7月11日 愛知県西春日井郡師勝町大字鹿田 野上り
清水進さん方にて岩倉町文化財保護委員長伊藤正之助氏より聞書。
(中略) 野上がり。
田植が終了したときは各家毎に、野上りをする。サナブリという言葉は現在余程の老人でないと知らない。各家 では大てい台所の板の間に納屋があって、食器や、食料品を貯蔵するが、その中の1番上の棚の隅に大黒様を祀る。
恵美須、大黒の陶物と大黒様の刷物を熱田さんで買って来て、大ていの家で今朝お光を上げ、お供えをする。野上 りの日は田から帰るとき3束の苗の根の土をよく洗い落して家に持ち帰りこれを大黒様に供えて祀るのである。米、
餅、うるちの苗を少しづゝ3束土器に鼎に立て、葉の上の方を1束に縛る。ある家ではこの3束の苗で小さな俵を編 んで供える家もある。大黒様は毎日まつるので苗は大てい2、3日で下げる。地面に捨てるのは勿体ないので手より 高い所へ上げて置くと、そのまゝ枯れる。大てい盆のおみがき(13日)に使う。
部落の田植が皆終ったあとで、代表が国府宮へお詣りしてお札を2枚貰って来る。1本の1.7m程の笹青竹に輪注 連を掛け、これにお札1枚をとりつけたもの2本をつくって村境の田の縁、大てい道を挟んで2ヶ所に立てる。こ れは野上りというよりも、虫送りの意味でもあったらしい。
田植のとき、余った苗はいろいろ仮植するが、その仮植の場所と方法で夫々違った呼方をするらしい。例えば、
1、水口のあたりに束にして仮植しておく
2、余り苗を束にせず、1列に並べて田の畦に倒しかけるように仮植しておく。
3、田の中、所々小束にして仮植しておく。草とりは1番草、2番草、3番草を盆のころまでにやった。ほうお
う様。(オンカともいう)
虫追いのことでオンカはウンカの訛りではないか。サイトウサネモリともいう。この地方では焼き捨てる所と川 へ流す所とある。何れの場合も五色の紙の幟を一しょに待って行く。大てい7月12日頃である。部落の北方、川上 の方の田から廻って南の方川下の川に流す。昼食をたべてから御祈祷をして貰って夕方からほうおう様を担いで田 を廻ることが多い。(以下略)