放送大学平成 26 年度 (2014 年度) 第 2 学期 面接授業 ( 山口学習センター ( 35A ) ) 専門科目:自然と環境 科目コード 2404214 K クラス
素粒子物理学と宇宙論
第 3 回 素粒子物理における対称性
白石 清
(山口大学・教授)
対称性と変換群・保存則 連続群・SU(N)
局所対称性・ゲージ理論 ヤン・ミルズ理論
大統一理論 C,P,T
対称性とは?
なにか「変換」を施しても変わらない,と言う性質
「雪の結晶は,60°,120°,180°,240°,30 0°,360°(=0°) 回転しても同じように見える。」
という不変性=対称性
回転操作は
群
をなす例 1:60°回転+120°回転=180°回転 例 2:240°回転+300°回転=180°回転 例 3:120°回転+360°回転=120°回転 例 4:120°回転+240°回転=0°回転
操作が閉じている,単位元の存在,逆元の存在
円の対称性
角度θ回転させても不変 回転操作=連続群を成す。
(Abelian,可換群)
球の対称性
x,y,z 各軸まわりの回転 (Non-Abelian,非可換群)
連続群に関する対称性
時間座標の平行移動→エネルギー保存 空間座標の平行移動→運動量保存 空間座標回転不変性→角運動量保存
対称性と保存則
ネーターの定理 (エミー・ネーター)
位相変換 ψ→ e ψ
の下でシュレディンガー方程式
Eψ=−
/h 2
2m ∇
2 ψ+V(x)ψ
は不変 (共変)シュレディンガー方程式より
∇・j=0,
j
= /h
2mi(
ψ *
∇ψ−ψ∇ψ *
) 電流は湧き出しも吸い込みもない↓
電荷保存
局所位相変換 ψ→ e iθ(x) ψ
の下で先ほどのシュレディンガー方程式は不変 (共変) ではない ベクトルポテンシャル
A
を導入し,新たに
Eψ=−
/h 2
2m (∇−iqA)
2 ψ+V(x)ψ
,局所位相変換と共に
A→A+q −1 ∇θ
と変換するものとする。このとき変換に対し方程式は不変 (共変) となる
ゲージ場 (A )
=電磁気力を媒介する場→量子化→光子U(1) 局所対称性 (局所位相変換に対する共変性)
=U(1) ゲージ対称性 を持つ場の理論である。
(くりこみ理論においてはゲージ対称性は重要な役割を演じる)
一般に,ゲージ対称性を持つ理論を
ゲージ理論
とよぶ。
保存則
素粒子物理で最重要
さまざまな'電荷'保存
バリオン数保存,レプトン数保存 パリティ保存
⁝
保存,非保存をもとに対称性を推測し 理論を構築する→予言,検証
ハドロン
[バリオン (=核子の仲間) および中間子 (メソン) の総称]
20世紀半ば,宇宙線の中に十数種発見,もはや素粒子とは言えない?
例えば,メソン (の一部を) を並べてみると
K 0 K +
π + π - π 0
K 0 K -
η η 0
(スピン0)対称性が見えてくる。
(電荷,質量差を無視すれば,強い力の下で同等,
近似的対称性)
バリオン
スピン 1/2 スピン 3/2
クォーク
バリオン (陽子,中性子など)
陽子や中性子,その仲間(バリオン)はクォーク3つで構成されている
中間子 (メソン) は,クォーク・反クォークの束縛状態
前ページの対称性は,u,d,s を取り替える変換に対する対称性
クォークモデル ゲルマン 1964 年 Nobel Prize 1969 実験的検証 フリードマン,ケンドール,テイラー 1972 年
Nobel Prize 1990
クォーク
名前 記号 電荷 質量(単位:MeV)
up u +2/3 1.5〜3.0 down d -1/3 3〜7
charm c +2/3 1160〜1340 strange s -1/3 70〜120
top t +2/3 170900〜177500 bottom b -1/3 4130〜4270
バリオンはクォーク3つで構成されている。
メソンはクォークと反クォークで構成されている。
陽子 中性子
u u
d
u
d d
π
+
中間子u d
クォーク (及び反クォーク) からできている
バリオン,メソンを合わせて,ハドロンとよぶ。
クォークの組み替え
(cf. 化学は原子の組み替え)
p → n +π +
d
d u
u u
d d u
n
p
π +
color (色)
クォークはフェルミオン,排他律に従う
Δ
++
粒子 ? 「新たな自由度を導入」u u u
u u u
クォークは3つの
色
の自由度を持つ(反クォークは3つの「反」色の自由度を持つ)
色だけ取り替える操作は SU(3) 群を成す。
ハドロンはこの操作で不変な状態
局所対称性に「拡張」→
QCD (量子色力学)
SU(3) ゲージ理論
クォーク間に働く力を媒介する粒子=グルーオン
電磁相互作用 電荷 1種類
場の量子=光子 1 種類,光子は電荷を持たない (Abelian gauge theory)
Non-Abelian gauge theory・・・弱い相互作用,強い相互作用を記述 (ヤン・ミルズ理論)
「電荷」 N種類
多数のゲージ粒子 (N
2
-1),ゲージ粒子は「電荷」を持つ トフーフト,フェルトマン 1971 年Non-Abelian gauge theory が くりこみ可能であることを証明 Nobel Prize1999
強い相互作用の理論 (QCD)
N=3 3つの色荷(カラー)
強い相互作用の理論における漸近自由性
グロス,ポリツァー,ウィルチェク Nobel Prize 2004 高エネルギーで力が弱くなる
くりこみ群方程式による解析
Non-Abelian gauge theory では,ゲージ粒子同士が相互作用する
このため,くりこみ群方程式に,新しい寄与
短距離で力が弱くなる=長距離で力が強くなる
反遮蔽
メソンを引き伸ばすと・・・
→ →
エネルギーが質量に転換,クォークは単独で取り出せない (「QCD真空」の性質により,力線が絞られている)
クォークの閉じこめ
相互作用が大きい場合は摂動展開が使えない
格子QCD
(格子ゲージ理論 Lattice Gauge Theory)
スパコンなどで
数値計算→ハドロンの質量
弱い相互作用の理論
中性子→陽子+電子+反電子ニュートリノ
弱い相互作用とニュートリノ
β崩壊
電子
ニュートリノ
中性子
中性子は陽子に転換
n → p +e - +ν e
弱い相互作用とニュートリノ
β崩壊
d
u e
-
ν
e
d → u + W
−, W
−→ e - +ν e
弱い相互作用の理論
N=2
電子と電子ニュートリノは対を成す (2重項)
電子を 0
1 ,電子ニュートリノを 1 0 で表せば,行列による変換
0 1 1 0
0
1 = 1 0
は,電子を電子ニュートリノに換える変換
数学的形式は,スピン1/2の2状態と同等
ニュートリノ関連の研究
パウリ 1930 年(排他律 Nobel Prize 1945)
エネルギー保存の考察から,未知の電気的に中性な粒子を導入 フェルミ 1932 年(中性子核反応 Nobel Prize 1938)
β崩壊(弱い相互作用)の理論(ニュートリノの命名)
ライネス,コーワン 1953 年 Nobel Prize 1995 原子炉からのニュートリノの検出
レーダーマン,シュワルツ,シュタインバーガー 1962 年 Nobel Prize 1988 ミューニュートリノの発見
狭い意味の力・・・運動量の変化をもたらす 運動状態の変化をもたらす
広い意味の力・・・ 状態の変化をもたらす 粒子の種類の変化をも含む
(たいてい運動量も変化するが・・・)
自然界では4つの力が働いている
強い力はクォーク以外の物質粒子 (レプトン) には働かない
×
重力は素粒子の世界では無視できるのでおいておいて
強い力,弱い力,電磁気力の対称性は SU(3)×SU(2)×U(1) ゲージ対称性
(質量差を無視すれば,力の働き方が粒子の分類になっていることに注意)
なぜ SU(3)×SU(2)×U(1)?
SU(3)×SU(2)×U(1) を含む大きな対称性を 考えられないか?
大統一理論
大きな対称性が破れて
SU(3)×SU(2)×U(1) になった。
クォークとレプトンに区別が付く。
くりこみ群方程式による
3つの力の強さのエネルギー変化
くりこみ群方程式による
3つの力の強さのエネルギー変化
?
SU(2) U(1)
SU(3)
エネルギー 力
の 強 さ の 逆 数
力の統一
Kamioka Nucleon-Decay Experiment
→Kamioka Neutrino Detection Experiment
陽子崩壊
(クォークがレプトンに転換する)
⇧
大統一理論の予言
の統一理論
(陽子崩壊はまだ見つかっていません)
大統一理論
強い相互作用の対称性 弱い相互作用の対称性
大統一理論
大統一理論の対称性
(いかにして対称性は破れる?・・・ヒッグス機構)
離散的対称性
P : 空間反転 C : 荷電共役 (粒子と反粒子の入れ替え) T : 時間反転
β崩壊などでは 空間反転
荷電共役
個々については,対称性が破れている CPT 定理:場の量子論は CPT 不変
空間反転
(x,y,z)→(−x,−y,−z)
スピンは空間反転で不変 運動量は向きが反転
(注:鏡は3枚)
6 0 Co のβ崩壊
ν
ee
60
Co
パリティ対称性の破れ←弱い力の特徴
リー,ヤン 1956 年 Nobel Prize 1957, 実験: ウー
CP は保存
小林-益川理論
Nobel Prize 2008
小林 誠 益川敏英
(1944-) (1940-)
クォークの3世代は混ざっている
混ざり具合を与える・・・ 小林-益川行列 3世代以上では
CP対称性を破る(純虚数の)係数
⇩
⁝
物質と反物質の非対称性
⁝
われわれの存在!
類推 (林青司氏による)
2世代 3世代
回転すれば元通り 回転しても元に戻らない
K中間子と反K中間子の崩壊の違い 1964 年 クローニン,フィッチ Nobel Prize 1980
小林益川理論の正しさは「B-factory」によって実験的に証明された。
B中間子と反B中間子の崩壊の違い 2002 年
Belle (KEKB) KEK, BaBar (PEP-II) SLAC