第 6 章 ベトナムにおけるホンダ、SYM、ヤマハ、地場系企業の現地市場適応の能力構築
6.1 ホンダベトナムの現地市場適応の能力構築
第6 章 ベトナムにおけるホンダ、SYM、ヤマハ、地場系企業の現地市場適応の能力構築
本章は、まず、ホンダベトナム、SYM ベトナム、ヤマハベトナム、地場系企業の現地市場適応の 能力構築を考察、評価する。次に、各社の現地市場適応の能力構築の比較を行い、比較結果を通 じ、ホンダベトナムの現地市場適応の能力構築の総合評価をQCD別の視点から総括する。
6.1 ホンダベトナムの現地市場適応の能力構築
本節は、第1章の図表1.8 の能力構築のフレームワーク(グローバル化、特に現地化、能力構 築、競争優位の関係)を基に、また、これまで分析したホンダベトナムの現地化戦略の特徴に基づ き、図表6.1 を作成した。ホンダベトナムの現地化戦略、現地市場適応の能力構築の関係を明らか にし、ホンダベトナムの能力構築を総合的に評価する。
6.1.1 ホンダベトナムの現地化、現地市場適応の能力構築の関係
図表6.1 ホンダベトナムの現地化と現地市場適応の能力構築、QCD 進化の関係
グローバル化 の特徴
・遅れた進出
・政府工業政策への対応
・グローバル資源、能力、経験の活用(タイ、インドネシア、中国などの成功、失敗経験 の活用)
・低価格・高品質製品の開発へのこだわり、模倣車対策の徹底等 4活動
の現地 化戦略
販売 ・専売店方式、4S専売店801店、数が最大 生産 ・内製化の時期は比較的早い段階から高い
・組立工場数:3;生産能力:250万台(1 工場当たり83万台)
・部品工場数:2;二輪用アルミ製造工場、ピストン製造工場 部品調
達
・参入時は日系中心の長屋方式の採用
・日系サプライヤーの重視 → 地場系サプライヤーとの連携への転換
・部品調達現地化比率:98%、地場系サプライヤー数:10 社(外資系の中で最大)
開発 ・グローバル資源を活用し(先導開発(日本)、アジア拠点開発(タイ、中国))
・現地適応の製品の開発(2020 年の車種数:28、新車種累計:56、新エンジン累計:61)
活動の 能力構 築と QCD 進 化の関 係
品質(Q) コスト(C) 顧客ニーズ対応(D)
販売 ・ホンダ品質の維持 ・中国車との競争
・低価格品の投入
(732 ドル)
・販売網が国内最大→全国の消費 者にアプローチできる
・専用の販売・サービス体制(4S 店:3S、1S)
生産 ・コア部品の内製、品質の 安定(部品内製化比率:
14%)
・3 工場(生産能力 250万台)
・生産規模の経済性
(1 工場当たり83万 台と最大)
・納期の短縮
・生産のフレックス化
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部品調 達
・擦り合わせ型生産(メー カーとサプライヤーの連 携)→品質の向上
・部品調達現地化比率:
2000 年 61%→2020 年 98%、地場系サプライヤー 数:10 社(最大)
・タイホンダとの部品 共通化
・日系以外も台湾系な ど他の外資系と地場系 企業との連携→コスト の削減
・部品工場の建設
・ホンダ標準部品化
・部品交換体制
開発 ・低価格・高品質製品
・機能限定モデル開発
・開発期間の短縮(タ イホンダのモデルの活 用)
・金型、部品の共有
・フルライン戦略
・低燃費専用エンジン開発
結果
・高い競争優位(国内シェア NO.1、約75%;販売台数:230万台前後)
・輸出拡大の傾向がある
・Waveα開発により持続的シェア、販売台数の拡大
・自社専用の販売体制の構築
・低価格高品質品の投入、フルライン戦略で成長
・模倣品対策の徹底等 出所:各資料より筆者作成
注:データは 2020 年のデータである。
ホンダベトナムのグローバル化の目標は、4 つの活動の現地化を通じ、現地市場適応の能力構築 を推進することである。4 つの活動の現地化を行う際に、グローバル資源、能力やアジアの成功・
失敗の経験などを生かし、現地に適合する製品を短期間のうちに開発している。ホンダベトナムは 進出した後、現地政府の政策、市場ニーズに合わせ、段階的に現地化を推進、さらに模倣品対策を 有効に行うことにより高いシェアを獲得し、持続的な成長に成功している。
ホンダは自社の日本国内技術、海外で開発した技術や能力を駆使し、ベトナムへの現地化を推進 し、現地に合わせた能力構築と進化を追求する。それが市場の競争優位を生み、持続的なシェアの 拡大に貢献することになる。ホンダはグローバル分業(世界の資源、能力、経験)の活用以外にも ベトナムにある資源、能力、経験を取り込み、顧客の求めるQCD 能力を進化させている。
一般に製造企業の能力構築活動は日本の強みであり、技術開発、デザイン、生産、調達、販売、
物流などで組織能力を蓄え、漸進的な改善、進化を通じ、他の企業に差をつけることができる(藤 本、2003)。ホンダベトナムは、市場適応の能力構築の強化により国内市場の高い競争優位を生 み、またQCD 能力を進化させ、高い競争優位を長期持続的に獲得している。
ホンダベトナムの 4 つの活動の現地化の特徴は、以下の通りにまとめている。
販売の現地化においては、ホンダベトナムは、現地消費者に対して購入思考が強い専売店を重視 している。特に 4S 専売店801店のベトナム国内で最大規模の体制を構築している。同社は、ヤマハ ベトナムやSYM ベトナムなど他の外資系企業の専売店(3S)とサービス店(2S)方式に分けず、最 大の専売店数により、販売及びサービス活動を全国の消費者に提供している。
生産の現地化においては、ホンダベトナムは内製化の割合が比較的早い段階から高い。同社は二 輪用アルミやピストンを生産し、コア部品内製化を推進している。コア部品を内製化することによ り品質の維持、向上が図れるメリットがある。
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部品調達の現地化においては、ホンダベトナムは、参入時には日系サプライヤーの共同調達会社 を設立し、長屋方式の採用でスタートした。その後に、同社は、コストの削減のため、日系サプラ イヤー重視の部品調達方式から転換し、地場系サプライヤーとの取引を強化し、新たな部品調達体 制を構築している。
開発の現地化においては、グローバル能力、資源、経験を活用し、日本の先導開発・アジア拠点 開発(タイ、中国など)を有効に活用し、機能やコストを絞り込んだ現地適応の製品Waveαを開発 した。具体的には開発した新車種累計は 56、新エンジン累計は 61 であり、他社を圧倒している
(図表6.1)。
6.1.2 ホンダベトナムの現地市場適応の能力構築の評価
図表6.1 を活用し、ホンダベトナムの 4 つの活動別にみた現地化の特性と市場適応の能力構築を QCD 能力に基づき、評価する。
(1)活動別にみた現地市場適応の能力構築
(ⅰ)販売活動
3章に分析したようにホンダベトナムは、低価格中国車との競争のために、2002 年に従来の 1/3 程度の低価格・高品質製品Waveαを開発、販売したことが、現地市場適応の最大の成果である。ホ ンダベトナムは、Waveαの成功から、二輪車市場が大きく、展開することを理解し、販売体制を強 化し、全国消費者にアプローチし、販売機会を増やしている。
ホンダベトナムは販売網の構築では、4S 専売店が国内最大であり、全国の消費者にアプローチで きる強みを持つ。ベトナム消費者にとっては、併売店より専売店で購入することが安心である。二 輪車や自動車は携帯、化粧品などと異なり、購入の際に、乗り感など確認した上で、購入決定のた め、専売店数が多ければ多いほど売れるチャンスも増えると考えられる。4S 専売店網によりQCD の 面から総合的にホンダ品質の維持を行なっている。4S 専売店は、販売だけでなく、アフターサービ スが充実しており、高い顧客満足度を獲得している。
(ⅱ)生産活動
ホンダベトナムは、コア部品の内製を早く行ったことにより、差別化能力及び、品質が向上して いる。同社の部品内製化比率は、Waveαの投入後 2004 年から少しずつ増え、現在では 14%のコア 部品が内製化されており、高品質を重視する方針を反映している。同社は、2002 年にWaveαの成 功により市場シェアが高くなりつつある。ホンダベトナムは、市場シェアの拡大に伴い、生産規模 も拡大し、現在の時点で3工場(生産能力 250万台)を持つ。1 工場の生産能力は約 83 万台と最大 の生産能力を誇る。大きな生産規模により規模の経済性を生み、高いコスト競争力を持ち、コスト リーダーシップの追求も可能である。また生産能力が高いことから顧客への納期を短縮させてい る。
(ⅲ)部品調達活動
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日本製造企業は、モジュール型生産を採用している欧米や中国の製造企業と違い、インテグラル 型で生産している(藤本、2004)。ホンダも同じくインテグラル型を採用し、サプライヤーとの継 続取引によりものづくり能力を向上させているが、部品調達コストを削減するためには、現地地場 系サプライヤーとの引取が大切である。地場系サプライヤーとの取引数は、外資系の中でホンダベ トナムが 10 社であり最大であり(図表6.1)、長期継続取引により、コスト削減も可能である。
ホンダベトナムは、部品工場を建設し、ホンダ標準部品の提供により品質を安定させ、部品交換 体制を構築し、サービス能力を強化している。また、ホンダベトナムはグローバルな資源、能力を 活用し、部品共通化を行なっている。さらに、日系以外も台湾系と地場系サプライヤーとの取引に より部品調達コストの削減が実現できた。
(ⅳ)開発活動
3章で行った事例研究としてWaveαの成功要因の分析結果に見る通り、ホンダベトナムは、タイ ホンダのWave100 の活用を基本にベトナム適応のモデルを開発した。またタイ及びベトナムのホン ダの金型、部品の共有により低価格・高品質製品Waveαの開発期間の短縮に成功した。
現在までに同社は、ベトナム消費者ニーズに対応し、デザインに注目し、バイク、スクーター、
スポーツバイク店を多数開発し、フルライン戦略を採用している。2020 年現在で投入した車種数 は、28 であり、ヤマハベトナム(18)、SYM(15)を上回っている。またホンダの製品には自社の 低燃費専用エンジンを開発し、他社に対する差別化に成功している。ホンダベトナムの 2020 年現在 の新エンジン累計は 61 であり、ヤマハベトナム(35)、SYM(27)を圧倒している。
(2)能力構築がQCD へ与える効果
(ⅰ)品質
ホンダはグローバル戦略において、日本と同等の品質を世界に提供する事を重視してきた。ホン ダベトナムは、品質面でも現地のニーズに適応した製品、サービスの提供にこだわっている。販売 面では、最大の専売店網により全国の消費者に良い品質の二輪車を提供するだけでなく、購入者の ニーズに対応しながら、アフターサービスのレベルを向上し、顧客満足度を高めている。高品質を 追求するため、同社はエンジン等のコア部品内製化を早く行い、強化している。ホンダベトナムは エンジン等の内製化により二輪車の製品差別化力を上げ、現地のニーズに適合した製品を生産でき る。
同社は擦り合わせ型生産を行い、部品調達ではサプライヤーとの連携により製品の品質を共同で 向上させている。開発面では現地のニーズに適応した製品の投入が最も重要である。ホンダはベト ナム市場でグローバル資源、能力、経験を活用し、迅速に低価格・高品質製品Waveαを開発し、
2000 年中国車バブル期に対抗できた。ホンダベトナムは近年現在、ホンダベトナムは、最大生産規 模、最大販売網という戦略により、高品質を維持し、かつ低価格の製品を投入し、顧客の信頼度を 獲得しつつある。
(ⅱ)コスト