る気圧配置に伴う北西からのフェーン風、2 つ目
はMeso βscaleの名古屋からの顕熱輸送、そして
3つ目はMeso γscaleの多治見市のヒートアイラ
ンド効果であった。しかしヒートアイランド強度 は名古屋の方が大きいにも関わらず多治見市の方 が高温であるが故に、ヒートアイランド効果は支 配的要因とは成り得ず、名古屋からの顕熱輸送、
もしくは北よりの風によるフェーン効果が有力で あると推測された。この事を受け、本研究では
Mesoβscale の要因に注目し、多治見市の猛暑メ
カニズムの解明を目指す事とした。この為、名古 屋からの顕熱輸送やフェーン現象が猛暑にもたら す影響を詳細に解析すべく、高空間分解の気象デ ータが必要となった。本研究では気象庁アメダス
(約1300局)に比し3倍程度の観測地点(4000
局)から成る高空間分解能のドコモ環境センサー ネットワークによる気象観測データも解析に用い る事とした。これにより、猛暑のメカニズムにつ いて、Meso βスケールの二つの仮説の内、どち らがより支配的であるかを解明することを目的と した。
3.研究概要 3-1.研究手法
本研究では、2015年、2016年の7月・8月の4 ヵ月を対象に、アメダスとドコモ環境センサーネ ットワークの気象データを解析する事とした。そ の手法の概略を以下に記す。
解析に際しては、まず先行研究 2)を参考に両デ ータより晴天高温日を抽出した。日照時間が 6時 間以上の晴れの無降水日を「clear-sky day」、その うち最高気温35℃を越える猛暑日を選定し、気象 観測データを各種の解析ソフト(GISやVAPOR)
を用いて処理・可視化した。具体的には気温分布 図や風分布図等を作成した上で、多治見への流入 気流の経路上での降水の有無や気温分布を詳細に 解析し考察を加える事で、Meso βスケールの二 つの仮説の内、どちらがより支配的であるかの解 明を目指した。解析に際しては、北東以外の北寄 りの風により、どのようなフェーンが起きている のか、南東以外の南寄りの風の際に気流経路上で の気温分布が名古屋からの熱輸送を示唆するか否 かの視点等から仮説検証を試みた。
3-2.検証に用いる測定データの概要
多治見市における観測が先行研究 2)にて行わ れ、2015年と2016年の7月・8月の計4ヵ月 分を解析することにした。観測場所はアメダス では約60地点、ドコモ環境センサーネットワー クでは約190地点である。本研究ではこの2つ のデータを併用し多治見市の猛暑メカニズムを 探ることにした。またフェーンの種類を判別す る際、雲や降水の動態も勘案し、フェーンの種 類(ドライ/ウェット/ハイブリッド)を判別する 事とした。
3-3. 風向の判定法
分類1 : 北東以外の北寄りの風
多治見市より北側の山間部に設置されたアメダス 3地点、ドコモ5地点、計8地点の観測点のうち、
過半で北東以外の北寄りの風が観測された場合に この分類とした。
分類2 : 南東以外の南寄りの風
名古屋市より南側の海辺近くに設置されたアメダ ス2地点、ドコモ6地点、計8地点の観測点のう ち、過半で南東以外の南寄りの風が観測された場 合にこの分類とした。
分類3 : 北東の風
多治見市より東側山間部近くに設置されたアメダ ス3地点、ドコモ5地点、計8地点の観測点のう ち、過半で南東以外の南寄りの風が観測された場 合にこの分類とした。
4. 解析結果
図1. 風向の判定地点
4.解析結果
4-1 名古屋からの顕熱とフェーン風
対象期間のうち猛暑日が35日あり、風流をアメ ダスやドコモ環境センサーネットワークの気象デ ータ、気象庁のメソ気象予測の結果で確認したと ころ北東以外の北寄りの風(フェーン現象)の日 が5日、南東以外の南寄りの風(名古屋からの顕 熱輸送)の日が1日であった。つまり猛暑日にな る要因としてフェーン現象の方が頻度は高く支配 的要因であると考えられる。また猛暑日になる日 は、仮説とは異なる北東の風が18日確認された。
また他の猛暑日は南東からの風であり、太平洋高 気圧の影響により広域的な猛暑を目的としたため、
本研究では多治見市の局所的な猛暑のメカニズム の解明を目的としたため、南東の猛暑日は以降の 解析より除外した。なお、解析対象とした2015・
2016 年は、例年より台風が多く上陸し、その際、
猛暑日になっている日が多く確認できた。要因と して、台風が多治見の南方にある際、北東からの 風が吹き、フェーン現象を起こしていると考えら れる。仮説とは違う猛暑のメカニズムが示唆され た。これを新仮説とした。
図2. 猛暑日の分類結果
4-2 フェーンの種類の判別
対象期間の猛暑日をフェーン現象が起きると推 測される岐阜県の山間部にある樽見の降水量や降 雨レーダーで確認したところ、全日雨は降ってい なく、雲も無かったことからドライフェーンが起 きていたのではないかと考えられる。
図3. 2015 8/10 14:00の雲の様子 5. まとめと今後の課題
先行研究で提案された2つの仮説のうち北東以 外の北寄りの風は 5日確認でき、南東以外の南寄 りの風は 1日しか確認出来なかった。これは新仮 説として提案する台風の影響で北東の風が多い年 であったためと考えられる。また頻度から、北東 以外の北寄りの風の方が多いためフェーン現象の 方が多治見の猛暑発現に対し、より支配的である と推測した。
今後の課題として、研究した期間は台風が歴史 上でも多く上陸する(2015 年は歴代 4 位、2016 年は歴代2位)年であったため特異的な年であり、
今後、例年通りの年等を含め、長期的な解析が必 要であると考えられる。
6. 参考文献
1) Takane Y, Kusaka H. 2011, J. Appl.
Meteorol. Climatol. 50: 1827–1841, doi:
10.1175/JAMC-D-10-05032.1.
2)) Takane Y et al., 2016, Int. J. Climatol., early online release, doi: 10.1002/joc.4790