1. 集合・写像
科目: 線形代数学I及び演習(1‐3組)
担当: 相木
線形代数学に限らず,数学全般で使用される集合や写像に関する記号の定義・用法の 確認をする.
集合
集合とは,「もの」の集まりである.どのような「もの」ならば集合として扱えるか,
という疑問も浮かぶかと思うが,厄介な話になるのでそこまでは立ち入らない.普段 の生活で目にする「もの」や授業で扱う数学的な「もの」は,基本的に集合として扱 える,くらいの感覚でよい.また,集合に入っている「もの」のことを集合の要素,
あるいは元(げん)という.
集合の表し方1
集合の要素をすべて書き下す方法:
例えば1,2,3という3つの数の集合を {1,2,3}
と中括弧{ }で囲んで表す.また,この集合にAという名前を付けたい場合,「A = {1,2,3}とする」などと書く.
注意:ここで,1と{1}は違うものを表すことに注意する.1は自然数の要素である1 という「数」を表すが,{1}は自然数1という要素のみからなる「集合」を表してい るのである.
集合に関連する記号と用法
A, Bを集合とする.
• x∈AまたはA∋x:xは集合Aに属する.このとき,xをAの元,あるいは要 素という.
• x̸∈AまたはA̸∋x:xは集合Aに属さない.
• A⊂BまたはB ⊃A:AはBの部分集合.A⊆BやB ⊇Aとも書く.
• A̸⊂BまたはB ̸⊃A:AはBの部分集合でない.A̸⊆BやB ̸⊇Aとも書く.
• A∩B ={x| x∈Aかつx∈B}:集合AとBの共通部分.
• A∪B ={x| x∈Aまたはx∈B}:集合AとBの和集合.
• A\B ={x |x∈Aかつx̸∈B} :集合AとBの差集合.
• A = B:集合A, B は等しい.これは,「任意のAの要素xはB の要素でもあ り,任意のBの要素yはAの要素でもある」となることである.この条件は,
「A⊂BかつB ⊂A」と同値である.
よく使われる記号
以下に記述する集合は,広く一般に使われている記号であり,授業においてもよく表 れる.
• ∅:空集合
• N={1,2,3, . . .}:自然数全体の集合.Nとも書く.
• Z={. . . ,−2,−1,0,1,2, . . .} :整数全体の集合.Zとも書く.
• Q={ mn | m, n∈Z, n̸= 0}:有理数全体の集合.Qとも書く.
• R:実数全体.Rとも書く.
• C={a+ib | a, b∈R}:複素数全体の集合.Cとも書く.ただし,i=√
−1は 虚数単位.
集合の表し方2
集合の要素が満たすべき条件を書く方法(今後は無数のものの集まりを扱うことが多 いのでこの表現法を使うことが多い).
例えば1以上3以下の実数を全て集めた集合を {x∈R| 1≤x≤3} と表す.
次に,写像に関する事項を解説する.
写像
A, Bを集合とする.任意のAの要素に対して,それにに応じたBの要素をただ一つ 対応させるような対応を 写像という.Aの要素にBの要素を対応させるような写像 をAからBへの写像と呼ぶ.特に,fがAからBへの写像であることを
f :A→B
と表す.このとき,Aを写像fの定義域,Bを写像fの値域という.また,fによっ てx∈Aがy∈Bに対応していることを
f(x) =y
などと書く.このことを「fはxをyへ写す」と言ったりする.
注意:写像の定義において全てのBの要素に対して対応するAの要素があることを 要求していないことに注意.次の「全射」を参照.
単射・全射・全単射
A, Bを集合とし,x, y ∈A,f :A→Bを写像とする.
• 写像fが
x̸=y ならば f(x)̸=f(y)
をみたすとき,fは単射である(あるいは一対一である)という.
感覚的な意味:異なるAの要素に対しては,写った先も異なる.
• 写像fが
任意の y∈B に対して y=f(x) となる x∈A が存在する をみたすとき,fは全射である(あるいは上への写像である)という.
感覚的な意味:fはBの要素にもれなくAの要素を写している.
逆写像
A, Bを集合とし,f :A →Bを全単射な写像とする.全単射の定義から特にfは全射 なので,任意のy ∈ Bに対してy =f(x)となるx ∈ Aが存在する.また,fは単射 でもあるのでこのようなxはただ一つである.まとめると
任意のy∈Bに対してy=f(x)となるようなx∈Aがただ一つ存在する.
すると任意のBの要素に対して上のようなAの要素がただ一つ決まるので,この対 応も写像である.これをfの逆写像といい,f−1と表す.このとき,
f−1 :B →A である.
写像の合成
A, B, Cを集合とする.
2つの写像f : A → Bとg : B → C があるとき,その合成写像g ◦f をx ∈ Aに対 して
(g◦f)(x) =g(f(x))
によって定義する.このとき,g◦f :A →Cである.fの値域とgの定義域が同じで ないと写像の合成ができないことに注意する.
恒等写像
Aを集合とする.x∈Aに対してidA(x) =xによって定まる写像を(A上の)恒等写 像という.つまり,定義域の要素を自分自身に写すような写像である.
写像の等号
A, B, C, Dを集合とし,f :A →B,g : C →Dを写像とする.以下の3つが成り立 つときに写像fとgは等しいと言い,f =gと書く.
1. A=C 2. B =D
3. 任意の定義域の要素xに対してf(x) = g(x)
つまり,2つの写像が等しいとは定義域と値域が同じであり,定義域の要素を写した 先が全て一致することである.
注意:写像の等号においてB =D,つまり値域が一致することを要求しない流儀もあ る.実際,その方が便利な場合もあるので本などを読む際には注意が必要である.
制限写像
A, Bを集合,f :A→Bを写像,A1 ⊂Aとする.fの定義域をA1に制限して得られ る写像をf|A1と表す.このとき,f|A1 :A1 →Bである.fA1 をfのA1への制限と呼 ぶ.
注意:写像の制限の定義からx∈ A1に対してf(x) = f|A1(x)は正しいが,写像の等 号の定義からf ̸=f|A1 であることに注意する必要がある.
予約制問題
(1-1)以下の集合に関する問に答えよ.
(i)Z∩ {x | x∈R, x >0}=Nを示せ.
(ii) 集合A, B, CでA∩B ̸=∅, B∩C̸=∅, A∩B∩C =∅となる例を挙げよ.
(1-2)具体例を用いて以下をみたす写像を構成せよ.
(i)全射でないが単射である (ii)単射でないが全射である (iii)全単射である
(1-3)f :A→Bを全単射な写像とする.このとき,f−1◦f =idAとなることを証明せよ.
(1-4)写像f :Z→N∪ {0}をf(x) =|x|によって定める.このとき,以下の性質が成り 立つようにfの定義域を制限せよ.
(i)全射でないが単射である (ii) 全単射である
早いもの勝ち制問題
(1-5)以下の主張をプリントp.1〜p.3の「集合の表し方」,「集合に関連する記号と用法」,
「よく使われる記号」を用いて表現せよ.
(i) 全ての有理数は実数である.
(ii)「正の整数全体の集合」と「負の整数全体の集合」の共通部分は空集合である.
(1-6)以下で与えられる対応fがAからBへの写像であるか,写像である場合は単射・全 射・全単射であるかを判定し,理由も述べよ.
(i)A={a, b, c, d}, B ={1,2,3,4,5}とし,f(a) = 1, f(b) = 2, f(c) = 3, f(d) = 4 (ii) A={1,2,3,4}, B ={a, b, c}とし,f(1) =a, f(2) =b, f(3) = c, f(4) =a (iii) A={1,2,3,4}, B ={w, x, y, z}とし,f(1) =w, f(2) =x, f(3) =z
(1-7) f :A→ Bを全単射な写像とする.写像g :B →Aがg◦f =idAをみたすならば g =f−1であることを示せ.