第1学年 B 組 道徳学習指導案
指導者 岩谷 多希子 展開場所 1年B組教室
【研究主題】 仲間と共に伸び伸びと主体的に学習に取り組む生徒の育成
~言語活動を充実させる学習形態の工夫を通して~
【努力点】 他を思いやる生徒を育成する。
1.主題名 真の友情 (項目 2-(3))
(資料名 『オオカミクン』 グレゴワール・ソロタレフ作 )
2.主題設定の理由
(1)ねらいとする価値
本主題は,学習指導要領「2 主として他の人とのかかわりに関すること」の「(3)友情の 尊さを理解して心から信頼できる友だちをもち,互いに励まし合い,高め合う」ことをねらいと する。
だれにとっても友だちは大切であるが,特に中学生にとってはその存在はとても重要である。
心を許せる友だちがいれば学校生活は楽しく充実したものになる。しかし現在の中学生の人間関 係は,自分と気が合うか一緒にいて楽しいかおもしろいかといった表面的な関係づくりや,仲間 ごっこや保身のための関係づくりにとどまり,お互いを思いやり支え合い相手の良さを認め合う ような関係づくりはなかなか難しい現状がある。人と人との信頼関係は,表面的な言動でなく,
心を開き,相手の立場に立って考えることで生まれてくる。相手の立場になって考えることは,
友情関係のみならずこの先生きていく中で豊かな人間関係を築いていくためにも大切なことであ る。
また,本当に相手のことを思いやれば,いつも相手の喜ぶことをするのではなく,苦言を呈し たり必要に応じて忠告ができるようにもなり,さらにお互いを向上させることができる。そうし た友の存在は,心身ともに著しく成長する中学生の時期にこそ必要なものであり,生涯にわたる 尊敬と信頼に支えられた友情を育てていくことにもつながる。
以上のように考察すると,このねらいは、互いに励まし合い高め合う友情をつくるために,何 より相手との信頼関係が大切で,そのためには相手の立場になって考える思いやりの心ゆえにで き,信頼を基盤として成り立つ友情が人間としての生き方の自覚を深めることになるであろう。
(2)生徒の実態(男子13名,女子16名,計29名(個別支援学級在籍生徒2名))
男子は明るく元気だが幼さがあり,ともすると明るく楽しく過ごすことだけに終始しけじめが つかない場面がある。女子は,気を遣いながら生活していて,今はまだ自分の感情を抑え相手に 合わせている様子がうかがえる。中学校に入学して間もないため,友人を増やすこと,互いを知
ることに一生懸命である。自分と意見が違う人,感じ方や表現の仕方が違う人に対して,嫌な顔 をしたり冷やかし半分の表現をしたりするものもいて,自分と意見やものの捉え方,感じ方が違 うと不愉快に感じたり,相手を阻害するような言動が見え隠れしている。ともにより良く生活し ていくためには,誰もが同じではなく,それぞれが別の人格であり,得意とするもの苦手とする ものが異なることがあたりまえであり,それを受け入れ認め合い助け合い互いに協力していくこ とが必要となる。そこには相手の立場や気持ちを考えることが大切なのだが,まだそこまでの心 の発達には至っていない。
〈 アンケートの結果 〉
【1】
いつも仲良かった友達がある日,怒っているのか,自分を避けるようになりました。自分 に,どうして友達がそうなったか,思い当たる出来事はありません。3日たっても,友達の 態度は変わりません。
① 友達が避けるようになった時,あなたはどんなことを思いますか。(複数回答可)
○ 自分が悪いことをしたんじゃないか。どうしよう。 …13人
○ いきなり避けるなんて頭に来る。言いたいことははっきり言ってほしい。 … 5人
○ そういえば,あのとき,あいつ暗い表情していた。自分が悪いかも…。 … 5人
○ 避ける理由がよく分からない。なんなんだろう。 … 5人
○ 怒っている理由はよく分からないけれど,とにかく謝っておこう。 … 4人
○ 友達はあいつ一人じゃない,無視するなら他のやつと友達になってやる。 … 1人
○ その他
自分も無視する。
理由を聞いて自分が悪かったら謝る。
② 4日後,友達が以前と同じように普通に話しかけてきました。そのとき、あなたはどんな ことを思いますか。(複数回答可)
○ 仲直りができて、良かった。 …13人
○ 何か、あったのかな。仲直りができたら聞いてみよう。 … 8人
○ 仲直りができたのはいいけど、いったい何だったのか。 … 7人
○ 仲直りができたのはいいけど、なんか信用できないな。 … 2人
○ 今度、あいつに対していやなことがあったら、自分も仕返しよう。 … 0人
【2】 【1】のように友達とケンカしたことがありますか。
○ はい …18人 ○ いいえ …11人
【3】 友達とケンカした時,相手が怒っている理由がわかったことがありますか。
○ はい …17人 ○ いいえ …12人
【4】 どうして,友達が怒っている理由がわかったのですか。
(【3】で「はい」と答えた人のみ回答)
○ 自分が怒らせたから。
○ ケンカをする前に相手にいやなことをしたから。
○ 自分がケンカの原因をつくったから。
○ 自分勝手な行動をしたから。
○ 心当たりがあったから。
○ なんで怒っているのか聞いたから。
○ 他の友達に聞いた。
○ 自分から聞いたから。(あやふやなままだと、また同じことを繰り返すと思ったから)
○ ストレートに「なんで怒ってんだよ。」って聞いたから。
○ 人前だと恥ずかしいので、交換ノートでお互いに話し合ったから。
【1】のアンケートの結果を見ると,理由もなく自分が避けられると「どうしよう,自分が何 か悪いことをしたのではないか」と思い、無事普通に話せるようになったら「仲直りができて,
よかった」と思う生徒が半数いる。深く考えずにただ仲良く一緒にいるという友人関係が多く,
その関係を維持できればよいという姿勢がかいま見える。反面、数名ではあるが,相手が怒って いる理由をはっきり言ってほしいという生徒もおり、【4】のアンケートの結果にあるように,
現実に友達が怒っている理由が分かったのは直接聞いたからと答えた生徒もいる。だから【1】
②のアンケートで仲直りしたあとにケンカの原因を聞きたいという回答の生徒もいるのだろう。
また【4】のアンケートでは友達を自分が怒らせたことから,ケンカの原因を自分が作ったと自 覚している生徒もいた。ケンカの原因として考えたとき,思い当たる出来事が口げんかをしたこ とや自分がきつい言葉を言ってしまったことなど自覚している時は,相手の傷ついた気持ちや怒 っている気持ちを考えられるようだが,自分自身の何気ない行動や発言が相手にどんな気持ちを させているか,相手の立場になって考えられる生徒は少ない。
お互いに認め合ったり譲り合ったりしなければより良い人間関係は築いていけない。この時期 に,相手の立場に立って考えることの大切さと,それによって信頼関係が生まれることに気づか せ,単なる仲良しではない,真の友情を育ませていきたい。
(3)資料について
この資料は年少者向けの絵本である。文章は平明でストーリーも分かりやすく,魅力的な絵も あって生徒には親しみやすい内容である。授業では読み聞かせによって物語の世界に引き込み,
おおかみの心情に寄り添って考えさせていきたいと思う。
主人公の1匹の子どもおおかみは,おじさんを亡くしてひとりぼっちになってしまい,そこで 助けてもらったうさぎのトムと大の仲良しになる。お互いに得意なことを教え,毎日楽しく遊ん でいた。やがて「うさぎがこわい」ごっこや「おおかみがこわい」ごっこをして遊ぶようになっ たが,「うさぎがこわい」ごっこでは,おおかみはちっとも怖くなかったが,「おおかみがこわ い」ごっこでは,うさぎは心の底からおおかみが怖かった。しかしおおかみにはその怖がってい るうさぎの気持ちに気づけず,うさぎはとうとう穴にこもっておおかみに会わなくなってしまう。
その後,新しいうさぎの友達を探そうと旅に出たオオカミ山でとても怖い思いをしたおおかみは,
初めてうさぎの気持ちがわかり,帰ってうさぎに素直に自分の気持ちを伝え,仲直りしてもらう。
大切な友達なのに,自分の遊びに夢中になって相手を怖がらせてしまうおおかみは,なかなか
うさぎの気持ちを思いやれない。しかし同時に友達がいない寂しさを感じているので、その心情 も押さえておきたい。そして実際に自分自身も怖い思いをしたことで初めて相手の気持ちが分か って友情を深めていくおおかみの姿からは,ただ単に仲良く遊ぶだけでなく,相手の立場になっ て考え思いやる心が信頼関係や真の友情を築く上で大切だということにぜひ気づかせたいと考え ている。
(4)指導観
物事の表面だけしか見ないで深く考えることを苦手としている生徒もいるため、道徳の時間で は,自分の考えをまとめ記録用紙に書かせる時間をとり,より深く物事について考えていく姿勢 を育成していきたい。また,興味を持たせるために,より目標とする価値についてしっかり考て いけるような資料を精選し,話す・聞く姿勢をしっかりと身につけることにより,他者の考えを 受け入れ,自らの考えを深められるのではないかと考えられる。真の友情について多くの生徒は 大切に思う価値項目ではあるが,現実には表面的な友情関係にとどまっているので,資料内のお おかみの気持ちを考えさせ共感させていくことで,頭で分かって判断するだけでなく生徒の内面 にも訴えかけ,互いを理解し助け合おうとする心情をもった生徒の育成の一助としていきたい。
3.本時の指導
(1)ねらい
表面的な言動だけでなく,相手の気持ちを理解することの大切さを知り,信頼できる友人関係を 築こうとする態度を育てる。
(2)展開
時配 学習活動と主たる発問・予想される生徒 支援の手立てと留意点 資料 の反応
導 2 1.おおかみときくとどんなイメージが ・資料に対する方向付けとして,オオカ オオカ
入 あるか。 ミの写真を掲示し、みんなが持って ミの写
・こわい ・絶滅している いるおおかみのイメージを確認する 真
・動物を食べる ことで,それとは違う主人公の弱さ
・童話の赤ずきんちゃん や寂しさを際だたせる。
8 2.資料の提示
・絵本の読み聞かせを見聞きする。 ・温かい雰囲気を作り,話が伝わるよう 絵本
・あらすじを確認する。 に絵をうまく見せながらていねいに 読む。
展 35 3.資料「オオカミクン」についての話 し合い。
①ひとりぼっちになったおおかみはどん ・頼れる者を失い,ひとりぼっちになっ な気持ちだったか。 た寂しさに共感させる。
・さびしい。・つらい。
・悲しい。
開
・「おおかみがこわい」ごっこまで,オ カード オカミクンとトムが仲良くなった過
程をカードで確認する。
②「おおかみがこわい」ごっこをしてい
るとき,オオカミクンはどんな気持 ・場面絵を活用し,オオカミクンの心情 場面絵1 ちだったのでしょう。 を想像させる。
・ずいぶん怖がっているなぁ。 ・自分の楽しさにまかせて相手の気持ち
・もっと怖がらせてやろう。 を見失っていることに気づかせる。
・怖がってるけど楽しいなぁ。
補:その時のトムの気持ちはどうか?ど うしてトムは怖がったのか?
③穴から出てこないトムに対してオオカ
ミクンはどんなことを思ったか。 ・トムの気持ちに気づけずに困惑し寂し い思いをしているオオカミクンの気
・寂しい。 持ちに着目させる。
・何でトムが出てこないのか理由がわか らない。
・一緒に遊びたいな。
・何で一緒に遊んでくれないのかな
◎④死ぬほど怖い思いをしたあとオオカ
ミクンはどんなことを思って,トム ・トムと同じ思いをして,ようやくトム 場面絵2 のところに戻ってきたのか。 の怖さが分かったことを確認する。
・オオカミクンが相手の立場になって考
・ごめんねとあやまりたい。 えることができるようになったこと
・トムの気持ちが分かり,あやまりたい。 に気づかせる。
・自分がトムに怖い思いをさせていたこ とをあやまりたい。
・前よりももっともっと仲良くなりた い。
⑤どうしてオオカミクンとトムは仲直り
できたか ・ワークシートに記入する。 場面絵3
・信頼関係が芽生えたことに,気づかせ
・お互いの気持ちを理解することができ たい。
た。
・トムはオオカミクンが自分の気持ちを わかってくれたと思ったから。
終 5 4.今日の学習を振り返って,感想を書 ・資料だけでなく,自分の生活を振り返
く。 ってみるようにさせる。
末 ・ワークシートに感想を書く。 ☆相手の気持ちを理解し,信頼できる友
・感想を発表する。 人関係を築いていこうという気持ち が持てたか。
(3)板書計画
4 他の教育活動との関連
中学生のこの時期には、一緒にいるだけの友達から悩みを相談したりつらいことを支えてくれた りできる友達の存在がとても大切である。相手の立場になって気持ちを考え、思いやり支え合い、
相手の良さを認め合う信頼関係をつくることが必要である。そのため、各行事や学習活動等を通じ て、協力し合ったり助け合ったりして物事をやり遂げた達成感や、互いを認め合うような機会をも うけていくことで、本主題の実践にもつながってくるものと考える。
『オオカミクン』
① あるところに、おおかみを いちども みたことのない うさぎと…
② うさぎを いちども みたことのない ちいさな おおかみが いました。あるひ、
ちいさなおおかみは おじさんに つれられてはじめて かりに でかけました。
③ ところが そのひ、おじさんは あわてて いわに ぶつかって、しんでしまいました。
ちいさなおおかみは、 ひとりぼっちに なってしまったのです。
ちいさなおおかみが とほうに くれていると、 ものおとが きこえました。
すると、すこし はなれたところに たれかが ほった あなが あります。
④ そっと ちかづいて なかを のぞいてみると、ちいさな どうぶつが、ベッドで ほんを よんでいました。おおかみは いいました。
「ねえ、たすけてください。おじさんが いわに ぶつかって しんでしまったんです。ぼく、
どうしていいか わからないんです」
「かんたんさ。しんだなら、うめなくっちゃ。てつだってあげよう」
と、こたえて そのどうぶつは ベッドから はねおきました。
⑤ にひきは おじさんおおかみを うめに やまに いきました。
「もしかして、あなたは うさぎですか?」おおかみが たずねました。
「そうさ。トムって いうんだ。そういう きみは もしかして おおかみかい?」
うさぎは いいました。
「はい。でも なまえは ないんです」
「へえ!まあ、いいさ。 なまえを つけてあげるよ。 オオカミクンって したら どうだろ う?」「とっても にあうと おもいます。」
「ところで、」と、トムが いいました。
「おおかみは うさぎを たべるって ほんとうかい?」
「そのようです。 けど、ぼくは まだ たべたこと ないんです」
「ふうん。どっちにしても ぼくは きみが ちっとも こわくないや」
⑥ トムと オオカミクンは だいの なかよしに なって、まいにち いっしょに あそびました。
なんかげつか たつうちに オオカミクンは どんどん おおきくなりました。
トムは オオカミクンに ビーだまあそびや よみかた かぞえかた、おなかが すいたときの ために、さかなつりも おしえました。
⑦ オオカミクンも トムに ほかの うさぎより ずっと はやく はしる ほうほうを おしえ ました。
⑧ にひきは よく うさぎがこわい ごっこや おおかみがこわい ごっこをして あそひました。
うさぎがこわい ごっこを しているとき、オオカミクンは ほんとうは ちっとも こわくあ りませんでした。でも、おおかみがこわい ごっこを しているとき、トムは いつでも、とっ ても とっても こわかったのです。あるひ、オオカミクンが あんまり こわかったので、
トムは じぶんの あなに にげこんでしまいました。
⑨ あくるひ、とむは いちにちじゅう ベッドで ないていました。「ぜったいに トムを たべ たりなんて しないよ、たった ひとりの だいすきな ともだちだもの」と、オオカミクンが いくら いっても みみを かしません。 あなに とじこもって、それっきり でてこようと しませんでした。
⑩ そのばん トムは こわい ゆめを みました。 ものすごく おおきくて、まっくろで、まっ かな オオカミクンに たべられてしまう ゆめです。
⑪ オオカミクンは あなの まえで、トムが なかなおりをしてくれるのを なんにちも まちま した。けれども、とうとう あきらめて、ふろしきつづみを しょって、べつの うさぎの ともだちを みつけに、とぼとぼと たびに でました。
⑫ ついたところは おおかみやまでした。 うさぎは いっぴきも すんでいません。 それどこ ろか、オオカミクンが うさぎに まちがえられて、おおかみやまの おおかみたちに おいか けられてしまいました。オオカミクンは そのとき はじめて おおかみがこわい というきも ちが わかりました。
⑬ しぬほど こわい おもいを して、やっとのことで にげのびた オオカミクンは トムの ところに もどってきました。「トム」と、オオカミクンは あなのそとから、いいました。
「おおかみがこわいって どんなことか、ぼくにも わかったよ。だから もう にどと こわ がらせたり しない、やくそくする! おねがいだから あなから でてきて!」 あなの な かで トムは かんがえました。「もし オオカミクンが ぼくと おなじくらい ほんとうに こわいめに あったのなら、しないはずだ」
⑭ トムは あなから でてきました。 オオカミクンは うれしくって たまりません。にひきは かけよって だきあいました。 それから また なかよく さかなつりに でかけました。