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366 化学と生物 Vol. 55, No. 6, 2017

緑藻クラミドモナスの走光性と細胞レンズ効果

藻類の「眼」の赤い色の役割

光合成生物にとって,刻々と変わる光環境のなか,光 の指す方向と強度に応じた行動を取ることは生存のため に必須である.光環境に応じて泳ぎ方を変化させる遊泳 性微細藻類は,この「光行動」の良い研究材料である.

なかでも緑藻クラミドモナス(

和名コナミドリムシ)は,迅速な光行動を示す こと,1倍体であるため光行動に異常のある突然変異株 を得ることが容易なことなどから,光行動研究に最適の 生物として広く使われている.クラミドモナスは単細胞 生物であり,細胞側面に光受容装置「眼点」を一つも つ.細胞前端に鞭毛が2本生えており,これらを平泳ぎ のように動かして泳ぐ.人間の平泳ぎと異なるのは,

2本の鞭毛の打面がずれているために自転しながら泳ぐ ことである.

眼点は2つの部品からなる.一つは葉緑体内にある光 反射板(カロテノイド色素層;そのため眼点は赤く見え る),もう一つはその外側,細胞膜にある光センサー

(光受容タンパク質チャネルロドプシン)である(図 1A).反射板の正面からきた光は反射によって増幅され てセンサーに当たり,逆に細胞の内側を通ってきた光は 反射板に遮られてセンサーに届かない.つまり眼点は高 指向性光受容装置である.また,チャネルロドプシンは 光を感じると陽イオンを通すチャネルタンパク質であ る.光を受容すると陽イオンが流入し,それがきっかけ となって細胞内Ca2+濃度が上昇すると考えられている.

全体として見ると,細胞の進行方向に対して横から光が 当たると,細胞が自転して眼点の向きが変わるたびにセ

ンサーが感じる光強度は大きく増減する.それに伴い細 胞内Ca2+濃度が変動することで,細胞は光源方向を正 確に感知する.

細胞内Ca2+濃度の変動は何をもたらすか.実は,2本 の鞭毛の打つ強さのバランスがCa2+濃度に依存して変 化する(1).眼点が光源側を向いてCa2+濃度が10−7 M程 度に上昇すると眼点から遠い鞭毛(トランス鞭毛)が強 く,その後眼点が逆側を向いて10−9 M程度に下がると 眼点側の鞭毛(シス鞭毛)が強く打つ.つまり眼点がど ちら側にあるときも光源から遠い側の鞭毛を強く打つた め,細胞はだんだん光源方向に傾いて泳ぐ.これが正の 走光性である(2).一方,光から逃げる負の走光性の場合 は,何らかの因子によって光感受から片方の鞭毛の強打 までの時間が自転半周期分遅れるか,もしくはCa2+濃 度に対する反応が2本の鞭毛で逆になることで実現する と考えられている(図1B).

この走光性の正と負(符号)を入れ替える因子は長い 間謎とされてきたが,筆者らの以前の研究によって明ら かになった.細胞内の酸化還元(reduction-oxidationの 略でレドックスと呼ばれる)状態変化である.細胞内は 通常は酸化によるタンパク質などの変性を防ぐため,や や還元的に保たれている.しかし,光合成や呼吸の活性 の変化などによって一時的に酸化的に,あるいは過剰に 還元的に変化する.以前,光合成活性変化によって走光 性の符号が入れ替わるという報告があったことから,筆 者らは細胞内レドックス状態が直接の要因ではないかと 考えた(3).実験の結果,細胞を酸化的にする活性酸素種

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(ROS)で処理をすると正の走光性を,逆に還元的にす るROS消去剤で処理すると負の走光性を示した(4)(図 1C).おそらくクラミドモナスは,受容した光強度情報 を,光合成を通して「細胞内レドックス状態」情報へと 変換し,「いま光を浴びるべきか,逃げるべきか」を判 断しているのだろう.

このレドックスによる走光性符号切り替えの発見に よって,研究の新しい展開が可能になった.細胞内の酸 化・還元状態と走光性の正・負の関係が崩れる新しい突 然変異株を単離し,そのような株の原因遺伝子が同定で きれば,この切り替え制御について分子レベルの知見が 得られるだろう.筆者らは野生株と逆,つまり酸化する と負,還元すると正の走光性を示す株を得ることに成功 した(5)(図1C).この新しい走光性符号逆転変異株

の原因遺伝子を同定したところ,カロテノイド色素 を作る過程で重要な働きを示す酵素に異常があることが わかった.カロテノイド色素といえば眼点の反射板の部

分である.顕微鏡観察すると,たしかに 細胞に は野生株細胞に見られる赤い眼点がなかった(図1A).

なぜ眼点の反射板がないと逆向きに泳ぐのだろう?  これまでの考え方では,反射板である色素層がなくなる と,光がどこから来たのかわからなくなり,走光性を示 さなくなるはずである.しかし, 株は,符号は 逆ではあるものの走光性自体は示す.そこで筆者らが思 い至ったのが細胞レンズ効果である.それ自体は菌類な どで報告されているよく知られた現象で,球状の透明な 細胞が凸レンズのように働いて光を集めるというもので ある.もしもクラミドモナス細胞にもレンズ効果がある とすると,反射板のない 株ではセンサーが光源 側を向いて直接光を浴びたときよりも,光源と反対側を 向いて細胞によって集光された光を浴びたときのほうが

「(より)明るい」と感じるだろう(図1D).「明るい」

と感じた後の鞭毛の調節の仕方が野生株と同じならば,

野生株と反対の方向に泳ぐだろう.

図1クラミドモナスの眼点,走光性,細胞レンズ効果

A. クラミドモナス野生株と 株細胞の明視野像と眼点の模式図.眼点は赤い色素層による光反射で高指向性光受容を行う.

には赤い色素がない.B. クラミドモナスの走光性の模式図.眼点の高指向性光受容と自転遊泳を組み合わせて光源方向を感知し,2本の鞭 毛を打つバランスを変化させて正または負の走光性を示す.C. 培養液に活性酸素薬剤(上)または活性酸素消去剤(下)処理をして右か ら光を当てた.野生株はそれぞれ正,負の走光性を, はその逆符号の走光性を示す.D.  の逆符号走光性を説明する細胞レ ンズ仮説.E.(左)顕微鏡の視野絞りに,OHPシートに印刷した「化学と生物」の「化」の字を置いた.(右上)クラミドモナス細胞をス ライドガラスに接着させ,焦点面を上にあげていくと(右下)各細胞の上に「化」の字が結像した.Bar=10 µm

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この仮説を証明するためには,細胞にレンズ効果があ ることを示さなければならない.しかし,クラミドモナ ス細胞は光を吸収する葉緑体をもつことから,レンズ効 果はないという否定的な説があった.筆者らは,シンプ ルな方法でレンズ効果を実証した.凸レンズなら像を結 ぶはずである.そこで,顕微鏡の光路上に字や絵を置い てクラミドモナスを観察し,焦点面を少し上にずらして みた.すると,確かに細胞一つひとつの上に像が結ばれ た(図1E). 細胞は,細胞レンズ効果を帳消し にするための反射板である色素層を失ったため,光源方 向を誤認したと考えられる.おそらくクラミドモナスの 祖先にあたる生物は,自らの体が細胞レンズ効果をも ち,光受容体単独では光源方向を誤認してしまうことか ら,進化の過程で光受容体を裏打ちする位置に光反射板

(色素層)を置くという戦略をとったのだろう.

今回の研究により,走光性の符号を正しく決めるとい うクラミドモナスにとって重要な生存戦略の反応のう ち,根元の部分である「光源方向を正しく認識する」メ カニズムが明らかになった.今後はその下流にあたる,

細胞が自らのレドックス状態をどのように判定し,その 情報をどのようにして鞭毛に伝えているのかという情報 伝達経路を明らかにしたい.この研究を通じて,光合成 生物に共通するレドックス感受のメカニズムや,鞭毛を 使って走性を示す生物に共通する運動制御メカニズムに 出会えることを期待している.

  1)  R. Kamiya & G. B. Witman:  , 98, 97 (1984).

  2)  N.  Isogai,  K.  Yoshimura  &  R.  Kamiya:  , 17,  1261 (2000).

  3)  T.  Takahashi  &  M.  Watanabe:  , 336,  516  (1993).

  4)  K.  Wakabayashi,  Y.  Misawa,  S.  Mochiji  &  R.  Kamiya: 

108, 11280 (2011).

  5)  N. Ueki, T. Ide, S. Mochiji, Y. Kobayashi, R. Tokutsu, N. 

Ohnishi,  K.  Yamaguchi,  S.  Shigenobu,  K.  Tanaka,  J. 

Minagawa  :  , 113, 5299 

(2016).

(植木紀子,若林憲一,東京工業大学科学技術創成研究 院化学生命科学研究所)

プロフィール

植木 紀子(Noriko UEKI)

<略歴>1999年筑波大学第二学群生物学 類卒業/2005年東京大学大学院理学系研 究科博士課程修了,博士(理学)/同年理化 学研究所基礎科学特別研究員/2009年ド イツ・ビーレフェルト大学博士研究員/

2013年中央大学理学部博士研究員/2014 年東京工業大学資源化学研究所(現・科学 技術創成研究院化学生命科学研究所)博士 研究員,現在に至る<研究テーマと抱負>

藻類の光応答行動とその多細胞化進化に伴 う変遷<趣味>スナップ写真撮影 若林 憲一(Ken-ichi WAKABAYASHI)

<略歴>1996年東京大学理学部生物学科 卒業/2001年同大学大学院理学系研究科 修了,博士(理学)/同年基礎生物学研究所 非常勤研究員/2002年米国コネチカット 大学ヘルスセンター博士研究員/2005年 東 京 大 学 大 学 院 理 学 系 研 究 科 助 手(助 教)/2011年東京工業大学資源化学研究所

(現・科学技術創成研究院化学生命科学研 究所)准教授,現在に至る<研究テーマと 抱負>藻類の光応答‒鞭毛運動調節連関

<趣味>レンズ越しに物を見ること全般

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.366

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