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重ね合わせの原理

第 6 章 行列の階数 46

6.4 重ね合わせの原理

一般の連立1次方程式と同次形方程式の間には次の関係がある.

命題 6.4.1. (m, n)-行列Aおよびm次列ベクトルbが与えられているとし,次の二つの連立1次方程式 を考える.

(I) Ax=b, (II) Ax=0.

さらに方程式(I)の解aを一つ取って固定しよう. このとき次が成り立つ. (1) 方程式(II)の任意の解zについて,a+zは方程式(I)の解である.

(2) 方程式(I)の任意の解yに応じて,次を満たす方程式(II)の解zが存在する: y=a+z.

Proof. (1): zを(II)の解とすると,A(a+z) =Aa+Az=b+0=b. ゆえに,a+zは方程式(I)の解 である.

(2): yを(I)の解とする. ここでz := yaと置く. このときz は(II)の解である. 実際, Az = A(ya) =Ay−Aa=bb=0. また,zの定め方からy=a+zである.

方程式(II)の解全体をHとすれば,方程式(I)の解全体W が,Ha方向に平行移動した集合に一致 することを上の命題は述べている2. また,方程式を解く労力の観点から次のように捉えることもできる: () 方程式(II)は方程式(I)より幾分か易しい. そこで,あらかじめ易しい方程式(II)の解を求めてお き,更に,何らかの方法で(I)の解aを一つでよいから見つけてくる(適当な数を代入して山勘で見 つけたとしてもよい). すると, (I)の解は, (II)の解全体をa方向へ平行移動することですべて得ら れる.

しかし, 既に連立1次方程式の解法を知っている我々にとっては,このような考え方は不要にも思える. そこで,微分積分学の文脈で現れる上と類似する現象を紹介しよう:

命題 6.4.2. α, β, γを既知の実数,b(x)を既知の関数とし, 2階微分可能な未知の関数f(x)に関する次の 二つの微分方程式3を考える.

(I) αf′′(x) +βf(x) +γf(x) =b(x), (II) αf′′(x) +βf(x) +γf(x) = 0.

さらに方程式(I)の解a(x)を一つ取って固定しよう. このとき次が成り立つ.

(1) 微分方程式(II)の任意の解z(x)について,a(x) +z(x)は微分方程式(I)の解である. (2) 微分方程式(I)の任意の解y(x)に応じて,次を満たす微分方程式(II)の解z(x)が存在する:

y(x) =a(x) +z(x).

Proof. (1): z(x)を(II)の解とすると,

α(a(x)+z(x))′′+β(a(x) +z(x))+γ(a(x) +z(x))

= (

αa′′(x) +βa(x) +γa(x) )

+ (

αz′′(x) +βz(x) +γz(x) )

=b(x) + 0 =b(x).

ゆえに,a(x) +z(x)は(I)の解である.

2この事実の特別な場合については4.6節にて説明していた(4.6.1も見よ). そこでは拡大係数行列の簡約化から得られ る特別なa0について考えたが,a0を別の解aに置き換えても同様のことが成り立つことを命題6.4.1は言っている.

3この形の微分方程式を2階線形常微分方程式といい,とくに(II)の形のものを同次形という.

(2): y(x)(I)の解とする. ここでz(x) := y(x)−a(x)と置く. このときz(x)(II)の解である. 実際,

αz′′(x)+βz(x) +γz(x)

=α(y(x)−a(x))′′+β(y(x)−a(x))+γ(y(x)−a(x))

= (

αy′′(x) +βy(x) +γy(x) )(

αa′′(x) +βa(x) +γa(x) )

=b(x)−b(x) = 0.

また,z(x)の定め方からy(x) =a(x) +z(x)である.

(※)で述べた戦略は,上の微分方程式(I)を解く際にも有効である. このように,線形代数と微分積分 において類似する数理現象が観察されることが分かった. 実は高校数学においても,これらに類似する現 象を漸化式を通して学んでいることに読者はお気づきであろうか:

命題 6.4.3. r, bを既知の実数とし,次の二つの漸化式を考える.

(I) xn+1=rxn+b, (II) xn+1 =rxn.

さらに漸化式(I)を満たす数列anを一つ取って固定しよう. このとき次が成り立つ. (1) 漸化式(II)を満たす任意の数列znについて,数列an+znは漸化式(I)を満たす.

(2) 漸化式(I)を満たす任意の数列ynに応じて,漸化式(II)および次を満たす数列znが存在する: yn=an+zn.

Proof. (1): znが漸化式(II)を満たすとき,

an+1+zn+1 = (ran+b) +rzn=r(an+zn) +b.

ゆえに,an+znは漸化式(I)を満たす.

(2): ynが漸化式(I)を満たすとする. ここでzn:=yn−anと置く. このとき数列znは漸化式(II)を 満たす. 実際,zn+1 =yn+1−an+1 = (ryn+b)(ran+b) =r(yn−an) =rzn. また,znの定め方から yn=an+znである.

(※)の文脈にもとづいて次の例題を解いてみよう.

例題 6.4.4. yn+1= 3yn+ 8,y1 = 1を満たす数列ynの一般項を求めよ. 解答例. 次の二つの漸化式を考える:

(I) xn+1 = 3xn+ 8, (II) xn+1= 3xn.

まず, 漸化式(II)を満たす数列全体が初項が3の等比数列全体であることは直ちに分かる. 次に漸化式 (I)を満たす数列を一つ,どうにかして見つけたい. そこで(I)を満たす定数列を探してみよう. ここで定 数列(x, x, x,· · ·)(I)を満たすならば, x= 3x+ 8である. これを解くとx =4であり, 実際に数列 (4,−4,−4,· · ·)は(I)を満たす. この定数列をan:=4 (n∈N)と置く. さて,ynは漸化式(I)を満た すから,命題6.4.3(2)より,漸化式(II)を満たす数列znを用いて

yn=zn+an と書くことができる.

【備考】ここで,上式が成り立つように上手くznを取る具体的な方法が分からないとしても,それは問わなくてよ い. なお,今回の場合については命題6.4.3(2)の証明を読めば,zn:=ynanとすればよいことが分かる.

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ここでznは等比数列ゆえ,初項をcとすれば,zn=c3n1である. したがって, yn=c3n1+ (4).

上式においてn= 1の場合を考えれば, 1 =c−4ゆえc= 5. 以上より, 一般項はyn = 5·3n14 ある.

上の議論のポイントは, (II)を満たす数列は等比数列ゆえ一般項が容易に決定できること, そして(I) を満たす数列の一つが方程式x= 3x+ 8を解くことで直ちに見つかることの二点にある.

本節で取り上げた三つの命題は, これらの主張自体のみならず証明までもが並行している点に着目せ よ. これは次に挙げる操作たち:

(1) ベクトルxに対してAxを対応させる操作,

(2) 関数f(x)に対して関数αf′′(x) +βf(x) +γf(x)を対応させる操作,

(3) (i) 数列(x1, x2, x3,· · ·)に対して数列(x2, x3, x4,· · ·)を対応させる操作,および (ii) 数列(x1, x2, x3,· · ·)に対して数列(rx1, rx2, rx3,· · ·)を対応させる操作,

が共に線形性を満たすことに起因する. 本節のように,連立1次方程式,微分方程式,漸化式の各対象ご とに戦略がほとんど同じ証明を繰り返すことついて,聡明な読者は二度あるいは三度手間のように感じ たであろう. そこでこのような手間を省き, 上に挙げた三つの命題を同時に議論できるような枠組みと して,我々は線形空間と呼ばれる代数構造を提案することになる. そして上に挙げた三つの命題は,命題

23.1.4によって統一的に記述できることを予告しておこう.

重ね合わせの原理

本節のタイトルに挙げた重ね合わせの原理とは, 次の自明な事実を指す. いくつかの文献では, s=t= 1の場合や(2)に限って重ね合わせの原理と呼ぶことがある.

命題 6.4.5 (重ね合わせの原理). s, t∈Rとする. 連立1次方程式,微分方程式,漸化式,および線形 写像について次が成り立つ.

(1) Ax=b1の解の一つをa1とし,Ax=b2の解の一つをa2とすると,sa1+ta2Ax=sb1+tb2 の解である.

(2) αf′′(x) +βf(x) +γf(x) =b1(x)の解の一つをa1(x)とし,αf′′(x) +βf(x) +γf(x) =b2(x) の解の一つをa2(x)とすると, sa1(x) +ta2(x)はαf′′(x) +βf(x) +γf(x) =sb1(x) +tb2(x) の解である.

(3) 数列ξnが漸化式xn+1−rxn =b1を満たし,数列ηnが漸化式xn+1−rxn=b2を満たすなら ば,数列n+nは漸化式xn+1−rxn=sb1+tb2を満たす.

(4) 線形写像は線形写像である.

上の(1)においてs=t= 1, b2 =0とした場合が命題6.4.1(1)である. (2)と(3)についても,これ らの特別な場合として命題6.4.2(1)および6.4.3(1)を得る. そして, (1)から(3)は自明な主張(4)に 集約されることが後に理解されるであろう.

II

行列式

7 行列式を学ぶにあたって

行列式とは,正方行列Aに対して定められる “ある量”のことであり, detAもしくは|A|と書く. ここ で, “ある量” が何かを一言で述べれば「Aが定める線形変換の符号つき体積拡大率」である. この括弧 の中身について厳密な定義を述べるのは容易でない. そこで,行列式の定義や,その性質の証明などの詳 しい議論は次章以降にゆずり,本章では体積拡大率のおおまかな意味や平行体の体積との関係,行列式と 連立1次方程式との関わり,および微分積分学における扱われ方について概説する.

なお,A= [

a b c d

]

の行列式|A|を成分表示するとき,|A|= [

a b c d

]の括弧を略して

a b c d

書く.