第 9 回講義
文、法 経済学
白井義昌
第 9 回講義の内容
総需要と総供給 --- 物価の決定
• 9.1 問題設定
• 9.2 総需要曲線
• 9.3 総供給曲線
• 9.4 財政政策、金融政策の効果
• 9.5 貨幣数量説と貨幣の中立性
9.1 問題設定
長期的には経済はどの ようにふるまうか?
物価はどのように定ま
るか?
IS-LM モデルの前提
• 物価水準 P は一定である ( 短期の状 況)
• したがって均衡総生産への調整は価格 ではなく生産量によって行われる。
• 特に総生産は有効需要によって定まる。
財サービスの総需要量が総供給量
を下回ることを想定していた。この場
合、均衡総生産は需要によって定まる。
物価変動が可能な場合
• しかし、需要が供給を下回るならば長 期的には価格 ( 物価 ) が上昇し、需要 量は減少し、供給量は増大することに よって、需要と供給は一致するように なるであろう。
• 価格 ( 物価 ) の調整を通じて、需給が 一致する。
また長期の価格 ( 物価 ) 水準が定まる。
第 9 回講義の目的
• 物価水準の決定ひいては物価の上昇 ( 下落)のメカニズムについて考察す る。
• そのうえで総需要 - 総供給分析を用い る。
• 古典派とケインズ派と呼ばれる考え方
の違いを理解する
9.2 総需要曲線
与えられた価格のもと に
財サービスの需要量は
与えられた価格のもとに財サー ビスの総需要量はどう定まる
• IS-LM 分析の結果は与えられた価格の下 か?
で、有効需要の原理(による財市場の均 衡)および資産市場の均衡を通じて総生 産量と利子率が同時決定することで
• あった。 資産市場の調整は非常に速い(利子率ま たは資産価格は瞬時に調整される)
• IS-LM 分析で決まる総生産量は与えられ
た物価水準 ( 価格)に対応する財サービ
スの需要量と考えられる .
総需要曲線の定義
• 資産市場と有効需要の原理に則った
意味での財サービス市場の均衡を同
時に均衡させる物価水準と生産量 ( 有
効需要量)のくみあわせが総需要曲
線である。
総需要曲線の導出
• Y=C(Y)+I(r)+G [IS]
• M/P=L(Y, r) [LM]
• 物価の上昇によって有効需要はどのよ うに変化するか?
r有効需要
IS LM’ LM
物価の上昇とともに有 効需要は減少する
P
有効需要 総需要曲線
Aggregate Demand Curve
総需要曲線の性質
• 政府購入拡大の効果: 物価が一定のもとで、
政府購入を増大すると
IS-LM 分析において均
衡総生産は拡大し、利子率も上昇する。したがって、総需要曲線は右にシフトする。
• 貨幣供給量増大の効果: 物価が一定のもと で、貨幣供給を拡大すると IS-LM 分析におい て均衡総生産量は拡大し、利子率は下落する。
したがって、総需要曲線は右にシフトする。
総需要曲線の傾きについて
• IS-LM
分析において物価変動は実質貨幣供給(したがって
LM
曲線)に直接影響 をあたえる。貨幣需要の利子弾力性が大 きければ物価上昇はLM
曲線にさほど影 響をあたえない。LM
曲線の右シフトの 幅は非常に小さい。したがって、物価上 昇にともなう均衡総生産の減少量は小さ•
い。以上の結果、物価の上にたいして均衡総 生産はあまり減少しない。[
総需要曲線 の傾きは急である]
宿題
•
消費関数をC(Y)=A+c
・Y
、投資関数を
I(
r)=-
b・r、政府購入をG
、(
A,
c、b、G
は正の一定値、ただし、0
<•
c<1)貨幣供給量をM,
物価をP,
実質貨幣需要関数をL(Y, r)=k
・Y+e
・r (k,e
は正の一定値)(a)
以上の設定の下に総需要関数を導出しなさい。(b)
さらに、G
の増大、M
の増大が総需要関数 がどのように変化するかも考察しなさい。(c) e
が大きいとき、総需要関数の傾きはどうなるかについても考察しなさい。
9.3 総供給曲線
総供給量、総供給曲線
•
ある(
物価)
価格水準のもとで、企業が供 給したいと思う生産量の総量を総供給量と いう。• (
物価)
価格水準と総供給量の組み合わせ を 総供給曲線という。•
総供給曲線は要素市場、とくに労働市場の 状況を反映している。•
古典派の総供給曲線、ケインズ派の総供給 曲線とよばれているものを理解しよう。古典派の総供給曲線と 労働市場
• 前提
– 生産者は利潤を最大にするように 労働力を雇用する、という仮説
– 名目賃金は伸縮的である、という仮
• これからやること 説
– 資本ストック K を一定として生産
者の労働需要を考察する。労働市場
の均衡を理解する。そして古典派
の総供給曲線を理解する。
生産関数
• 生産関数
Y
=F
(K
,L
)
K
;資本ストックL
:労働投入量Y
:生産量Y
L
労働の限界生産力
• 労働投入量を追加的に 1 ( ΔL )単 位投入したとき、増大する生産物の 増大量を労働の限界生産力という。
• すなわち、 ΔL 単位の労働投入量
の増大に対して ΔY 単位の生産物の
増大があれば、その比率 ΔY / ΔL ≡∂ F
( K , L )/∂ L ≡MPL が労働の限界生産力
(Marginal Product of Labor )と呼ば
れる。
労働の限界生産力逓減
•
労働投入量が増大するほど、労働の限界生産 力は減少すると仮定する。すなわち、労働の限界生産力逓減の仮説をおく。
MPL
L L
F (K ,L
1)
望ましい労働雇用量
•
利潤を最大にするような労働雇用量を望 ましい労働雇用量と呼ぼう。•
物価水準をP ,
名目賃金をW
とすると、資本ストック
K
が一定のもとでは、利 潤を最大化することは以下の値を最大化 することである。
PF
(K
,L
) ーWL
F
(K
,L
) ー (W
/P
)L
•
(W
/P
) は実質賃金というL
MPL
W/P
A
B
C
D E
F
L
dL
1L
2利潤最大化条件
• 望ましい労働雇用量は Ldである。ここで、労働の 限界生産力が実質賃金と等しくなっている。
すなわち、実質賃金を与えられて、それに労働の 限界生産力が等しくなる水準まで労働を雇用する のが利潤を最大にすることになる。
• それよりも少ない労働雇用量 L1のもとでは利潤は 領域 C だけ減少、
• それよりも多い労働雇用量のもとでは利潤はやは り、領域 F だけ減少する。
労働需要曲線
• 実質賃金と、望ましい労働雇用量の 組み合わせを労働需要曲線という。
• 労働の限界生産力逓減の仮説によっ て労働需要曲線は右下がりになる。
W/P
Ld
労働市場の均衡条件
•
労働者がある実質賃金のもとで供給したい と思う労働量を労働供給量という。•
実質賃金と労働供給量の組み合わせを労働 曲線という。•
労働供給曲線は右上がりであると仮定する。•
労働需要曲線と労働供給曲線が交わる点で、労働市場は均衡する。労働市場の均衡にお いて、均衡実質賃金
( W
/P )
* と均衡労働需 給量L
* が定まる。W/P
Ld Ls 労働需要曲線 労働供給曲線
(W/P )*
L *
名目物価と均衡労働需 給量の関係
• 名目賃金が伸縮的であれば、どのような物 価水準のもとでも労働市場の均衡から自室 賃金
W
/P
が均衡実質賃金 (W
/P
)* と等しく なるように調節される。• すなわち、名目賃金が伸縮的で労働市場が 均衡していればどのような物価水準のもと でも、均衡労働需給量は
L
* で一定である。• したがって、資本ストック一定のもとで、
総生産量も一定になる。
古典派の総供給曲線
• 労働市場の均衡状態を完全雇用状態 (Fu
ll Employment) という。完全雇用労働量
のもとでの総生産量 F ( K , L* ) は完全雇用 生産水準という
• 古典派の総供給曲線はどのような物価
水準のもとでも労働市場は均衡し、完
全雇用生産水準が達成されることをし
めす。次の図を参照
P
供給量 (AS) 古典派の総供給 曲線
ケインズ派の総供給曲線
前提
•
現在の物価水準のもとで、生産量すなわち供 給量は需要によって定まる。いいかえるならば、
現在の物価水準のもとに、企業は需要され るだけの量を生産できる
•
失業が存在する状態(完全雇用が成立してい ない状態)を前提にしている。•
物価P
は現在の水準で与えられている。ケインズ派の総供給曲線
F ( K , L *) P
供給量 (AS) P0
現在の価格
需給均衡と物価水準
• 総需要と総供給の均衡によって均衡生 産量 Y* と物価 P* が定まる。
• ケインズ派の総供給曲線では物価は現
在の物価水準 P
0で水平になっているの
で、現在の物価水準そのもを説明する
ことにはならない点に注意
P AS P AS
F ( K , L *)
Y* F ( K , L *)
P* P0
AD AD
Y*
古典派のケース
9.4 財政政策および金融政策 の効果
• ケインズ派の場合と古典派の場合で財
政政策、金融政策の効果にどのような
考え方の違いが出てくるかを理解しよ
う
拡張的財政政策の効果
• 政府購入を拡大すると、総需要曲線 は右にシフトする。
• ケインズ派のケースでは物価は一定 のまま均衡総生産は拡大する
ケインズ派のケースでは IS-LM 分 析と同じ結果が得られる。
• 古典派のケースでは物価は上昇する
が、均衡総生産は完全雇用生産水準
で一定である
P AS P AS
F ( K , L *)
Y* F ( K , L *)
P* P0
AD
AD
Y*
古典派のケース ケインズ派のケース AD’
AD’
Y*’
P*’
古典派のケースにおける完全 クラウディングアウト
•
拡張的な財政政策を行うとIS-LM
分析から わかることは利子の上昇がおこることであ•
るさらに古典派のケースでは拡張的な財政政 策を行うと、物価水準が増大する。•
物価水準の増大はLM
曲線を左シフトさせ、さらなる利子上昇をもたらす。
•
結局、労働市場が均衡する完全雇用生産水 準に生産量はおちつく。•
政府購入の拡大は利子上昇を通じてその分 だけの民間投資をクラウディングアウトす利子率
総生産 Y*
LM LM’
IS
IS
’
r0 r 1
G 増大の効果
P 上昇の効果
貨幣供給拡大の効果
•
貨幣供給の拡大はIS-LM
分析においてLM
曲 線を右シフトさせる。•
総需要曲線は右シフトする。•
古典派のケースでは物価が上昇するため、LM
曲線は左にシフトバックする。•
その結果、古典派では利子率、均衡総生産は 貨幣供給拡大前のままで物価が上昇するだけに終わる
.
•
古典派のケースでは貨幣供給は物価上昇をも たらすだけである。利子率
総生産 Y*
LM
LM’
IS
r0 P 上昇の効果
M 拡大の効果
9.5 貨幣数量説と貨幣の中立 性
• 貨幣数量説:
物価水準は貨幣供給に完全に比例する。
• 古典派のケースでの貨幣供給拡大の結果 は物価の上昇をもたらすのみで利子率、
均衡総生産にはえいきょうしない。貨幣
が(総生産、利子率など、実質経済変数
に対して)中立的である。古典派のケー
スは貨幣数量説の考え方に一致する