幾何学基礎1 2012-05-08(講義中に微修正) 1
* 以下,ハンドアウト(講義のレジュメ)は教科書[千葉]の註解である.
* 講義では, [千葉]の該当部分を(ざっとでも)読んできたという前提で解説する.
* 自分の理解と講義の解説のギャップを意識して復習し,幾何する心を醸成してほしい.
1 ベクトルの内積と外積
※ ベクトルは太字xで表すが,手書きではスカラーxと区別できればよい.
※[千葉]では零ベクトル0をスカラー0のように書いているので要注意.
※ ベクトルを縦に書くのは行列による左からの変換(積)を考えるため.
1.1 ベクトルの内積
Q1. ベクトルとは大きさと向きをもつ量だったが, 有向線分との違いは?
ヒント. 数直線R上で, 1+3の+3も2+3の+3も一緒とみなすか否か.
Q2. 位置ベクトルは有向線分であってベクトルではない. なぜか?
ヒント. 数直線R上で,点3を0+3とみなしたもので, +3の自然な代表元.
※ ベクトルとは抽象的には和とスカラー倍が定義された空間の元[発展i.
※ 式(1.1)はEuclid内積の定義式; 別の内積の定義もある[発展i.
※ ベクトルaの大きさ|a|は, kakと書いてノルムと呼ぶことも多い.
Q3. なぜ内積を定義するのか? そもそも内積の‘内’って何?
ヒント. [発展ip.19前半を見よ;集合S上の‘積’とは演算S⇥S !Sだったはずだが.
★定理1.1は内積の代数的性質;抽象ベクトル空間での内積の定義[発展i. (i)は可換性;実数の積の可換性による.
(ii)は(双)線型性; 行列の積の(双)線型性による.
(iii)は正値性; 実数の自乗の和の性質による.
★定理1.2は内積にまつわる幾何的性質(意味).
(i)は重要な正射影的意味(p.12); (第2)余弦定理による.
(ii)は実はCauchy [1821]による不等式; [千葉]の証明は基本的技巧. (iii)は三角形の成立条件; (ii)による; (ii), (iii)は解析的考察でよく使う.
※ 式(1.3)の内積0直交条件は零ベクトル0に対しても使うことが多い.
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1.2 ベクトルの外積
※外積の定義式(1.3)は⇣a1
a2
a3
⌘⇥⇣b1
b2
b3
⌘= aa23 bb23 , aa31 bb31 , aa12 bb12 t.
Q4. なぜ外積を定義するのか? そもそも外積の‘外’って何?
ヒント. 定理1.2(i)と定理1.4(iv)を比べよ;積S⇥S!?の値? がSの‘外’.
★定理1.3は外積の代数的性質;抽象ベクトル空間での外積の定義[発展i. (i)は交代性(反対称性, 歪対称性); 行列式の交代性による.
(ii)は(双)線型性; 行列式の(行/列)線型性による.
(iii)はJacobi恒等式と呼ばれる;定理1.4 (i)から導くと楽.
Q5. Jacobi恒等式の作用素的解釈および微分(Leibniz則)的解釈とは?
ヒント. (a⇥b)⇥c=a⇥(b⇥c) b⇥(a⇥c);a⇥(b⇥c) = (a⇥b)⇥c+b⇥(a⇥c).
★定理1.4は外積の幾何的性質(意味); 行列式の展開と内積の定義による. (i) ⇥(b⇥c)は, b⇥c平面 成分を 90 回転し|b⇥c|倍する右作用. (ii) (a⇥b)⇥は, a⇥b平面 成分を+90 回転し|a⇥b|倍する左作用. (iii)は,平行六面体/a,b,c/の 符号付き体積(問3).
(iv) a⇥bは,平行四辺形/a,b/の面積の大きさでa⇥b平面 の向き.
☆a⇥b平面とは,a,bが張る平面にa,b,a⇥bが右手系をなす‘向き’を入れた造語.
※ 式(1.6)の外積0平行条件は零ベクトル0に対しても使うことがある.
※問1の解答(p.177)は高校生的;行列式の展開を使うと見通しがよい:
a⇥(b⇥c) =⇣ 0 b1 c1
a3 b2 c2
a2 b3 c3
, a03 bb12 cc12
a1 b3 c3
, aa12 bb12 cc12
0 b3 c3
⌘t
=⇣⇣⇣ 0
a2
a3
⌘,⇣0
c2
c3
⌘⌘b1
⇣⇣ 0
a2
a3
⌘,⇣0
b2
b3
⌘⌘c1, . . .⌘t
=⇣⇣⇣a1
a2
a3
⌘,⇣c1
c2
c3
⌘⌘b1
⇣⇣a1
a2
a3
⌘,⇣b1
b2
b3
⌘⌘c1, . . .⌘t
= (a,c)b (a,b)c.
Q6. 上の計算を確かめよ.
※問2の解答の‘もっとうまい方法’ (p.178)は修得すべき考え方.
※問3の解答(p.178)はできないと始まらない初等的説明.
※問4のモニターの解答(p.179)のように幾何的状況をよく理解しよう.
幾何学基礎1 2012-05-08(2012-05-22三訂) 3
1.3 ベクトル値関数
※ベクトル値関数a(t)は, 例えば, 時刻tにおける動点の位置や速度.
※a(t)が動点の位置[速度]なら, 微分a0(t)は動点の速度[加速度].
※a(t)が動点の速度[加速度]なら,積分R
a(t)dtは動点の位置[速度].
Q7. 抽象ベクトル空間に値をもつ関数の微分はどう定義すればよいか?
ヒント. pp.180–181を参照せよ.
★定理1.5は内積と外積のLeibniz則; 各成分での積の微分公式による.
★定理1.6は内積と外積の微分における有用な公式; 証明はやさしい.
Q8. 定理1.6の公式(i), (ii), (iii)を幾何的に解釈せよ.
ヒント. a,a0,a00を動点の位置,速度, 加速度と考えよ; (i)は[例題2]も参照せよ.
略解例. (i)面積速度 12a⇥a0 の微分(12a⇥a0)0は面積加速度 12a⇥a00. (ii)単位円運動 a
|a|の微分(|aa|)0は正規化速度 a0
|a|からの単位円逸脱|a|0
|a| a
|a|補正. (iii)運動aの動径成分|a|の微分|a|0は速度a0の動径成分(|aa|,a0).
※[例題1]は原点を中心とする円運動で位置と速度が直交すること.
※[例題2]は質点の角運動方程式.
※問5で示す定理1.5の公式(i)は抽象的な内積でも成り立つ.
※問6は高次元への一般化にも通用する方法(pp.181–182)で解くこと.
Q9. Cnの標準Hermite内積をR2nとしてのEuclid内積と比べよ.
ヒント. n= 1のとき,z=a+bi, w=c+diに対し, (z, w)C:=zwを計算してみよ. 略解例. n= 1とする. (z, w)C=zw= (a bi)(c+di) = (ac+bd) + (ad bc)i より, Re (z, w)C= (z, w)R2 であり, Im (z, w)CはC⇥R=R3での外積(z,0)⇥(w,0)の第3 成分とみなせる. したがって,標準Hermite内積はEuclid内積と比べて虚部の分だけ外積 的な情報量が多い. 見方を変えて, z=|z|ei✓z,w =|w|ei✓w と書くと, Eulerの公式より, (z, w)C=|z||w|ei(✓w ✓z) =|z||w|cos(✓w ✓z) +i|z||w|sin(✓w ✓z)であるから, 標準 Hermite内積がcosもsinも備えzからwへの回転を捉えているのに対し, Euclid内積は zからwへの回転のcos成分のみを正射影的に捉えていることがわかる.