動的イオン架橋エラストマーを用いた誘電エラストマー アクチュエータの性能評価
安藤 領馬
1. 緒論
誘電エラストマーアクチュエータ(Dielectric Elastomer Actuator: DEA)の性能は伸縮性と発生力で評価することが 多く,これらは誘電エラストマー(Dielectric Elastomer: DE)
の弾性率や比誘電率,駆動電場に依存して変化する.つま り,DEの物性が性能に大きく影響する.本研究では,DE に動的イオン架橋(Dynamic Ionic Crosslinks: DIC )DICエ ラストマー1), 2)を用いた.理由はDICエラストマーの特徴 的な二つの性質に着目したからである.その性質の一つが CO2環境下で可塑化すること(弾性率の低下)である.弾 性率の低下はDEの柔軟性を増し,より大きい変形が得ら れると考えられる.もう一つの性質は自己修復性である.
DEA に自己修復性が加われば,一般的な DEA とは異な り,壊れても再使用ができる,環境に優しいDEAとなる だろう.しかし,自己修復後の性能が自己修復前と同等で なければ,実用的ではないため,自己修復前後の性能を明 らかにする必要がある.以上を踏まえて,本研究ではDIC エラストマーを DEA に応用し,上記二つの性質が DEA 性能に与える影響を調べることを目的とした.
2. DEA駆動原理
DEAは,DEを柔軟電極で挟んだ3層構造を持つソフト アクチュエータである(図1).電極間に電位差を与えるこ とでマクスウェル応力が発生する.発生したマクスウェル 応力によってDEは圧縮変形される.この時,DEは非圧 縮性のため変形しても体積が変化せず,膜厚の減少に応じ て四方へ伸長する.
弾性率Yと比誘電率εrを持つエラストマーと柔軟(エラ ストマーよりも弾性率が低い)な電極から構成されるDEA を考えると,マクスウェル応力による線形ひずみSzは真空 の誘電率をε0,駆動電場をE,印加電圧をV,電極間距離 をdとすれば,式(1)のように表せる.
ε ε
1
この式からDEAを駆動したときに高いひずみを得るため には低弾性率,高誘電率,高電場(印加電圧を増加または 膜厚を減少)にする必要がある.
3. 実験方法
DE には DIC エラストマーの他に,性能比較用として VHBテープ(3M製:VHB 4910)を使用した.なお,電極 にはカーボングリス(キタコ製)を使用した.試料の形状 は短冊形状として上下の電極が導通しないよう余白を 1 mmにした(図2).
本実験ではDEAの性能としてひずみと発生応力を評価 した.ひずみ測定に関しては,図2の長手方向のひずみレ ーザ変位計(キーエンス製:LK-H085)で測定した.発生 応力に関しても,長手方向の発生応力をロードセル(共和
電業製:LVS-10GA)で測定した.測定は破壊電場まで,電
場を印加した時のひずみと発生応力を調べ,DICエラスト マーについては CO2環境下で可塑化させたときの性能と 自己修復前後の性能も測定した.ただし,自己修復性を調 べる際は,破壊電場まで電場を印加すると自己修復後の性 能が測定できないため,6 V/µmの電場を印加した.
4. 結果と考察
4.1 DEAの長手方向ひずみの電場依存性
図3はVHBテープ製DEA(VHB-DEA)とDICエラス トマー製DEA(DIC-DEA)のひずみの電場依存性を調べた 結果である.四角形のプロットがVHB-DEA,三角形のプ
ロットがDIC-DEAであり,破線が予測値を表す.また,
枠外のH型バーは破壊電場範囲を表し,バーの左端は最小 値,右端は最大値,中央は平均値を示している(実線,破 線,枠外の H 型バーが表すものは以降の項でも同様であ る.).
まず,VHB-DEAとDIC-DEAの破壊電場を比較する.図 より,VHB-DEAの破壊電場が4.4 V/µmである一方,DIC- Fig. 1 Schematic diagrams of DEA.
Fig. 2 Schematic diagram of DEA.
DEAの破壊電場は7.9 V/µmとなり,VHB-DEAの約1.8倍 の値を示した.これは,破壊電場の予測傾向と一致してい る.ひずみは,同電場では DIC-DEA の方が低くなった
(VHB-DEAの19.9 %)が,DIC-DEAの方が破壊電場が大 きいため,最大ひずみは VHB-DEA の 61.2 %まで近づい た.
4.2 過疎化前後のDEAのひずみの電場依存性
CO2環境下で可塑化させたDIC-DEAのひずみと破壊電 場を調べ,可塑化前の試料と比較した.図4にDIC-DEA のひずみの電場依存性を示す.三角形の線が可塑化せずに 大気中で駆動したDIC-DEA(DIC-DEA in air),四角形 の線が CO2環境下で可塑化後に駆動させた DIC-DEA
(DIC-DEA in CO2)である.
次に,ひずみを比較する.DIC-DEA in airの最大ひず みは0.15 %であった.一方,DIC-DEA in CO2の最大ひず みは0.27 %であった.なお,同電場(4.0 V/µm)で比較し た場合には,DIC-DEA in CO2のひずみはDIC-DEA in air のひずみの約0.6倍であったが,絶縁破壊直前の電場で比 較した場合には,DIC-DEA in CO2のひずみはDIC-DEA in airのひずみの約1.8倍になる.
4.2 自己修復前後のDEAのひずみと発生応力
図5,図6はそれぞれ電圧印加速度0.2 kV/sの自己修復 前後のDIC-DEAのひずみの電場依存性,電圧印加速度0.2 kV/sの自己修復前後のDIC-DEAの発生応力を調べた結果 で あ る . 図 中 , 三 角 形 の 線 が 自 己 修 復 前 の DIC-DEA
(Original DEA),四角形の線が自己修復後の DIC-DEA
(Healed DEA)である.
まず,ひずみを比較する.6.0 V/µmの電場を印加した時 のOriginal DEAのひずみは0.029 %であった.一方,Healed DEAの最大ひずみは0.024 %となり,Original DEAの約0.8 倍の値を示した.つまり,自己修復後も自己修復前と同等 のひずみを得られている.
次に発生応力を比較する.6.0 V/µmの電場を印加した時 のOriginal DEAの発生応力は0.31 kPaであった.一方,
Healed DEAの発生応力は0.30 kPaとなり,同程度の発生 応力が得られた.よって,ひずみの結果も踏まえれば,自 己修復後の DEAは自己修復前の DEAと同等の性能を発 揮できることが分かった.
4. 結言
以上,本研究により,DIC-DEAはCO2により高性能化 し,再利用可能なまでに自己修復するDEAであることが 明らかとなった.今後,DIC-DEAが,その特徴を活かし て,医療や介護など様々な分野で応用されることが期待さ れる.
参 考 文 献
(1)Y. Miwa, et al., Commun. Chem., 1 (5), 1-8 (2018).
(2)Y. Miwa, et al., Commun. Chem., 10 (1828), 1-6 (2019).
外部発表実績
(1)2019年繊維学会秋季研究発表会にて発表(日本語,口頭)
Fig. 3 Electric field dependency of strain of DEA (Voltage application speed is 0.2 kV/s).
Fig. 4 Electric field dependency of strain of DEA (Voltage application speed is 0.2 kV/s).
Fig. 5 Electric field dependency of the strain of DEA before and after self-healing. (Voltage application speed is 0.2 kV/s.)
Fig. 6 Electric field dependency of the blocking stress of DEA before and after self-healing. (Voltage application speed is 0.2 kV/s.)