第 7 章 ホンダベトナムの競争優位・業績とその要因 ―仮説検証を中心に
7.3 重回帰分析によるホンダベトナムの業績の要因 ―仮説 3 の検証
7.3.1 被説明変数、説明変数の選定
(1)仮説3の説明と検証方法
上記のように仮説3では、藤本隆宏の自動車産業における能力構築理論を二輪車産業に適用した ものであり、ここでは分析方法として、仮説検証型の重回帰モデルを採用している。まずホンダベ トナムの時系列データ(1997~2021 年)を基に、ホンダベトナムの業績(代理変数:販売台数)を 4活動(販売、生産、部品調達、開発)の能力構築から説明する重回帰モデルを作成する。
重回帰モデルを基に各係数の有意確率、各変数の多重共線性(以下、VIF)、各変数の符号条件な どを分析し、仮説検証を行う。ホンダベトナムの業績(販売台数)は現地市場適応の 4活動の能力 構築の変数(X1~X4)が規定要因であり、それらの寄与度が生み出す能力構築の優劣から生まれる と考えている。
上述したように統計分析モデルは、理論仮説として藤本隆宏の「能力構築理論」を出発点とし、
自社が継続的に推進する製造企業のものづくり能力の持続的な構築、向上、進化から起こるとす る。
仮説3の検証以外にも、「どの活動の能力構築が、販売台数にどの程度貢献しているか、また 4 つの活動が販売台数に貢献する因果関係等」を統計解析(β係数等)により明らかにする。
(2)被説明変数、説明変数の選定
図表7.6 被説明変数と説明変数の選定
被説明変数 説明変数X1 説明変数X2 説明変数X3 説明変数X4
業績 販売活動 生産活動 部品調達活動 開発活動
選定変数 販売台数 専売店数 部品内製化比率 部品調達現地化比 率
新車種数
統計分析でト ライした変数
専売店増加 率、専売店増 加率(−1)
組立工場数*、 部品工場数*
新車種累計、新エン ジン数、新エンジン 累計
146
コメント 利益率、株価 等の財務デー タ(事業別国 別セグメント 情報は得られ ない)
販売店員数、
販売組織等は 除く
組立工場数、部 品工場数はもの づくり能力の代 理変数
地場系サプライヤ ー数の時系列デー タは得られない
新興国の開発はデザ イン開発、エンジン 開発が中心
出所:藤本(2004)、ポーター(1985)、本論文の 1 章、3〜6 章を基に筆者作成
本研究の重回帰分析では、競争力自体は測定していないが、その結果として向上することが期待 される業績の代替指標として、「販売台数」に着目する。そのため、本重回帰モデルでは、被説明 変数としてホンダベトナムの業績の代理変数は「販売台数」とする。また、上記のように説明変数 として 4活動の代理変数X1~X4 は、図表7.6 のように選定した。
販売活動においては、「専売店数」、「専売店増加率」などを候補にした。日本製造企業の海外 進出では、販売の現地化は、完成品の輸出(当初は併売店、代理店)から入り、自社の専売店体制 を構築することにより、販売体制を整える場合が一般的である。ホンダは現地化にあたり専売店制 を重視してきた。ここでは、販売活動の能力構築の代理変数として「専売店数」、「専売店数増加 率」(今期、前期)などの使用も試みた。それ以外にも販売の現地化を表す変数は、人材(販売店 員数)、販売組織、経営(意思決定)方式などもあるが、本研究ではバリューチェーンの主活動の能 力構築に力点を置き、研究の対象外とした。
生産活動においては、「部品内製化比率」、「組立工場数」、「部品工場数」、「組立従業員 数」などを候補にしたが、販売活動の理由と同様に「組立従業員数」は情報が開示されておらず、
変数を選択しなかった。
部品調達活動においては、「部品調達現地化比率」、「地場系サプライヤー数」を候補にした。
しかし、「地場系サプライヤー数」のデータ収集が困難なため、除いた。
開発活動においては、「新車種数」、「新エンジン数」、「新車種累計」、「新エンジン累計」
などを候補にした。4~6 章で分析したように、後発新興国では、日本やタイ(ASEAN モデル)で開 発した基本モデルをもとにデザイン開発(「車種数」に対応)、「新エンジン数」の開発による製 品差別化が重視される。
重回帰モデルの説明変数及び、被説明変数は、図表7.6 に整理した。図表7.6 は、重回帰モデル で試みた説明変数X1~X4 の変数名を表示したものである。
(3)データ表の説明
図表7.7 ホンダベトナムの時系列データ(1997〜2021 年)
販売X1 生産X2 部品調達
X3 開発X4 業績
年 専売店 数
専売店 増加率
(%)
組立工 場数
部品工 場数
部品内 製化率
(%)
部品調達 現地化比 率(%)
新車種 数
新エン ジン数
販売台数
(万台)
147
1997 126 15 1 0 0 36 1 0 5
1998 129 2 1 0 0 38 0 0 6
1999 132 2 1 0 0 44 1 0 7
2000 164 23 1 0 0 61 0 0 16
2001 202 16 1 0 0 64 0 2 17
2002 235 16 1 0 0 67 1 1 39
2003 259 10 1 0 1 71 0 1 43
2004 290 12 1 0 1 73 2 1 51
2005 341 13 1 0 1 76 0 0 62
2006 387 6 1 0 2 78 0 2 77
2007 412 6 1 0 2 81 1 1 112
2008 444 8 2 0 3 83 2 2 132
2009 459 3 2 0 3 85 4 5 140
2010 478 4 2 1 8 88 4 2 170
2011 511 7 2 1 8 90 1 4 155
2012 587 15 2 1 10 92 1 5 195
2013 639 9 2 1 10 93 1 3 187
2014 661 3 3 2 11 93 2 4 190
2015 671 2 3 2 11 94 3 1 190
2016 700 4 3 2 12 94 4 8 203
2017 743 6 3 2 12 95 7 1 217
2018 769 3 3 2 12 96 13 8 238
2019 799 4 3 2 13 96 8 7 257
2020 801 0.3 3 2 14 98 0 3 214
2021 815 2 3 2 14 98 0 3 232
出所:各資料を基に筆者作成(4~6 章の現地化、能力構築の比較分析をもとに作成した)
注:データは 2021 年のデータによる。
図表7.6 の変数の候補を基に、選定した変数は次の通りである。被説明変数Y は、「販売台数」
である。説明変数は、XI が「専売店数」、「専売店数増加率」、X2 が「部品内製化比率」、「組立 工場数」、「部品工場数」、X3が「部品調達現地化比率」、X4 が「新車種数」、「新車種累計」
(新車種数よる計算)、「新エンジン数」、「新エンジン累計」(新エンジン数より計算)などで ある。これらの変数を基に、図表7.7 のホンダベトナムの時系列データ表(1997〜2021 年)を作成 した。
「販売台数」は、VAMM(ベトナム二輪車協会)、ホンダ本社インタビュー調査、三嶋(2007)、
『世界二輪車状況』(2010)のデータをもとに作成した。「専売店数」、「組立工場数」、「部品 工場数」、「部品内製化比率」、「部品調達現地化比率」、「新車種数」はホンダベトナムとホン ダのホームページ、ベトナム産業貿易省、ベトナムネット新聞(VietNamNet)やハノイモイ新聞
(hanoimoi)などベトナムの新聞記事からデータを集収した。「新エンジン数」はベトナム登録局
148
のデータ(付属資料4)により作成した。「専売店数増加率」、「新車種数累計」、「新エンジン累 計」は「専売店数」、「新車種数」、「新エンジン数」のデータを基に計算し、作成した。