注意 ex を exp(x) と記すこともある。特に x のところに複雑な式が入る場合はそ うする。
定理 n 階微分方程式を満たす関数が,n 個の(独立な)任意定数を含んでいれば,
それは一般解である。
微分方程式の解き方(一般解の求め方)
1) 一般解を教えてもらう 微分方程式を解くことは工学部の大学生にとって最も難しい 数学テクニック(の一つ)である。初めて出会った微分方程式は解けなくてよい。
知っている人に一般解を表す関数を教えてもらうのが一番手っ取り早い。ただ し,その人が間違ったことを言っている可能性は常にある(ミスプリントも含め て)ので,教えてもらった関数が本当に一般解になっているのかは必ず自分で確認 しなければならない。
関数の微分が出きれば,その関数が微分方程式を満たしているかどうかチェック できる。関数の微分は工学部の大学生にとって最も簡単な数学テクニックである
(小中学校でならった計算を除いて)ので,このチェック作業は簡単である。一般 解であるためには微分方程式を満たす関数をすべて表しているかどうかのチェック も必要だが,それは上の 定理 を用いれば(多くの場合)瞬時にできる。
2) 微分方程式の解き方を勉強しておく 授業を聞くのであれ,本を読んで勉強するので あれ,結局(工学部の学生の)微分方程式の勉強はいろいろな(特殊な)タイプの 微分方程式の解き方をまとめて教えてもらうということで,1番目の方法と大して 異なるわけではない。
1階微分方程式はかなり多様な微分方程式が手で解けるが,2階以上の微分方程 式は(1階微分方程式に変形できる場合を除いて)手で解けるのは極めて特殊なタ イプの微分方程式だけである。この特殊なタイプの微分方程式は工学の問題にしば しば現れるのでその一般的な解法を勉強して習得しておくのは有益である。
1. x(t) に関する微分方程式(a と ω はゼロでない定数,b は実定数)
˙
x=ax+b (1)
¨
x=−ω2x (2)
の一般解はそれぞれ,
x(t) =Ceat − b
a (C は任意定数) (3) x(t) =Acos(ωt+ϕ) (Aとϕは任意定数) (4) であることを確かめよ。
微分方程式の解き方の勉強の初歩
1) 変数分離形の1階微分方程式 変数 t の関数 x に関する1階微分方程式が dx
dt =f(x)g(t) (5)
の形をしているとき,変数分離形と呼ぶ。両辺を f(x) で割って,t で不定積分す れば
∫ 1 f(x)
dx dt dt=
∫
g(t) dt (6)
左辺は置換積分で変形でき
∫ 1
f(x) dx=
∫
g(t) dt (7)
となる。両辺の積分をH(x) とG(t) とすると,
H(x) =G(t) +C (C は不定積分定数) (8)
となる。これをただの数を求める方程式として x について解けば x(t) がもとま り,この中に1つ任意定数を含んでいる。
変数分離形になっている特殊な1階微分方程式は,不定積分(の応用)で解く ことができる。不定積分で解くことができるのはこのタイプの微分方程式だけであ る(注:一見して変数分離形でなくても工夫してこのタイプに変形できるものも ある)。
f(x) = 1 のさらに特殊な場合は,普通に不定積分するだけである:
x(t) =
∫
g(t) dt (9)
注意 最初に f(x) で割っているから,f(x) = 0 となるような解はこの方法では 得られない。もしf(a) = 0 となるような定数 a が存在すれば,x(t) =a(定数関 数) も (5) を満たすので,(5) の一般解を求めるときはこれも含めなければならな い。(このような定数a はいくつもあるかもしれないことにも注意せよ)。
例題 次の微分方程式を解け:
˙
x=ax+b (a, b は実定数) (10)
(i)a ̸= 0 のとき (7) に対応する式は
∫ dx x+ ba =
∫ a dt 積分を実行して
ln x+ b
a
=at+D (D は任意定数)
x+ b a
=eateD
絶対値記号をはずして
x+ b
a =±eDeat
Dは任意定数だから ±eD はゼロでない任意定数である(eD は正の任意定数)。そ れを改めてC とおけば
x(t) =Ceat− b
a (Cはゼロでない任意定数)
が得られる。注意で述べたようにax+b= 0を満たす定数 −ab を用いた
x(t) =−b
a (一定) も解である。2つを合わせると,一般解は
x(t) =Ceat− b
a (C は任意定数) (11) となる。
(ii)a = 0 のとき。単に不定積分して
x(t) =bt+C (C は任意定数)
が一般解である(b がゼロであるかどうかにかかわらすこの式でよい)。
1. 発展 次の x(t) に関する微分方程式の一般解を求めよ:
˙
x=−a+bx2 (a は正定数, b はゼロでない実定数)
2) 2階定数係数斎次線形微分方程式 ばねの復元力(ばね定数 k)と,速度に比例する抵 抗力(比例係数 k1)をうけて一次元運動する質点(質量 m)の運動方程式は,ば ねの自然の長さのときの質点の位置を原点とすると,教科書の (8.21) になる。移 項して整理すると
¨
x+ 2γx˙ +ω2x = 0 (12) と書ける。
[I] ここではこれをさらに一般化した次の微分方程式の一般解を求めよう:
ax¨+bx˙ +cx= 0 (a, b, cは定数。a̸= 0) (13) この形の微分方程式を2階定数係数線形斎次微分方程式と呼ぶ。線形 とは左辺が x やその微分の 1 乗の定数倍の和で表されていることを意味する。斎次 とは右辺
がゼロであることを意味する。定数係数とは a, b, c が定数である(時刻 t に依ら ない)ことを意味する。
ばねの問題の (12)は,(13) でa = 1,b= 2γ,c=ω2 とおいたものである。(13) の一般解を求められれば,(12)の一般解はわかる。
1. (13) を満たす任意定数を含まない関数が2つ見つかったとする。それをx1(t) とx2(t) と記す[以降は (t) は省略する]。
このとき次の関数x
x=C1x1+C2x2 (C1, C2 は任意の定数) (14) も(13) を満たす。
[証明] (14) を (13) の左辺に代入すると,計算の結果として右辺と同じ(ゼ ロ)になることを示せばよい。左辺に代入すると
a d2
dt2(C1x1+C2x2) +bd
dt(C1x1+C2x2) +c(C1x1+C2x2)
これを,微分と定数倍,および微分と和が順序を変えられることを用いて整理 すると
C1(ax¨1+bx˙1+cx1) +C2(ax¨2+bx˙2+cx2)
となる。2つの項の括弧の中は,x1 と x2 が (13) を満たすことよりゼロで ある。
証明終わり 2. x1 と x2 が独立な関数であるとき,(14) が(13) の一般解である。
[理由] (14) は (13) を満たす(代入すると等式が成立する)ことと,2つの 任意定数を含むことより一般解であると言える。
[注意] 定数 α (̸= 0) を用いて x1 =αx2 である場合(すなわち,独立ではな い場合)は (14)は
x= (αC1+C2)x2
となり,任意定数はαC1+C2 というもの1つしか含まないので,一般解では ない。
3. eλt を(13) に代入して整理すると
(aλ2+bλ+c)eλt = 0 となる。よって定数 λ が2次方程式
aλ2+bλ+c= 0 (15)
の根であれば,eλt が (13)を満たす。(15) を (13) の「特性方程式」という。
実数である。しかし,(15) の根は実数とは限らない。λ が複素数でも eλt は オイラーの公式により完全に定義されている。
4. 特性方程式 (15)が2つの異なる根 λ1, λ2 をもつとき,
x1 =eλ1t , x2 =eλ2t (16) として(14) が (13) の一般解となる。
5. 特性方程式 (15)が重根 λ をもつときは,
λ= −b
2a (17)
である。この特別の場合には,eλt の他に,teλt も (13)を満たす。
[証明] 積の微分公式を用いて微分すると d
dt(teλt) =eλt+λ(teλt) d2
dt2(teλt) = 2λeλt+λ2(teλt)
となる。teλt を(13) の左辺に代入し,上の結果を用いて整理すると (2aλ+b)eλt + (aλ2+bλ+c)teλt
となる。第2項の括弧の中はλ が(15) の根であることよりゼロ,第1項の括 弧の中は (17) よりゼロになる。
証明終わり したがって,特性方程式が重根を持つ場合は,
x1 =teλt , x2 =eλt (18) として(14) が (13) の一般解となる:すなわち
x= (C1t+C2)eλt (19) が一般解である。
以上で係数の定数が何であっても,(13) の一般解が求められる。
[II] [I] で分かった解法を (12)
¨
x+ 2γx˙ +ω2x = 0 (12) に適用する。特性方程式は
λ2+ 2γλ+ω2 = 0 (20)
その根は
−γ±√
γ2−ω2 (21)
である。
1. γ < ω の場合(抵抗力が弱い場合)
Ω=√
ω2−γ2 (22)
とすると,特性方程式の根は
−γ ±iΩ で,一般解は
x=C1e(−γ+iΩ)t+C2e(−γ−iΩ)t
となる。工学の問題の答えとしては複素数の指数関数を用いないほうが自然で あるので,オイラーの公式を用いて変形すると
x=e−γt(AcosΩt+BsinΩt) (23)
=e−γtCcos(Ωt+ϕ) ただし,
A =C1+C2 , B =iC1−iC2
である。C1 と C2 が任意定数なので,A と B も任意定数とみなせる。C (≥0) とϕ も任意定数である。この解は,周期
2π Ω
(
> 2π ω
)
(24) で振動する関数に,時間が経つと小さくなっていく e−γt が乗じられたもので ある[振動しながらその振幅が指数関数的に小さくなっていくテキストの図 8.4 のような関数である]。この場合を減衰振動と呼ぶ。
[注意] 抵抗力がない場合は γ = 0 であるが,放物運動の場合とは異なり,上 の一般解の中のγ を(極限をとったりしないで)素直にゼロとおくことができ る。すると,e−γt = e0 = 1 および Ω =ω であるから,抵抗力の無い単振動 の一般解に一致する。
2. γ > ω の場合(抵抗力が強い場合)
Ω0 =√
γ2−ω2 (< γ) (25)
とすると,特性方程式の根は
−(γ±Ω0) (<0) で,一般解は
x =C1e−(γ+Ω0)t+C2e−(γ−Ω0)t (26) となる。全く振動の要素がなく,時間が経つと x はゼロになっていく。この 場合を過減衰という。
特性方程式は重根
λ=−γ をもち,一般解は
x= (C1t+C2)e−γt (27) となる。この場合も,振動せずに x はゼロになっていく。この場合を臨界減 衰という。
参考 「臨界」という言葉は,一般に2つの現象や状態などが,ちょうど移り 変わるぎりぎりの限界的な状態を表す言葉である。
(例)原子核反応の臨界:連鎖反応が起こるかどうかの境い目。
4. ω は同じで γ が変化する(ばね定数は一定で抵抗力の比例係数が変化する)
と考えるとき,過減衰と臨界減衰では,どちらが素早く x = 0 に近づいてい くか?
2階の定数係数「非」斎次線形微分方程式
ax¨+bx˙ +cx=f(t) (a, b, c は定数。a ̸= 0) (28) を考える。右辺がゼロの場合は (13) になり,これの一般解 xH は求まっていると する。
(28) をみたす関数が一つ見つかったとして,それを xP とする。これを (28) の
「特解」という。
1. x=xH+xP が (28) の一般解であることを示せ。
ヒント (28)に代入したら成り立つことと,2 個の任意定数を含むことを示 せばよい。
以上