5 . K - ベクトル空間
科目: 線形代数学IB及び演習(1‐1組)
担当: 相木
このプリント内では有理数体Q,実数体R,複素数体Cをスカラーとするような「ベ クトル空間」というものを定義する.スカラーが3つのうちどれでも定義は同じなので,
これらをKと表すことにする.つまり,Kを含むような文章においてはQ,R,Cのうち 1つ選び,文内に現れるKは全てその選んだ1つであるとして読めばよい.
これまで,Rnという数ベクトル空間を扱ってきたが,数ベクトル空間の最も本質的 な性質は,x,y∈Rnとスカラーcに対して
和 x+y と スカラー倍 cx
が定義されており,x+yとcxは共に新たなRnの元を定めていることである.これを抽 象化し,一般的なベクトル空間を導入することが目的である.
そこでまず一般に,集合V に対して「和が定義されている」,「スカラー倍が定義され ている」,とはどういうことか定義する.
集合における和
V を集合とする.集合V において和が定義されているとは,V ×V →V なる写像が 定義されていることである.
この写像のことを「和」とよび,u,v,w∈V に対して(u,v)∈V ×V がこの写像に よってw ∈V に写されるとき,つまり
(u,v)7→w
のとき,このことを
u+v =w
と書く.また,写った先を明示せず,「(u,v)の像」を表すために u+v
とも書く.これは,写像f によるxの像をf(x)と記述したことに対応する.
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集合におけるスカラー倍
V を集合とする.集合V においてKをスカラーとするスカラー倍が定義されている とは,K×V →V なる写像が定義されていることである.
この写像を「スカラー倍」とよび,c∈Kとu,w ∈V に対して(c,u)∈ K×V がこ の写像によってw ∈V に写されるとき,つまり
(c,u)7→w
のとき,このことを
cu=w
と書く.また,写った先を明示せず,「(c,u)の像」を表すために cu
とも書く.
もう少し平たく言うと,V において和とスカラー倍が定義されているということは,∀c∈K と∀u,v ∈V に対してu+vとcu がV の元として定まっている,ということである.
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和とスカラー倍が定義された集合V がさらに特定の条件を満たすとき,ベクトル空間 であるという.
K-ベクトル空間
V を集合とし,V において和とKをスカラーとするスカラー倍が定義されていると する.以下が成り立つとき,V はK-ベクトル空間(スカラーが何であるか明かなと きは単にベクトル空間)であるという.
(i) (和の結合法則) ∀u,v,w ∈V, u+ (v+w) = (u+v) +w (ii) (和の可換性) ∀u,v ∈V, u+v =v+u
(iii) (0の存在) ∃0∈V, ∀u ∈V, u+0=0+u=u
この0を零ベクトルとよぶ
(iv) (逆ベクトルの存在) ∀u∈V, ∃u′ ∈V, u+u′ =u′+u=0
このu′を−uと書き,uの逆ベクトルとよぶ (v) (1によるスカラー倍) ∀u ∈V, 1u=u
(vi) (スカラー倍の結合法則) ∀u∈V, ∀α, β ∈K, α(βu) = (αβ)u
(vii) (スカラー倍の分配法則) ∀u,v ∈V, ∀α, β ∈Kに対して α(u+v) =αu+αv かつ (α+β)u=αu+βu
また,V がK-ベクトル空間であるとき,V の要素のことをベクトルとよぶ.
例えば,スカラーがCであるときは,C-ベクトル空間,などという.この語法を用いる と,「RnはR-ベクトル空間である」と言える.また,RnはQ-ベクトル空間でもあるが,
C-ベクトル空間ではない(演習問題).
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予約制問題
(5-1) RnはQ-ベクトル空間であることを示せ.
(5-2) 実m×n行列全体の集合Mm×n(R)はR-ベクトル空間であることを示せ.
(5-3) K-ベクトル空間V においてベクトル空間の定義(iii)を満たすベクトルは唯一つで あることを示せ.
(5-4) V をK-ベクトル空間とする.∀u ∈V に対してベクトル空間の定義(iv)を満たす 逆ベクトルu′は唯一つであることを示せ.
早いもの勝ち制問題
(5-5) RnはC-ベクトル空間ではないことを示せ.
(5-6) 区間Iで定義された実数値連続関数全体の集合C(I)においてf, g∈C(I)とc∈R に対して
(f+g)(x) =f(x) +g(x) (cf)(x) = cf(x)
によって和とスカラー倍を定義すると,C(I)はR-ベクトル空間でることを示せ.
(5-7) V をK-ベクトル空間とする.∀u ∈V に対して0u=0を示せ.
(5-8) V をK-ベクトル空間とする.∀α ∈Kに対してα0=0を示せ.
(5-9) V をK-ベクトル空間とする.∀u ∈V に対して
−u= (−1)u
が成り立つことを示せ.(注意:−uはベクトル空間の定義(iv)から定まるV の要 素であり,(−1)uは−1∈Kとuの積である)なお,(5-4)の結果は認めてよい.
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