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集合論と逆理 ( よりみち )

Dalam dokumen 線形代数学講義ノート(2022/04/04ver) (Halaman 106-110)

第 9 章 置換の符号と転倒数 ( よりみち ) 69

14.5 集合論と逆理 ( よりみち )

内包的な集合の記述を導入したことにより,多様性に富んだ集合の表現が可能になった. しかし,そこ には大きな落とし穴が潜んでいることが知られている. それは次の枠内における議論であり,ラッセルの 逆理と呼ばれている.

ラッセルの逆理

考えられ得るすべての集合を集めた集合をU とする(つまりU は集合の集合である). 更に条件 P(X)X /∈Xと定め,集合Y を次で定義する:

Y ={X∈U |X /∈X}.

このとき,集合Y 自身はY の元となるであろうか. Y ∈Y およびY /∈Y のいずれかが成立するは ずである. どちらが正しいのか検討しよう.

(1) Y ∈Y と仮定すると,定義によればY は条件P(X)を満たす集合の集まりであったから,その 元であるY 自身も条件を満たす. すなわちY /∈Y が成立する. しかしこれはY ∈Y と仮定し たことに矛盾する.

(2) そこで,Y /∈Y と仮定する. つまり Y は条件P(X)を満たしており,P(X)を満たす集合全体 の集まりがY であったから,Y ∈Y である. しかしこれはY /∈Y という仮定に矛盾する. こうして,いずれの場合も矛盾が生じてしまった.

数学における議論あるいは証明は,一般の諸科学と比べても厳密性が非常に高いものであると多くの 人が認識していることだろう. しかし,ラッセルの逆理によると,数学の論理にも少々あやふやな部分が あるということなのだろうか. また,そうではないとするのであれば,上のような矛盾を排除するかたち で数学の理論(特に集合論)を再構成することは可能なのだろうか. 現在では, 逆理を回避するための技 術が得られており,初学者がこの点について不安がる必要はないことになっている. 本節では,この点に ついて概略的な説明をしておこう.

逆理を回避するための技術論を検討するのであれば,そもそも「証明」とは何か再考する必要がある だろう. そのための模範となった理論はユークリッド幾何学である. ユークリッド幾何学では,いくつか の公理を前提として演繹的に数多くの定理を導いていた. これと同様にして集合論においても,集合に関 するいくつかの公理を認め,それらの公理と論理的に正しい命題4および三段論法などの推論規則を有限 回だけ用いて別の命題を導くことを「証明」と定めるのである. こうした立場で展開する集合論を公理 的集合論と呼ぶ5.

集合論の公理として何を採用すべきかという基準は,もちろん数学者各個人の価値観によって論点が 分かれることかもしれない. しかしながら,現在ではZFC6と呼ばれる公理系が多くの数学者の同意を得 て,一般的に用いられている. ZFCの詳細を書く余裕はないが,この公理系においては集合全体の集合U は構成できず,したがって枠内の議論におけるY も定義できない(詳しい理由は本章末のコラムを見よ).

かくしてラッセルのパラドックスは避けられるのである.

ところで,良い公理系を導入した理論において,もはやラッセルの逆理は生じないにしても,それでは ラッセルの逆理とは別の矛盾も絶対に生じないという保証はあるのだろうか. もし,新たな矛盾論法が見 つかってしまったならば,その矛盾を排除するようなより頑強な公理系が作れるかどうかを検討せねば ならない. こうした不安を解消するためにも, ZFCにおいて矛盾が導かれることはない(これを無矛盾で あるという)ことを証明しようという組織的な試みがなされた(この試みはヒルベルト・プログラムと呼 ばれる). ヒルベルト・プログラムにおける最終的な答えはゲーデルによって与えられており,彼によれ ば,自然数論を含む無矛盾ないかなる公理系においても,その公理系の内部で自身の無矛盾性を証明する ことは出来ない(ゲーデルの第2不完全性定理)というのである. 無矛盾性が保証されることは決してな いというゲーデルの回答は悲観すべきことだろうか. この議論は数学界の内部にとどまらず多くの人が 興味を持ち,様々な論争を巻き起こすことになった.

ところで,自己言及によって矛盾を導くというラッセルの逆理と構造の似た逆理がいくつか知られて いる. 例えば「この文は間違っている」という文は正しいか,それとも間違っているのか. 正しいとすれ ば,その文面通り間違っているから矛盾であり,間違っているとすれば「間違っている」ことは間違いと いうことで正しいことになり,やはり矛盾を得る. こうした日常言語の世界を我々はどう捉えるべきかと いう課題もある. 論理学に加えて言語学や認識論といった様々な背景を抱えたこの難問も広く論じられ, その回答のうち代表的なものとして,例えばウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』が挙げられる.

4AA(AB)(¬B⇒ ¬A)といった命題はA,Bにどんな論理式を代入しても真である. こういった論理式は恒 真式と呼ばれ,数理論理学において厳密に定義される.

5これに対して,公理化せずに感覚的に集合を扱う立場を素朴集合論という.

6ツェルメロ=フレンケルの公理系(ZF)に選択公理(Axiom of Choice)を加えた公理系のこと.

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よりみち(集合とは何か)

公理的集合論における集合概念の厳密な定義とは何であろうか. これは数理論理学を専攻しなく ても気になることであろう. 結論を先に述べてしまうと,集合自体に確固たる定義などはない. 例え ばユークリッド幾何学における「直線」については,公理によって直線の性質がいくつか仮定される のみであって,直線そのものが定義されるわけではない. それと同様に,集合論においても定義が厳 密なのは公理であり集合自身ではないのである.

しかしそうなると,今度は我々が数学で用いる集合らしきものが,公理的集合論の文脈における集 合であるのかどうかという不安にさいなまれるかもしれない. この点において,大概は,次の二点さ えおさえておけば十分である. 一つは,実数全体Rや複素数全体C,ユークリッド空間Rnなど日常 的に現れる集合は集合論の公理を組み合わせることで構成できることが分かっており,これらが集 合であること(集合として存在すること)を疑う余地はないということである. もう一つは,我々が 新たに構成する集合についての注意であり, これについては置換公理と分出公理をおさえておけば よい. 置換公理とは大まかに言えば, 外延的な記述によって集合を与えてよいという公理に相当し, 分出公理は,内包的な記述によって集合Xの部分集合を定義してよいという公理に相当する. これ らの公理のおかげで, 実質的な数学に現れる対象が集合であるかないかを我々が意識する必要はな いのである.

分出公理についてもう少し詳しく言うと,それは次のように述べられる:

分出公理: Xを集合,Pxに関する論理式とすれば,集合A:={x∈X |P(x)}が存在する. 分出公理のかなめは文頭が「Xを集合とすれば〜」となっている点である. 集合全体Uを集合であ ると仮定して上のXに適用するとラッセルの逆理によって矛盾が生じることから,したがってU 集合ではない,集合全体をなすような集合は存在しないという結論に至る. これより詳しい事情につ いては公理的集合論の専門書に譲ろう.

15 章 線形空間

線形空間は線形代数学において主題となる代数構造である. 公理化された代数構造を論じる理由は, 2.4 節で述べたように演算の定義にいちいち戻らなくても議論ができるという点, そして様々な空間を同時 に論じることができる点にある. 例えば,Rnにおいて示された性質が関数のなす集合においても示され, それらの証明に使われた技法もほとんど同じというのであれば,それらを同時に証明できるような枠組 みを与えておくと手間が省ける(6.4節における三つの命題の類似性を思いだそう). このように数学で は,汎用性を重視して抽象的な代数構造を導入している.

15.1 ベクトル空間の公理

Rnにおける和とスカラー倍の性質のなかで特に重要と思われる部分を抽出することで,我々は線形空 間の定義を得る:

定義 15.1.1. 集合V に対して和+とスカラー倍·の演算が定められており, さらに特別な元0 V 与えられているとする. これらの演算が次に述べるベクトル空間の公理を満たすとき,四つ組(V,0,+) を線形空間(linear space) またはベクトル空間(vector space)と呼ぶ.

ベクトル空間の公理

a,b,c∈V,r, s∈Rとする.

I. 各元a,b∈V に対して和a+b∈V が定まっており,次の性質を満たす:

(1) a+b=b+a, (2) (a+b) +c=a+ (b+c), (3) a+0=0+a=a.

II. 各元a∈V およびr∈Rに対してスカラー倍a∈V が定まっており,次の性質を満たす: (4) (a) = (rs)·a, (5) (r+s)·a= (a) + (a), (6)(a+b) = (a) + (b), (7) 1·a=a, (8) 0·a=0.

上の性質を満たす0のことをV の零元(zero element)または零ベクトル(zero vector)と呼ぶ. また, 線形空間の元を総称してベクトルと呼ぶ.

零ベクトルがV の元であることを強調し,これを0V と書くこともある. 慣例ではスカラー倍の演算記 号·は省略してaraと書き,更に四つ組(V,0,+)V と略記する.

ベクトル空間の公理(1)から(8)を直ちに暗記しないと以後の線形代数学の理解に支障がでるかとい えば,そのようなことはない. 何故なら,線形空間における演算はRnにおける演算と同様に無意識のう ちに処理されるからである. しかし,「Rnの演算と似たような演算をもつ集合」と曖昧に線形空間を定 義するわけにもいかず,上のように形式的な定義を与えた.

15.1.2. ベクトル空間の公理における性質(1)から(8)は,命題2.4.1における性質(1), (3), (2), (11), (15), (14), (10), (9)に相当する1. 命題2.4.1から次が従う:

(1) Rnにおける原点0:= (0,· · · ,0)を零元とみなすことにより, 1.1節で定めたRnにおける和とスカ ラー倍はベクトル空間の公理を満たす. したがってRnは線形空間である.

1したがって,多元環はベクトル空間である. 多元環とは,ベクトル空間に分配法則と結合法則を満たす積を付加した代数構 造のことを指す(詳しい定義は21ページのコラムを見よ).

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