都築 暢夫
7 月 7日(金) 3・4 時限 線形空間論を、定数係数線形常微分方程式に応用する。
1. 線形常微分方程式系
一つ、もしくはいくつかの変数に関する、一つ、もしくはいくつかの関数とその導関数 (高次導関数も含む) のなす方程式 (系) を微分方程式 (系) という。例えば、変数 t, x と その関数 u=u(t, x) に関する関係
∂ u
∂t = ∂2u
∂x2 +f(t, u)
(f(t, u) は t と u に関する関数) は微分方程式である。上の関係を満たす関数u=u(t, x) を解という。一つの関係式のときは微分方程式、いくつかの関係式のときは微分方程式系 という。変数が一つのときを常微分方程式 (系) といい、変数が複数のときを偏微分方程 式 (系)という。また、微分方程式 (系)の中に現れた最高階の導関数の階数を微分方程式 の階数という。上の方程式は 2 階偏微分方程式である。
常微分方程式
(∗) dry
dxr =a1(x)dr−1y
dxr−1 +· · ·+ar−1dy
dx +ar(x)y を r 階線形常微分方程式という。
y1 =y, y2 = d
dxy,· · · , yr = dr−1 dxr−1 とおくと、(∗) はベクトル値関数の微分方程式
d dx
y1 y2 ...
yr−1 yr
=
0 1 0 · · · 0
0 0 1 . .. 0
... ... ... ... ...
0 0 . . . 0 1 ar ar−1 ar−2 . . . a1
y1 y2 ...
yr−1 yr
と表せる。このような未知関数の 1 次斉次式を連立したものを線形常微分方程式系とい い、多変数化を線形偏微分方程式系という。
さて、微分方程式を解く場合どのような範囲の関数の中で解を探すかということが問 題になる。例えば、Cs 級関数の範囲、実解析関数、超関数と呼ばれるものまで拡大して 考えるなどがある。また、実数全体で定義される解数を考えたいのか、ある点の周りの小 さな範囲の関数を考えるとかがある。それは、問題の設定による。この講義では、限られ た形の微分方程式しか扱わないので、解は常に実数全体で定義された C∞ 級の関数を考
える。解の解析的な性質や関数の範囲の問題については、今後の解析の講義の中で扱わ れる。
定理 1.1. r 階線形常微分方程式 (∗) において、a1(x),· · · , ar(x) を実数直線上の C∞ 関数とする。(∗)の C∞ 級解のなす空間V は r 次元実線形空間になる。さらに、任意 のx0 ∈R と任意の
α0
...
αr−1
∈Rr に対して、初期値が
y(x0) ...
(dxdr−1r−1y)(x0)
=
α0
...
αr−1
と なる解がただ一つ存在する。
r= 1 のときのみ証明する。(完全には「解析学 D」において扱う。)
証明. (i)r が一般のときV が実線形空間であること : y1, y2 ∈V, a∈R とする。
dr
dxr(y1+y2) = dxdrry1 +dxdrry2
= a1(x)dxdr−1r−1y1+· · ·+ar(x)y1+a1(x)dxdr−1r−1y2+· · ·+ar(x)y2
= a1(x)dxdr−1r−1(y1+y2) +· · ·+ar(x)(y1+y2)
dr
dxr(ay1) =adxdrry1 = a(a1(x)dxdr−1r−1y1+· · ·+ar(x)y1)
= a1(x)dxdr−1r−1(ay1) +· · ·+ar(x)(ay1)
となるので、y1+y2, ay1 ∈V である。よって、V は実線形空間である。
(ii) r = 1 のとき : a(x) = a1(x)と表す。
y(x) = exp µZ x
0
a(t)dt
¶
とすると (exp(u) = eu のこと)、y = y(x) は微分方程式の解で至るところ 0 でない。さ らに、a(x)の積分はC∞ 級でその指数関数より、y は C∞ 級である。y1 ∈V とする。
d dx
y1
y = y01y−y1y0
y2 = ay1y−y1ay y2 = 0
(y−1 は実数直線全体での C∞ 関数であることに注意せよ) ので、ある定数c が存在して
y1
y =cとなる。y1 =cy となるので、y が V の基底である。よって、dimV = 1 である。
y は至る所で 0 でないので、初期値に関する部分も成り立つ。 ¤
2. 定数係数線形常微分方程式
(∗)の係数 a1,· · · , ar が定数のとき、定数係数線形常微分方程式という。2階の定数係 数線形常微分方程式を考察する。
2.1. 例 1. 2階線形常微分方程式
(]) y00+ 6y0+ 9y= 0
を考える。行列表示すると d dx
µy y0
¶
=
µ 0 1
−9 −6
¶ µy y0
¶
となる。A=
µ 0 1
−9 −6
¶
とし、An =
µan bn cn dn
¶
とする。形式的に Y =eAx =
X∞
n=0
An n!xn=
µP∞
n=0 an
n!xn P∞
n=0 bn
n!xn P∞
n=0 cn
n!xn P∞
n=0 dn
n!xn
¶
とおき (A0 =E2 とする)、項別微分できるとすると d
dxY = X∞
n=1
An
(n−1)!xn−1 =A X∞
n=0
An
n!xn=AY となる。||An||= max{an, bn, cn, dn}とおくと、帰納的に
||An|| ≤2n−1×9n
がわかる。実際、|an+1|=|ana1+bnc1| ≤2||An||||A|| ≤2n−1×9n である。よって、任意 の閉区間でY は絶対一様収束するので、Y は実数全体で C∞ 級の関数を成分にもつ行列 で、級数表示されている関数は項別微分可能である。
y1 = X∞
n=0
an
n!xn, y2 = X∞
n=0
bn n!xn
とおくと、y1 と y2 は (]) の解になる。さらに、これらは解空間 V の基底になる。実際 γ1y1+γ2y2 = 0 (γ1, γ2 ∈R)
とすると、y1(0) = a0 = 1, y10(0) = a1 = 0, y2(0) = b1 = 0, y20(0) = b1 = 1 なので、
γ1 =γ2 = 0 となる。よって、y1 と y2 は 1次独立である。detY(0) = 1 かつ d
dx(detY) =y01y20 +y1y200−y20y01−y2y100=y1(−6y02−9y2)−y2(−6y01−9y1) =−6detY となるので、前節定理に階数 1 の場合より、detY は至る所 0 にならない関数である。
よって、Y の逆行列も実数全体上C∞ 級関数値行列であり、(Y Y−1)0 = 0より、(Y−1)0 =
−Y−1Y0Y−1 である。z を微分方程式(]) の解とする。
d dx
µ Y−1
µz z0
¶¶
= −Y−1Y0Y−1 µz
z0
¶
+Y−1 µz
z0
¶0
= −Y−1AY Y−1 µz
z0
¶
+Y−1A µz
z0
¶
= µ0
0
¶
となるので、
µz z0
¶
=Y µγ1
γ2
¶
(γ1, γ2 ∈R)である。したがって、z =γ1y1+γ2y2 であり、
y1 と y2 が解空間 V の基底になる。
さて、An を求めて解を具体的に表示しよう。A の固有多項式は φA(x) =
¯¯
¯¯ x −1 9 x+ 6
¯¯
¯¯=x(x+ 6) + 9 = x2+ 6x+ 9 = (x+ 3)2
となり、その固有値は −3 のみである。−3E2−A =
µ−3 −1
9 3
¶
なので、複素線形空間 として広義固有空間は
W1(−3) =
¿µ 1
−3
¶À
=V(−3) W2(−3) =C2 =W(−3)
となる。x2 = µ0
1
¶
,x1 = (A+ 3E3)x2 = µ 1
−3
¶
となるので、P = (x1x2) =
µ 1 0
−3 1
¶ と おくと、Jordan 標準形は
J =P−1AP =J(−3,1) =
µ−3 1 0 −3
¶
となる。N =
µ0 1 0 0
¶
とすると、N2 = 0, N E2 =E2N なので Jn= (−3E2+N)n = (−3)nE2+n(−3)n−1N =
µ(−3)n (−3)n−1n 0 (−3)n
¶
となる。よって eJx =
X∞
n=0
Jn n!xn =
ÃP∞
n=0
(−3)nxn n!
P∞
n=1
(−3)n−1xn (n−1)!
0 P∞
n=0
(−3)nxn n!
!
=
µe−3x xe−3x 0 e−3x
¶
である。An =P JnP−1 より Y = P∞
n=0 An
n!xn=P ¡P∞
n=0 Jn n!xn¢
P−1
=
µ 1 0
−3 1
¶ µe−3x xe−3x 0 e−3x
¶ µ1 0 3 1
¶
=
µe−3x+ 3xe−3x xe−3x
−9xe−3x e−3x−3xe−3x
¶
となる。したがって
y1 =e−3x+ 3xe−3x, y2 =xe−3x である。
2.2. 例 2. 2階線形常微分方程式
([) y00−4y0 + 5y= 0
を考える。行列表示すると d dx
µy y0
¶
=
µ 0 1
−5 4
¶ µy y0
¶
となる。A=
µ 0 1
−5 4
¶
とし、An =
µan bn
cn dn
¶
とする。例 1 と同様にして Y =eAx =
X∞
n=0
An n!xn=
µP∞
n=0 an
n!xn P∞
n=0 bn
n!xn P∞
n=0 cn
n!xn P∞
n=0 dn
n!xn
¶
は実数全体で C∞ 級の関数を成分にもつ行列で、級数表示されている関数は項別微分可 能である。例1 と同様に
y1 = X∞
n=0
an
n!xn, y2 = X∞
n=0
bn
n!xn とおくと、y1 と y2 は([) の解空間の基底になる。
さて、An を求めて解を具体的に表示しよう。A の固有多項式は φA(x) =
¯¯
¯¯ x −1 5 x−4
¯¯
¯¯=x(x−4) + 5 =x2−4x+ 5 = (x−2−i)(x−2 +i)
となり、その固有値は 2±i である。A は異なる 2 つの固有値を持つから、A は複素行 列として対角化可能である。それぞれの固有空間は
V(2±i) =
¿µ 1 2±i
¶À
となるので、P =
µ1 2 +i 1 2−i
¶
とおくと、A の対角化は P−1AP =
µ2 +i 0 0 2−i
¶
となる。よって、
Y = X∞
n=0
An
n!xn=P (X∞
n=0
µ(2 +i)n 0 0 (2−i)n
¶xn n!
) P−1
=
µ1 2 +i 1 2−i
¶ µe(2+i)x 0 0 e(2−i)x
¶ 1 2i
µ2−i −2−i
−1 1
¶
= −1 2i
µ(2−i)e(2+i)x−(2 +i)e(2−i)x −e(2+i)x+e(2−i)x 5e(2+i)x−5e(2−i)x −(2 +i)e(2+i)x+ (2−i)e(2−i)x
¶
=
µ1+2i
2 e(2+i)x+1−2i2 e(2−i)x −2ie(2+i)x+ 2ie(2−i)x
5i
2e(2+i)x−5i2e(2−i)x 1−2i2 e(2+i)x+ 1+2i2 e(2−i)x
¶
となる。固有値が複素数なので、関数の級数表示に複素数が出てくる形になる。これらの 関数は、複素解析関数と呼ばれるもの実数への制限と解釈できる。複素解析関数は、「解 析 B・C」のテーマである。Euler の関係式
eu+iv =eu(cosv+isinv) (u と v は実数) を用いると
1+2i
2 e(2+i)x+ 1−2i2 e(2−i)x = 1+2i2 e2x(cosx+isinx) + 1−2i2 e2x(cosx−isinx)
= e2x(cosx−2sinx) などとなるので
Y =
µe2x(cosx−2sinx) e2xsinx
−5e2xsinx e2x(cosx+ 2sinx)
¶
である。したがって、
y1 =e2x(cosx−2sinx), y2 =e2xsinx
である。最終的な式は複素数を含まない形になった。
2.3. 2 階定数係数線形常微分方程式. 2階定数係数線形常微分方程式の解空間は2次元線
形空間とわかるから、1 次独立な 2 つの解を見つければ解空間が決まる。例えば、例 1 の場合はe−3x と xe−3x を (何らかの方法で)見つけ出せばよい。初期条件 (例えばx= 0 でのy と y0 の値) が決まれば、基底ににかかる係数が一意に決まり解が定まる。
以上まとめると、次がわかる。
定理 2.1. a, bを実数とし、D =a2−4b とする。2 階定数係数線形常微分方程式
(†) y00+ay0+by= 0
の解空間は実 2次元線形空間で次が成り立つ。
(1) D > 0 とし、互いに異なる実数 α, β を x2+ax+b = 0 の解とすると、(†) の解空間は eαx, eβx を基底に持つ。
(2) D = 0 とし、実数 α を x2+ax+b = 0 の重解とすると、(†) の解空間は eαx, xeαx を基底に持つ。
(3) D < 0 とし、互いに異なる複素数 α =u+iv, β =u−iv を x2 +ax+b = 0 (u, v ∈R)の解とすると、(†)の解空間は euxcosvx, euxsinvx を基底に持つ。
初期値 y(0), y0(0) を決めると、解は一意的に定まる。
3. 定数係数線形上微分方程式系
A を実係数r 次正方行列、yをx 変数 r 次ベクトル値未知関数 (縦ベクトル) とする。
線形表微分方程式系
(?) y0 =Ay
に対し、解で生成されるベクトル値関数のなす実線形空間を解空間という。
定理 3.1. 無限級数Y =eAx=P∞
n=0 An
n!xn は任意の閉区間上で絶対一様収束する。特 に、Y は C∞ 級関数で、無限級数は項別微分可能である。(?)の解空間は r 次元実線 形空間で、Y の縦ベクトルたちがその一組の基底になる。初期値 y(0) を決めると、解 は一意的に定まる。
問 10. 3解定数係数線形上微分方程式について、定理 2.1 と同様の考察をせよ。
問 11. 定理3.1 を証明せよ。