第 3 章 予備調査と尺度検証
第 6 節 結び
本研究では、先行文献を参照した上で在中日系企業従業員の個別インタビューを組み合 わせ、在中日系企業従業員の職場ストレス、職務満足感の尺度項目を収集した。更に専門 家による添削や補正により、最終的な初期尺度が作成された。組織サポート尺度は中国の 暨南大学人的資源研究所によって作成されたものをそのまま採用し、最終的に初期の測定 尺度が形成された。そのうち、職場ストレス尺度は 21 項目を含み、職務満足感尺度は 20
項目、また組織サポート尺度は 9 項目を含んだ。
予備調査において、この 3 つの尺度にそれぞれに項目分析、因子分析及び信頼性と妥当 性の検証を行った。職場ストレス尺度に探索的因子分析を行った際に、5 つの因子が抽出さ れたが、当初に考えた因子構造には食い違いが見られた。役割関連ストレッサーは役割の 曖昧さと役割の葛藤に分けられた一方、独立因子として構想したキャリア発達は組織の構 造・風土因子に収められた。そのため、職場ストレスの項目数は元の 21 項目にし、因子構 造を因子分析の結果に基づいて調整した。調整後の職場ストレス尺度は、仕事そのもの、
人間関係、役割の曖昧さ、役割の葛藤、組織構造・風土とキャリア発達の 5 つの下位尺度 から構成されている。信頼性分析の結果により、職場ストレスの内部一貫性係数は 0.883 であり、比較的妥当な性質を備えることが示された。
項目分析により、職務満足感尺度の項目 5 を除いて他の 19 項目は全て総得点と 0.01 水 準で有意な相関がある。これにより項目 5 の「総じて言えば、私は現在の仕事に適してい ると思う」を削除した。項目 5 が除外された 19 項目に対する因子分析の結果、6 つの因子 が抽出された。そのうち、第 6 因子に含まれる項目、即ち、項目 6 の「仕事を完成する方 法が選べる」は 1 項だけであるため、独立した下位尺度として不適合であるため、尺度か ら除外した。一方、項目 17 の「会社の給与計算と分配は公平で合理的であると思う」は、
第 1 因子の 1、2、3、4 の仕事そのものに収められたが、当初の構想と食い違った。この項 目は 18 の「会社の人事考課と昇進制度が公平で透明的である」と重なる部分があるため、
専門家のアドバイスを受入れて尺度から除外された。このように、職務満足感尺度の残り の 17 項目に対して第二回因子分析を行った結果、5 つの因子が抽出され、それぞれ、仕事 そのもの、仕事のリターン、個人成長、仕事の協力、経営管理を代表した。更に信頼性検 定により、17 項目の職務満足感の全体的α係数は 0.921 で、極めて高い内部一貫性が示さ れた。
一方、組織サポート尺度の内部一貫性係数は 0.815 であり、因子分析の結果も当初の構 想と一致しているため、項目数や尺度構造を変えずに使用しようと考える。
このように、個別インタビューと予備調査を経て、測定尺度に定性的と定量的検定を行 い、最終的に本格的な調査用の測定尺度が形成された。各尺度の具体的な内容は以下の通 りである。
職場ストレス尺度
(1) 私の仕事が煩わしくて複雑で、量が大きい
(2) 私にはいつもやりきれない仕事がある
(3) 私はいつも残業している
(4) 私は自分の職責範囲をはっきりしていない
(5) 職務においてどのぐらいの職権があるか分からない
(6) 職務内容についての説明が不明瞭である
(7) 私がやった仕事はある人の要求を満たすが、他の人の要求を満たすとは限らない
(8) 上司から異なる仕事の指示を受けたことがある
(9) 異なる職務分野に派遣されたことがある
(10) 同僚と衝突又は不愉快なことがある
(11) 上司と高級主管のサポートが欠けている
(12) 上司は私の職務上の問題に対して解決したくない、あるいは解決できない。
(13) 仕事において孤立するような気がする
(14) 昇進が遅い、或いは昇進する望みがない
(15) 十分な個人発展の空間がない
(16) 会社の組織構造が硬直で、素早い発展に適応できない
(17) 部門間に有効なコミュニケーションが欠けている
(18) 会社の給与制度が合理的ではない
(19) 会社は私の職務行動に対して十分なフィードバックがない
(20) 会社には階層が多すぎて効率が悪い
(21) 会社には不合理的な政策、規定と手続きがある
職務満足感尺度
(1) 仕事において、自分の最も得意とすることを行う機会を毎日持っている (2) 自分の仕事が挑戦的であると思う
(3) 仕事から楽しみを感じる (4) 仕事から達成感を感じる
(5) 私は仕事に見合った十分な給与を得ている (6) 同業他社に比べて会社の福利厚生は良い (7) 現在の給与は同業同職者に比べ満足できる
(8) この1年の間に、仕事上で学び、成長する機会を持った (9) 昇進の機会が充分に与えられている
(10) 会社が手配した研修に参加するチャンスがあった
(11) 上司或いは会社は私の職務成果に対してタイムリーにフィードバックし、評 価してくれる
(12) 同僚の間ではみな気持ちがしっくりあい、お互いに助け合っている (13) 上司の仕事のやり方に概ね同意する
(14) 会社の人間関係は良い
(15) 会社の評価体系と昇進制度が公平で透明的である (16) 会社の規則や制度が公正で妥当なものである。
(17) 会社に将来性があると思う
組織サポート尺度
(1) 組織は私が担当している仕事の目標と価値を重視する
(2) 仕事の上に問題があった場合、組織からのサポートが期待される
(3) 組織は私の潜在能力が発揮でき、成長できる仕事を割り当ててくれる
(4) 私のポストが取り消される場合、私は直接に解雇される
(5) 組織は私が会社にいる役割が大きくないと思う
(6) 組織は私の代わりに安い給料で誰かを雇えるならそうするだろう
(7) 組織は私のことを確かに気遣ってくれる
(8) 生活において問題が生じる時、組織は喜んでサポートしてくれる
(9) 利益が上がったとき、組織は昇給してくれる