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幻の新種酵母の恵み

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Microb. Resour. Syst. Dec. 2015 Vol. 31, No. 2

1958 年の東北大学紀要にキャンディダ・コルニキュ ラータ(Candida corniculata)という新種酵母が報告 されている(Kuraishi, 1958).国際命名規約に従い,

正式に記載された種である.この学名はインターネッ トで検索することができるが,既知酵母種を網羅した The Yeasts, a Taxonomic Study のどの版にも収録さ れていない.

筆者は 1962 年に味の素株式会社に入社した.中央 研究所で駒形和男先生の指導の下に酵母分類の研究に 着手してから 1 年半ほど経過し,酵母という生物が何 とか実感できるようになった頃のことである.駒形グ ループの先輩,小川博望さんが日本大学理工学部二部 で勉強していたが,会社での研究を卒業論文にしてよ いとのことで,駒形先生が「冷凍食品の微生物に関す る研究」というテーマを出された.冷凍食品が出始め た頃である.1963 年の夏に小川さんはマーケットで 冷凍食品を購入し,ホモジェナイズして懸濁液を各種 の平板培地に希釈培養し,生育したコロニーの性状の 違いに基づき,コロニー数を分別計数してその割合を 反映するように菌株を分離するという大変面倒な仕事 をしていた.大半は細菌であったが,酵母も分離株の 8%を占めていた.駒形先生の指導の下,小川さんが 細菌,筆者が酵母を分担して研究を進めた.

通常の同定実験に加え,生育温度特性を明らかにす るために,零下 2 度など低温での生育試験が必要だっ た.当時の冷凍培養機は故障が多く実験は遅れたが,

何とか小川さんの卒業論文に間に合わせることができ た.小川さんと分担して原稿を書き,原著論文 6 報が 日本食品衛生学雑誌に掲載された.発見された新種酵 母は J. Gen. Appl. Microbiol. 誌に発表した.学部学生 の卒業研究がこのように多くの原著論文になったのは 他に例を知らない.

小川さんは大学の夜間部ではただひとり選ばれて卒 業研究発表会の舞台に立つ名誉を与えられた.また,

この業績により駒形先生は第一回日本食品衛生学会賞

を受賞された.副賞としてかなりの賞金が出たようで,

先生は研究室の全員を伊豆の土肥温泉の一泊旅行に招 待してくださった.その頃は道路が悪く,陸路で土肥 温泉に行くのはかなり大変であったが,魚が大変美味 しかったのを記憶している.

この研究で偏性好冷性酵母の新種 2 種を発見するな ど,興味ある菌株を得ることができたが,その中に同 定に迷う菌株があった.冷凍開きキスから分離された もので,キャンディダ・クルバータ(Candida curvata)

に類似するが何となく違う感じがしたので文献を調べ たところ,出版されたばかりの日本菌類誌第 3 巻第 1 号(伊藤誠哉,1964)に倉石 衍先生のキャンディダ・

コルニキュラータが収録されており,分離株はこの種 に酷似していることがわかった.筆者は 1958 年に発 表されたこの論文に全く気が付かなかった.倉石先生 は東京大学応用微生物研究所に移っておられたので,

駒形先生が菌株の分譲依頼のため倉石先生を訪問して くださった.倉石先生は「論文にはオランダの微生物 株 保 存 機 関 C B S (C e n t r a a l b u r e a u v o o r Schimmelcultures)に寄託したと書いたが,実際には どこにも出してなく菌株は死滅した」と話されたそう で,駒形先生に別刷を託してくださった.結局,分離 株との比較検討はできなかった.

しばらくして,スロバキア科学アカデミー化学研究 所の酵母コレクション(Culture Collection of Yeasts, CCY)のカタログにキャンディダ・コルニキュラー タが収録されていることを偶然に発見した(Candida corniculata Kuraishi CCY 29-35-1).

早 速,CCY の コ コ バ 先 生(Anna Kocková- Kratochvílová)に手紙を書いた.ココバ先生は国際 酵母委員会の創設者であり,現在も続いている国際酵 母シンポジウムを開始され,酵母学の進歩に貢献され た偉大な学者である.無名で駆け出しの日本人研究者 に親切に菌株を送ってくださり,この菌株はハンガ リーのツオルト博士(J. Zsolt)から送られてきたも Microb. Resour. Syst. 31(2):185─187, 2015

コラム「キャンディダ・コルニキュラータ

(Candida corniculata):幻の新種酵母の恵み」

中瀬 崇

〒772-0017 徳島県鳴門市撫養町立岩字五枚 174-1

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中瀬 崇 コラム「キャンディダ・コルニキュラータ(Candida corniculata):幻の新種酵母の恵み」

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Zsolt の酵母分類体系」の提唱とオレンジ色の新属新 種 デ ィ オ ス ツ ェ ギ ア・ ハ ン ガ リ カ(Dioszegia hungarica)の発見で知られている.

この株の性状を調べたところ,なんとデバリオミセ ス・クレッケリ(Debaryomyces kloeckeri)であった.

こ の 種 は 現 在 で は デ バ リ オ ミ セ ス・ ハ ン ゼ ニ

(Debaryomyces hansenii)の異名とされている.財団 法人発酵研究所の坂野 勲先生が赤色酵母ロドトルラ

(Rhodotorula)属の 2 株が接合して菌糸形になるこ とを発見された頃であり,酵母分類学における世紀の 大発見といわれ,担子菌酵母の研究の端緒となったロ ドスポリディウム(Rhodosporidium)属はまだ提唱 されていなかった.従って,子嚢菌酵母や担子菌酵母 の概念はまだなかったが,この二大系統の違いはいわ れ始めていた.デバリオミセス・クレッケリは漬物や チーズなどの高塩食品に多く生息する,ごく普通に見 られる子嚢菌酵母であり,担子菌系の不完全酵母であ るキャンディダ・クルバータやキャンディダ・コルニ キュラータとは似ても似つかぬものである.この結果 をココバ先生に連絡したら,先生もびっくりされたよ うで,ツオルト先生に連絡され,色々と調べてくださっ たが,結局,原因はわからなかった.これがきっかけ となり,ココバ先生は色々と研究上の助言をしてくだ さるようになり,後には共著論文も書くことができた.

ココバ先生は 1966 年にスロバキアの首都ブラティ スラバの郊外にあるスモレニース城で開催された第 2 回国際酵母シンポジウムを主催された.たまたま,別 件の社用でヨーロッパに出張されていた駒形先生は,

このシンポジウムで「冷凍食品に見出される酵母」と いう演題で研究成果を報告された.シンポジウムには 倉石先生も参加されたが,ココバ先生から,開口一番

「ドクター・クライシ,キャンディダ・コルニキュラー タはどうした!」と叱られたそうである.ツオルト先 生も出席されていたそうで,駒形先生がこの件を聞い てくださったが,高齢でもあり,要領を得なかったそ うだ.論文を書いた本人が「何処にも送ってない」と いうのに,何故,ハンガリーの研究者がその名前の菌 株を入手できたのか,まことに不思議な話である.菌 株を間違えて送ったという話は時折聞くが,存在しな いものが諸国を渡り歩くなど,ミステリーそのもので ある.

その後,キャンディダ・クルバータの基準株を入手 し,分離株と比較実験を行ったところ,分離株はこの 種に同定してよいとの結果を得た.このあたりの担子

菌酵母は遺伝子解析によらずには種を区別しがたいも のが多いことが明らかになってきている.キャンディ ダ・コルニキュラータはキャンディダ・クルバータで あったのか,やはり新種であったのか,菌株が失われ た今となっては知ることは不可能である.ツオルト先 生と直接に連絡することはなかった.先生の発表され たディオスツェギア属は長い間,独立した属としては 認められず,クリプトコッカス(Cryptococcus)属に 含められていた.

1982 年に筆者は理化学研究所に移り,10 年間中断 していた酵母の研究を再開した.理研 JCM はゼロか ら出発した系統保存機関であり,系統保存機関間の交 換用に独自の魅力ある微生物株を保有する必要に迫ら れていた.これには新種微生物の収集がもっとも効率 的である.1970 年代の初めに,植物の葉面には多く の未知の射出胞子形成酵母が生息していることに気付 いていた.わが国の射出胞子形成酵母研究の先駆者で ある,椿 啓介先生の助言もあり,これらの分離研究 に重点を置くことにした.

これはうまく当たり,日本や東南アジアの森林など から 90 種を超える新種を発見することができ,研究 開始当時は小さな酵母群と思われていたこの仲間の酵 母が実は大きなグループであることが明らかになっ た.オレンジ色の酵母も結構多かった.

1997 年にハンガリーのセント・イストファン大学 のデアック先生(Tibor Deák)との共同研究が始まっ た.ハンガリーの野生植物から射出胞子形成酵母を分 離したが,オレンジ色の酵母も多かった.これらの酵 母の研究は高島昌子さんが担当し,ディオスツェギア 属はクリプトコッカス属に含めるべきではなく,独立 した属とすべきことを明らかにした.高島さんは,こ の属を再定義して復活させる論文をデアック先生と共 同で発表した.デアック先生からの連絡では,高齢な がらなお健在であったツオルト先生が大変喜んでくだ さったとのことである.さらに 2002 年には中国科学 院微生物研究所の白逢彦(Bai Feng-Yan)先生が中 国の植物からディオスツェギア属の新種を発見し,

ディオスツェギア・ツオルティ(Dioszegia zsoltii)

と命名し,属の創設者の功績を讃えた.

きっかけは存在しない酵母株が諸国を渡り歩くミス テリーにあった.そのことがココバ先生との縁を生じ,

さらに,ツオルト先生と同じ国のデアック先生と共同 研究をする機会に恵まれた.また,筆者が代表研究者 として推進した,「アジア地域の微生物研究ネット ワークに関する研究(Asian Network on Microbial

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Microb. Resour. Syst. Dec. 2015 Vol. 31, No. 2

Researches)」に参加された白先生ともこの課題で仕 事をすることができた.現在は高島さんが継承して連 携を維持している.

話の元になった倉石先生は,研究室の大学院生,柴 むつみ(現,伊藤むつみ)さんを紹介してくださった.

柴さんは優れた実験者であり,研究助手として働いて いただいた期間に多くの論文をものにすることができ た.

筆者は 1990 年の初秋にスロバキアのスモレニース 城で開催された国際専門別酵母シンポジウムに招待さ れた.射出胞子形成酵母について発表し,ココバ先生 の名前に因んでココバエラ(Kockovaella)属を提唱 した.ココバ先生は体調を崩され入院中とのことでシ ンポジウムには参加されなかったが.ボヘミアングラ スの立派な灰皿を会場に届けてくださった.会期中に ワイン醸造場を訪ねるエクスカーションがあったが,

その時間を利用して,ミュンヘン大学のクラウスホッ ファー教授と一緒にブラティスラバのサナトリウムを 尋ね,ココバ先生を見舞った.話が弾み,引き止めら れたので,クラウスホッファー教授が辞去された後も しばらく歓談した.老いて病を得,視力が衰えてもな お,楽しそうに将来の研究構想を話される先生の姿に 深い感動を覚えた.まことに人と人の縁は奇なるもの であり,大切にしたいものである.

文 献

Kuraishi, H. 1958. Candida corniculata nov. spec., a new yeast from beech litter. Science Reports of Tohoku University, Series 4 (Biology) 24: 59-62.

伊藤誠哉 1964.子嚢菌類第 1 号 酵母菌目 クリプトコ ックス目 外子嚢菌目,日本菌類誌第 3 巻,p. 160,

養賢堂,東京.

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