Euclid 空間の連結性についての補足
幾何学 AII/ 幾何学 I ( 担当 : 新國 )
2013年10月30日(水)
以下で, 講義における§ 6.3で時間の都合上述べなかった, Euclid空間の連結性 に関する次の定理の証明を述べる.
定理6.3.1. 標準的な位相による1次元Euclid空間(R,O(R))は連結である.
定理6.3.1を示すためには, 実数の連続性についての知識を必要とするが, 本稿で
はそれを既知として話を進める. 実数の連続性については, 例えば「連続と極限」
(2年後期, DA104)でも述べられたことと思う.
実数全体の集合Rの部分集合Aにおいて, 任意のa∈ Aに対しa ≤ a′が成り立 つようなa′ ∈RをAの上界といい, 一方, 任意のa∈ Aに対しa′′ ≤ aが成り立つ ようなa′′ ∈RをAの下界という. Aの上界が少なくとも1つ存在するとき, Aは 上に有界であるといい, 一方, Aの下界が少なくとも1つ存在するとき, Aは下に 有界であるという. 上にも下にも有界であるようなRの部分集合Aは単に有界で あるといわれる. これはAがある閉区間に含まれることと同じである. このとき, 次の定理が成り立つ.1
定理. (実数の連続性, Weierstrassの定理)Rの空でない上に有界な部分集合 Aに対し, 必ずAの最小の上界が存在する. また, Rの空でない下に有界な部 分集合Aに対し,必ずAの最大の下界が存在する.
上の定理における“最小の上界”をAの上限といってsupAで表し, 一方, “最大の 下界”をAの下限といってinfAで表す. 即ち,
supA= min{a′ ∈R | 任意のa ∈Aに対しa≤a′}, infA= max{a′′∈R | 任意のa∈Aに対しa′′≤a}
である. 例えばRの開区間(−1,1)をAとおけば, A内における最大及び最小の元 は定まらないが, Aは有界で, supA= 1, infA =−1である.
1解析学の適当な教科書には必ず書いてある(と思うよ).
1
更にいま, 次のことに注意しておく. 一般に位相空間(X,O)が連結でないとする と, (X,O)のある閉集合U1, U2が存在して,
U1∪U2 =X, U1∩U2 =∅, U1 ̸=∅, U2 ̸=∅ (i) となる. 即ち, 連結でない位相空間は, 互いに交わらない2つの空でない閉集合に も分割される. 実際, (X,O)が連結でなければ,ある開集合O1, O2 ∈ Oが存在して, O1∪O2 =X, O1∩O2 =∅, O1 ̸=∅, O2 ̸=∅ (ii) が成り立つ. このとき
U1 =Oc1, U2 =Oc2
とおけば, (ii)により, これらは(X,O)の空でない閉集合で, U1 ∪U2 =Oc1∪Oc2 = (O1∩O2)c =∅c=X, U1 ∩U2 =Oc1∩Oc2 = (O1∪O2)c =Xc=∅ となる.2 以上の準備のもとで, 定理6.3.1の証明に入ろう.
(定理6.3.1の証明) 背理法で示す. 即ち, (R,O(R))が連結でないと仮定する. す ると, 先程述べたように, (R,O(R))のある閉集合U1, U2が存在して,
U1∪U2 =R, (iii)
U1∩U2 =∅, (iv)
U1 ̸=∅, U2 ̸=∅ (v)
となる. (v)より, あるx1 ∈ U1, x2 ∈U2が存在して, (iv)からx1 ̸=x2である. そ こで特にx1 < x2と仮定しても一般性を失わない. いま,
V =U1∩(−∞, x2)
とおくと, x1 ∈U1かつx1 ∈(−∞, x2)であるから, x1 ∈V, 即ちV ̸=∅である. 更 にx2はBの上界であるから,V は上に有界である. 従ってWeierstrassの定理によ り,V の上限cが存在する. cはV の最小の上界であるから,
c≤x2 (vi)
である. ここで上限cに関して, 任意のε >0に対し, あるx′1 ∈V が存在して,
c−ε < x′1 ≤c (vii)
2逆に, (X,O)のある閉集合U1, U2が存在して(i)が成り立つならば, (X,O)は連結でないことも同様に示される. 詳 細は演習問題とする.
2
が成り立つ(実際, もしそのようなx′1 ∈ V が存在しないなら, c−εはV の上界と なり, cがV の最小の上界であることに反する). x′1 ∈U1でもあるから, (vii)より
(c−ε, c+ε)∩U1 ̸=∅ (viii)
となる. このとき, cの(R,O(R))における任意の開近傍Oに対し, O∩U1 ̸=∅で あることが以下のようにしてわかる: Oが(R,O(R))の開集合であることと,Rの 開区間全体の集合が(R,O(R))の基底であること(§2.4 例4でn = 1の場合)から,
O = ∪
λ∈Λ
(aλ, bλ) (ix)
とかけて, c∈Oより,あるλ0 ∈Λが存在してc∈(aλ0, bλ0)となる. このとき ε0 = min{bλ0 −c, c−aλ0}
とおけば,
(aλ0, bλ0)⊃(c−ε0, c+ε0) (x) となり, このε0について(viii)から,
(c−ε0, c+ε0)∩U1 ̸=∅ (xi) となる. 即ち(x)と(xi)を合わせて
(aλ0, bλ0)∩U1 ̸=∅
が得られるので, (ix)よりO∩U1 ̸=∅である. 従って10月9日(水)配付の「位相 空間の部分集合の触点についての補足」における補題2.2.9から, c ∈ U¯1となる.
ここでU1は(R,O(R))の閉集合であったから, ¯U1 =U1である. 故に
c∈U1 (xii)
となり, (iv), (xii)及びx2 ∈U2から, c̸=x2である. 従って(vi)と合わせてc < x2 となる. 一方, c < x≤x2なるxは必ずU2に属する(実際,もしそのようなxがU2 に属さないとすると, (iii), (iv)からx ∈ U1となり, 故にx ∈ Bかつc < xとなっ て,cがBの上界であることに反する). 従って任意のε >0に対し
(c−ε, c+ε)∩U2 ̸=∅
となり, これよりU1 の場合と全く同様にc ∈ U¯2 であることが示される. U2 も (R,O(R))の閉集合であったから, ¯U2 =U2である. 故に
c∈U2 (xiii)
となる. 従って(xii), (xiii)からc∈U1∩U2,即ちU1∩U2 ̸=∅となるが, これは(iv)
と矛盾する.
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