6 . 集合の直積・写像
科目: 基礎数学A及び演習(演習)(2‐1組)
担当: 相木
このプリントでは「集合の直積」と「写像」という2つの概念を解説する.
集合の直積
2つの集合A, Bが与えられたとき,その直積を考えることが出来る.
直積集合
A, Bを集合とする.このとき,
{(a, b) | a∈A, b∈B}
で定まる集合をAとBの直積集合といい,
A×B
と表す.
直積集合A×BとはAに属す要素とBに属す要素の「組」を全て集めた集合である.
A×Bに属す要素は(a, b)のように表し,aとbの順番にも注意する必要がある.つ まり,
(a, b)∈A×B
と記述した際にはa ∈Aであり,b∈Bであることを意味する.
線形代数学の授業ですでに扱っていると思うが,2つの実数の組を全て集めた集合R2も RとRの直積集合R×Rである.流儀によってはR2とR×Rの2つの表記を区別して 使うときもあるが,集合としての違いはない.
注意: 通常,一般の集合Aに対してAとAの直積集合A×AをA2とは書かないので注 意が必要である.
写像
2つの集合A, Bが与えられたとき,何らかの規則にしたがってAの要素とBの要素 を関連付けて議論することがしばしばある.
写像
A, Bを集合とする.全てのAの要素に対して,それにに応じたBの要素をただ一つ 対応させるような対応を写像という.Aの要素にBの要素を対応させるような写像を AからBへの写像と呼ぶ.特に,f がAからBへの写像であることを
f :A→B
と表す.このとき,Aを写像fの定義域,Bを写像fの値域という.また,fによっ てx∈Aがy∈Bに対応していることを
f(x) =y
などと書く.このことを「fはxをyへ写す」と言ったりする.
微積の授業で扱う関数とは値域が実数であるような写像である.
関数
Aを集合,B ⊂ Rとする.写像f : A →Bのことを特に関数と呼ぶ.つまり,値域 が実数(またはその部分集合)であるような写像を関数と呼ぶのである.
ここで,fが関数であると言ったときには,定義域は実数である必要はないことに注意す る.定義上,関数は写像であるが,写像は関数であるとは限らない.
写像には付随する様々な概念があり,今後重要な役割を果たす.
像
A, Bを集合とし,A1 ⊂Aとする.写像f :A→Bに対して f(A1) ={f(a) | a∈A1}
によって定まる集合f(A1)をA1のf による像という.定義からf(A1)⊂Bである.
上の定義で集合f(A1)が定まっていることは分かるが,「b∈Bに対してb ∈f(A1)である ことを示す」などの場合にどのように確かめればよいかが定義からは必ずしも明らかでは ない.
そこで,適当なb ∈ Bを与えられたときに,b ∈ f(A1)であるとはどういうことか考 えてみよう.A1に属す要素を全てfで写すことによって得られるBの要素を集めた集合
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がf(A1)である.したがって,b ∈f(A1)となるためには,あるA1の要素a に対して,b がaをfで写した先になっていればよいことになる.これは存在命題にほかならない.
像に属す
A, Bを集合,A1 ⊂A,f :A→Bを写像とする.このとき,b∈Bに対して b∈f(A1) ≡ ∃a∈A1, f(a) =b
である.
像の反対とも言うべき概念が逆像である.
逆像
A, Bを集合とし,B1 ⊂Bとする.写像f :A→Bに対して f−1(B1) ={a ∈A |f(a)∈B1}
で定まる集合f−1(B1)をfによるB1の逆像という.定義からf−1(B1)⊂Aである.
像のときと違い,a ∈ Aに対してa ∈ f−1(B1)であるということが,どういう意味かは f−1(B1)の定義から明らかであろう.
逆像に属す
A, Bを集合,B1 ⊂B,f :A→Bを写像とする.このとき,a∈Aに対して a∈f−1(B1) ≡ f(a)∈B1
である.
像・逆像に対する重要な注意
像,および逆像は定義域および値域の 部分集合 に対して定義されるものであること に注意する必要がある.どういうことかというと,A, Bを集合,f :A→Bを写像と し,a ∈A,b∈Bであるとする.写像fがaをbに写すとき
f(a) = b (1)
と書いた.式(1)は,Bに属す 要素 としてbとf(a)が一致していることを意味する.
一方で,{a}という1点からなる集合はAの部分集合(つまり{a} ⊂ A)なので,f による{a}の像を考えることができ,f(a) =bのときには
f({a}) = {b} (2)
となる.式(2)は,Bの 部分集合 として{b}とf({a})が一致していることを意味す る.したがって,見た目は似ているが式(1)と(2)とでは,意味が全く違うことに注 意する必要がある.逆像に対しても同様であり,
(i) 像とは,写像の定義域の部分集合に対して定まるものである (ii) 逆像とは,写像の値域の部分集合に対して定まるものである ということを肝に銘じる必要がある.
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写像のグラフ
高校までで関数のグラフなどを描いたことがあると思うが,写像に対してもその「グ ラフ」を定義することができる.そのために,関数のグラフを図としてではなく,集合の 言葉を使って表すとどうなるかを考えてみよう.
実数上で定義された関数f(x) = 2x+ 1のグラフを描けと言われたら
(a, f(a) )
a f(a)
上のような図を描くであろう.しかし,このような「図」が「関数のグラフ」の本質なの であろうか?少し考えてみよう.
上の図においては横軸と縦軸は共に実数Rを見立てたものであり,考えている定義域
(今の場合はR)の元aを1つ取るごとに座標平面上の点(a, f(a))が決まり,そこに点を 打つ.この操作を定義域全体に対して繰り返し,得られた座標平面上の点の集まり(今の 場合は直線)がf のグラフと呼ばれるものである.
つまり,関数のグラフを確定させるためには,座標平面上の点を打つ場所(a, f(a))が 全て決まっていればよいのであり,それを図にして表すことが本質ではない.また,座標 平面の点を定めるというのは,直積集合R×Rの点を定めることに他ならない.
以上をまとめると,関数f :R→Rのグラフの本質はR×Rの部分集合 {(a, f(a))∈R×R | a∈R}
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であると言える.実際,集合(3)に属す要素が全てわかれば,それをもとに座標平面に図 として表すこともできる.
このように「グラフ」というものを見れば,関数だけでなく一般の写像に対してもグ ラフを定義することができる.
写像のグラフ
A, Bを集合,f :A →Bを写像とする.以下で与えられるA×Bの部分集合をfの グラフといい,Γ(f)などと表す.
{(a, f(a))∈A×B | a∈A}
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予約制問題
(6-1) A, Bを集合とする.このとき,以下の2つが同値であることを示せ.
(i) A×B =∅
(ii) (A=∅)∨(B =∅)
(6-2) A, B, Cを集合とする.このとき以下が成り立つことを示せ.
(A∪B)×C = (A×C)∪(B×C)
(6-3) 集合X, Y をそれぞれX ={a, b, c},Y ={1,2,3,4} とする.このとき,以下で与 えられる対応fがXからY への写像であるかを理由とともに答えよ.
(i) f(a) = 1, f(b) = 2, f(c) = 4 (ii) f(a) = 1, f(b) = {2,3}, f(c) = 4 (iii) f(a) = 2, f(c) = 3
(6-4) A, Bを集合,P ⊂A, Q⊂A,f :A →Bを写像とする.以下を示せ.
(i) P ⊂Q ⇒ f(P)⊂f(Q)
(ii) f(P ∩Q)⊂f(P)∩f(Q) (一般に等号は成り立たない)
(6-5) A, Bを集合,X ⊂B, Y ⊂B,f :A→Bを写像とする.以下を示せ.
(i) X ⊂Y ⇒ f−1(X)⊂f−1(Y) (ii) f−1(X∩Y) = f−1(X)∩f−1(Y)
早いもの勝ち制問題
(6-6) A, B, C, Dを集合とする.以下の命題(i)と(ii)に対して(i)⇒(ii)が成り立つこと を示せ.
(i) (A⊂C)∧(B ⊂D) (ii) A×B ⊂C×D
(6-7) 問(6-6)において,一般には(ii) ⇒ (i)は成り立たないことを示せ.
(6-8) 集合A, BをそれぞれX ={a, b, c},Y ={{1,2},{3},{4,5,6},{7,8}} とする.こ のとき,以下で与えられる対応fがXからY への写像であるかを理由とともに答 えよ.
(i) f(a) = {1,2}, f(b) = 3, f(c) = {7,8} (ii) f(a) =∅, f(b) ={3}, f(c) ={4,5,6} (iii) f(a) = {1,2}, f(b) ={3}, f(c) = {7,8}
(6-9) A, Bを集合,X ⊂B, Y ⊂B,f :A→Bを写像とする.以下を示せ.
(i) f−1(X∪Y) =f−1(X)∪f−1(Y) (ii) f−1(B \X) =A\f−1(X)
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