最近の水田裏作に関する一考察
一乳牛飼養との関連性を中心として一
大
沢 貞一郎
〔序〕
国土の高度利用という観点からすれば,水田裏作の拡大は国家的に要望されることである.しかしわ が国の水田裏作は,自然的社会的諸要因の多様性と相まって,その地域的様相は複雑であり,特に最近 は変動が著しい状態である.したがって水田裏作の地域的多様性を,その推移を通して把握し,水田裏 作を制約しまたは促進する諸要因を追求することは,土地利用の本質究明上からも;今後の水田裏作 拡大の可能性を検討する上からも,重要な課題である.このようなわけで水田裏作に関しては地理学的 立場からもしぼしば取上げられており(1),筆者も昭和28年の時点で全国ならびに福島県の水田裏作を概 観した(2).しかしそれ以後についての全国的な研究は余りなされていないようである.
ところで最近10年来・全国的に冬作放棄の傾向が著しく,特に水田裏作は減少の一路をたどり,土地 利用の粗放化が目立って来た.一方国民の消費構造の変化と相まって,酪農の発展が目ざましく,乳牛 飼養頭数は年々増加しており,また飼料作物の作付面積も同じく増加の傾向が著しく,それは水田裏作
としての作付も増加しているから,水田裏作に占める飼料作物の割合は年毎に増大している.
そこで小論では,1)最近における水田裏作の様相を,その推移を通して,地域的に検討し,2)特 に水田裏作に占める飼料作物の比率が地域的に如何に変化しているかを把握し,3)水田裏作様相の変 化に対する要因追求の一段階として,乳牛飼養が水田裏作に如何なる影響を与えているかという観点か
ら両者の関連性について考察を進めて行く.ただし今回は統計的資料により,上記の諸点についての予 察をするにとどめ,今後の水田裏作研究に資したい.
叙述の順序として,先ず資料について検討し,次いで最近10年間の推移を通して,府県単位で全国的 に水田裏作の様相を展望し,さらに町村単位で福島県における水田裏作の5年間の変化および乳牛飼養 との地域的関連性を考察する.
なお小論は・昭和42年4月29日山形大学において行なわれた東北地理学会の春季学術大会で,r水田 裏作と乳牛飼養との関係について」と題して口述発表をした内容に,加筆訂正したものである.
この研究に際し,種々御教示を賜わった東北大学能 登志雄教授,福島大学安田初雄教授,ならびに 資料の閲覧に便宜を計られた農林省福島統計調査事務所の方々に厚く感謝する次第である.
〔1〕資料について
農業的諸事象に関しては,実態調査とともに各種の統計調査がなされており,数量的資料は豊富であ るが,水田裏作に関しては意外に少なく,特に直接にその実態を数量的に地域的に把握出来る統計資料 は,一二のものを除いては皆無に等しい.このことは耕地の利用を田畑別に区分することが農政上や農 業経営上それ程必要がないためであるか,または調査や集計上わずらわしいためであるか不明である.
しかし一方水田裏作という概念も実際にはかなりあいまいな部分を含んでいるから,資料め乏しいのも その辺に関連があるかも知れない.
そこで,先ず水田裏作の概念を筆者なりに一応規定し,それにあてはまる資料を諸種の統計表等から 探し出してみることにする.
1.水田裏作の定義
筆者が今まで行なってきている水田裏作の研究は,土地利用の集約性を地域的に検討する立場からな されているので,それをふまえて,ここでは水田裏作をr水田に水稲の後作または前作として他の作物 を作付すること,またはその状態」と規定する.そして裏作物の種類と作付面積およびその水田面積に対
36 福島大学教育学部論集 第19の1 1967−11
する100分率である水田裏作率等の地域的多様性を研究の対象とする.
ここで二三補足説明すると,裏作物の栽培期間はいわゆる冬期とは限らず,秋まきつけて越冬しない もの(例えば秋植えばれいしょ)や春から夏にかけて作付されるもの(例えばたばこ)も裏作物と見な す。しかし地目は水田でも,冬期水稲以外の作物を作付し,夏期に水稲を作付しない場合,例えば田畑 輪換で夏も普通の畑作物等を作る場合は,冬期の状態を水田裏作とは見なさない.また水田裏作率とし て,水田の利用度を表わす場合,分子には裏作物の作付延面積をあてることにする.
2.水田裏作を府県別に示してある統計資料
前記のような概念の水田裏作を,少なくとも府県別に数量的に把握出来る統計資料は,公刊された最 近のものとしては,次にあげるものがあるに過ぎない.a)1950年世界農業センサス・1960年世界農林 業セγサス・1965年農業セγサス(以下単にそれぞれを 50年センサス等と略称する)の各結果統計 表,b)昭和28年冬期土地利用統計表,c)総合畑作統計表(昭和33年12月1日現在),d)各年次の
農林省統計表.
a)は旧市町村別の集計もあるので地域的に詳細に検討するには極めて貴重な資料であるが,項目と しては二毛作田面積があるだけで,水田裏作物については該当欄が無い.またこれらの調査は農家調査 であり,b)・c)・d)の統計のように標本実測調査に基づかないので,面積が過小に表示される欠 陥がある.
b)と。)は田畑の利用状態を冬期・夏期に分け,主要作物毎の作付面積が詳細に表わされており,
水田裏作を把握する上に必要な資料が豊富に盛られている.ただし小論で取上げる飼料作物が肥料作物 とともに飼肥料作物として一括され両者が区分されていないこと,および両統計表のいずれも特定年次 における調査であり継続性がないので,所要項目についてその推移をたどることは出来ない.
最後のd)は全作物の作付延面積の項目に,冬作の田畑別面積があり,肥料作物と分離して飼料作物 の作付面積総数が田畑別に表示されており(3),さらに主要作物については,その作付面積が田畑別に区 分されている.またこの統計表の各項目は毎年調査されているから,水田裏作に関する諸項目を累年的 に追求し,その推移をたどることが出来る.
したがって小論では,全国的展望をするに際してはa)農林省統計表を使用した・すなわち昭和30年 から同40までの各年次の統計表より次の事項に該当する数値を直接または集計して求めた.1)水田裏 作延面積,2)水田面積(本地のみ),3)飼料作物作付面積およびそのうちの田作付面積,4)乳牛 飼養頭数.
1)の水田裏作延面積について補足説明すると,統計表には冬期田作付延面積はあるが,前述した概 念の水田裏作には夏作の 田作物(田畑輪換以外のもの)が含まれることに.なるから,それらの面積を加 算する必要がある.しかし統計表には夏期田作物の該当欄がなく,ただ飼肥料作物については夏作のも のも田畑別に区分されているので,青刈りだいずや牧草等の夏作物の田作付面積を冬期田作付延面積に 加えて,その合計を水田裏作延面積とした.しかしそれでも夏期田作のたばこ・野菜・秋植えばれいし ょ等が除外されるから,それがかなり作付けられている西南日本の水田裏作を検討する際は,このこと を考慮する必要がある14).
福島県については,昭和30年から10年間の推移をたどる場合はd)の農林省統計表を用いたが,県内 の地域的考察を進めるに当っては,a)の 60年および 65年センサスの旧市町村別統計表より,二毛作 田面積および二毛作田率を求めた.また乳牛飼養頭数については福島県統計課編の統計表を使用した、
福島県と西白河地方について,昭和35年より5年間の水田裏作物の構成の推移をたどる場合は,農林省 福島統計調査事務所作物課の資料によった.
〔2〕全国的展望
1.水田裏作の推移〔第1表〕は全国計の水田裏作延面積と主要作物の作付面積等を,昭和30年・同35年ならびに.同40年 について表示した4、のであり,また〔第1図〕は同じく全国計の水田裏作延面積・飼料作物作付面積お
よび田作飼料作物面積,ならびに.乳牛飼養頭数の,昭和30年より同40年に至る推移を表わしている.
〔第i表〕 水田裏作物作付面積および作付構成比 (全国計)
年 次
(昭和)
30年
35年
40年
麦 計 4
作積裏面
田永延
1,208.1 (100)
1,071。1 (100)
680.31
(1・・)1
757.8
(62.8)
659.0
(61.5)
381.9
(56.1)
な たね
112.5
(9.3)
88.7
(8.2)
34.6
(5.o)
飼料作物
57.G
(4.7)
96.4
(8.9)
108.9
(16.0)
肥料作物
207.7
(17.2)
172.2
(16.0)
86.6
(12.7)
物ちげ作
料うん肥のれ
182.1
(15.0)
155.1
(14.4)
80.6
(11.8)
その他
73.1
(6.0)
54.8
(5.1)
49.8
(10.0)
水田裏作率 %
42.0
33.8
21.5
注 (1}
〔2〕
〔3)
本表は農林省統計表の資料より作成した.
単位はLOOO町歩,ただし昭和40年は1,000ヘクタールである.
( )内の数値は,水田裏作延面積を100とする各作物の比率である.
これらによりわが国における最近の水田裏 作を概観すると,先ず昭和30年に120万町歩 あった裏作面積は次第に減少し,特に昭和38 年以降に著しく,同40年には68万町歩(5)とな
った.一方水田面積は昭和30年以降微増を続 150万町 け,同39年からやや減少した程度であるか ら,水田裏作率は昭和30年の42.0%より同40 年の21.5%とこの10年間で丁度半減してしま
った.
それと同時に裏作物の構成もかなり変化100万 し,昭和30年には子実用の4麦となたね,お よびれんげを主とする肥料作物で裏作物の9 割以上を占めていたのが,いずれも減少し,
特になたね・れんげ・裸麦・6条大麦は10年 間に半数以下に減った.小麦は大麦やなたね 50万 等の代替となりながら昭和37年までは増減を 繰返していたが,同38年以降はやはり減少し
た.
このような傾向の中にあって,飼料作物は 増加の一路をたどり,昭和30年に5.7万町歩 10万 であったものが,同40年には約2倍の10.8万 o 町歩となったことは注目に値する.
〔第1図〕 水田裏作等の推移 (その1 全国計)
水田裏作
ノ ! !一 メ ! 1 ノ ノ
乳牛,! 1
、/ン嘱料働
!! / ! 1
! /
一一
@ 田作飼料作物 」昭和30313233343536 3738 3940年
300万頭
200万
100万
50万
0
以上概観したように,全体として水田裏作が年々減少して行くのは,畑の不作地の増加と同じく,主 要冬作物であった麦類・なたねの低収益性と,兼業機会の増大に伴なう労働力の不足等による一般的な 冬作放棄の傾向とともに,特に水田にあっては表作である水稲の作付早期化が広く行なわれるようにな
り,冬作の減少が畑地よりも水田に集中して来たため⑥と思われる.
2.水田裏作率の分布
水田面積(本地)に対する水田裏作延面積の10G分率を水田裏作率とし,昭和30年・同35年および同40 年の各年次について,府県単位でその分布を示したのが〔第2図〕である.
これによると昭和30年には,熊本・香川の90%以上を最高に,群馬・山形と九州の主要部が80%台,
次いで四国・山陽・近畿・東海地方が60%台であり,総じて栃木以西の地域は裏作率が高率である.一 方富山を除く北陸と東関東から東北地方は一段と低率で,特に東北地方の北部は5%以下で極めて少な い.これらの分布状態は以前の研究で指摘したようにω,寒冷・多雪の地域は水田裏作がきびしく制約
38 福島大学教育学部論集 第19の1 1967−11
を受け,排水 条件の悪い地 方も裏作が行 なわれ難いこ とを示してい
る.
昭和35年・
同40年となる につれて水田 裏作率は全般 的に低下して いるが,以前 の高率地域は 相対的にやは
り高率であ
り,水田裏作 率分布の傾向 は大体におい て余り変らない
〔第2図〕水田裏作串
oo%
60
20 10 5 2.5
Ul昭和30年
ゆ コ
ぐ
⇔.¥ ¥一
300b\
12)昭和35年
令
で、
づ
③昭和40年
浄
乃¥
ただ京浜地区から東海地方・近畿中部にかけた都市化,工業化の著しい地域では,水 田裏作の低下が顕著である.
3.飼料作物作付面積の推移
〔第1図〕により昭和30年からの飼料作物作付面積を全国計についてその推移をたどれば,かなり増 加が著しい.これをさらに府県別にその増加の割合をみれぽ(分布図は省略),30倍以上も増加した群 馬を最高に東北地方の東半と東関東および長野 〔第3図〕 水田裏作等の推移 等が8倍から20倍(宮城)と著しく高く,一方 (その2東北地方) 酪農が盛んでもともと飼料作物の多かった北海 道や九州は2〜3倍であり,近畿や山陽は2倍
15万町
10万
5万
1万 0
ノ / ! / /
!/ /! /! / // 乳//水 牛//畷 /晒./作離
/・
昭和30 31323334353637383940年
30万頭
20万
以下で最も低い.〔第3図〕は〔第1図〕と同 様に東北地方についての水田裏作等の推移を示 したものであるが,その中で飼料作物の伸びは 全国計より急である.これらのことより畜産の 発展という点からみて東北地方が全国で最も著
しい地域であることが推察される.
4.乳牛飼養頭数の推移と分布
〔第1図〕や〔第3図〕にある乳牛のグラフ はいずれも上昇を示し特に東北地方では急増し ている.地方別に乳牛頭数の推移をみると,急 上昇を示すのは,北海道が第一であり,次いで 東北・関東ともともと乳牛飼養の多かった地方 が増加頭数も大である.次いで九州や中国が著 5万 しく増加したが,北陸や東山は増加が緩慢であ る.
〔第4図〕には昭和40年における農家100戸0 当りの乳牛飼養頭数の分布を示すが,これによ ると北海道が143頭と最高で都府県とは格段の
10万
差があり,次いで早くより酪農の発達している神奈川・岩 手が50〜40頭であり,30頭台は東京・群馬・千葉であり,
次いでそれらの周辺の関東から東北地方東半蔀および大 阪・兵庫地域が多い.これに対し九州は伸び率は大である が・頭数は余り多くない.頭数も少なく伸び率も小である のは北陸から近畿東部にかけての地域である.
5.水田裏作に占める飼料作物の比率
飼料作物合計のうち半数は北海道に作付されそれはすべ て畑作で牧草類が主であるが,都府県ではれんげ・青刈 麦(えん麦・らい麦等)の冬作物が主となっているので,
特に温暖な地方ではかなり水田に作付されている.
地方別に飼料作物のうち水田に作付されたものの推移を たどれば(表およびグラフは省略),近畿・中国・四国・北 陸ではその面積が飼料作物合計に近く,大部分が水田作で
あることを示している.しかし九州や関東・東山は年次を 追うに従って合計と水田作の差が開き,東北地方も同様で
ある.
鶴
〔第4図〕
100顛 40 30 20 10
『
100戸当り乳牛頭数 (昭和蘭年)
、、 、、
・憂欝
9 、㌧
、、、
6.・・
、 、
、 、 、
0 301』
〔第5図〕は水田裏作に占める飼料作物の比率の分布を,昭和30年・同35年・同40年について示した
〔第咽〕田作飼料作動率
lo%
60 41 20 10 5 2.5 0
ω昭和30年
辮 編
o
灘
〜(水田裏作に占める飼料作物の比率)
\
②昭和35年鰭 脂
噸
一
390加O I I I
郵
噸
131昭和40年
︒
蕪
少ものである
が,これを通 してみると,
昭和30年には 全般的に率が 低いが,次第 に高率になっ て行き,もと もと幾分高か った東北北部 が昭和35年に は50%台に,
さらに同40年 には70〜80%
となり,水田 裏作の大部分 が飼料作物で 占められるよ うになって来た.これに対し,山梨・群馬・香川を始め西関東・近畿中部・北九州等は低率である.
6.水田裏作推移の地域的特徴
水田裏作面積やそれの対水田比率である水田裏作率および裏作物中に占める飼料作物の比率につい て,昭和30年から同40年に至る10年間にわたって地方別または府県別にその推移をたどって来たが,そ れらを通して把握出来る地域的特徴についてまとめてみる.
北海道は水田裏作がないから別として,東北は裏作面積が最も小であり,年々減少しているがあまり 急でなく,一方飼料作物の伸びは大で裏作物中に占める割合が最大である.九州は裏作率が大である が,四国とともに低下率も小で,その南部は裏作物中の飼料作物がやや多くなっている.これに対し近 畿・東海は裏作減少が甚だしく,北九州や西関東とともに田作飼料作物も少ない.北陸は裏作少なくま
40 福島大学教育学部論集 第19の1 1967−11
たその低下も急で,田作飼料作物も少ないが,新潟県は東北地方に類似している.また京浜から東海・
大阪に至る地域が大体共通して裏f乍率低下が大で,田作飼料作物の少ないのも一つの特徴である.
7.水田裏作に対する乳牛飼養の影響について
前に述べた飼料作物作付面積と乳牛飼養頭数の推移を比較してみると, 〔第1図〕や〔第3図〕から 読みとれるように,全国についても,東北地方についても,両者はいずれもこの10年間に著しく増加し,
しかもその伸び方が同傾向を示している.このことは他地方をとっても同様で,特に北海道・中国・四 国・九州の諸地方は東北地方とともに両者の推移を示すグラフは極めて類似している.一方役肉牛の飼 養頭数はこの10年間に急減している.これらのことから,飼料作物の増加の主要因が乳牛飼養の進展に あると見なしてよい.このように乳牛飼養の発展に伴ない,粗飼料の自給化を計るため,飼料作物の作 付が増大して来たのであるが,そのうちの冬作物や牧草等のかなりの部分が水田に裏作されて来た.し たがって麦類やなたねおよび緑肥用のれんげの減少によって水田裏作面積全体がかなり減っている状態 の中で,飼料作物だけは反対に年々増加しているから,水田裏作に占める飼料作物の比率がより増大し て来た.特に東北地方はその率が極めて大となった.しかし東北地方では飼料作物の約8割が畑作であ
るから,乳牛飼養の進展は主として畑地利用に影響を与えているのであり,また東海・近畿の諸地方や 香川県等のように,飼料作物が主に水田に作付けられる地方では,もともと他の裏作物が多いから,
水田裏作に対する飼料作物の作付率は低率となっている.このようにみてくると乳牛飼養の水田裏作に 対する影響という点からみて,両者の直接的関連性は極めて乏しいのである.しかしながら東北地方の ように他の競合作物の少ない地方では,飼料作物を通じて乳牛飼養がその地域の水田裏作に対して大き く影響を与えている.このことは東北地方のような普通作物の水田裏作をきびしく制約する地域にとら て,水田利用の高度化を検討する際,乳牛飼養が如何に重要性を持つものであるかを示唆しているので
ある.
〔3〕福島県における水田裏作と乳牛飼養 1.水田裏作の推移
〔第6図〕は前掲の〔第1図〕や〔第3図〕と同じ内容を福島県について示したものであるが,これ によると,水田裏作は全国計と同様に低下して
いるが,それよりも緩かであり,東北合計と比 べれば最近の減少が幾分急である.しかし田作 飼料作物の伸びは東北全体よりもやや急であ
る.乳牛の伸びはかなり急であるが,飼料作物 は昭和38年より鈍り,それに応ずるように田作 の飼料作物も停滞している.
〔第7図〕は昭和35年から同40年の5年間に わたる作物別水田裏作の推移を示したものであ るが,これによると昭和35年には大麦を主とす る麦類となたねが水田裏作の過半を占めていた が,その後大麦・なたねが急減し,れんげも肥 料用から飼料用に代り,らい麦・牧草等その他 の飼料作物が増えている.福島県は東北地方の 最南部にあるため,大麦・なたね等が比較的多
く裏作されていたから,それらの減少で東北全 体の裏作減よりも低下率がやや大となったので
ある.
2.二毛作田の分布
60および 65年センサスの旧市町村別に集
3万町
2万
1万
2千 0
〔第6図〕 水田裏作等の推移
水田裏作
/ / / / / 1
! / !
ノ1
(その3 福島県)
/ / / !/
乳牛/
/ / ノ
/ 飼料作物
ノ ノ /! ノ
ノ ト
・ /
/ /
田作飼料作物
6万頭
昭和30 31323334353637383940年
砺
蛎
1万
0
15,000町
10,000
5,000
1,000
0
〔第7図〕 作物別水田裏作の推移
(福島県 昭和35年〜同40年)
水田裏作合計
肥料用れんげ
飼料用れんげ
なたね
毫
小麦
6条大麦
その他
その他の 飼料作物
15,000町
10,000
5,000
注 (1)
〔2〕
〔3)
1,000
0 昭和35 36 37 38 39 40年
*印は2条大麦・裸麦の合計
rその他の飼料作物」は,青刈えん麦・青刈らい麦・牧 草の合計
rその他」は,ばれいしょ・えんどう・たまねぎ・いち ご・そらまめ・きゃべつ・れんげ採種圃・その他の合計
計された二毛作田面積の資料を用いて,
昭和35年と同40年における二毛作田率分 布図を作成した.この場合二毛作田は水 田裏作に極めて類似した概念である{8)か ら,これらによって福島県における水田 裏作の地域的多様性を検討する.
〔第8図〕により昭和35年の二毛作田 率をみると,一部に50%台を示す福島盆 地や西白河地方が最高であり,次いで久 慈川谷や夏井川下流平野が30〜20%台 で,さらに双葉から相馬地方の平地や会 津盆地等が10%前後を示す(9).これが〔第
9図〕に示すように昭和40年になると,水 田裏作は全般的に減少したが,その地域 的配置の大勢はそれ程変らない.しかし 県南地方が相対的に二毛作田率が大で,
30%以上の中島村を中心に,20%台の部 分がまだかなり広い地域を占めている.
これらの変化は,冬作放棄の全国的傾 向と同じく,県内でも比較的温暖で従来 麦類やなたねが裏作物の中で主であった 地方において,それらの裏作物が,一部 ではいちご・さやえんどう・らい麦・牧 草等に代りながら,全体的に減少したこ と,およびれんげが多かった地方では・
40%
30 20 10 5
2.5
〔第8図〕二毛作田率(1)
(昭和35年)
牽一 / タ、
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上 、・、
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! −! ノ .・ ノ !!ノ/ ・・.・.
/
42 福島大学教育学部論集 第19の1 1967−11
40%
30 20 10 5
2.5
〔第9図〕二毛作田率(2)
(昭和40年)
・ .
1 ・ 」 ξ :∠∵※一・. r・
タ み ・■〃 ≡ 、
鰯瓢,1欝懸
拶 ! 、 戻
、り 、1
な ノ
ノ !.・ 、
ノ ・一ノ¢ノ ■ ノ ノノノ
9 20 4膨 ノ
﹄
それが飼料用に代りながらそれ程減少しなかったこと等による.
そのうち特に西白河地方についてみれば, 〔第2表〕に示すように,水田裏作物としては従来大麦と 〔第2表〕 西白河地方における水田裏作物作付面積 (単位:町歩またはヘクタール)
年次
(昭和)
年 35%37認3940
水田裏作 積計物作付面
2,405 1,904 1,970 1,787 1,666 1,363
小麦 6条 大麦
鋤
300 243 243 180 100条麦麦2大裸
なたね
7118ドD1 132
しん麦
31
らい麦
11
25 35 85 88 119
牧草
︻Jnソ
ー4
飼料用 れんげ 449 603 962 770 878 687
飼料作 物合計 460 631 998 855 966 855
緑肥用 1れんげ
1,545 942 708 680 514 403
その他
30 114
水田裏 作 率
%29.0
22.7 23.4 20.8 19.3 15.9
水田裏作 物中の飼料作物率
%18.1
33.0
5{).6
47.8 58.0 62.5
〔農林省福島統計調査事務所作物課の資料により作成〕
注 (1)西白河地方とは,白河市および西白河郡である.
〔2〕水田裏作物作付面積計は,調査項目に挙げられている作物の合計である.その作物名は年度によって 若干異動があるが,それ以外の作物が裏作されているかどうかは不明である.しかしあっても趣く少 数であろうと推察される.
(3)その他のうち、35年はばれいしょ,38〜39年はいちご,40年はいちごと秋まききゃべつ,その他のや さいである.
肥料用れんげが過半を占めていたが,れんげが飼料用のものに逐次代り,大麦がらい麦や牧草等の飼料 作物に代って来た.このことは福島盆地南部⑳や会津盆地⑪での事例とともに県下全般の傾向と思われ
る.
3.乳牛の分布
昭和40年の乳牛飼養頭数の分布を示す〔第10図〕によると,乳牛は福島盆地南部から,安達・田村地 方を主とす・る阿武隈山地全般と,安達太良火山東麓や西白河地方および相馬平野に多く,会津地方は全
体に少なく,特に奥会津山地には極てめ少ない.また石城平野・郡山盆地・福島盆地北部も少ない地域で ある。これを昭和35年の分布(分布図は省略)と比較すると,前述の少ない地域を除くと,乳牛飼養頭 数は全般に増加し,特に阿武隈山地全体と西白河地方が著しく,また会津盆地でも幾分増加している.
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︑︑ノくノやV ︐/−︑ し4.水田裏作と乳牛飼養頭数の地域的関連性
以上述べて来たことと,その他の資料により,福島県における水田裏作と乳牛飼養との関連性を地域 的に考察すると,次のようにまとめることが出来る.
1)一般的に水田裏作は乳牛の分布と無関係に分布している.従って両者は地域的には一応関連性が ないといえる.2)しかし両者の分布の重合する地域が幾つかあり,例えば西白河地方や福島盆地南部 および相馬平野の一部等であるが,それらは水田裏作に飼料作物が多く作付され,またそれらの地域で は乳牛飼養頭数も多い。故に水田裏作地域のいくつかは飼料作物を通して乳牛飼養との関係が深まって いる.3)そこで今後福島県の水田裏作を検討する場合には,酪農経営について考慮することが特に必 要である.
〔4〕結 語
主として統計資料によって,全国と福島県について,水田裏作と乳牛飼養の様相を年次的に地域的に 検討して来たが,これらを要約し,補足する.
(1)ここ10年来水田裏作は全国的に減少しており,一方乳牛飼養頭数は全般的に増加し,特に東北・
山陰・九州等わが国の縁辺部が著しい.
(2)乳牛の増加に伴ない,飼料作物の作付が増加し,それが水田裏作にも反映し,裏作物中の飼料作 物作付面積が漸増の傾向を示している.したがって縁辺部においては,水田裏作物中に占める飼料作物 の比率が大になり,特に他の競合作物の少ない東北地方では,飼料作物が水田裏作の重要な部分を占め るに到った.
(3)福島県について,水田裏作の様相を地域的に概観すると,従来麦類・なたねを主に.裏作し,裏作 率の比較的高かった地域では最近は水田裏作がかなり減少し,一方主として肥料用にれんげを裏作して いた地域では減少が幾分少ない.また乳牛は全般的に増加しており,丘陵地・山地・火山麓地域に多く
44 福島大学教育学部論集 第19の1 1967−11
分布しているが,一部では水田裏作の多い地域と乳牛多頭地域とが重合しており,それらの地域では水 田裏作物に飼料作物が多く,特に西白河地方のようにそのため裏作率がかなり高い地域もある.
(4)全国を府県単位でみても,一県内を旧市町村単位でみても,水田裏作と乳牛飼養との関連性は一 般的には少ない.しかし近年酪農の進展に伴ない,飼料作物の水田作が増大し,他の裏作物の減少と相 まって,水田裏作物中に占める飼料作物の割合が大きくなっている.特に東北地方ではその傾向が著し い.したがって水田裏作と乳牛飼養との関連性は,飼料作物を媒介として,より大になりつつあるとい
える.
(5)今後東北地方のように気候的に制約のきびしい地方における水田裏作の地域的多様性を追求する 際は,乳牛飼養について詳しく検討することが極めて重要である.
〔注および参考文献〕
(1} 1.地理調査所地図部編:日本の土地利用,古今書院(昭和30年)2.酉水孜郎:日本の農業,古今書院
(昭和24年) 3.r地理」第6巻第2号(昭和36年)に日本の裏作の特集があり,その中に上野福男:日本の裏 作の展望,籠瀬良明:水田裏作おぼえがき等がある.
(21大沢貞一郎:福島県に於ける水田裏作について,福島大学学芸学部論集,第12号の1(昭和36年)
(3)ただし昭和39年と同40年次には,飼肥料作物が一括されているので,両年次の田畑別,飼肥料別の面積 は, r昭和40年産作物統計(農林省統計調査部作物統計課編)」の資料によって推定した.
㈲ 前述の。)総合畑作統計によれば,昭和33年における夏期の水田作で,やさい・たばこ・緑肥用作物等が かなりの面積を占めており,例えばやさい1,000町歩以上の府県は兵庫・大阪・福岡・富山・香川・京都・奈良 であり(もっとも富山の夏期水田のやさいは,大部分が田畑輪換のものと思われる.),たばこ500町歩以上は香 川・鹿児島・高知・宮崎・兵庫・熊本・徳島であり,また熊本県は青刈だいずの田作が6,000町歩以上に及んでいる.
(5)昭和39年次より面積はヘクタールになったが,1町歩は約1ヘクタールであるから,記述にはすべて町歩 を単位とした.
(6)農林統計協会編:昭和40年度図説農業年次報告(昭和41年)
(7)前掲:〔2〕
(8〕表作の水稲に対し,裏作として或る一種類の作物を作付した水田が二毛作田である.福島県には三毛作以 上の水田はほとんどないから,二毛作田が水田裏作をした水田ということになる.水田裏作の統計的資料を旧市 町村別に求めようとする場合には,それらのセンサスによる二毛作田面積を利用する以外に方法がない.
(9) これらの分布状態は,前述〔2〕で記述した昭和28年当時と余り変っていない.
⑯ 庄司邦生:福島盆地における水田裏作の地理学的研究,福島大学教育学部卒業論文(昭和42年)
⑳大沢貞一郎:会津盆地における水田裏作,日本地理学会昭和41年度春季大会発表