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2005 年度 上智大学経済学部経営学科 網倉ゼミナール 卒業論文

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2005 年度 上智大学経済学部経営学科 網倉ゼミナール 卒業論文

A0142338 竹内景太

見た目のデザインをビジネスにすることは可能か

2006年1月15日提出

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目次

素朴な疑問

第一章 デザインの良さとは何か

1−1 使いやすいユーザーインターフェース

1−2 ユーザーインターフェースの良さでモノが売れるか

第二章 認知心理学的アプローチ 2−1 処理の三つのレベル 2−2 デザインの三つのレベル 2−3 情動の重要性

第三章 日本企業の問題点

3−1 なぜ醜い製品が生み出されるのか 3−2 なぜ格好悪い製品が売れてしまうのか

第四章 見た目のデザインはビジネスになるのか 4−1 ソニー「vaio」のケース

4−2 日本のデザインが世界をリードするためには

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素朴な疑問

私たちは日常生活の中で様々な物に囲まれて生活をしている。またその物の見た目のデザイ ンも様々である。例えばボールペン一つを例に挙げても太いもの細いもの、重いもの軽いもの、

また書きやすいもの書きにくいものといったように、同じボールペンでも様々な選択肢がある。

私は書きやすいボールペンを所有しているが、周りの人間が同じ選択をするかというとそうで はない。ある人はボールペンなど書ければ良いと言って100円の物を使う。購入の決めてと なるのは個人の価値観の違いがあるのは確かだが、単価の安いものほどその価値観に左右され るように感じる。価格の低いものであれば、消耗品として使えなくなったら容易に新しいもの と交換する事ができるからだ。

ではもう少し高額の製品に目を向けたい。例えば携帯電話を考えてみたい。友人になぜその 製品を選んだのか聞いてみると、かわいいから、機能が充実しているからという答えが返って くる。ここで感じたのはある程度の高額商品の購入の際には、価格は最大の購入要因ではない ということだ。価格よりも先にデザインや機能といった要因が重要であり、その次に価格とい う要因を気にする。一番最初に「この携帯安いから変えよう」とは思わないのである。また機 能で選んだという人にその機能を使っているかと聞くとそうでもなかったりする。これは結局 広告に騙されているのではないか。

私はモノを選ぶ際、見た目を非常に重視している。所有することで満足感を得、またちょっ とした不便もあまり気にしない。デザインでモノを選べば人生が豊かになる。なぜ人はもっと 見た目のデザインでモノを選ぼうとしないのか。これは私たち消費者の視点であるが、企業は どうか。企業は見た目のデザインの良さをビジネスにつなげることができるのか。私はこの疑 問を工業製品に焦点を当てて論じて行きたい。

第一章 デザインの良さとは何か

そもそもデザインの良さとは何か。私はここでデザインという言葉を2種類に分類したい。

一つは使いやすさのデザイン、もう一つは見た目のデザインである。

使いやすさのデザインについてだが、これはユーザーインターフェースが関わる。ユーザー インターフェースとは辞書的に言えば「インターフェースのうち、機械、特にコンピュータと その利用者との間を結ぶための方式、あるいはその接合部分」とある。またパソコンや携帯電 話を例にとった場合、ユーザーインターフェースにはソリッドユーザーインターフェース(SUI) とグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)がある。ソリッドユーザーインターフェー

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スとは携帯電話で言えば素材、ボタン配置、ボタンの大きさ、文字盤、十字キーなどを指す。

またグラフィカルユーザーインターフェースは携帯電話の画面上に現れるグラフィックによる インターフェースの事である。これらは製品の使いやすさに大きく影響を与える。

また見た目のデザインについてだが、その善し悪しはたとえばかっこいい、かわいい、ダサ イ、気持ち悪いなどの言葉で表す事ができる。見た目のデザインは製品の最初の印象として大 きく影響を与える。

1−1 使いやすいユーザーインターフェース

まず良いユーザーインターフェースについて述べたい。良いSUIとは何か。ここではアップ ルコンピュータのPowerBookとiBookの違いから説明したい。両者の違いは価格やCPUのク ロック数の違いはあるが、最大の違いはその素材にあると考えている。PowerBookはボディー からキーボードまでアルミでできていて、iBookはプラスチックである。プラスチック素材の特 徴は指先で触れた際に感覚がぼけやすく、しっかりと触れているという感覚が少ない。一方ア ルミなどの金属は指先に確かな「触っている」という感覚を感じる事ができる。またキーボー ドを叩いた時のストロークの確かさが決定的に違う。良いソリッドユーザーインターフェース とは使った時にストレスが少なく、不自然な感覚を抱かないものである。PowerBookの方がス トレス無く気持ち良く触る事ができることからビジネスユースとして向いている、としている アップルの主張は確かに正しい。

次に良い GUI とは何か。ここでもマッキントッシュを例に挙げたい。マッキントッシュの GUIは非常に優れていて使いやすい。それはマッキントッシュがApple Desktop Interfaceとい う基準に準拠しているためである。以下で基本的な10の原則に触れたい。

1比喩の使用

Apple Desktop Interfaceではコンピュータ環境をユーザーが持つ経験の範囲内で利用可能な

ものとするため、処理内容は具体的な比喩により平易に表現するとしている。それはユーザー の全てがコンンピュータシステムを長期間にわたって利用した経験があるとは限らないが、

人々を取り巻く実世界に対しては、長年の直接的な経験がある事は間違いない。誰もが持つ経 験を生かすため、コンピュータの設計では機会が行う処理を人々が日常生活の中で慣れ親しん でいるものに置き換える事で、ユーザーは現実世界との細かい違いにとらわれることなくシス テムを利用できるとしている。例えばデスクトップとは文字どおり各種作業が行われる「机の 上」を意味する言葉であり、これをユーザが各種ツールや書類を置いておける場所を意味する ものとして比喩的に表している。また現在Macintoshユーザに広く使われているwebブラウザ

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であるSafariもインターネット上に氾濫している情報を探し出す事をあたかもジャングルを探 検するような行為であるという比喩であると考えられるだろう。

2操作の直截性

ユーザーが何らかのコマンドをコンピュータに与えた時、その実行の確認にアニメーション のような視覚に訴える手段を用いる事でユーザーにコンピュータ操作の主導権を与えることが 必要であるとしている。人間は自分の行為に対する具体的な結果を期待し、使用中のツールか らは何らかの反応を求めるものである。この例はコンピュータ上で書類をフォルダ癌で移動す る時やゴミ箱に破棄する時等に、実際に机の上で紙や文房具を扱う場合と同じような物理的な 手応えが必要になり、マウスを動かす動作はコンピュータの操作とその結果の確認を日常的な 感覚に置き換えることが求められる。

3見たものを指示する

この考え方は”see and point”という考え方により、専門的知識を憶えてキーを操作してコンピ ュータを扱うのではなく、ユーザーが可能な処理の一覧をスクリーンに表示しその中からユー ザーが必要とするものを選べるようにしている。操作は記憶ではなく認識に基づいて行なわれ ることになり、プログラマーのような知識を必要としなくなる。

4一貫性

アプリケーションが効率的であるためにはそれ自体の操作体系に一貫性があると同時に、他 のアプリケーションとの一貫性が必要としている。これによりあるアプリケーションで一通り 習得したノウハウを他のアプリケーションでも活用できればコンピュータはさらに効率的なも のにすることができる。この考え方はデスクトップのインターフェースにも表れている。例え

ばMacintoshのメニューバーは左からAppleメニュー、アプリケーションメニュー、ファイル、

編集という順序になっている。これはどのアプリケーションを起動しても一貫して同じになっ ており、ユーザーは新しいアプリケーションに対しても抵抗なく使用することができる。

5スクリーンで見たままをプリントする(WYSIWYG)

WYSIWYGとは”what you see is what you get”の略で、スクリーンに表示されたものを印字した 場合、その落差が大きすぎないように配慮するという原則。これは今では当たり前の考え方だ がMacintoshの発売時のプリンタImage Writerの解像度は72dpiでMacintoshの画面と同じであ ったため当時としては考えられないようなWYSIWYGを実現していたと言われる。

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6ユーザーによるコントロール

あらゆる処理はコンピュータではなくユーザー側で開始し、コントロールすることが必要で あるとされている。自動的にユーザを導いてくれる機能は表面的には魅力的なものに思えるが、

それでは処理進行の主導権はコンピュータ側にあることになってしまう。Apple Desktop Interface ではユーザーが例えばエラーにつながるような操作をすればコンピュータが警告を発すること で操作に不慣れなユーザーをコンピュータ側で補助しながら処理の進行をユーザー側に委ねる ことで主導権をユーザーに与えている。

7フィードバックとダイアログ

ユーザー側で処理の進行をコントロールできるようにするためには、コンピュータからのフ ィードバックが不可欠であるとしている。また処理の進行中にはその状況もユーザー側に伝え る必要があるとしている。

8寛容性

ユーザーの操作ミスを想定しておき、原則としてユーザー側で行なう操作を全て取り消し可 能なものとした。これは一般的なユーザーはソフトウェアのマニュアルをあまり参照せず、実 際に操作しながら試行錯誤するものだということを想定し、重大なエラーにつながる操作をし た場合以外は操作を取り消すか続けるかの判断をユーザーに委ねている。

9安定性

コンピュータ環境がユーザーにとって快適なものであるためには、ランダムな変化を排除し、

常に一定の理解度と習熟度で作業できる状態を維持する事が必要であるとしている。Apple Desktop Interface では各種オブジェクトが配置される2次元の平面が視覚面の安定性を得る基 準であるとされている。またここで言う安定性とは観念的なものであり、物理的な安定は意味 しない。

10美的完成度

混乱を招きやすい表示や魅力に欠ける表示はヒューマンインターフェース機能を低下させると している。Apple Desktop Interface はグラフィックを非常に重要視しており、それは優秀なデ ザイナーの登用の必要性を訴えている点にも表れている。またグラフィックの表示は一貫性が ありシンプルでわかりやすい必要があるとしている。このグラフィックについての考え方は単 に見栄えをよくするためのものではなく、見やすく一貫性のあるグラフィック処理は、操作方 法の学習や理解を助け、インターフェース機能向上に大きく貢献するとされている。

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これらの事から言える事は、良いユーザーインターフェースとはある行動を起こした時、そ れがどのように働きどう動くのか、また動かすにはどうしたら良いかをユーザーが簡単に理解 できるものだと言える。またストレスや手間はできるだけ少ない方が良い。その点でユーザー が直感的に操作を理解できるように考えだされたアップルの GUI はまさに良いユーザーインタ ーフェースであり、実際に使用している私もその操作のしやすさに引き込まれてしまった。使 用者の視点に立ったユーザーフレンドリーなものが良いユーザーインターフェースだと言える だろう。

1−2 ユーザーインターフェースの良さでモノが売れるか

ではユーザーインターフェースの良さだけでモノが売れるのか。ここではユーザーインター フェースの良さをビジネスにつなげる事を考えていきたい。

ユーザーインターフェースの良さというのは経験材である。手に取って実際に使用してみな ければその良さはわからない。ではどのように消費者の関心を引いて手に取らせるか。ここで 重要になるのが見た目のデザインなのである。見た目のデザインが人間にどのような影響を与 えるのか、次の章で認知心理学者のドナルド・A・ノーマンの研究をもとに考察したい。

第二章 認知心理学的アプローチ

2−1 処理の三つのレベル

ノーマンは製品の特性を人間の処理のレベルに対応させて分類した。人間の特性は脳機能の 三つの異なるレベルに起因する。一つは自動的で生来的なそうであり、本能レベルと呼ぶ。こ れは脳の中で最も原始的な部分であり、直感的な部分である。次が日常の行動を制御する脳の 機能を含む部分で、行動レベルとして知られている。もう一つが脳の熟慮する部分であり、内 省レベルと呼ばれる。人間の脳は発達における最高レベルに到達しているので、自分自身の動 きについて考える事ができる。この内省レベルで意識的な思考、あるいは新しい概念の学習や 現実世界の一般化が行われる。

行動レベルは意識されない。だから、行動レベルで潜在意識的に自転車を運転しながら、別 の事を内省レベルで意識的に考えることができる。

処理の三レベルの関係は上位から内省レベル、行動レベル、本能レベルとなっていて、上位

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のレベルが下位のレベルを制御する。本能レベルは処理が速く、善悪や安全についてすばやく 判断し、筋肉に適切な信号を送って、脳のその他の部分に警告を発する。これが感情処理の始 まりである。これは生物的に決定されており、上位からの制御信号によって抑制されたり、促 進されたりする。行動レベルは、大部分の人間行動の場所である。その活動は、内省レベルに よって促進されたり制御されたりする。逆にほんの押送を促進したり制御したりする。最上位 の層の内省的思考は感覚入力にも行動の制御にも直接はつながっていないが、行動レベルを監 視し、その行動について熟慮し、バイアスをかけようとする。

生物学的な機構の中には、完璧なシステムではなく、単なる素地にすぎないものもある。例 えば蛇や蜘蛛を恐れるという素地はあっても、すべての人が実際に怖がるわけではない。これ は経験によって誘発されるのである。別の言い方をすれば、本能レベルでは人は世界中どこで もほとんど同じだが、行動レベルと内省レベルは、経験、訓練、教育に左右される。ここでは 文化的な視点が大きな影響を与える。ある文化でアピールするものでも、別の文化ではそうで はないこともある。秋葉原の文化は原宿の文化で育った人間に好かれはしない。この点が万人 に好かれるデザインの難しさであろう。

2−2 デザインの三レベル

では処理のレベルをデザインに当てはめるとどうか。三つのレベルは次のように製品の特性 に対応づけることができる。

本能的デザイン→外観(見た目のデザイン)

行動デザイン→使う事の喜びと効用(ユーザーインターフェース、使いやすさ、機能、能力)

内省的デザイン→自己イメージ、個人的満足感、想い出

この単純化をデザインに適用するは難しい。ある製品を第一にどのレベルに訴えかけるか。あ るレベルでの要求が他のレベルと相反するときのトレードオフをどうするか。本能的な喜びを いかに製品に反映するか。あるグループの人々をエキサイトさせたものが他のグループを失望 させないか。内省レベルでも同様に、ある人にとって魅力的な深い内省的要素が、他の人には 退屈で受け入れがたいものにならないか。また行動的デザインが大切だということは疑いのな いことだが、モノの全体的な構成の中でどのくらいのウエイトを占めるのか。三つのレベルそ れぞれの重要性を、どう比較判断するのか。ノーマンは一つの製品だけですべての人を満足さ せる事は無理だと言っている。

ここからは三つのレベルのデザインを個々に見て行きたい。本能レベルは前意識、前思考の ものである。すなわち本能的デザインとは見かけが問題である。見かけは製品が最初に与える

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効果、外観、手触り、雰囲気に関わっていてそこで第一印象を形成する。私たちがある製品を 初めて見た時に抱く「カッコいい」とか「便利そう」といった類いのものである。本能レベル のデザインは反応が生物化学的であり、世界中誰でも似たようなものだから最もアピールしや すいレベルに見える。しかし必ずしも直接好みに結びつけられるというものではない。同じ人 間であっても様々なパーソナリティが存在する。また本能レベルの反応の程度には大きな個人 差がある。私はコーヒー好きだが、コーヒーは毎朝飲まなければ活動意欲が起きない。同じコ ーヒー好きな人でも必ずしも私のようであるとは限らない。このパーソナリティによって我々 はユニークな存在となっているのだが、先ほども述べたように一つのデザインですべての人を 満足させうることができない原因となっている。

行動的デザインは使う事の喜びと効用を目的としたものである。前章で述べたユーザーイン ターフェースのデザインはここに当てはまる。使って楽しいもの、簡単に目的を達成する事が できるものほど望ましい。

内省レベルだが、本能レベルと行動レベルと決定的に違う点は2点ある。文化、経験、教育、

個人個人の違いに影響されるという点である。ある人には観念的に受け入れられないデザイン が他の人にとっては魅力的で惹きつけられるものだったりする。それは個人のバックグラウン ドが違い、育ってきた環境が違うということである。もう一点は、本能レベルと行動レベルは

「今」に関わり、製品を実際に見たり使ったりしている時の気持ちや経験であるが、内省レベ ルは昔の事を思い出したり将来の事を思い描いたりと、長期にわたる関係や、製品を所有する、

飾る、使う事から得る事ができる満足感に関わっている。例えばブランドもののバッグは内省 的なデザインに魅力を感じるからである。見た目はともかく機能的ではない。購入者は所有す る事を喜びとする。まして海外旅行のおみやげでブランドものを買ったならばなおさらだろう。

旅行の想い出を思い出すツールとなり、一層の愛着がわくことだろう。

2−3 情動の重要性

今まで述べた本能レベル、行動レベル、内省レベルという三つの異なった次元は、どのよう なデザインにも織り合わされている。しかしさらに重要なことはこれらの要素が情動といかに 織り合わされているかという点なのである。

情動とは激しい、動物的な、不合理なものである。そして情動は私たちの考えを動かすもの である。愛、愛着、幸福などは強いポジティブな情動を引き起こす。例えば、私が所有するロ ーバーミニを例に挙げる。乗り心地が悪くてパワーがなくブレーキが利かない。おまけによく 故障する手のかかる車である。しかし私はこの車を手放し、国産の最新式の乗り心地の良い車 に乗り換えようとは思わない。この車の愛らしさや運転するときの楽しさを評価し、欠点は大

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目に見る事にしている。ブレーキの利きの悪さは早めにブレーキをかければカバーできる。ま たたまに故障をしても、その愛らしさに許してしまう。

マニュアルトランスミッションで2シーターの車に乗る人は何を考えて乗っているのだろう か。快適で味気ない車よりも、多少の不便はあるが走る楽しさや操る楽しさに満足しているの だろう。この考え方は人生を楽しくし、ゆとりあるものにする。現代のようなゆとりの無い社 会にこそ、この考え方は必要なのではないか。また企業も情動に訴えかけるようなモノ作りを することで消費者に強いブランドイメージを植え付けることができるのである。

ツールとしての見かけのデザイン

ユーザーインターフェースの良さをアピールするには見かけのデザインが重要である。先に 述べたが経験材は手に取らせ経験させることで消費者はその良さに気づくことができるのであ る。ユーザーインターフェースの面で優れていると述べたアップルのマッキントッシュだが、

1990年代の後半から見かけのデザインに力を入れ始めiMacを世の中に出した。そのカラフル なデザインはパソコンの難しそうというイメージを払拭し、またそのデザインに興味を持った 人はその使いやすさに引き込まれて行った。デザインに興味を持った消費者は触ってみようと 思う。おいしそうに見えるステーキを食べてみたいという心理と同じである。このことからも ツールとしての見た目のデザインは経験材ほど重要であるといえる。

第三章 日本企業の問題点

3−1 なぜ醜い製品が生み出されるのか

この章では本能的デザインについてさらに掘り下げていきたい。ここではあえて「格好わる い」という言葉を使いたい。格好わるいとは醜い、不細工、みすぼらしいものに対する表現と して用いさせていただきたい。

私たちが買い物に行くと様々な製品があふれている。例えば家電の量販店に行くと様々な製 品を様々なメーカーが作り、その中には様々なデザインがある。もちろん格好が良いもの、悪 いもの様々である。全くの個人的な考えだが、なぜ企業はそのような醜いものを生み出してし まうのか。それには2つの理由がある。

1 技術の乏しさ

新しいイノベーションが起こりそれまでとは全く新しい製品が生み出されたとき、デザイン の自由度は低くなる。それは小型化する技術が発達していないからである。例えば携帯電話を

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考えてみたい。1985年に電電公社から発売された携帯電話の原型(ショルダーフォン)は重さ が 3kg もあり、とても携帯できるような代物ではなく、ジャケットのポケットに入るような大 きさではなかった。しかし技術の進歩と共に小型化が進み、小型化によってデザインの自由度 が増し様々なデザインの製品を作る事を可能にした。

2 日本のデザイナー事情

もう一つは日本のデザイナーの問題である。日本にいるデザイナーの数は世界のデザイン大 国と比べても劣りはしない。しかし決定的に違う事がある。それは日本ではインハウスデザイ ナー(特定企業に所属する)が大半を占め、フリーランス(特定企業に属さない)デザイナー は少数なのである。ではインハウスデザイナーの欠点は何か。企業とは常に利益を生み出す事 を求められ、また利益を最大化する事を求められる集団である。そのために企業は徹底的にコ ストを削る。デザイナーに払う給料も企業のコストの内である。つまりインハウスデザイナー は自由度が低い。またデザイナーとはクリエイターである。制約のない自由な発想をするには、

なるべく制約が少ない空間に身を置く方が良い。

またインハウスの場合、一つの製品のデザインに複数のデザイナーが関わる場合がある。複 数ということは話し合いや合意がなされるわけで、デザインは妥協したものになってしまう。

話し合いによってつくられた無難で味気ないデザインになってしまう。

3−2 なぜ格好悪い製品が売れてしまうのか

世の中で「売れ筋」と呼ばれる商品の中には必ずしも良いデザインのものばかりではない。

もちろん価格という要素が関わっている事は確かだが、その他に考えられる要素があるのでは ないか。以下に2点挙げたい。

1 同調行動

シェリフの実験というものがある。これは知覚の自動運動現象(暗い部屋の中で光の点をじ っと見ると、実際は動いていないのに動いて見える)を利用した実験で、まず一人で暗室に入 ってもらい光点の動きの長さを報告してもらう。次に3人一組で入ってもらい同じように動き の長さを報告してもらうのだが、最初は報告される長さはバラバラだが、回数を重ねるにつれ て同じ長さになってくるというものだ。またミルグラムの実験というものもあり、ある人が歩 いている時にふと立ち止まって上を見上げる事をすると、つられて周りの人も何かあるのでは ないかと上を見上げてしまうという結果が出ている。

この心理を巧みに使ったものに、家電量販店の「売れ筋ランキング」というものがある。あ

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まり商品知識が無く何を買えば良いかわからない消費者に対して、自分たちの本当に売りたい ものを「売れ筋」としておすすめすることで他の人も買っているという安心感を与え、消費者 を「これでいいや」という心理にさせ購入させることができる。

2 広告戦略

広告戦略によって企業は自分たちの製品を格好よく見せたがる。例えばトヨタのプリウスは レオナルド・ディカプリオを使い、イメージを良くしている。またエドウィンのデニムはブラ ッド・ピットを起用し、ワイルドでクールなイメージを作り上げている。広告によって認知度 を高めるとともに良いイメージを植え付けることで、ものを「良さそう」に見せることができ る。

世の中で売れているモノが必ずしも良いモノであるとは限らない。消費者はその善し悪しを 自分の目や価値観で判断しなければならない。

第四章 見た目のデザインはビジネスになるのか

見た目のデザインは商品に興味を持たせるツールとなりうるという事は先に述べた。では純 粋に見た目だけでモノが売れるのか。これは今まで述べてきた事から考えて売れないと言える。

ソニーのバイオのケースを考えてみるとわかりやすいだろう。

4−1 ソニー「vaio」のケース

ソニーのパソコンvaioはiMacと同じように見た目のデザインをアピールして消費者の関心 を引きつけた商品だ。Vaio には日本の美意識が表現されていた。限られた箱庭というスペース を如何に美しくするか、というミニマリズムが見事に表現されている。この事から本能的デザ インとしては魅力的なモノである。その見た目の魅力やスタイリッシュな広告によってVaioは 売り上げを伸ばした。しかしその見た目に興味を持って購入した消費者を次に待っているのは

「経験」である。Vaio はこの点が不十分だった。つまり見た目は素晴らしいのに使ってみたら 良くなかったのである。期待していた分その期待とパフォーマンスが見合っていなかった時、

人間は通常より大きな落胆を味わうという。徐々にVaioユーザーは離れて行き、かつてのブラ ンドを失ってしまった。この点がiMacと違う。ソニーはデザインだけでモノを売ろうとした結 果失敗したが、Appleはデザインをツールとして利用し行動的デザインで勝負した結果現在のよ

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うな強いブランドを手に入れた。このことから言える事はいくら見た目を良くしても、その見 た目に見合うような機能や性能が備わっていないと長期的にはモノは売れないということだ。

このことは恋人同士にも言える。見た目だけで選んではいけない。中身を見なければならない ということだ。

4−2 日本のデザインが世界をリードするためには

最後に日本企業が見た目のデザインで世界に勝つためにはどうしたら良いか。現在の日本の デザインは進んではいるが「最上級」ではない。言い方を変えれば「中の上」くらいだ。日本 のデザインはヨーロッパのデザインを模倣してきた歴史がある。現在日本で高級品とされてい るもののデザインはヨーロッパ的デザインの流れをくんでいる。

ヨーロッパはルネッサンスを経験し、産業革命を起こしてきたという歴史を持っている。長 い歴史の中で育まれた美意識を模倣するだけでは日本のデザインはヨーロッパに勝つ事はでき ない。しかし日本人は独自の美意識を持っている。例えば、禅の文化、侘びさびなどである。

私はこれらの美意識をもっとインダストリアルデザインの分野で大切にするべきだと思う。こ れらの考え方は欧米の人たちにはできない発想だからだ。日本的な魅力を製品の見た目に反映 させ、再び日本製品が世界を驚かせる事を私は期待したい。

参考文献

・ 川村渇真『Hyper Card User Interface Guideline』ASCII

・ 『Human Interface Guidelines: The Apple Desktop Interface』新紀元社

・ 栄久庵憲司『インダストリアルデザインが面白い』KAWADE夢新書

・ ドナルド・A・ノーマン『エモーショナル・デザイン』新曜社

・ 坂下清・鶴田剛司・竹末俊昭・佐藤典司『デザインマネジメント』武蔵野美術大学出版局

・ 日経ビジネス 2004.12.13 号 P.174-178

・ 日経デザイン 2005.4、6月号

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