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天然物に適したフェノティピックスクリーニング - J-Stage

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Academic year: 2023

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2015年のノーベル生理学・医学賞が,微生物および植物由来の天然物を用いた寄生虫病の制圧に対して授与され た.最近の医薬品開発では,合成化合物をスクリーニング源とする薬剤探索が主流であるが,今回の大村教授ら の受賞は,天然物の重要性を再認識する契機となる.これを機会に,本稿では,天然物スクリーニングの現状を 考察し,細胞形態変化に基づくフェノティピックスクリーニングについて,われわれの研究例を挙げながら紹介 する.

はじめに

1901年に始まったノーベル賞は,最初の生理学・医 学賞がベーリング(ジフテリアの抗血清療法)に,翌年 にはロス(マラリア感染)に与えられていることからも うかがえるとおり,当初から感染症の克服が主要な授賞 対象であった.現在までに,疾病原因の解明およびその 治療法に関するノーベル賞は多数あるが,微生物二次代 謝産物の発見とそれを用いた治療法の開発に関する賞 は,1945年のフレミング,フローリー,チェイン(ペ ニシリンの発見)と,1952年のワクスマン(ストレプ トマイシンの発見)の2件であった.そして,2015年の 生理学・医学賞が,大村教授とキャンベル教授の寄生虫 感染症の克服(イベルメクチン)に授与されることに なった.微生物代謝産物ではないが,屠教授も植物由来 のアルテミシニンによるマラリア感染症の治療法開発 で,同賞を受賞する.

1950年代から70年代まで,世界中で新規抗生物質の 探索が行われ,発見された新規物質が次々に医薬として 開発された黄金期があった.さらに,微生物代謝産物の 応用範囲は広がり,免疫抑制剤やコレステロール合成阻 害剤のように抗菌以外の生物活性物質が医薬品として開 発された.この研究分野でのわが国の貢献は大きく,梅 澤濱夫(カナマイシン)や遠藤 章(スタチン)らが,

微生物代謝産物の探索研究で世界的な評価を受けてき

た.

しかし,1980年代以降,次第に微生物由来の創薬が 困難になり,化学合成された化合物を用いたハイスルー プットスクリーニング(HTS)が隆盛した.大企業で は,百万種類ともいわれる化合物ライブラリーを整備し て,大規模スクリーニングを行っている.しかし,天然 化合物と合成化合物のどちらが探索源として優れている のか,あるいは,多数のサンプル数を評価するだけでな く,限られたサンプル数を丁寧に評価する表現型(フェ ノティピック)スクリーニング(ハイコンテンツスク リーニング:HCS)法に関しても,再考しても良いので はないだろうか.

SwinneyとAnthonyは,1999〜2008年の10年間に開 発されたピカ新(First-in-class)薬は,細胞レベルのス クリーニング(phenotypic screening)で開発されたも のが多く,ゾロ新(followers)薬は,標的限定のスク リーニング(target based screening)で開発されたも のが多いことを発表している(1)(図1

細胞形態の変化に基づくバイオアッセイ系

小分子の生理活性をスクリーニングするためには,簡 便なバイオアッセイ系の確立が必要である.スクリーニ ング系は,酵素レベル,細胞レベル,そして個体レベル でのアッセイ系に大別されるが,それぞれのアッセイ系 で一長一短がある.われわれは,スクリーニング系を構 築する際に,4つのS(Simple, Speedy, Sensitive, Spe-

【特集】

  2015

年ノーベル生理学・医学賞受賞記念特集:微生物探索研究

天然物に適したフェノティピックスクリーニング

長田裕之

Hiroyuki OSADA, 理化学研究所環境資源科学研究センター

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

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cific)とD(Distinctive)を満たすような系を構築する ことを心掛けている.すなわち,検定手順が簡便で,検 定結果が早く出て,検出感度が高く,特異性が高いこ

と,そして検定結果の判定が容易であることが良いスク リーニング系と言える.細胞レベルの系で4S & Dの基 準をクリアーすることは容易ではないが,天然物を探索 源としたときのスクリーニングとしては,フェノタイプ ベースのスクリーニング系は相性が良いと感じている.

1. 抗真菌剤のスクリーニング 真菌類には,人体に感染する

や,植物に感染する など,多数の

病害菌が存在する.それに対して有効な抗真菌剤が開発 されてきたが,いずれも耐性菌の出現が問題になってお り,新たな抗真菌剤の開発は,今も望まれている.しか し,真菌は真核生物であり,その宿主と生化学的,細胞 学的な類似性も高いため,真菌特異的な薬剤標的は限ら れている.実際に,これまでに開発されてきた優れた抗 真菌剤の多くは,真菌に特徴的な細胞壁の合成阻害剤で ある.

理研抗生物質研究室では,放線菌からpolyoxinを単 離し,農業用抗真菌剤として実用化に成功している(2). 遠藤ら(3)によって,polyoxinが糸状菌の細胞壁合成を阻 害することが示され,顕著なswellingを誘導することも 知られている.われわれは,先行研究(4)を参考にして,

図1ピカ新薬(A)とゾロ新薬(B)を見いだしたスクリーニ ング法

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

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図3がん細胞を指標にしたスクリーニング系

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

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いもち病菌 の形態変化データベースを構築 し,形態変化を指標にした新規抗真菌剤のスクリーニン グを実施した.

スクリーニング系に用いた は,糸状菌の中 でも最も多くの細胞外シグナル受容体を有しており,化 合物に対する反応性が高く,さまざまな形態変化を示す ことが知られている. を検定菌として,さま ざまな化合物を添加して形態変化を,時間・濃度依存的 に観察し,形態変化パターンをデータベース化した.そ の 結 果,主 に “swelling”,“short”,“granular”,“tox- ic”,“long”,“vacuolation”,“long  germ”,“beads”,

“eye form”,“curl” という10の表現型に分類した.ま

た,同じ “swelling” の形態でも,キチン生合成阻害剤

polyoxin Dは24時間後,イオノフォアであるmonensin では48時間後に形態変化が生じ,時間変化もパラメー ターに加えると,それぞれを区別することができた(図 2

構築した表現型データベースが,抗真菌剤のスクリー ニングに適用可能なことが示されたので,約5,500種の 天然化合物ライブラリーと約7,200株の微生物培養液を テストサンプルとしてハイコンテントスクリーニングを 実施した.その結果,すでにユニークな形態変化を誘導 することが報告されているlipopeptin(5)や塩素含有シキ ミ酸誘導体(4)などを効率良く同定でき,本データベース の有用性が示された.

2. 動物細胞の形態変化を指標にしたスクリーニング系 抗真菌剤のスクリーニングでは,ヒトの目で顕微鏡観 察を行っているが,動物細胞を用いた場合には,市販さ れている自動顕微鏡システム(IN Cell Analyzer, Cell- Voyager, CellInsightなど)の利用が可能である.マル チパラメーターの画像処理,および視覚化ツールを用い た細胞の定性化・定量化を行うことで,表現型のハイス ループット検出が可能である.マルチウェルプレート

(96穴,384穴)に細胞を播種し,スクリーニング検体 を添加した後で生じるさまざまな細胞の表現型を同時観 察するHCSが注目されている.

特に,天然化合物は低濃度で細胞に特徴的な形態変化 を誘導するものが多いので,われわれはIN Cell Ana- lyzer,化合物の作用機序と細胞の形態変化に関する データベースを作成して,新規化合物のスクリーニング に利用している.

検定に用いる細胞を種々検討した結果,これまでに当

胞も,さまざまな化合物に応答してユニークな形態変化 を誘導するが,目視による顕微鏡観察では評価結果に個 人差が出る可能性があるため,In Cell Analyzerを用い て自動観察を実施した.それぞれの細胞で,細胞形態,

核形状,オルガネラ形状をパラメーターとして自動取得 して,その後,2種類の細胞で得た結果を多変量解析し た.作用機作の同じ化合物は同じクラスターに分類でき ることを確認しデータベース(MorphoBase)に登録す ることにより,作用未知の化合物の作用を予測するシス テムを開発した.未精製の微生物培養液であっても,細 胞の形態変化は感度良く観察することができ,その形態 変化をMorphoBaseで比較することにより,既知の化合 物とまだ報告されていない活性の化合物が,容易に区別 された(図3

糸状菌培養液から単離されたピロリジラクトン(Pyr- rolizilactone)は,ユニークな構造を有しており,類縁 化合物も少ない(8).MorphoBase(形態変化)および ChemoProteoBase(プロテオーム変動)の解析から,

薬剤標的はプロテアソームであることが推定された.生 化学的アッセイを行った結果,ピロリジラクトンは20S プロテアソームのトリプシン様活性,キモトリプシン様 活性およびカスパーゼ様活性を阻害し,特にトリプシン 様活性を強く阻害することが明らかとなった(9)

まとめ

本稿では,多数の試験サンプルから目的化合物を選び 出すHTSではなく,化合物が誘導する細胞(動物細胞,

植物細胞,真菌)の形態変化を丹念に観察するHCSに ついて述べた.微生物培養液を直接HTSにかけると,

夾雑物が影響して,明瞭な結果を得ることができない場 合が多いが,HCSでは比較的夾雑物の影響は少なく,

さらにスクリーニングでヒットサンプルを同定すると同 時に作用標的を予測できるというメリットがある.

2015年のノーベル生理学・医学賞では,微生物およ び植物由来の天然物を用いた寄生虫病制圧が授賞対象と なった.天然物の魅力を再認識することができたが,さ らに天然物の力を引き出すために工夫を重ねなくてはな らない.

謝辞:糸状菌,細胞の写真を提供していただいた二村友史博士に深謝し ます.

文献

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

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  2)  S. Suzuki, K. Isono, J. Nagatsu, T. Mizutani, Y. Kawashi- ma & T. Mizuno:  , 1965, 131 (1965).

  3)  A.  Endo,  K.  Kakiki  &  T.  Misato:  , 104,  189  (1970).

  4)  E. Kitamura, A. Hirota, M. Nakagawa, M. Nakayama, H. 

Nozak,  T.  Tada,  M.  Nukina  &  H.  Hirota: 

31, 4605 (1990).

  5)  K. Tsuda, T. Kihara, M. Nishii, G. Nakamura, K. Isono & 

S. Suzuki:  , 33, 247 (1980).

  6)  H. Osada, H. Koshino, K. Isono, H. Takahashi & G. Kawa- nishi:  , 44, 259 (1991).

  7)  M. Muroi, S. Kazami, K. Noda, H. Kondo, H. Takayama,  M. Kawatani, T. Usui & H. Osada:  , 17, 460  (2010).

  8)  T.  Nogawa,  M.  Kawatani,  M.  Uramoto,  A.  Okano,  H. 

Aono, Y. Futamura, H. Koshino, S. Takahashi & H. Osa- da:  , 66, 621 (2013).

  9)  Y. Futamura, M. Kawatani, M. Muroi, H. Aono, T. Noga- wa & H. Osada:  , 14, 2456 (2013).

プロフィール

長田 裕之(Hiroyuki OSADA)

<略歴>1978年東京大学農学部農芸化学 科卒業/1983年同大学大学院農学系研究 科博士課程修了/同年理化学研究所入所抗 生物質研究室/1992年同学研究所主任研 究員(抗生物質研究室)/2008年同研究所 基幹研究所ケミカルバイオロジー研究領域 長/2012年同研究所環境資源科学研究セ ンター副所長<研究テーマと抱負>微生物 が作る生理活性物質の化学的生物学的研 究.小分子化合物を用いて生命現象の謎を 解き明かしたい<趣味>飲酒談笑,サイク リング

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.32

日本農芸化学会

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Referensi

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