レポート課題1(解答例)
科目: 数学演習IIA(f組)
担当: 相木 問題[1]
[1] 空でない集合Xに対してOがXの位相であることの定義を書け.
解答
空でない集合Xに対してOがXの位相であるとはOはXの部分集合からなる集合 系で以下の3つを満たすことである.
(O1) ∅, X ∈ O
(O2) O1, O2 ∈ O ⇒ O1∩O2 ∈ O
(O3) Λを任意の集合とし,Λの要素λによって添え数付けされたOの要素Oλからなる 任意の集合族{Oλ}λ∈Λに対して ∪
λ∈Λ
Oλ ∈ O.
□ 問題[2]
[2] (R2,Od(2))をユークリッド距離から定まる距離位相を用いた位相空間とする.以 下で与えられる集合が開集合・閉集合・どちらでもないかを判定し,それを証明 せよ.
(i) {(x1, x2)∈R2 | 0< x1 <2, −1< x2 <3} (ii) {(x1, x2)∈R2 | x1 = 0またはx2 = 0}
距離関数から定まる距離位相の定義から
Od(2) ={A ⊂R2 | ∀x∈A, ∃ε >0, B(2)(x;ε)⊂A} ∪ {∅}
であることを思い出そう.ただし,d(n)は今までどおりのRn におけるユークリッド距離 であり,
B(n)(x;ε) = {y ∈Rn | d(n)(x,y)< ε}
であった.
解答 [2] (i)
A1 ={(x1, x2)∈R2 |0< x1 <2, −1< x2 <3}とおき,A1が開集合であることを示 す.つまり,A1 ∈ Od(2)を示す.
∀x ∈A1をとる.x= (x1, x2)と表すと0< x1 <2と−1< x2 <3が成り立つ.そこ で,ε1を以下のように定める.
ε1 = min{x1, 2−x1, x2+ 1, 3−x2} (1)
するとε1 >0であり,B(2)(x;ε1)⊂A1となる.
実際,∀y∈B(2)(x;ε1)をy= (y1, y2)と表すとy1 ∈(x1−ε1, x1+ε1)となるので x1−ε1 > x1−x1 = 0
x1+ε1 < x1+ (2−x1) = 2 よりy1 ∈(0,2)である.同様にy2 ∈(x2−ε, x2+ε)なので
x2 −ε > x2−(x2+ 1) =−1 x2+ε < x2+ (3−x2) = 3 よりy2 ∈(−1,3)である.したがって,y∈A1である.
以上からA1 ∈ Od(2). □
上の議論を図を用いて噛み砕いて解説する.集合A1は以下で与えられるような長方 形の領域である.
y
x A1
:x= (x1, x2) 3
−1
O 2
3−x2
x1
2−x1
x2+ 1
解答の式(1)では長方形内の点xに対して,点xから長方形の4つの辺までの距離の 中で最短な距離をε1と選ぶことによって開球B(2)(x;ε1)がA1 に含まれるようにしてい るのである.図では2−x1が最小だった場合の例になっている.
[2] (ii)
A2 = {(x1, x2) ∈ R2 | x1 = 0またはx2 = 0}とおき,A2が閉集合であることを示す.
そのためにAc2が開集合であることを示す.
∀x∈Ac2をとり,x= (x1, x2)と表す.ε2 >0を以下のように定める.
ε2 = min{|x1|, |x2|}
(2)
すると,B(2)(x;ε2)⊂Ac2となる.実際,Ac2 ={(x1, x2)∈R2 | x1 ̸= 0, x2 ̸= 0}であるの で,∀x∈Ac2に対して|x1|>0かつ|x2|>0であり,ε2 >0となる.また,∀y ∈B(2)(x;ε2) をy= (y1, y2)と表すと,yi ∈(xi−ε2, xi+ε2) (i= 1,2)より
xi−ε2 < yi < xi+ε2
⇔ −ε2 < yi−xi < ε2
⇔ ε >|y −x|
を得る.さらに評価して
ε2 >|yi−xi|=|xi−yi| ≥ |xi| − |yi|
が成り立つので,最左辺と最右辺を比較して|yi| >|xi| −ε2 ≥ |xi| − |xi|= 0となるので yi ̸= 0 (i= 1,2)なのでy∈Ac2である.
以上からAc2が開集合であることが示されたのでA2は閉集合である. □ 問題(i)のときと同様に式(2)によるε2の定め方は図形的な解釈ができるので各自確 認してみよう.
問題[3]
[3] a, b∈ R,a < b,I = [a, b]とし,C(I)をI上定義された実数値連続関数全体の 集合とする.このとき,f, g ∈C(I)に対して
d(f, g) = sup
x∈I |f(x)−g(x)|
で定義される関数dがC(I)上の距離関数になっていることを示せ.ただし,「有 界閉区間上で定義された実数値連続関数は最大値を持つ」ということを認めてよ い.
解答
問題の関数dがC(I)上の距離関数になっていることを示すにはdは実数値であり,以 下の4つを満たすことを示せばよい(プリント4参照).
(D1) ∀f, g∈C(I), d(f, g)≥0 (D2) ∀f, g∈C(I)に対して
d(f, g) = 0 ⇔ f =g (D3) ∀f, g∈C(I), d(f, g) = d(g, f)
(D4) dは三角不等式を満たす.つまり,∀f, g, h∈C(I)に対して d(f, h)≤d(f, g) +d(g, h)
dが実数値であること
∀f, g ∈C(I)に対して|f|,|g| ∈C(I)であり,有界閉区間であるI上で連続な関数は最 大値をもつので
sup
x∈I|f(x)|<∞, sup
x∈I|g(x)|<∞,
が成り立つ.特に,2つの上限は実数として存在する.それぞれをα1 := sup
x∈I |f(x)|, α2 :=
sup
x∈I|g(x)|とおくと, ∀x∈Iに対して
|f(x)−g(x)| ≤ |f(x)|+|g(x)| ≤(sup
x∈I |f(x)|) + (sup
x∈I |g(x)|) = α1+α2 が成り立つ.したがって,
d(f, g) = sup
x∈I|f(x)−g(x)| ≤α1+α2 <∞ となるのでdは実数値である.
(D1)を満たすこと
∀f, g ∈C(I)と∀x∈Iに対して
|f(x)−g(x)| ≥0 なのでI上の上限をとればd(f, g)≥0が従う.
(D2)を満たすこと
∀f, g ∈ C(I)に対して,f = gであれば∀x ∈ Iに対して|f(x)−g(x)| = 0なので d(f, g) = sup
x∈I
|f(x)−g(x)|= 0である.
逆にd(f, g) = 0を仮定し,f =gを示す.集合Aを A={|f(x)−g(x)| | x∈I} によって定めると,仮定からd(f, g) = sup
x∈I |f(x)−g(x)|= 0なので,言い換えればsupA= 0 である.上限の定義から
∀a∈A, a≤0
が成り立つが,集合Aの定義からこれは∀x∈ I, |f(x)−g(x)| ≤ 0と同値である.した がって∀x∈Iに対して
0≤ |f(x)−g(x)| ≤0 が成り立ち,f(x) =g(x) (∀x∈I)となり,f =gである.
(D3)を満たすこと
∀f, g ∈C(I)と∀x∈Iに対して
|f(x)−g(x)|=|g(x)−f(x)|
なので,集合として{|f(x)−g(x)| | x ∈I}と{|g(x)−f(x)| | x∈ I}は一致し,その上 限も同じになるのでd(f, g) = d(g, f)が成り立つ.
(D4)を満たすこと
∀f, g, h ∈C(I)をとる.このとき,∀x∈Iに対して
| − | | − − | ≤ | − | | − | ≤
が成り立つので,d(f, g) +d(g, h)は{|f(x)−h(x)| |x∈I} の上界の1つでる.したがっ て,上限は最小の上界なのでd(f, h)≤d(f, g) +d(g, h)が成り立つ.
以上からdがC(I)上の距離関数であることが示された. □ 問題[4]
[4] (X,O)を位相空間とする.∀O ∈ Oと∀M ⊂Xに対して O∩M ⊂O∩M
が成り立つことを示せ.
解答
集合の包含関係を示したいので,∀O ∈ O, ∀M ⊂ Xをとり,∀x ∈ O ∩M に対して x∈O∩Mを示す.
まず,演習問題(4-7)の結果と類似の性質として位相空間(X,O)とA ⊂ Xに対して 以下の2つが同値であることを示す(位相空間における内部や閉包の定義はプリント7 参照).
(i) x∈A
(ii) x∈Xが
xを含む任意の開集合Oに対してO∩A̸=∅ を満たす.
A⊂Xのとき,X =A◦∪Af ∪Aeと互いに素な(i.e. 共通部分がない)3つの集合の和 としてXが表せたことを思い出そう.
(i)⇒ (ii)の証明
対偶を示す.つまり,xを含む開集合OでO∩A=∅となるものが存在したらx̸∈A を示す.
今,O ∈ O,x∈OでO∩A=∅とするとO ⊂Acである.さらに,内部の定義より (Ac)◦ = ∪
U∈O, U⊂Ac
U
である.右辺の和集合は「Acに含まれる開集合全ての和集合」を表していたことを思い出そ う.すると,OはAcに含まれる開集合なのでOは和集合をとっている開集合たちのうちの 1つである.したがって,O ⊂(Ac)◦.特に,x∈O ⊂(Ac)◦ =Aeなのでx̸∈A◦∪Af =A.
(ii) ⇒ (i)の証明
対偶を示す.つまり,x ̸∈Aを仮定し,xを含む開集合OでO∩A=∅となるものが 存在することを示す.
x̸∈Aよりx∈Ae= (Ac)◦である.特に,Aeはxを含む開集合である.また,内部の 性質から
Ae = (Ac)◦ ⊂Ac なのでAe∩A=∅となり,Aeが望みの開集合である.
この同値性を利用して問題[4]の包含関係を示す.∀x∈O∩Mをとり,xを含む任意 の開集合O′に対してO′∩(O∩M)̸=∅ であることを示す.
O′∩(O∩M) = (O′∩O)∩M
であり,O, O′ ∈ Oなので位相の定義からO′ ∩O ∈ Oである.また,x ∈O∩Mから特 にx∈Oなのでx∈O′ ∩Oとなる.
さらに,x∈Mより,先に示した同値性からxを含む任意の開集合Uに対してU∩M ̸=
∅である.特にO′ ∩O ∈ O, x ∈ O′∩OなのでUとして特にO′∩Oをとることができ,
(O′∩O)∩M ̸=∅である.
以上からxを含む任意の開集合O′に対してO′∩(O∩M)̸=∅が示されたので,再び
同値性からx∈O∩Mが示された. □
問題[5]
[5] (R2,Od(2))を問題[2]と同じ位相空間とする.以下の議論の間違いを指摘せよ.
集合A ⊂R2を
A={(x1, x2)∈R2 | −1≤x1}
で定め,これが開集合であることを示す.∀x∈Aを(x1, x2)と表したとき,ε >0 を
ε =
1
2, x1 = 0,
|x1|
2 , x1 >0, 1 +x1
2 , x1 <0, によって定めると
B(2)(x;ε)⊂A となるのでAは開集合である.
解答
εの定め方においてx1 <0の範囲ではε = 1 +x1
2 で定義しているが,今考えている集
− − ∈
うな点においてはε= 0 となるのでε >0でなく,問題の議論では開集合であることが示
せていない. □
補足 実際,この集合Aは開集合ではない.空でない集合B ⊂R2がB ∈ Od(2) (つまり 開集合である)とは
∀x∈B, ∃ε >0, B(2)(x;ε)⊂B
を満たすことであった.「Aが開集合でない」ことは,上の命題の否定命題を満たすこと なので
∃x∈A, ∀ε >0, B(2)(x;ε)̸⊂A
となることである.B(2)(x;ε)̸⊂AとB(2)(x;ε)∩Ac ̸=∅は同値なので
∃x∈A, ∀ε >0, B(2)(x;ε)∩Ac̸=∅
であることを確認する.点x = (−1,0) ∈ Aにおいて上の命題が成り立つことを示す.
∀ε >0に対して(−1−ε
2,0)∈B(2)(x;ε) であるが,−1−ε
2 <−1なので(−1−ε
2,0)̸∈A,
つまり(−1−ε
2,0)∈Acであるので,(−1−ε
2,0)∈B(2)(x;ε)∩Acとなり,B(2)(x;ε)∩Ac ̸=∅ が示された.
問題[6]
[6] Rの部分集合系Mを
M={(a, b)⊂R | a, b∈R, a < b}
によって定める.Mで生成される位相O(M) はユークリッド距離から定まる距 離位相Od(1)であることを示せ.
解答
Rの部分集合系としてO(M) =Od(1)であることを示せばよい.集合系から生成され る位相の定義についてはプリント8参照.特に,O(M)は
O(M) = ∩
O∈T(X),M⊂O
O
と定義したことを思い出そう.ただし,T(X)はXの位相全体の集合であり,上の共通部 分は「Mを含むXの位相全ての共通部分」を表していることに注意.
O(M)⊂ Od(1)であること
定義より,∀O1 ∈ Mに対して∃a1, b1 ∈R, a1 < b1, O1 = (a1, b1).このとき,∀x∈O1 に対してε = min{x−a1, b1 −x}と定めれば,ε > 0でB(1)(x;ε)⊂ (a1, b1)であるので O1 ∈ Od(1).
以上からM ⊂ Od(1)が示された.Od(1)はRの位相なので,Od(1)はO(M)の定義に表 れる共通部分をとる位相のうちの1つである.したがってO(M)⊂ Od(1).
Od(1) ⊂O(M)であること
∀O ∈ Od(1)をとる.O ∈O(M) が示せればよい.
Oが∅またはRのときはO(M)が位相であることから∅,R∈O(M)は満たされるの でO ∈O(M)が成り立つ.
Oが∅でもRでもないときにO ∈O(M) を示す.O ∈ Od(1)より,∀x ∈Oに対して
∃εx >0,
B(1)(x;εx)⊂O.
(3)
ここで,開球の半径がxに依存することを強調するためにεxと書いた.今の場合,B(1)(x;εx) = (x−εx, x+εx) という開区間である.このようにしてx∈Oごとに得られる開区間をAx とおく.つまり,Ax = (x−εx, x+εx)である.このとき,O = ∪
x∈O
Axである.
O ⊂ ∪
x∈O
Ax であること: ∀y∈Oに対してy∈Ay ⊂ ∪
x∈O
Ax.
∪
x∈O
Ax ⊂O であること: Ax の定め方と(3)から∀x ∈ O に対してAx ⊂ Oなので
∪
x∈O
Ax ⊂Oである.
以上からO= ∪
x∈O
Axである.
ここで,∀x∈Oに対してAxは開区間なのでAx ∈ Mであり,定義からM ⊂O(M) なので,特にAx∈O(M)である.したがって,{Ax}x∈OはO(M)の集合族であり,O(M) はRの位相なので位相の定義から ∪
x∈O
Ax ∈ O(M)となり,O = ∪
x∈O
AxだったのでO ∈ O(M).
以上により,O(M) =Od(1)が示された. □